Google は、AIツールの活用対象をソフトウェアエンジニアだけでなく、営業・戦略などの非技術職にも拡大している。
2026年2月下旬のBusiness Insider の報道によると、マネージャーが一部の非技術職スタッフに対し、日常業務へのAI統合を求め、AI活用状況を社内人事評価プロセス「GRAD」(Googler Reviews and Development)で考慮すると伝えた。非技術職の従業員は戦略文書の作成や営業通話の分析にAIツールを使用するよう奨励されており、一部には非公式な週次使用目標も設定されている。
CEOのサンダー・ピチャイはAI導入を戦略的優先事項と位置付けている。CFOのアナト・アシュケナージは2025年第4四半期決算で、Google のコードの約50%がAIエージェントにより生成されていると述べた。4月時点では30%超であった。Meta も2026年の人事評価でAI活用によるインパクトを評価する計画であり、Microsoft もAI利用は任意ではないと従業員に伝えている。
From:
Google expands AI use to include non-technical employees – Storyboard18
【編集部解説】
今回の報道の核心は、「AIを使えるかどうか」が、Google において個人の業績評価に直結する仕組みへと正式に組み込まれつつあるという点です。これまでAIツールの活用は主にソフトウェアエンジニアに求められてきましたが、その対象が営業やオペレーション、戦略部門など非技術系の職種にまで拡大されました。
注目すべきは、この動きがGoogle 単独のものではないという事実です。Meta は2025年11月、人事責任者のジャネル・ゲイルの名で社内メモを送付し、2026年の人事評価から「AI-driven impact(AIによる成果)」を全従業員の中核的な評価基準に据えると通知しています。Microsoft の幹部もスタッフに対して「AIの利用はもはや任意ではない」と伝えています。さらに、Accenture がAI活用を昇進要件に結びつけた社内メモがリークされたほか、Amazon は「Clarity」と呼ばれる社内システムで従業員のAIツール使用頻度を追跡していると報じられています。2025年9月のAI Resume Builderの調査では、調査対象1,295社のうち58%が一定数の従業員にAIツールの使用を義務付けていました。つまり、「AI活用の人事評価への組み込み」は、もはやテクノロジー業界全体のトレンドへと発展しています。
技術的な背景も押さえておく必要があります。Alphabet の2025年第4四半期決算説明会で、CFOのアナト・アシュケナージは「コードの約50%がコーディングエージェントによって記述され、エンジニアがレビューしている」と述べました。これはAlphabet の公式な決算説明会での発言であり、信頼性の高い一次情報です。同年4月時点でCEOのサンダー・ピチャイが示した数字は30%超でしたので、わずか数カ月で大幅に進展したことになります。
また、元記事では社内AIツールとして「Google のGemini チャットボットのカスタマイズ版」と記載されていますが、Business Insider の元報道ではより具体的に、このツールは「Duckie」と呼ばれ、社内ドキュメントを学習したGemini ベースのチャットボットであると説明されています。コーディングアシスタントの「Goose」はGoogle の技術的な履歴で訓練されたもので、営業向けの「Yoodli」はAIアバターによるロールプレイツールです。Yoodli は元Google X出身者が創業したスタートアップで、Google Cloud をはじめ複数の大手企業が導入しており、2025年12月にはシリーズBで4,000万ドルを調達し、評価額が3億ドルを超えたと報じられています。
この動きがもたらすポジティブな側面は明確です。AIリテラシーの全社的な底上げは、組織全体の生産性向上と意思決定の高速化につながる可能性を秘めています。Google が承認済みの社内AIシステムに限定して使用を求めている点も、機密情報保護とAI活用推進を両立させようとする合理的なアプローチといえます。
一方で、潜在的なリスクも無視できません。サイバーセキュリティの専門家からは、AI使用を義務化することで、承認されていないツールを使う「シャドーIT」が増加する懸念が指摘されています。また、MIT スローン経営大学院のロベルト・リゴボン教授は、認知的なタスクをAIに委ねることで、人間が本来持つスキルが徐々に失われるリスクを警告しています。評価制度にAI活用を組み込むことが、形式的な利用(ツールを開いただけで使ったことにする)を助長し、実質的な成果に結びつかない可能性も議論されています。
長期的な視点では、この流れは「AIリテラシー」が読み書き能力のような基礎的なビジネススキルとして位置づけられる時代の到来を示唆しています。Google のGRAD評価制度は、2025年末の評価サイクルから報酬体系が刷新され、「Outstanding Impact」評価の付与枠が拡大されるなど、成果主義をより強める方向に進化しています。AIの活用能力がこの評価軸に加わることで、従業員のキャリアパスそのものが変容していく可能性があります。
【用語解説】
GRAD(Googler Reviews and Development)
Google の社内人事評価制度。「Not Enough Impact」から「Transformative Impact」までの5段階で従業員を評価し、ボーナスやストックオプションの配分に直結する。
Duckie
Google の社内向けチャットボット。Gemini をベースに社内ドキュメントを学習させたカスタマイズ版で、従業員が社内情報に関する質問を行える。
シャドーIT(Shadow IT)
企業のIT部門が承認していないツールやサービスを、従業員が業務に無断で使用すること。AI利用の義務化により、承認済みツールが使いにくい場合に未承認のAIツールへ流れるリスクが指摘されている。
【参考リンク】
Google(Alphabet Inc.)公式サイト(外部)
Google の親会社Alphabet の公式サイト。2025年通期の連結売上高は4,030億ドル。AI関連投資を急拡大している。
Gemini – Google(外部)
Google が提供するAIモデルおよびチャットボット。月間アクティブユーザー数は7億5,000万人超。社内向けにもカスタマイズ版が展開されている。
Yoodli公式サイト(外部)
AIアバターを用いたコミュニケーション訓練プラットフォーム。Google Cloud の営業チームがプレゼンのリハーサル用に導入している。
Meta Platforms公式サイト(外部)
Facebook、Instagram 等を運営。2026年の人事評価から「AI-driven impact」を全従業員の中核的な評価基準に据える方針を発表。
Microsoft公式サイト(外部)
幹部が従業員に対し「AIの利用はもはや任意ではない」と通達。Google、Meta と並びAI活用の人事評価への組み込みを推進している。
Business Insider(外部)
今回の一連の報道の一次ソースとなった米国のビジネスニュースメディア。Google 社内のAI活用方針を複数回にわたり詳報している。
【参考動画】
Alphabet の2025年第4四半期決算説明会の公式録画。CEOサンダー・ピチャイとCFOアナト・アシュケナージが、AIによるコード生成比率50%やGoogle Cloud の成長、2026年の設備投資計画(1,750億〜1,850億ドル)について語っている。
【参考記事】
Google is dialing up the pressure for more employees to use AI — and not just engineers(外部)
Business Insider 元報道のミラー記事。社内ツール「Duckie」「Goose」「Yoodli」の名称と用途、週次使用目標の設定などを詳報している。
Alphabet Investor Relations – 2025 Q4 Earnings Call(公式トランスクリプト)(外部)
コードの約50%がAIエージェント生成、通期売上高4,030億ドル、2026年設備投資1,750億〜1,850億ドル等の一次ソース。
Alphabet (GOOGL) Q4 2025 earnings – CNBC(外部)
Q4純利益345億ドル(前年同期比約30%増)、Google Cloud 売上高177億ドル(同48%増)、Gemini の月間7.5億ユーザー等を確認。
Meta to Grade Employees on AI Driven Impact Starting 2026 – WinBuzzer(外部)
Meta が2026年から「AI-driven impact」を全従業員の評価基準に導入する方針を詳報。Gartner 調査のROI達成率にも言及している。
Most companies are requiring employees to use AI – IT Brew(外部)
調査対象1,295社の58%がAIツール使用を義務化。Accenture の昇進要件とシャドーITのリスクについてセキュリティ専門家が警鐘を鳴らしている。
Google Tells Every Employee: Learn AI or Face the Consequences – WebProNews(外部)
GRAD制度へのAI活用組み込みの意義を分析。2022年のピアレビュー廃止からの制度変遷と形式的コンプライアンスのリスクを論じている。
【編集部後記】
AIリテラシーが「あると便利なスキル」から「なければ評価に響く必須要件」へと変わりつつある――この変化は、シリコンバレーだけの話ではないかもしれません。みなさんの職場では、AIツールの活用はどのように位置づけられていますか。「使っている」と「使いこなしている」の間にある距離感について、一緒に考えていけたらうれしいです。
