SMBC日興証券、大和証券グループ本社、野村ホールディングス、三井住友信託銀行、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、NTTデータを含む10社は、2026年4月8日、金融業界横断の相続手続き一元化プラットフォーム「みらいたすく」の構築に向けた基本合意書を締結した。
同プラットフォームは、相続人がオンラインで手続きに必要な情報を連携することで、提携する複数の金融機関の相続手続きを一括で行えることを目指すものだ。
今後の予定として、2026年秋頃に新会社を設立し、2027年夏頃に一部地域での試験導入、2028年秋頃に全国での提供開始を予定している。なお、「みらいたすく」という名称は変更になる可能性がある。
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金融業界横断の相続手続き一元化プラットフォーム「みらいたすく」構築に向けた基本合意について
【編集部解説】
日本は今、歴史的な「多死社会」の入り口に立っています。厚生労働省の人口動態統計によれば、2023年の死亡者数は157万6,016人と過去最多を更新し、これに伴う相続の件数もかつてない規模で増加しています。日本総研の試算では、年間の相続資産額は現在の約46兆円から、2040年には約51兆円規模に膨らむとされています。相続は、もはや一部の富裕層だけの問題ではなく、日本社会全体が向き合うべき構造的な課題です。
今回の「みらいたすく」構想が画期的なのは、これまで各金融機関がバラバラに運用してきた相続手続きを、業界横断で標準化・デジタル化しようとする点にあります。現行の仕組みでは、亡くなった方が複数の金融機関に口座や有価証券を保有していた場合、遺族はそれぞれの金融機関に対して戸籍謄本や印鑑証明書といった同じ書類を何度も準備・提出しなければなりません。「みらいたすく」が実現すれば、こうした重複した負担が大幅に軽減される可能性があります。
また、日本経済新聞の報道では、このプラットフォームを通じて「気づかなかった故人の口座を見つけることもできる」とされています。いわゆる「休眠口座」の照会機能です。これは遺族にとって大きな恩恵である一方、金融機関にとっては、これまで把握されにくかった休眠口座や休眠資産が一元的に可視化されるという側面も持ちます。
政府の動きとも連動している点は見逃せません。デジタル庁は死亡・相続手続きのオンライン化を推進しており、2024年4月には相続登記の義務化が施行され、2026年4月には住所等変更登記の義務化も始まりました。民間金融機関の今回の動きは、こうした行政のデジタル化方針とも方向性が一致しており、官民連携による手続き改革の大きな流れの一部として捉えることができます。
一方で、潜在的なリスクについても冷静に見ておく必要があります。今回の発表はあくまでも「基本合意」であり、具体的なシステム設計、セキュリティ基準、データガバナンスの枠組みはこれから構築される段階です。複数の金融機関が保有する個人の資産情報を一元的に扱うプラットフォームとなれば、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクは相応に高まります。また、現時点で基本合意に名を連ねるのは10社ですが、プレスリリースでは出資金融機関以外の参加も想定されています。どれだけ多くの金融機関を巻き込めるかが、実用性を左右する最大の課題でしょう。
長期的な視点で見れば、このプラットフォームの意義はさらに広がる可能性があります。相続手続きを「起点」として、遺産の運用相談や資産承継のアドバイスなど、次世代の金融サービスへと接続するゲートウェイになりうるからです。2028年の全国展開が実現した暁には、日本の金融インフラの在り方そのものを変える礎となるかもしれません。
【参考情報】
休眠口座
長期間にわたって取引が行われていない銀行口座のこと。本人が存在を忘れていたり、死亡後に遺族が把握できていなかったりするケースも多い。
相続登記の義務化
2024年4月に施行された法改正により、相続によって不動産を取得した場合、その事実を知った日から3年以内に登記申請を行うことが義務付けられた。正当な理由なく期限を守らない場合、10万円以下の過料が科される可能性がある。
【参考リンク】
SMBC日興証券株式会社(外部)
三井住友フィナンシャルグループ傘下の大手証券会社。今回の基本合意会社のひとつであり、みらいたすく事務局の窓口も同社が担っている。
株式会社NTTデータ(外部)
NTTグループのITサービス企業。コンサルティングから統合ITソリューション、システム開発・保守まで幅広く手がけ、今回の基本合意会社のひとつとして参画している。
野村ホールディングス株式会社(外部)
グローバルな金融サービスを統括する持株会社。今回の基本合意会社のひとつとして参画し、同社サイトでもプレスリリースを公開している。
株式会社日本総合研究所(日本総研)(外部)
三井住友フィナンシャルグループ傘下のシンクタンク。多死社会と相続資産の増大に関する詳細な試算レポートを公表しており、今回の編集部解説の重要な参照元となっている。
【参考記事】
Japan’s SMBC Nikko, Daiwa and Nomura Agree to Study One-Stop Inheritance Platform(外部)
今回の基本合意を英語で報じた記事。日本の少子高齢化が金融インフラの変革をいかに促しているかを国際的な視点から分析し、日本が先進国の中でも最も急速に高齢化が進むテストケースであると指摘している。
多死社会で増加する相続をめぐる課題(日本総研)(外部)
日本総研が2024年3月に公表したレポート。年間の相続資産額が現在の約46兆円から、2030年には48.8兆円、2035年には50.4兆円、2040年には51.0兆円へと拡大するとの試算を示し、多死社会における金融機関の対応課題を詳細に論じている。
令和5年分 相続税の申告事績の概要(国税庁)(外部)
2023年の死亡者数が157万6,016人(前年比100.4%)、課税価格の総額が21兆6,335億円、申告税額の総額が3兆53億円にのぼることが記されており、相続規模の実態を示す一次情報として参照した。
相続手続き、銀行・証券大手7社が一括対応 隠れ口座も照会可能に(日本経済新聞)(外部)
プレスリリースには明記されていない「隠れ口座の照会機能」という具体的な機能面について言及しており、プラットフォームの実用イメージを補う情報として参照した。
死亡・相続手続きのオンライン化(デジタル庁)(外部)
デジタル庁による相続手続きのオンライン・ワンストップ化に関する政策ページ。「みらいたすく」の民間主導の動きが政府方針と整合していることを確認するために参照した。
【編集部後記】
相続という言葉を聞いて、「まだ先の話」と感じる方も多いかもしれません。でも、戸籍謄本を何枚もコピーして金融機関をひとつひとつ回る——そんな経験を、身近な人がしているのを見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。「みらいたすく」が目指す変化が、私たちの日常にどう届いてくるのか、一緒に注目してみてください。

