MITの昆虫型フラッピングマイクロロボットが災害救助の未来を先取りする

MITの昆虫型フラッピングマイクロロボットが災害救助の未来を先取りする

MITは2025年12月3日付で、マルハナバチと同程度の速度で飛行できる空中マイクロロボットを発表した。

研究を率いたのはMIT電気工学・コンピュータサイエンス学科のKevin Chen准教授であり、Soft and Micro Robotics Laboratoryが開発を担当した。このロボットはマイクロカセット(SDカードケース程度)のサイズで、重量は紙クリップより軽く、柔軟な人工筋肉によって高速で羽ばたく4枚の翼を駆動する。

本機には、モデル予測制御(MPC)とディープラーニングに基づく制御方策(ポリシー)を組み合わせた2段階のAI制御が新たに導入された。これにより、従来機と比較して最高速度が約447%、加速度が約255%向上した。

実験では風の乱れがある環境で11秒間に10回の連続宙返り飛行を行い、計画軌道からの誤差は4〜5センチメートル以内であった。この研究成果はScience Advances誌に掲載され、National Science Foundation、Office of Naval Research、Air Force Office of Scientific Research、MathWorks、Zakhartchenko Fellowshipなどの支援を受けている。

From: 文献リンクMIT engineers design an aerial microrobot that can fly as fast as a bumblebee

【編集部解説】

このニュースを一言で捉えるなら、マイクロロボットが「本物の昆虫レベル」の機動性に一気に近づいたタイミングだと感じます。ハードウェアだけでなく、モデル予測制御とディープラーニングを組み合わせた二段構えの制御アルゴリズムが、速度や加速度を数倍に押し上げている点が大きなポイントです。

従来のマイクロドローンは、羽ばたき機構そのものの難しさに加え、空気の乱れに対してどう姿勢を保つかがボトルネックでした。今回の研究では、高性能だが計算コストの高いモデル予測制御を「教師」とし、その振る舞いを模倣学習で圧縮したポリシーモデルをリアルタイム制御に使うことで、机上の理論ではなく実機で連続宙返りや急加速・急減速を成立させています。

この技術が意味するのは、人間や既存のドローンが入り込めなかった空間に、昆虫サイズの「身体性を持ったアルゴリズム」が入っていけるようになることです。災害現場の瓦礫内部や老朽インフラの内部、ロボットによる受粉(人工受粉)の現場など、人間では難しい場所・行くことのできない場所に多数のマイクロロボットを投入するというシナリオが、かなり具体的に描ける段階に入りつつあります。

一方で、こうした「小さく、見えにくく、賢い」飛行体は、監視や軍事など、使い方によってはプライバシーや安全保障の懸念とも直結します。搭載するセンサーや運用シナリオに応じて、現行のドローン規制とは別軸で、サイズや自律性を考慮した新たなルール作りが求められていく可能性が高いと感じます。

長期的には、この制御アーキテクチャは空を飛ぶマイクロロボットだけでなく、柔らかいボディを持つロボットや水中・地中ロボットにも展開されていくはずです。物理的には不安定で環境変動も大きい世界であっても、AIを使って「安定して攻めた動きができる」ロボットを設計する考え方は、人と多数のロボットエージェントが共存する都市やインフラの前提条件を、静かに書き換え始めているように思います。

【用語解説】

空中マイクロロボット(aerial microrobot)
数グラム以下の小型飛行ロボットの総称で、昆虫サイズの羽ばたき機構などを用いて飛行するロボットを指す。

サッカード運動(saccade movement)
昆虫や動物が行う急激な視線移動・姿勢変化で、飛行中に素早くピッチ角を変えて加速・減速しつつ、自身の位置や周囲を把握するための動きである。

【参考リンク】

Soft and Micro Robotics Laboratory (MIT)(外部)
MITのSoft and Micro Robotics Laboratory公式サイトで、マイクロロボットやソフトロボティクスの研究概要と論文情報を掲載している。

Science Advances 論文ページ(外部)
本研究の技術詳細と実験結果をまとめた査読論文で、制御アーキテクチャや性能評価の図表が掲載されている。

MIT EECS ロボット昆虫研究ページ(外部)
同研究グループによる高速・高機動ロボット昆虫の研究紹介で、紙クリップより軽い機体と機械的受粉などの応用が説明されている。

【参考動画】

【参考記事】

Aerial microrobot can fly as fast as a bumblebee – Tech Xplore(外部)
MITの空中マイクロロボットがマルハナバチ並みの速度と敏捷性を実現し、447%の速度向上や10回の連続宙返りなどの性能と応用可能性を紹介する記事である。

Watch this tiny robot somersault through the air like an insect – Science.org(外部)
昆虫のように空中宙返りする小型ロボットのデモを取り上げ、実験映像や研究背景、制御技術のポイントとマイクロロボティクスへの意義を解説している。

This fast and agile robotic insect could someday aid in mechanical pollination – MIT News(外部)
紙クリップより軽い高速・高機動ロボット昆虫の研究を紹介し、構造や羽ばたきメカニズム、機械的受粉などの応用シナリオを詳しく説明している。

New control system teaches soft robots the art of staying safe – MIT News(外部)
ソフトロボット向けの新しい制御システムを解説し、AIと最適制御を組み合わせて複雑な動力学を扱うアプローチが示されており、本件と共通する思想を理解する助けになる。

【編集部後記】

もし災害現場やインフラ点検、あるいは機械的な受粉の現場に、こうした「昆虫スケールのロボット」がいたら――想像していた未来が、現実のものとなろうとしています。テクノロジーの進化にワクワクしますね。

けれど、新しい技術には、新たな課題もつきものです。今回のマイクロロボットについて、みなさんはどのような場面に期待できると思いましたか?また、どのような懸念があると考えますか。よければ、ご自身の現場や暮らしのイメージと結びつけて、頭の中で一度シミュレーションしてみてください。

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