Microsoftが2025年10月14日にWindows 10の無料サポートを終了することで、イギリスでは1,440万台のPCが旧式化する見込みである。廃電気電子機器専門家のBusinesswaste.co.ukは、これらのデバイスから回収可能な貴金属の価値を試算した。計算根拠は、イギリスのグローバルPC市場シェア3.6%、Windows 11にアップグレードできないデバイス数4億台、ノートパソコン70%とデスクトップ30%という構成比、E-Parisaraのデータによる1トンあたりの回収量である。結果、金16億ポンド、銅約1億ポンド、銀3,300万ポンドで合計約18億ポンドの価値になるという。Circular ComputingのStephen Haskew氏は、ChromeOS FlexやLinuxへの移行を代替案として挙げ、電子廃棄物の増加を懸念している。
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Windows 10 EOL could generate £1.8B of e-waste in UK alone
【編集部解説】
このニュースが投げかけているのは、OSのサポート終了という「デジタルの寿命」が、物理的な資源の大量廃棄を引き起こすという現代特有のジレンマです。
Microsoftは2021年にWindows 11のシステム要件としてTPM 2.0チップの搭載を必須としました。これにより、性能的にはまだ十分使えるPCの多くが、ハードウェアの制約でアップグレードできない状況に陥っています。ソフトウェアの進化が、ハードウェアの物理的な寿命を待たずに廃棄を促進する構造は、サステナビリティの観点から大きな矛盾を孕んでいます。
注目すべきは、廃棄されるPCに含まれる貴金属の価値です。1トンあたり金0.28kg、銀0.45kg、銅190.5kgという数字は、E-Parisaraという電子廃棄物リサイクル企業の実測データに基づいています。スマートフォンなどと比較してもPCは貴金属含有量が多く、「都市鉱山」としての価値は無視できません。
しかし現実には、適切なリサイクル体制が整っていない地域も多く存在します。大企業はITAD(IT資産処分)業者との契約で対応できても、中小企業や個人ユーザーにとっては処分方法が不明瞭です。セキュリティ面でも、データ消去が不完全なまま廃棄されるリスクがあり、環境問題と情報漏洩という二重の課題を抱えています。
記事で提示されているChromeOS FlexやLinuxへの移行は、技術的には有効な延命策です。特にChromeOS Flexは古いハードウェアでも軽快に動作するよう設計されており、教育機関や非営利団体での活用事例も増えています。ただし、既存のWindowsアプリケーションが使えなくなるため、業務用途では慎重な検討が必要でしょう。
拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)は一時的な猶予を与えますが、有償である上に恒久的な解決策ではありません。結局のところ、数年以内には同じ廃棄問題に直面することになります。
この問題が示唆しているのは、テクノロジー企業が製品のライフサイクル全体に対して責任を持つ「サーキュラーエコノミー」への転換の必要性です。ソフトウェアの進化とハードウェアの持続可能性をどう両立させるか、業界全体で問われています。
【用語解説】
TPM 2.0(Trusted Platform Module 2.0)
セキュリティ機能を提供するハードウェアチップで、暗号化キーの生成や保存を行う。Windows 11ではこのチップの搭載が必須要件となっており、古いPCの多くがこの要件を満たせないことが大量廃棄の一因となっている。
WEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)
廃電気電子機器のこと。EUを中心に、これらの適切な処理とリサイクルを義務付ける規制が整備されている。電子機器に含まれる有害物質の環境流出を防ぎ、貴金属などの資源回収を促進する目的がある。
ESU(Extended Security Updates / 拡張セキュリティ更新プログラム)
Microsoftが提供する、サポート終了後のOSに対する有償のセキュリティパッチ配信サービス。企業向けに猶予期間を提供するが、恒久的な解決策ではなく、最大3年程度の延長が一般的である。
ITAD(IT Asset Disposal)
IT資産の適切な廃棄・処分を専門とする業者やサービス。データの完全消去、環境に配慮したリサイクル、資産価値の回収などを包括的に行う。企業のコンプライアンスとセキュリティ要件を満たす処分方法として需要が高まっている。
都市鉱山
廃棄された電子機器に含まれる金、銀、銅などの貴金属やレアメタルを、天然鉱山に見立てた概念。日本は世界有数の都市鉱山保有国とされ、リサイクル技術の発展により資源循環の可能性が注目されている。
ChromeOS Flex
Googleが提供する、古いPCやMacに無償でインストールできる軽量OS。Chromebookと同様のクラウドベースの動作環境を提供し、低スペックハードウェアでも快適に動作するよう設計されている。
【参考リンク】
Microsoft – Windows 10サポート終了(外部)
Windows 10の2025年10月14日サポート終了に関する公式情報と、移行オプション、拡張セキュリティ更新プログラムの詳細を提供。
ChromeOS Flex(外部)
古いPCやMacを再活用できるGoogleの無償OS。クラウドベースで軽量、セキュリティアップデートも自動提供される。
Businesswaste.co.uk(外部)
英国の廃棄物管理およびリサイクルに関する情報提供サイト。企業向けの廃棄物処理ソリューションや環境規制の最新情報を提供。
【参考記事】
Windows 10 サポートは 2025 年 10 月 14 日に終了します(外部)
Microsoft公式によるWindows 10サポート終了の告知と、ユーザーが取るべき対応策について説明している。
10月14日に迫るWindows 10のサポート終了、Microsoftは3つの選択肢を提示(外部)
サポート終了を目前に控え、Microsoftが提示する移行オプションと、全世界で4億台のPCが影響を受ける可能性について報じている。
【編集部後記】
古いPCに愛着を感じながらも、買い替えのタイミングに悩んでいる方は少なくないのではないでしょうか。自宅や実家で眠っているWindows 10マシンを、どう扱うべきか考えてみませんか。適切にリサイクルすれば環境保護に貢献できますし、ChromeOS FlexやLinuxで再活用すれば、思わぬ用途が見つかるかもしれません。テクノロジーの進化と環境配慮の両立について、一緒に考えていけたら嬉しいです。

