火星に古代のビーチが存在した証拠、Perseveranceの発見が生命探査に新たな視点

火星に古代のビーチが存在した証拠、Perseveranceの発見が生命探査に新たな視点

Imperial College London主導の国際研究チームは、NASAのPerseveranceローバーが火星のJezeroクレーターで発見した証拠を分析し、古代の海岸線の痕跡を確認したと発表した。研究は2026年1月27日に公表され、Journal of Geophysical Research: Planets誌に掲載された。

Perseveranceは2021年に火星に配備され、2023年から2024年にかけてマージンユニットと呼ばれる地質ユニットを探査した。研究チームは、波によって形成されたビーチの構造を持つ砂岩層と、地下水によって変質した岩石を特定した。マージンユニットでは、オリビンの結晶が二酸化炭素に富んだ地下水により鉄とマグネシウムの炭酸塩に変化していた。

筆頭著者のアレックス・ジョーンズ博士課程研究者は、約35億年前に存在した湖の居住可能な状態が、従来の想定よりも過去まで遡ることを示したと述べた。

Perseveranceはマージンユニットから3つ、Bright Angel層から1つのコアサンプルを採取しており、今後のMars Sample Returnミッションで地球に持ち帰られる予定である。

From: 文献リンクAncient Martian beach discovered, providing new clues to red planet’s habitability

【編集部解説】

火星に生命が存在したかもしれない――その可能性を探る上で、今回の発見は極めて重要な意味を持ちます。海岸線という環境は、地球上でも生命の誕生と進化において特別な場所でした。波による物質の混合、浅い水域での太陽光の到達、陸と水の境界という複雑な環境が、化学反応を促進し生命に必要な条件を整えたと考えられています。

Jezeroクレーターが選ばれた理由は、まさにこの点にあります。35億年前に存在した湖とそこに注ぐ川のデルタは、もし火星に生命が存在したなら、その痕跡が残されている可能性が高い場所です。今回、その湖にビーチまで存在したことが確認されたことで、居住可能だった期間がさらに長かったことが示されました。

注目すべきは、地下での水と岩石の相互作用が長期間続いていた証拠です。地表の湖が消失した後も、地下には熱水環境が維持されていた可能性があります。地球では、深海の熱水噴出孔周辺で独自の生態系が繁栄しています。火星でも同様のプロセスが起きていたなら、地表環境が厳しくなった後も、地下で生命が生き延びていた可能性を考えることができます。

炭酸塩鉱物の発見も重要です。この鉱物は地球上で化石を保存する役割を果たしており、火星においても過去の環境情報を長期間保持している可能性があります。Perseveranceが採取した4つのサンプルが地球に持ち帰られれば、より精密な分析が可能になります。

ただし、課題も残されています。Mars Sample Returnミッションは技術的にも予算的にも困難なプロジェクトで、実現時期は未定です。それでも、このサンプルには火星の気候史、水の循環、そして生命の可能性という、人類史上最大の謎の一つを解く鍵が含まれているかもしれません。

現時点では、火星における生命の直接的な証拠、すなわち生物起源であることが明確に示された化学物質や微細構造は確認されていません。しかし、湖岸や地下水環境といった多様な水環境が長期間存在していたという今回の発見は、火星が生命にとって居住可能だった可能性を検討する上で探査の対象領域を大きく広げる重要な成果といえます。

【用語解説】

Jezeroクレーター
火星の北半球に位置する直径約45キロメートルのクレーター。約35億年前には湖が存在し、川のデルタが形成されていたことが判明している。生命の痕跡が残されている可能性が高いため、Perseveranceローバーの着陸地点に選ばれた。

マージンユニット
Jezeroクレーターの内縁に沿って存在する地質ユニット。炭酸塩鉱物を豊富に含み、起源について火成岩説と堆積岩説で議論が続いていた。今回の研究で両方の要素を持つことが確認された。

オリビン(かんらん石)
マグネシウムと鉄を含むケイ酸塩鉱物。火成岩に多く含まれ、水との反応によって炭酸塩などに変質する。火星の岩石にも広く分布している。

Bright Angel層
Jezeroクレーターに水を供給していた川の谷の上流域で発見された泥岩層。かつてこの場所が水中にあったことを示す証拠となっている。

【参考リンク】

NASA Mars 2020 Perseverance Mission(外部)
火星探査ローバーPerseveranceの公式ミッションサイト。探査の最新情報と科学的発見を提供

Imperial College London(外部)
今回の研究を主導した英国の研究大学。惑星科学分野で著名な研究機関

Journal of Geophysical Research: Planets(外部)
アメリカ地球物理学連合が発行する査読付き学術誌。惑星科学分野の主要論文を掲載

Mars Sample Return(外部)
NASAとESAが共同計画する火星サンプル地球帰還ミッション。実現時期は未定

【参考記事】

New clues to Mars’s habitability in discovery of ancient beach(外部)
Imperial College Londonの公式リリース。古代の海岸線とマージンユニットの地下水変質を詳述

Ancient ocean coastal deposits imaged on Mars(外部)
Zhurongローバーの地中レーダー探査による古代海岸堆積物の発見を報告

Mars was once a ‘blue planet’: Ancient river deltas point to vast ocean(外部)
ベルン大学の研究チームがValles Marinnerisで古代の川のデルタを発見したと報告

Chinese rover finds evidence of ancient Martian ocean(外部)
Zhurongローバーが古代の海岸線証拠を発見。約37億年前の海の形成仮説を提示

Ancient beaches testify to long-ago ocean on Mars(外部)
地中レーダーが地下10メートルで砂の層を検出。地球のビーチと一致する構造を報告

【編集部後記】

火星のビーチを「見る」ことはできませんが、35億年前の波打ち際の痕跡が今も残されていることに、私たちは深い感動を覚えます。地球と火星、二つの惑星が似た環境を持っていた時代があったという事実は、宇宙における生命の可能性についての視野を大きく広げてくれます。サンプルが地球に届くのはまだ先になりますが、その中に何が含まれているのか、みなさんはどのような発見を期待されますか。もし火星で生命の痕跡が見つかったとき、私たちの「生きる」ことへの理解や宇宙観は、どのように変わっていくのでしょうか。ぜひ、みなさんの考えをお聞かせください。

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