台湾TSMC、米国での2nmチップ量産を加速 トランプ関税政策下で1650億ドル投資拡大

台湾TSMC、米国での2nmチップ量産を加速 トランプ関税政策下で1650億ドル投資拡大

台湾セミコンダクター(TSMC)のCEO C.C. Weiは2025年7月17日、米国の主要顧客からの強い需要により、アリゾナ州の先進半導体製造施設の量産スケジュールを数四半期前倒しすると発表した。

TSMCは同州に6つのウェーハ製造施設、2つの先進パッケージング製造施設、および研究開発センターを建設中で、総投資額は1650億ドルである。2025年第2四半期の売上は317億ドル、利益は前年同期比約61%増で過去最高を記録し予想を上回る成果だったと報告した。第1製造施設は完成済み、第2製造施設は建設完了、第3製造施設は建設中である。

一方、ドナルド・トランプ米大統領は台湾に対して32%という高額な相互関税を課すと警告したが、地元メディアによると台湾は米国との貿易協議を継続しているとのことである。

From: 文献リンクTaiwan Semi is speeding up U.S. chip production due to demand, CEO says

【編集部解説】

半導体地政学の転換点:TSMCの米国投資加速が示す新たな戦略

今回のTSMCによる米国での生産スケジュール前倒しは、単なる需要増加への対応を超えた、より大きな地政学的戦略の一環として理解する必要があります。同社のアリゾナ州への総投資額1650億ドルは、米国史上最大規模の外国直接投資となっています。

この投資規模の背景には、台湾の地政学的リスクを分散させる必要性があります。TSMCは世界の最先端半導体の約50%を生産する圧倒的な存在であり、その生産拠点が台湾に集中していることは、グローバルサプライチェーンにとって重大なリスクとなっていました。

技術的な意義:2nm世代の米国生産実現

特に注目すべきは、TSMCのアリゾナ工場で2nm世代の最先端チップが生産される点です。これまで米国本土では4nm世代が最先端でしたが、今後開始される2nm量産により、米国は真の意味で世界最先端の半導体製造能力を獲得することになります。

2nm世代は従来の4nm世代と比較して、約30%の性能向上と20%の消費電力削減を実現します。これによりAI処理能力の飛躍的向上が期待されており、自動運転車、データセンター、スマートフォンなどの分野で革新的な製品開発が可能になります。

関税政策の複雑な影響構造

トランプ政権の関税政策は、TSMCにとって直接的な脅威と同時に、戦略的な機会でもあります。台湾への32%の相互関税は、TSMCの米国投資を加速させる要因となっています。

しかし、関税の影響は必ずしも単純ではありません。TSMCは輸出企業であるため、関税は直接的には輸入業者(顧客企業)に課されますが、価格上昇により需要が減少する可能性があります。一方で、AI関連の需要は関税の影響を上回る勢いで成長しており、同社の2025年第2四半期業績は過去最高を記録しています。

長期的な産業構造への影響

TSMCの米国投資は、グローバル半導体産業の構造を根本的に変える可能性があります。アリゾナ州に6つの製造工場、2つの先進パッケージング施設、R&D センターが完成すれば、米国西部に「半導体メガクラスター」が形成されます。

このクラスターは、Intel、NXP、ON Semiconductorなどの既存企業と連携し、米国を世界最大の半導体製造拠点の一つに変貌させる可能性があります。現在、第1ファブは完成済み、第2ファブは建設完了、第3ファブは建設中という順調な進捗を見せています。

潜在的なリスクと課題

一方で、いくつかの重要なリスクも存在します。第一に、TSMCの台湾からの技術移転が完全に成功するかは未知数です。半導体製造は極めて複雑な技術であり、熟練した技術者の確保と技術ノウハウの移転には時間を要します。

第二に、コスト構造の変化です。台湾と比較して米国での製造コストは高く、これが最終的に製品価格に反映される可能性があります。TSMCは2025年下半期の顧客行動に変化がないと述べていますが、長期的な価格競争力の維持は課題となるでしょう。

規制環境とイノベーションへの影響

米国政府からの支援は、TSMCの投資決定を後押しする重要な要因となっています。しかし、この支援には技術共有の制限や中国市場でのビジネス制限など、複雑な条件が付随する可能性があります。

この規制環境の変化は、半導体産業全体のイノベーションパターンに影響を与える可能性があります。米国内での研究開発が活発化する一方で、グローバルな技術協力には制約が生じる可能性があります。

未来への展望:2028年以降の半導体産業

TSMCの米国投資は、2028年以降の半導体産業の姿を大きく変える可能性があります。同社が台湾で開発中の次世代技術が、将来的に米国にも移転される可能性があります。

【用語解説】

ウェーハ製造ファブリケーション施設(Wafer Fabrication Facility)
半導体チップを製造する工場施設。シリコンウェーハ上に回路を形成する複雑な工程を行う。TSMCのアリゾナ工場では6つのファブが建設予定である。

先進パッケージング(Advanced Packaging)
製造された半導体チップを最終製品に組み込むための技術。チップを保護し、他の部品との接続を可能にする工程で、TSMCはアリゾナに2つの専用施設を建設予定である。

2nm世代プロセス
半導体製造における最先端技術。回路の線幅が2ナノメートル(20億分の1メートル)レベルの微細加工技術。従来の4nm世代と比較して約30%の性能向上と20%の消費電力削減を実現する。

受託製造(Contract Manufacturing)
他社が設計した製品を代わりに製造するビジネスモデル。TSMCは世界最大の半導体受託製造会社として、AppleやNvidiaなどの設計した半導体を製造している。

【参考リンク】

Taiwan Semiconductor Manufacturing Company (TSMC)(外部)
世界最大の半導体受託製造会社の公式サイト。企業情報、技術情報、投資家情報を掲載。

TSMC Investor Relations(外部)
TSMCの投資家向け情報サイト。決算発表、財務データ、株主総会資料などを掲載。

Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited (TSM) – Yahoo Finance(外部)
TSMCの株価情報、財務データ、投資家向け情報を提供するファイナンスサイト。

【参考動画】

【参考記事】

TSMC ups 2025 sales growth outlook to 30% – Focus Taiwan(外部)
TSMCが2025年売上成長見通しを30%に上方修正。AI需要拡大が背景。

TSMC profit surges 61% to record high fueled by AI chip demand(外部)
TSMCの第2四半期利益が61%増の記録的高水準。AI需要の継続的成長が背景。

TSMC leaves 2025 sales forecast unchanged despite Trump’s tariffs(外部)
TSMCがトランプ政権の関税政策にも関わらず2025年売上予測を据え置き。

【編集部後記】

TSMCの米国投資は、私たちの身近なスマートフォンからAI技術まで、あらゆるデジタル体験を支える基盤技術の大きな転換点です。この変化が皆さんの仕事や生活にどのような影響をもたらすか、一緒に考えてみませんか?特に気になるのは、半導体製造が地理的に分散することで、新しいイノベーションのスピードや方向性がどう変わるかという点です。台湾と米国、それぞれの文化や研究開発のアプローチが融合することで、これまでにない技術革新が生まれる可能性もあります。皆さんはこの半導体地政学の変化を、脅威と捉えますか?それとも新たな機会と感じますか?SNSで、ぜひお聞かせください。

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