中国の国家税務総局と国家金融監督管理総局は、2026年3月27日付けの共同政策通達において、銀行および地方当局にブロックチェーンとプライバシーコンピューティングの活用を求めた。
目的は「銀行・税務連携」モデルの刷新と中小企業向け融資の拡大だ。通達はデータ共有の標準化と、税務当局・銀行・企業間の情報の非対称性の解消を求め、「誠実な納税企業」への融資サービス供給の拡大も指示した。この方針は、2025年1月公表の「国家データ基盤建設指引」で示された、2029年までの国家データ基盤整備方針とも軌を一にする。ブロックチェーンは、その実装を支える技術の一つとして位置づけられている。
2025年1月の政府説明では、国家データ基盤の整備が毎年約4,000億元の直接投資を牽引し、今後5年間で約2兆元規模になる可能性が示された。記事の文脈では、その中でブロックチェーン関連需要も広がるとみられる。なお、Compass Miningのデータによれば、中国は2026年1月時点で世界のビットコインハッシュレートの11.7%を占め、マイニング国として第3位に位置する。
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China’s tax authority urges banks to implement blockchain for lending services
【編集部解説】
今回の通達を理解するうえで、まず「銀行・税務連携(银税互动)」というモデルの背景を押さえる必要があります。「銀行・税務連携(银税互动)」は、2015年に始動し、2019年の制度整備を経て発展してきた仕組みで、中小企業が銀行融資を受ける際の最大の障壁——「信用力の証明」——を、税務申告データで代替しようという発想に基づいています。問題の核心は、長年にわたって中小企業と銀行の間に横たわる「情報の非対称性」です。銀行は企業の財務実態を把握できず、企業は機密データを外部に渡すことをためらう。今回の通達は、ブロックチェーンやプライバシーコンピューティングの活用を通じて、税務・銀行・企業の間にある情報の非対称性の緩和や、信用審査の効率化を後押しする内容といえるでしょう。
ここで「プライバシーコンピューティング」という言葉に注目してください。これは、データの中身を直接開示することなく、そのデータを演算・分析できる技術群の総称で、ゼロ知識証明や秘密計算などが含まれます。たとえば、「この企業は過去3年間、正確に納税している」という事実を、生の税務データを銀行に渡すことなく証明できます。ブロックチェーンは改ざん耐性のある記録管理に、プライバシーコンピューティングはデータを直接開示しない分析や照合に、それぞれ活用できる可能性がある。今回の通達は、こうした技術を銀税連携の高度化に活かす方向性を示したものと言えます。
このニュースを「中国がブロックチェーンを推進した」という表面的な読み方で終わらせてはなりません。注目すべきは、2026年までに設計・標準化・試点拡大、2027~2028年に大中型都市への本格展開、2029年に国家データ基盤の主要構造を基本構築という段階的なロードマップが示されている点です。これは単なるスローガンではなく、段階目標や政策支援の方向性を伴って進められている国家データ基盤整備の一環として理解すべきでしょう。
ポジティブな側面として、中小企業の資金調達環境が大きく改善される可能性があります。書類審査の削減、融資審査の迅速化、そして融資詐欺の抑制——これらは実体経済に対する直接的な恩恵です。また、中国が2024年に生成したデータ量は41.06ゼタバイトに達しており(前年比25%増)、データ資源の拡大を背景に信頼性の高いデータ流通インフラの需要が高まっており、ブロックチェーンやプライバシー保護計算などの技術活用が政策上重視されています。
一方で、潜在的なリスクも見落とせません。融資判断をアルゴリズムと自動化されたデータ連携に委ねる流れが加速すると、人間による審査の形骸化が起きうるという懸念があります。加えて、税務データが信用スコアと直結することで、納税実績のない新興企業やスタートアップが制度的に不利になる可能性も否定できません。国家が金融と税務の両面でデータを掌握するインフラが整備されることへの、プライバシー上の懸念も長期的には議論の的となるでしょう。
グローバルな文脈で見ると、中国はデジタル人民元(e-CNY)の普及インフラを急速に整備しており、2026年4月には対応銀行を10行から22行に拡大したばかりです。今回のブロックチェーンによる銀行・税務連携システムは、このe-CNYインフラと長期的に接続されていく可能性が高く、中国のデジタル金融エコシステム全体の設計図の一部として捉えるべきです。
日本を含む他国の視点から見れば、これは「暗号資産は禁止しながらブロックチェーンは国家インフラとして積極活用する」という中国モデルの成熟を示す事例です。技術の採否を国家戦略として管理するアプローチは、今後の各国の規制設計や産業政策に対して、一つの参照点を提供することになるでしょう。
【用語解説】
プライバシーコンピューティング
データの内容を直接開示することなく、そのデータを分析・演算できる技術の総称。
ゼロ知識証明
ある命題が真であることを、その命題の内容そのものを開示せずに証明できる暗号技術。プライバシーコンピューティングの代表的な手法の一つである。
ハッシュレート
ビットコインのマイニング(採掘)における計算処理能力の指標。値が高いほど、より多くの計算を行っていることを意味する。
e-CNY(デジタル人民元)
中国人民銀行が発行する中央銀行デジタル通貨(CBDC)。民間の暗号資産とは異なり、法定通貨としての裏付けを持つ。
【参考リンク】
国家税務総局(State Administration of Taxation)(外部)
中国の税務行政を統括する国家機関。国家金融監督管理総局との共同通達でブロックチェーンを活用した納税記録の共有と標準化を推進している。
国家金融監督管理総局(National Financial Regulatory Administration)(外部)
銀行・保険業の監督を担う中国の金融規制機関。2023年に設立され、銀行の融資モデル改善と信用審査効率の向上を銀行に求めている。
国家発展改革委員会(National Development and Reform Commission)(外部)
中国の経済・社会発展の政策立案機関。2025年1月に2029年を目標とする国家データ基盤建設指引を公表した。
国家データ局(National Data Administration)(外部)
データ資源の整備・活用を推進する中国の行政機関。副局長がブロックチェーンインフラへの年間見通しを2025年1月に示した。
Compass Mining(外部)
ビットコインのマイニングハードウェア調達・ホスティングを提供する米国企業。世界各国のハッシュレートデータを調査・公表している。
【参考記事】
China Urges Banks and Local Authorities to Use Blockchain For Lending Services — Coin Edition(外部)
通達の正式タイトルと段階的な実装スケジュール(2026・2028・2029年)を詳述。4,000億元・累計2兆元規模の数値予測も記載している。
China’s Regulators Move to Rewire Small Business Credit with Blockchain — Coindoo(外部)
e-CNYの対応銀行が2026年3月に22行へ拡大した経緯とブロックチェーン税務連携との関係性を分析。自動化審査リスクにも言及している。
China Urges Banks to Use Blockchain For Lending Services — Bitcoin Ethereum News(外部)
国家データ局の調査を引用し、中国の2024年データ生成量41.06ゼタバイト(前年比25%増)を示してインフラ整備の背景を解説している。
China pushes banks to adopt blockchain for tax data sharing and business lending — CoinCodeCap(外部)
銀行・税務連携モデルが2019年に制度化された歴史的経緯を詳述。ブロックチェーンによる改ざん不能台帳が書類審査を代替する仕組みを解説。
China Advances Tax-Bank Integration with Blockchain — COINOTAG(外部)
ゼロ知識証明などプライバシーコンピューティング技術の活用方法を解説。納税コンプライアンスを信用スコアに組み込む仕組みを紹介している。
The State Taxation Administration of China — ChainCatcher(外部)
中国語原文通達に近い一次情報ベースの英語記事。法令準拠でのブロックチェーン活用促進とリスク管理向上の要求を正確に報告している。
【編集部後記】
中国がブロックチェーンを「国家インフラ」として着々と整備するなか、日本の金融やデータ行政はどんな絵を描いているのでしょう。「暗号資産は禁止、ブロックチェーンは推進」という割り切り方は、一つの現実的な答えかもしれません。皆さんはどう感じましたか? ぜひ身近な人と話してみてください。

