中国のKaiwa Technology社が人工子宮を搭載したヒューマノイドロボットを開発した。同社の創設者である張其峰博士率いる研究チームは、このロボットが人間の赤ちゃんを妊娠・出産できると主張している。ロボットには合成羊水、栄養供給システム、臍帯を模倣するチューブによる酸素供給機能が内蔵されている。胚の着床から胎児の成長、出産までの全段階をシミュレートする設計となっている。価格は100,000元(約14,000米ドル)を予定している。同社は2026年までに公開実演の準備が整うとしている。Kaiwaは広東省当局にロボット妊娠に関する法的枠組み構築のためのポリシー提案を提出済みである。不妊症や高リスク妊娠に直面する個人・カップル向けの技術として位置づけられている。ただし医療当局による独立検証や人間の胚を用いた臨床試験は未実施である。フィラデルフィア小児病院では2017年に羊の胎児を外部嚢で成長させることに成功している。
【編集部解説】
この技術の核心部分を理解するために、まず人工子宮技術(Artificial Womb Technology、AWT)の現状を整理する必要があります。現在、この技術は主に極早産児の治療を目的として研究されており、フィラデルフィア小児病院が2017年に開発した「バイオバッグ」では羊の胎児を28日間成長させることに成功しています。ただし、これは早産児のサポートに限定された技術であり、受精から満期まで完全な妊娠をシミュレートする技術は未だ実現していません。
Kaiwa Technologyの発表について詳細を確認すると、張其峰博士は2025年世界ロボット会議でこの構想を発表し、同社は2015年に設立されて元々はサービスロボットを手がけていた企業です。注目すべきは、同社が既に2年以上この研究を進めており、広東省当局と法的枠組みの構築について協議を開始している点です。
技術的な課題として最も重要なのは、現在の人工子宮技術が早産児のサポートに留まっている点です。完全な外子宮生殖(ectogenesis)、つまり受精から出産まで人工環境で行う技術は、まだ実証されていません。2023年の医学研究では、人工子宮技術の公衆衛生への応用が議論されていますが、完全な外子宮生殖は「遠い将来の可能性」として位置づけられています。
この技術が社会に与える影響は多面的です。中国では代理出産が違法であり、出生率が記録的低水準にある中で、この技術は不妊治療の新たな選択肢として期待されています。価格設定の100,000元(約14,000米ドル)は、商業的代理出産と比較して大幅に安価な設定となっています。
一方で、倫理的課題は深刻です。専門家が特に懸念しているのは、母子の絆形成、子どもの心理的発達、そして生殖の商品化リスクです。また、胚の選別や移植プロセスの透明性、子どもの権利、長期的な発達への影響など、まだ解明されていない問題が山積しています。
規制面では、張其峰博士のチームが広東省当局と協議中であることが報告されていますが、具体的なガイドラインや政策は公表されていません。親権の定義、代理出産の法的位置づけ、人工妊娠によって生まれた子どもの権利など、前例のない法的課題に直面することになります。
長期的な視点から見ると、この技術は生殖医学の革命的転換点となる可能性があります。しかし、技術的実現性、安全性、倫理的課題、社会的受容性のすべてを満たすには、まだ相当な時間と検証が必要でしょう。2026年のプロトタイプ発表が予定されていますが、実際の人間への応用までには、さらなる研究と社会的合意形成が不可欠です。
【用語解説】
外子宮生殖(Ectogenesis)
人工的な環境下で胚から胎児まで成長させる技術。現在は動物実験レベルで実施されているが、人間での完全な実現には技術的・倫理的課題が残されている。
人工子宮技術(Artificial Womb Technology, AWT)
主に極早産児の治療を目的として開発された医療技術。現在はサポート的役割に限定されており、完全な妊娠プロセスの代替はまだ実現していない。
張其峰博士(Dr. Zhang Qifeng)
中国のKaiwa Technology社創設者。2025年世界ロボット会議で人工子宮搭載ヒューマノイドロボットの構想を発表した研究者。
フィラデルフィア小児病院
2017年に「バイオバッグ」と呼ばれる人工子宮システムで羊の胎児を28日間成長させることに成功した米国の医療機関。現在の人工子宮技術のベンチマーク的存在である。
【参考リンク】
New York Post – ‘Pregnancy robots’ could give birth to human children(外部)
中国Kaiwa Technology社の人工子宮搭載ロボットに関する詳細報道
Times of India – China’s 2026 humanoid robot pregnancy with artificial womb(外部)
2025年世界ロボット会議での発表内容と技術的詳細について報道
【参考記事】
‘Pregnancy robots’ could give birth to human children – NY Post(外部)
人工子宮搭載ヒューマノイドロボットの価格と2026年プロトタイプ発表予定を詳細報道
China’s 2026 humanoid robot pregnancy with artificial womb – Times of India(外部)
2025年世界ロボット会議での張其峰博士の発表と技術的詳細を解説
China Develops First-Ever Pregnancy Robot – Nurse.org(外部)
医療従事者向けの視点から技術の医学的意義と潜在的リスクを分析
Artificial womb: opportunities and challenges for public health – PMC(外部)
人工子宮技術の公衆衛生への影響を学術的に分析した研究論文
【編集部後記】
この技術が実用化されたとき、私たちの「家族」や「出産」に対する概念は根本から変わるかもしれません。不妊に悩む方々にとっては希望の光となる一方で、人間らしさとは何かという問いも投げかけています。
皆さんはこの技術をどう受け止めますか?もし身近な人がこの選択肢を検討していたら、どんな言葉をかけるでしょうか。
テクノロジーと生命の境界線が曖昧になる今、私たち一人ひとりが考えるべき時代が来ているのかもしれませんね。
ぜひSNSで皆さんの率直な思いをお聞かせください。