核廃棄物が核融合燃料に?米研究チームがトリチウム生成技術をシミュレーションで実証

核廃棄物が核融合燃料に?米研究チームがトリチウム生成技術をシミュレーションで実証

ロスアラモス国立研究所の物理学者テレンス・タルノウスキーが、従来の原子炉からの核廃棄物をトリチウムに精製する手法をシミュレーションで発見した。アメリカ化学会が2025年8月18日に発表した。トリチウムは核融合炉の燃料として使用される水素の放射性同位体で、商業価値は1キログラムあたり3,300万ドルである。1GWの重水素-トリチウム核融合プラントには年間55キログラム以上のトリチウムが必要だが、米国には国内生産能力がない。現在の主要供給源はカナダのCANDU炉で、単一炉あたり年間0.1キログラムを生産する。世界27基のCANDU炉すべてでも年間2.7キログラムに過ぎず、需要に対して大幅に不足している。タルノウスキーの研究では、粒子加速器を使用して核廃棄物中の原子分裂反応を促進し、一連の核反応を経てトリチウムを生産できる可能性を示している。

From:文献リンクPhysicist models new use for nuclear waste: Turning it into super-rare fusion fuel

【編集部解説】

この研究が注目される背景には、核融合商用化における「トリチウム問題」という根深い課題があります。核融合は気候変動対策の切り札として期待されていますが、燃料となるトリチウムの供給不足が実用化を阻む大きな壁となっているのです。

タルノウスキー氏のシミュレーション研究では、1ギガワット級の仮想システムで年間約2キログラムのトリチウム生産が可能と推定されています。これは現在カナダの全CANDU炉が生産する量に匹敵する規模となっています。

技術的な革新点は、粒子加速器を使って核廃棄物中の原子分裂反応を制御可能な形で促進することです。従来の連鎖反応とは異なり、オペレーターが反応をオン・オフできるため、安全性の向上が期待されます。さらに、溶融リチウム塩で核廃棄物を包む設計により、冷却効果と兵器転用防止の二重の安全策を実現しています。

この技術が実現すれば、米国が抱える9万メートルトンを超える核廃棄物処理問題の解決策にもなり得ます。長期保管に伴う環境リスクや莫大なコストを軽減しながら、価値ある資源に変換できる可能性があります。

ただし、現時点ではコンピューターシミュレーション段階であり、実際の建設・運用にはまだ多くのハードルが残っています。タルノウスキー氏は今後、より精密な効率計算とコスト分析を進める予定としており、実用化には相当な時間と投資が必要となるでしょう。

【用語解説】

トリチウム
水素の放射性同位体(三重水素)で、2つの中性子と1つの陽子を持つ。核融合反応で重水素と反応して大量のエネルギーを放出し、現在の核融合炉設計の主力燃料である。半減期は約12.3年で、自然界には極めて微量しか存在しない。

重水素
水素の同位体で、1つの中性子と1つの陽子を持つ。重水(D2O)として原子炉の冷却材や減速材に使用される。トリチウムとの核融合反応でヘリウムとエネルギーを生成する。

粒子加速器
荷電粒子を電場や磁場で高速に加速し、高エネルギー状態にする装置。この研究では、核廃棄物中の原子核に高エネルギー粒子を衝突させて核反応を誘発する装置として使用される。

核融合炉
軽い原子核同士を高温・高圧下で衝突・融合させ、質量欠損によって生じるエネルギーを取り出す発電装置。太陽と同じ原理で動作し、CO2を排出しない次世代エネルギー源として期待されている。

CANDU炉
Canada Deuterium Uraniumの略称で、カナダが開発した重水炉型原子炉。天然ウランを燃料とし、重水を減速材・冷却材として使用する。運転中に燃料交換が可能で、副産物としてトリチウムを生成する特徴がある。

【参考リンク】

ロスアラモス国立研究所(外部)
米国エネルギー省傘下の国立研究所。核融合や核技術の最先端研究を実施

アメリカ化学会(外部)
1876年設立の世界最大級科学学会。本研究の発表元

オンタリオ電力公社(外部)
17基のCANDU炉を運営し商業用トリチウムを生産するカナダの電力会社

【参考記事】

Nuclear waste could be a source of fuel in future reactors(外部)
アメリカ化学会公式プレスリリース。タルノウスキー氏の研究内容を詳解

New technique to tackle nuclear waste(外部)
Physics World誌による技術解説。粒子加速器による制御可能な核反応を分析

Nuclear waste to be a source of fuel for future reactors(外部)
英政府系メディア記事。核融合産業の現状と課題を詳述

【編集部後記】

この研究は、核融合という夢の技術に一歩近づくだけでなく、私たちが抱える核廃棄物問題への新たな視点を提示しています。もしかすると、これまで「負の遺産」とされてきた核廃棄物が、未来のクリーンエネルギーを支える貴重な資源になる日が来るかもしれません。

みなさんは、この技術が実用化された場合、エネルギー政策や環境問題にどのような変化をもたらすと思われますか?また、核融合が身近な存在になったとき、私たちの生活はどう変わっていくのでしょうか?
ぜひSNSでみなさんの考えをお聞かせください。一緒に未来のエネルギー社会について考えてみませんか。

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