Hondaは2025年10月15日、同社初のバッテリー駆動型乗用芝刈機となるProZisionシリーズ2機種を発表した。10月21日から24日まで米国ケンタッキー州ルイビルで開催されるEquip Exposition 2025で世界初公開される。2機種は自律走行するProZision Autonomousと手動運転のProZisionで、両機種とも2026年末までに米国で発売予定である。ProZision AutonomousはGNSSで位置を認識し、オペレーターが事前設定した経路を記憶して自律走行する。車載レーダーとLiDARセンサーで周囲を360度センシングし、障害物を検知すると自動的に減速または停止する。3基のMicroCut®ツインブレードを搭載し、高速、ノーマル、精密の3つの運転モードを選択できる。バッテリーは48V、19.2kWhのリチウムイオンバッテリーで、充電時間は240Vで6.5時間、120Vで16.5時間である。
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Honda to Present World Premiere of ProZision™ Autonomous, at Equip Exposition 2025
【編集部解説】
Hondaが発表したProZision Autonomousは、同社にとって単なる新製品投入以上の意味を持っています。自動車で培った自律走行技術を、まったく異なるフィールドへ展開する戦略的な一手といえるでしょう。
報道によれば価格は$32,999とされ、商業用途を前提とした本格的な業務用機器の価格帯となっています。米国の造園業界では労働力不足が深刻化しており、従業員の確保と定着が業界全体の課題となっています。
商業用ロボット芝刈機市場は今後年平均15%程度の成長が見込まれており、労働力不足を背景に需要が拡大しています。商業施設やゴルフ場などの大規模な芝生管理では、自律走行機が複数の作業員を代替できる可能性があり、人件費削減効果が期待されています。
技術的な注目点は「ティーチング&プレイバック」方式の採用です。オペレーターが一度手動で走行させて経路を教え込むと、以降はその経路を自律再現します。これは完全自律型よりも柔軟性が高く、敷地ごとの個別事情に対応できる利点があります。
19.2kWhという大容量バッテリーは、電動工具としては異例の規模です。240V充電で6.5時間で満充電となり、最大15エーカーの作業が可能とされています。Honda独自のトラクションコントロールは、傾斜地でも安定した走行を実現し、自動車開発で蓄積したノウハウが活きています。
ただし課題も存在します。自律モードでは最高速度が6mph(約9.7km/h)に制限され、手動の10mphより40%遅くなります。また傾斜角も10度までと、手動の15度より制約があります。これは安全性とのトレードオフですが、作業効率への影響は避けられません。
この製品が示すのは、自律化技術の適用領域が急速に拡大している現実です。自動車、ドローン、そして今度は芝刈機へ。センサー技術の低価格化とバッテリー性能の向上が、こうした展開を可能にしています。
Hondaが2050年カーボンニュートラルを掲げる中で、パワープロダクツ部門の電動化は重要な柱となります。ProZisionシリーズは、その具体的な形を示す製品といえるでしょう。
【用語解説】
GNSS(全球測位衛星システム)
Global Navigation Satellite Systemの略称で、衛星を利用した測位システムの総称である。米国のGPS、欧州のGalileo、ロシアのGLONASS、日本のみちびきなどが含まれる。複数の衛星からの信号を受信することで、地球上の正確な位置を特定できる。
LiDAR(ライダー)
Light Detection and Rangingの略称で、レーザー光を照射し、反射光を測定することで対象物までの距離や形状を検出するセンサー技術である。自動運転車やドローン、ロボットなどで広く採用されている。
ティーチング&プレイバック方式
ロボットや自律走行機器に動作パターンを教え込む手法である。人間が手動で一度操作して経路や動作を記憶させ(ティーチング)、以降はその記憶に基づいて自動で同じ動作を再現する(プレイバック)。産業用ロボットで広く用いられている技術である。
MicroCut®ツインブレード
Hondaが開発した芝刈り用ブレードシステムで、2枚の刃が組み合わさって芝を細かく裁断する。従来の単一ブレードと比較して、刈り取った芝をより細かく裁断できるため、芝生への栄養還元効果が高まり、仕上がりの美観も向上する。
トラクションコントロール
車輪の空転を防ぎ、路面との摩擦力を最適化する制御技術である。傾斜地や不整地でも安定した走行を可能にする。自動車分野で発展した技術が、芝刈機にも応用されている。
【参考リンク】
Honda ProZision Autonomous 製品ページ(外部)
ProZision Autonomousの詳細な製品情報、仕様、自律走行機能の解説や安全機能についての詳細が確認できる公式ページ。
Honda Global – ProZision Autonomous技術解説(外部)
自律化技術、センシング技術、バッテリーシステムなど詳細な技術情報を掲載したHondaグローバルサイトの技術解説ページ。
Equip Exposition 2025公式サイト(外部)
ProZision Autonomousが世界初公開された造園・ランドスケープ業界向け北米最大級の展示会公式サイト。
Honda Design Interview – ProZision Autonomous(外部)
作業性を高めるためのデザイン思想や、操作性と快適性を両立させた設計プロセスを紹介するデザイン開発インタビュー記事。
【参考記事】
Honda ProZision™ Autonomous ZTR Mower – 公式製品ページ(外部)
最大15エーカーの作業範囲、5つの48V電動モーター、6つのリチウムイオンバッテリー構成など詳細な仕様を確認できる公式製品ページ。
Honda announces ProZision ZTR and Autonomous mowers(外部)
ProZision Autonomousの発売時期が2026年夏であること、製造施設の所在地、傾斜角対応について詳しく報じている業界メディアの記事。
Honda’s $33K Robot Mower Needs Human Teachers First(外部)
ProZision Autonomousの価格$32,999を明記し、ティーチング&プレイバック方式の動作原理を詳しく解説している技術メディアの記事。
Landscaping Labor Shortage: What To Do About It(外部)
米国造園業界における労働力不足の実態を報告し、業界全体で深刻な人材確保の課題に直面していることを示す分析記事。
Commercial Robotic Lawn Mowers Analysis 2025(外部)
商業用ロボット芝刈機市場が2033年まで年平均15%の成長が見込まれることを報告する市場調査レポート。
【編集部後記】
自律走行する芝刈機と聞いて、みなさんはどんな未来を想像されますか?商業施設の芝生管理という遠い世界の話に思えるかもしれません。でも、この技術が示しているのは、私たちの身近な暮らしにも確実に近づいてくる自律化の波です。家庭用ロボット掃除機がそうだったように、いずれ庭仕事のあり方も変わっていくのかもしれませんね。みなさんは、どんな「面倒な作業」を自律化技術に任せてみたいと思いますか?ぜひSNSで教えてください。

