トイレでのスマートフォン使用が痔のリスクを46%増加させる|PLOS One掲載研究が警鐘

トイレでのスマートフォン使用が痔のリスクを46%増加させる|PLOS One掲載研究が警鐘

ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの消化器専門医トリシャ・サティヤ・パスリチャらの研究チームが、大腸内視鏡検査を受けた125人の参加者を対象とした調査結果をPLOS Oneに発表した。

調査の結果、参加者全体の66%がトイレでスマートフォンを使用したと回答した。また、運動習慣、年齢、食物繊維摂取量など痔のリスクと関連する可能性のある他の要因を統計的に考慮した結果、トイレで携帯電話を使用する人の痔のリスクは非使用者に比べて46%増加することが判明した。

携帯電話の使用内容は約半数がニュース閲覧、約44%がソーシャルメディア利用、約30%がメールやテキストメッセージの送受信だった。一部の回答者は一度の訪問で5分以上をトイレで過ごすと答えた。

米国では年間約400万件の医師・救急科受診が痔によるものである。しかし痔に関する米国の全国調査は1989年が最後で、新しいデータは存在しない。

From: 文献リンクUsing Your Phone on The Toilet May Dramatically Increase Your Risk of Hemorrhoids

【編集部解説】

今回の研究は、デジタル社会における新たな健康リスクを科学的に立証した重要な発見として注目すべきです。実際に研究をより詳細に検討すると、従来の医学的仮説を覆す興味深い発見も含まれています。

従来の医学では「いきみ」が痔の主要原因とされてきました。しかし、この研究では意外な結果が示されています。スマートフォン使用者と非使用者の間で、いきみの程度に差がありませんでした。つまり、問題はいきみではなく、便座に座っている時間の長さにあることが判明したのです。

研究の核心は座り方の違いにあります。オフィスチェアやソファに座る場合は骨盤底筋に支えがありますが、便座では全く支えがない状態となります。この状態で長時間座ることで、肛門周辺の血管群(痔核)に過度な圧力がかかり続け、結果として血液がうっ滞して痔が形成されるメカニズムが浮き彫りになりました。

注目すべき数字として、スマートフォン使用者の37.3%が1回のトイレで5分以上過ごしているのに対し、非使用者ではわずか7.1%でした。この大きな差は、スマートフォンの「注意を奪う力」がいかに強力かを物語っています。

研究では参加者の54.3%がニュース閲覧、44.4%がソーシャルメディア利用を報告しており、情報摂取欲求とトイレ時間延長の関連性が明確になっています。現代人にとって、トイレは単なる生理現象の場から「情報消費空間」へと変化していることがうかがえます。

年間400万件の受診と8億ドルを超える医療費を生む痔の問題に対し、この研究は予防の観点から重要な示唆を与えています。特に興味深いのは、研究参加者の多くが「スマートフォンのせいでトイレに長くいる」ことを自覚していながらも、その行動を続けていることです。

将来的な影響を考えると、この発見はデジタルウェルネス分野における新たな議論の出発点となるでしょう。既に専門家は「トイレスクロール」という新しい概念を提示し、デジタルデトックスの範囲をトイレまで拡張する必要性を指摘しています。

【用語解説】

Rome IV基準
消化器疾患の国際的な診断基準。便秘や過敏性腸症候群などの機能性消化器疾患を客観的に評価するためのアンケート形式の診断ツールである。

MET(メッツ)
運動強度を示す単位で、安静時を1とした時の何倍のエネルギーを消費するかを表す。研究では週あたりのMET時間で運動量を測定している。

【参考リンク】

ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(BIDMC)(外部)
ハーバード医学大学の教育病院で、今回の研究を実施した医療機関。ボストン・レッドソックスの公式病院としても知られる学術医療センター。

PLOS One(外部)
査読付きオープンアクセス学術雑誌。今回のスマートフォンと痔に関する研究論文が掲載されている。

【参考記事】

Smartphone use on the toilet and the risk of hemorrhoids(外部)
今回報道の基となった原著論文。125人の大腸内視鏡検査受検者を対象とした研究で、46%のリスク増加などの数値データを提供。

How Smartphones May Increase Hemorrhoid Risk(外部)
研究実施機関による詳細解説記事。スマートフォン使用者が5倍も長時間トイレに滞在する確率が高いことなど詳細データを報告。

Smartphone Use On The Toilet Linked To 46% Higher Hemorrhoid Risk(外部)
研究結果の詳細分析記事。54.3%がニュース閲覧、44.4%がソーシャルメディア利用という具体的使用パターンを解説。

Scrolling while on the toilet linked to higher risk of hemorrhoids(外部)
学術報道機関による研究発表記事。93%が週1-2回以上、55.4%が「ほとんどの時間」使用していると回答した調査結果を提供。

【編集部後記】

この研究を知って、皆さんは自分のトイレ習慣を振り返っていかがでしたでしょうか?また、家族と暮らしていると家族がトイレにまでスマートフォンを持ち込んでいるのが気になる、という方もおられるかもしれません。けれど、情報収集が日課となった現代でトイレという空間にまでスマートフォンが侵食している現実に鈍感になってしまっている自分もいます。

デジタルウェルビーイングという概念が注目される今、トイレでのスマートフォン利用について皆さんも考えてみませんか?この小さな行動変化が、私たちの健康にどのような影響をもたらすのか、皆さんの体験や工夫があれば、ぜひSNSで共有していただけると嬉しいです。

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