2025年8月19日、MetaのAIチームはFacebookとInstagramに新しい翻訳ツールを導入した。このツールにより、ユーザー生成コンテンツを瞬時に他の言語に変換できる。これらのツールは2024年のMeta Connectで発表されたもので、異なる言語を話す人々の間の言語的な隔たりを解消することを目的としている。
現在、ワンクリック翻訳機能は英語のリールをスペイン語に変換でき、その逆も可能である。今後他の言語も追加される予定である。Facebookのみの機能として、制作者は単一の動画に複数の音声リールを追加できる。この機能がInstagramに導入されるかは不明である。
アップロード者はAIリップシンク機能を選択でき、Metaによると、これはAI編集された動画で滑らかな口の動きを作り出す。AIリップシンク機能は制作者のコントロールを使っていつでも無効にできる。インサイトタブの新しい指標により、制作者は言語別に視聴回数を分類できる。
このAI翻訳ツールは、GoogleがGoogle Translateに追加する可能性があるDuolingo風のAIツールの報告に続くものである。2025年のGoogle I/Oプレゼンテーションでは、スマートグラス向けのGemini統合のデモンストレーションが行われた。
From: Meta Rolls Out AI Translations for Facebook and Instagram User-Generated Content
【編集部解説】
今回Metaが展開するAI翻訳機能は、単なる言語変換ツールを超えた革新的なソーシャルメディア体験を提供します。特に注目すべきは、制作者の元の声のトーンや音質を保持しながら翻訳を行う技術です。これにより、機械的な音声ではなく、あたかもその人自身が外国語を話しているかのような自然な体験を実現しています。
AIリップシンク機能も画期的な要素です。従来の吹き替えや字幕では実現できなかった、口の動きと音声の完全な同期を可能にします。これは動画コンテンツの言語的バリアを大幅に低減し、国際的なコミュニケーションの新たな地平を開くでしょう。
利用対象は1,000フォロワー以上のFacebookクリエイター(ページまたはプロフェッショナルモード有効)と、すべてのパブリックInstagramアカウントです。現在の対応言語は英語とスペイン語に限定されていますが、この選択は戦略的な意味を持ちます。英語・スペイン語話者の巨大な言語圏にアクセスできるようになります。
注目すべきは、FacebookクリエイターがMeta Business Suiteを通じて1つのリールに最大20の吹き替え音声トラックを追加できる機能です。これにより、AIによる自動翻訳以外の言語にも対応でき、より幅広い国際的なリーチが可能になります。
技術的な観点から見ると、この機能は生成AIと音声合成技術の高度な統合を示しています。制作者の声質を学習し、異言語で再現する技術は、深層学習による音声クローニング技術の実用化レベルでの実装を意味します。
一方で、潜在的なリスクも存在します。AI生成された音声は、ディープフェイク技術への悪用や、制作者の意図しない発言の捏造に利用される可能性があります。Metaが制作者にコントロール権を与え、翻訳のオン・オフを選択可能にしている点は、こうしたリスクへの配慮を示しています。
この機能が与える経済的影響も重要です。言語の壁により制限されていたクリエイターの収益化機会が大幅に拡大し、グローバルなコンテンツマーケットの民主化が進むでしょう。特に新興国のクリエイターにとって、先進国市場へのアクセスが容易になることで、創作活動の持続可能性が向上します。
ただし、利用可能地域には制限があります。Meta AIが利用可能な地域でも、EU、UK、韓国、ブラジル、オーストラリア、トルコ、南アフリカ、ナイジェリア、米国のテキサス州・イリノイ州では利用できません。これは各国の規制やプライバシー法への配慮によるものと考えられます。
【用語解説】
AIリップシンク機能
AIが生成した音声に合わせて、動画内の人物の口の動きを自動調整する技術。翻訳された音声と口の動きが自然に同期し、実際にその言語で話しているような映像を作成する。
ユーザー生成コンテンツ(UGC)
企業ではなく一般ユーザーが制作・投稿するコンテンツの総称。SNSの投稿、レビュー、動画など、プラットフォーム上でユーザーが自発的に作成する全てのコンテンツを指す。
リール(Reels)
InstagramとFacebookで提供される短尺動画機能。最大90秒の縦型動画を投稿でき、音楽や特殊効果を追加可能。TikTokに対抗して2020年に開始されたサービス。
音声クローニング技術
AIが特定の人物の声の特徴を学習し、その人の声質やトーンを再現して異なる内容を発話させる技術。深層学習により数分の音声サンプルから高精度な複製が可能。
Meta Business Suite
Metaが提供するビジネス向け統合管理ツール。FacebookページとInstagramビジネスアカウントの投稿、分析、メッセージング機能を一元管理できるプラットフォーム。
【参考リンク】
Meta AI(外部)
MetaのAI研究開発部門公式サイト。今回のAI翻訳機能を含む最新AI技術と研究成果を公開
Facebook for Creators(外部)
Facebookクリエイター向け公式サポートサイト。コンテンツ制作ツールと収益化プログラムの詳細
Instagram公式サイト(外部)
写真・動画共有SNSの公式サイト。リール機能など各種機能の最新アップデート情報
Google I/O(外部)
Googleの年次開発者会議公式サイト。AI技術やスマートグラスなど最新技術発表の詳細
Meta Business Suite(外部)
Meta提供のビジネス統合管理ツール。音声トラック追加など翻訳機能の設定も可能
【参考記事】
Meta rolls out AI-powered translations to creators globally(外部)
1,000フォロワー以上対象の詳細仕様。最大20音声トラック機能とリップシンク技術解説
Meta Rolls Out AI Voice Translation for Reels Globally(外部)
利用不可地域の詳細説明。EU・UK・韓国等での制限理由とマーケティング活用観点
Meta’s AI translation tool can dub your Instagram videos(外部)
Instagram特化の機能解説。声質保持技術と翻訳前レビュー機能の詳細分析
Facebook and Instagram reels get AI voice translation(外部)
実際の使用方法を詳説。Professional Dashboardでの翻訳確認プロセスも解説
【編集部後記】
MetaのAI翻訳機能は、私たちのSNS体験を根本から変える可能性を秘めています。もしあなたが日本語で投稿したコンテンツが、声質やキャラクターを保ったまま自然な英語で世界に届くとしたら、どのような新しいつながりが生まれるでしょうか。
これまで言語の壁で諦めていた海外のクリエイターとのコラボレーションや、国際的なコミュニティ参加も現実的な選択肢になります。
一方で、地域による利用制限やAI生成された自分の声が意図しない文脈で使われるリスクについても考える必要があります。この技術があなたの創作活動や国際交流にどのような影響を与えるか、ぜひ一緒に考えてみませんか。