2026年1月末に、分散型ソーシャルプロトコルの二大勢力に大きなリーダーシップの変更があった。Farcasterは、プロトコルやフラッグシップクライアント、Base上のローンチパッドであるClankerの管理権を、インフラプロバイダーのNeynarに移管した。同時にLens Protocolは、Avara(Aaveの開発チーム)からMask Networkへの移行を発表した。
これらの動きに対し、暗号資産ソーシャルの終焉を指摘する声が上がったが、元記事の著者であるヤクブ・ルシエツキとダリウス・ムクタルザデは、これを完全な崩壊ではなく市場の調整と位置づけている。
第一波の失敗要因として、プロダクト品質やディストリビューションよりもイデオロギーやインフラに注力しすぎた点を挙げ、今後の方向性として、Polymarketのような予測市場やFOMOのようなプロダクトに代表される「ソーシャル金融ネットワーク」への進化、さらにはAIエージェント向けソーシャルネットワークであるMoltbookのような新たな実験の可能性を示した。
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Crypto social isn’t dead, it’s just changing hands
【編集部解説】
今回の出来事を理解するには、まずFarcasterとLens Protocolというふたつのプロジェクトがどれほどの期待を背負っていたかを振り返る必要があります。Farcasterは2024年にParadigm主導、且つa16z cryptoなどの支援を受けて1億5000万ドルのシリーズAラウンドを完了し、評価額は10億ドルに達していました。しかし、2025年第4四半期の収益は前年同期比85%減の184万ドルにまで落ち込み、ユーザー成長の鈍化も指摘されています。
Farcasterの管理権がNeynarに移管された日(2026年1月21日)、開発元のMerkle Manufactoryは調達済みの1億8000万ドル全額を投資家に返還する方針を発表しました。共同創業者のダン・ロメロは、Farcasterは停止せず、プロトコルは引き続き機能すると強調しています。一方、Lens Protocolの移管はその前日の1月20日にPR Newswireを通じて発表されており、こちらは「買収」ではなく「スチュワードシップ(管理運営)の委譲」という位置づけです。
元記事では、これらの出来事を「暗号資産ソーシャルの死」ではなく「市場の調整」と捉える視点が示されています。この見方は一定の妥当性を持ちますが、同時に、10億ドル規模の評価を受けたプロジェクトがわずか2年足らずでユーザー獲得に苦戦し、運営権を手放したという事実は、分散型ソーシャルメディアが抱える構造的な課題の深刻さを示しています。
記事が提示する「ソーシャル金融ネットワーク」という概念は、暗号資産ソーシャルの次なる進化形として注目に値します。Polymarketは2024年の米大統領選で暗号資産コミュニティの外にまでその名が知られるようになり、予測市場というジャンルの存在感を一気に高めました。また、fomo(FOMO Labs)は2025年にBenchmark主導で1700万ドルのシリーズAを調達し、ベータ版リリースから約6カ月で取引高約7億ドル、ユーザー12万人超を達成しています。トレーディング行為そのものをソーシャル化するというアプローチは、従来の「タイムライン型SNS」とは異なる設計思想に基づいており、暗号資産の特性をより自然に活用している点が特徴的です。
記事の後半で触れられているMoltbookについては、より慎重な見方が必要です。2026年1月下旬にマット・シュリヒトが立ち上げたこのプラットフォームは、AIエージェント専用のソーシャルネットワークとして話題を集めました。しかし、そのエージェントの自律的な行動が本当に自発的なものかについては、複数の専門家が疑問を呈しています。MIT Technology Reviewのウィル・ダグラス・ヘヴンはこの現象を「AIシアター(AI演劇)」と表現しました。さらに、セキュリティ面では、調査報道メディア404 Mediaが認証なしで全エージェントを乗っ取れる脆弱性を報告するなど、深刻な問題が明らかになっています。
長期的な視点で見ると、この一連の出来事が示しているのは、「分散型のTwitter」を目指すアプローチから、ブロックチェーンの特性を活かした新しいソーシャルの形態を模索するフェーズへの移行です。Ethereumの共同創設者であるヴィタリック・ブテリンも2026年1月、マルチクライアントのFireflyを通じてLens、Farcaster、X、Blueskyなどの分散型ソーシャルプロトコルを利用していると明かしています。ソーシャルレイヤーとしてのブロックチェーンの可能性は閉じていないものの、その実現には、プロトコルの理想だけでなく、プロダクトとしての実用性が問われるフェーズに入ったと言えます。
【用語解説】
分散型ソーシャルプロトコル
ユーザーのアイデンティティやデータを特定の企業ではなくブロックチェーン上で管理し、複数のアプリケーションから共有・利用できるようにしたソーシャルネットワークの基盤技術である。
コールドスタート問題
新しいプラットフォームやサービスが、ユーザーもコンテンツもない初期段階で成長の軌道に乗せることが極めて難しいという課題を指す。
ネットワーク効果
ユーザー数が増えるほどサービスの価値が高まり、さらに新規ユーザーを引きつけるという好循環のことである。SNSの成長を左右する最も重要な要因のひとつ。
スチュワードシップ
プロトコルやプロジェクトの運営管理を担う責任・役割のことである。所有権の移転を伴わない場合にも用いられる。
コンポーザブル(Composable)
ソフトウェアの各要素を組み合わせて新しいアプリケーションを構築できる設計思想である。ブロックチェーン上のプロトコル同士を連携させる際に重要な概念。
【参考リンク】
Farcaster公式サイト(外部)
Ethereum基盤の分散型ソーシャルプロトコル。2026年1月にNeynarへ運営が移管された。
Neynar公式サイト(外部)
Farcasterエコシステム向けインフラ・デベロッパーツール提供企業。Farcasterのプロトコルとクライアントを取得。
Lens Protocol公式サイト(外部)
Aave創設者が立ち上げた分散型ソーシャルプロトコル。2026年1月にMask Networkが運営を引き継いだ。
Mask Network公式サイト(外部)
2017年設立のWeb3ソーシャルインフラ企業。Mastodon運営やFirefly開発を行い、Lensの次フェーズを主導する。
Polymarket公式サイト(外部)
ブロックチェーン上の予測市場プラットフォーム。政治・経済・社会の各種事象に対し確率的な予測を行う。
fomo公式サイト(外部)
FOMO Labs運営のソーシャルファースト暗号資産トレーディングアプリ。Apple Pay対応のクロスチェーン取引が特徴。
Moltbook公式サイト(外部)
2026年1月に立ち上げられたAIエージェント専用のソーシャルネットワーク。人間はオブザーバーとして参加する。
Firefly公式サイト(外部)
Mask Network傘下のマルチクライアント型ソーシャルアプリ。Lens、Farcaster、X、Blueskyに横断対応する。
【参考記事】
Haun-backed Neynar acquires Farcaster after founders pivot to wallet app(外部)
Farcasterの評価額10億ドル到達と、2025年Q4収益が前年同期比85%減の184万ドルに落ち込んだ経緯を報道。
Farcaster to Repay $180M to Investors Amid Pivot to ‘Developer-Focused Direction’(外部)
Merkle Manufactoryが調達済み1億8000万ドル全額を投資家に返還する方針と、Neynarへの移管経緯を報道。
Why Benchmark made a rare crypto bet on trading app Fomo, with $17M Series A(外部)
fomo(FOMO Labs)のBenchmark主導1700万ドル調達と、取引高約7億ドル・ユーザー12万人超の成長を詳述。
Mask Network to Steward Next Chapter of Lens(外部)
2026年1月20日付のMask Networkプレスリリース。Lens Protocolのスチュワードシップ引き継ぎを正式発表。
Farcaster founders step back as Neynar acquires struggling crypto social app(外部)
CoinDeskによる一次報道。Farcasterが持続的な成長を達成できずNeynarへの運営移管に至った経緯を報じる。
【編集部後記】
皆さんが日常的に使っているSNSは、どのような仕組みの上に成り立っているでしょうか。今回の記事で取り上げた分散型ソーシャルの変化は、「誰がデータを持ち、誰がルールを決めるのか」という問いに直結しています。予測市場やAIエージェントのソーシャルネットワークなど、私たちの想像を超えた形で「つながり」の意味が書き換えられようとしています。皆さんは、これからの「ソーシャル」にどんな姿を期待しますか?
