台湾・北欧の大規模研究が証明:夫婦間で精神的特性が類似する現象

台湾・北欧の大規模研究が証明:夫婦間で精神的特性が類似する現象

台湾、デンマーク、スウェーデンの600万組を超えるカップルを分析した国際研究チームが、パートナー間で精神的疾患を共有する確率について調査した研究結果を発表した。研究対象となった疾患は統合失調症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、うつ病、自閉症、不安症、双極性障害、強迫性障害(OCD)、物質乱用、神経性無食欲症の9つである。分析の結果、これらの疾患において配偶者間での共有が偶然に期待されるよりもはるかに高い確率で発生していることが判明した。この現象は3ヶ国の異なる文化と医療制度にも関わらず統計的に類似した結果を示し、世代を越えて持続している普遍的な現象であることが確認された。研究では同じ疾患を持つ両親を持つ子どもが、その疾患を発症するリスクも高まることが示された。研究結果は2025年8月にNature Human Behaviorに掲載された。

From: 文献リンクCouples Are More Likely to Share Psychiatric Disorders, But Why?

【編集部解説】

今回の研究が明らかにした「配偶者相関」という現象は、メンタルヘルス分野における大きなパラダイムシフトの前兆かもしれません。従来の精神科学は、精神疾患の発症を主に個人の遺伝的素因と環境要因の組み合わせで説明してきましたが、この研究はパートナー選択という新たな要因を浮き彫りにしています。

特に注目すべきは、この現象が文化的背景の異なる3ヶ国で一貫して観察された点です。台湾、デンマーク、スウェーデンという異なる社会制度を持つ国々で同様の結果が得られたことは、これが人類に共通する普遍的な現象である可能性を示唆しています。

現在の精神医学における遺伝学的研究の多くは、人間の交配パターンがランダムであることを前提としています。しかし今回の発見は、その前提に根本的な見直しを迫るものです。精神疾患を持つ人々が同じような特性を持つパートナーを選ぶ傾向があるとすれば、これまでの遺伝的リスク評価は不正確だった可能性があります。

この研究が持つ最も重要な示唆の一つは、精神疾患の世代継承に関する理解の変化です。両親が同じ精神疾患を抱えている場合、子どもがその疾患を発症するリスクが高まることが示されました。これは単純な遺伝的継承を超えて、共有された家庭環境の影響も考慮する必要があることを意味しています。

テクノロジーの進歩という観点から見ると、この発見は将来のAI診断システムや個人化医療に大きな影響を与える可能性があります。現在開発が進むメンタルヘルスのスクリーニングアプリや遺伝子検査サービスは、個人の家族歴だけでなく、パートナーの精神的特性も考慮した包括的なリスク評価を提供できるようになるかもしれません。

一方で、この研究結果が示すリスクも無視できません。精神疾患を持つカップルに対する偏見や、結婚相手選びにおける差別的な判断を助長する可能性があります。また、保険業界が家族歴だけでなくパートナーの精神的健康状態も考慮要因として使用する可能性も懸念されます。

長期的な視点では、この発見は精神疾患の予防戦略にも革新をもたらすかもしれません。カップル単位でのメンタルヘルスケアや、夫婦一緒に参加するカウンセリングプログラムの効果を科学的に裏付ける根拠となり得るからです。

【用語解説】

配偶者相関(Spousal correlation)
夫婦間において特定の特性や疾患が偶然より高い確率で共有される現象。「類は友を呼ぶ」効果の夫婦版ともいえる。

非ランダム交配(Non-random mating)
人間のパートナー選択がランダムではなく、似たような特性を持つ相手を選ぶ傾向があること。類型交配ともいわれる。

集団動態(Population dynamics)
疾患や特性が集団内でどのように分布し、世代を通じてどう継承されるかを示す概念。

台湾
東アジアの島国。人口約2300万人で、今回の研究では最大規模の500万組のカップルデータを提供した。

Nature Human Behaviour
行動科学分野における世界最高峰の学術誌。人間の行動に関する心理学、神経科学、社会科学の研究を掲載する。

【参考リンク】

ScienceAlert(外部)
科学研究の最新情報を一般向けに分かりやすく発信するオーストラリア発の科学メディア

Nature Human Behaviour(外部)
シュプリンガー・ネイチャー社が発行する査読付き学術誌で人間行動研究を掲載

【参考記事】

Spouses show consistent similarities across nine psychiatric disorders(外部)
台湾、デンマーク、スウェーデンの1480万人を対象とした大規模研究の詳細解説

Spouses Often Share Psychiatric Disorders – Press Release(外部)
ローリエート研究所による公式プレスリリースで1930年代から1990年代の世代変化を分析

Spousal correlations for nine psychiatric disorders(外部)
原著論文の要約で配偶者間の特性類似が遺伝的構造推定にバイアスを与える可能性を示唆

Patterns of Nonrandom Mating Within and Across 11 Major Psychiatric Disorders(外部)
精神科領域における非ランダム交配パターンの包括的分析で11の主要精神疾患を調査

Non-random mating patterns within and across education levels(外部)
教育水準と精神的健康状態の両方における非ランダム交配パターンを詳細に分析

【編集部後記】

今回の研究を読んで、皆さんはどう感じられましたか?
パートナーと類似した傾向を持つことが科学的に実証されたのを見て、改めて相手との関係性を振り返ってみたくなったのではないでしょうか。
メンタルヘルスは決して個人だけの問題ではなく、愛する人と一緒に向き合っていくものなのかもしれません。

もし身近な人がしんどそうにしていたら、一人で抱え込まずにお互いを支え合える関係性を築いていけたらいいですね。
皆さんの周りでも、こうした研究結果に関連するエピソードがありましたら、ぜひ教えてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です