Sierra Spaceが開発するドリームチェイサー・テナシティは、2026年に予定される初の軌道飛行に向けて、ケネディ宇宙センターで電気システム構築とEMI/EMC試験を無事クリアした。
当初はNASAのCRS-2契約の下で国際宇宙ステーション(ISS)への補給任務が計画されていたが、ISSの退役スケジュール変更を受けて、自律飛行軌道実証へミッション内容が転換された。契約修正により、ドリームチェイサーの多様な運用可能性が広がり、国防・安全保障分野への活用も見据えている。姉妹機リバレンスの生産は一時的に停止し、全リソースをテナシティ初飛行の成功に集中させている。
設計にはNASAスペースシャトルの蓄積技術も活用され、滑走路着陸・迅速再利用性・高い柔軟性が最大の特徴。これまでに複数の技術的課題や運用計画の見直し等もあったが、民間主導による新しい宇宙機開発として意義が大きい。今後は商業軌道輸送や防衛・宇宙安全保障、サテライト展開、軌道上サービスなど多様な展開が期待されている。
From:
Sierra Space’s Dream Chaser Hits Major Milestone Ahead Of 2026 Launch
【編集部解説】
ドリームチェイサー・テナシティの計画は、近年大きくシフトし続けてきました。2016年のCRS-2契約発足以降、当初はISSへの補給船として最低7回のミッションが予定され、NASAから最大14億ドル以上の契約価値が見込まれていました。しかし、ISSの2030年運用終了決定や度重なる技術的遅延・設計変更などにより、NASAとシエラスペース間で再度交渉が行われ、2025年9月の契約変更でISS向け補給義務は事実上削除され、初飛行はISSと接触しない自律飛行型の実証フライトへ切り替えられました。この変更にはNASA側のリソース配分最適化やISS残り運用期間の短縮、民間側の事業リスク低減、今後の市場多角化戦略といった複数の理由が絡んでいます。
こうした背景から、ドリームチェイサーはISS補給「専用」ではなく、多目的宇宙往還機として国家安全保障分野や民間産業の迅速輸送・衛星投入・軌道上サービスに積極的に利用される路線へ転換し始めています。実際に同社は国防市場への参入や緊急時物資輸送、セキュリティ衛星運用などを見据え、滑走路着陸・急速再利用性・軌道上での汎用性といったユニークな特性を武器に政府・産業界双方の顧客開拓を推進中です。
EMI/EMC等の厳格な技術試験を重ねてきた実績は、民間宇宙プロジェクトにとって大きな信頼材料となっていますが、一方で純粋な民間ベースでの宇宙往還機開発の難しさも今回浮き彫りになりました。ISS運用終了後の宇宙活動の分散化・多元化、民間資本による輸送サービス競争などが今後ますます加速する中、ドリームチェイサーのフリーフライヤー型運用と防衛技術市場での応用実績は、次世代宇宙ビジネスや国際協調型サービスにおいて重要なロールモデルになるはずです。
一方で、ISSのような国際共同運用拠点の終了が、商業宇宙サービスにもたらす影響や、新たなリスクヘッジ戦略についても今後注視が必要です。今回の教訓は、商業宇宙分野での柔軟な事業設計・契約即応性・マルチユース技術への投資がいかに重要かを示しています。個別開発・専用用途偏重からの脱却こそ、今後の宇宙開発の持続的進化のカギといえるでしょう。
【用語解説】
EMI(電磁干渉)
電子機器が放射する電磁波が他機器の動作に干渉する現象。宇宙船ではEMI耐性が重要。
EMC(電磁両立性)
電磁環境下での機器の正常動作と他機器への妨害防止性能。宇宙機器の信頼性確保の要。
CRS-2(Commercial Resupply Services 2)
NASAが民間企業に委託するISS向け商業補給サービス契約。Dream Chaser含む3社が選定。
【参考リンク】
Sierra Space公式サイト(外部)
Dream Chaserの開発元企業公式サイト。再利用宇宙機や商業ステーション事業を案内。
NASA Commercial Resupply Services(外部)
CRS契約の詳細情報。ISSミッションや各社の取り組みが掲載されている。
United Launch Alliance (ULA)(外部)
Vulcanロケット開発・運用企業公式。米主要宇宙打ち上げ事業者。
Vulcan Centaur(外部)
Dream Chaserの初打ち上げに使用されるULA社の新型ロケット。
【参考記事】
Dream Chaser proceeding, hits milestones despite uncertain future(外部)
Sierra Spaceの技術進展報告とISS退役による契約修正の詳細を分析。シミュレーション訓練や試験進捗を網羅。
NASA’s contract overhaul puts Dream Chaser’s ISS future in jeopardy(外部)
CRS-2契約修正の経緯とSierra Spaceのビジネスモデルへの影響。契約価値・保証ミッション削除を解説。
NASA, Sierra Space Modify Commercial Resupply Services Contract(外部)
NASAとシエラスペース社の商業補給サービス契約改訂に関するNASAの発表。
【編集部後記】
宇宙往還機の時代が、いよいよ新たなフェーズに入ろうとしています。「滑走路に帰ってくる小型シャトル」に未来を感じる方もいれば、地政学リスクや商業宇宙の主役交替に思いを巡らす方もいるでしょう。ドリームチェイサーは単なる宇宙貨物輸送機から、誰もが利用できる軌道上プラットフォーム・フリーフライヤーへの転身を加速させています。こうした広がりが、わたしたち一人ひとりの「未来と宇宙」の距離を徐々に縮めているのかもしれません。今後もinnovaTopiaでは、時に俯瞰し、時に読者のみなさんと同じ目線で、一つ一つの宇宙技術の意味と背景を丁寧に追い続けていきます。

