株式会社博報堂アイ・スタジオは、オウンドメディアのデータ利活用技術と生成AI技術を融合させた「関心推測AIエンジン」を開発し、これを用いたAIチャットボットソリューションの提供を開始した。本ソリューションは、Webサイト上のコンテンツ・行動データからユーザーの関心・意図を推定し、能動的かつパーソナライズされた対話を実現する。関心推測AIエンジンは、製品情報や記事などのコンテンツデータと、閲覧履歴や滞在時間、クリック箇所などの行動データをAIエンジンが統合的に解析し、個々のユーザーが持つ具体的な関心・意図を推定する。AIチャットボットは、データ基盤に接続された関心推測AIエンジンがユーザーのサイト行動から関心を深く理解し、チャットボットに最適な応答を指示する。今後は、UXデザインやブランディングの知見をAIが学習可能なナレッジとして統合し、マーケティングサイトだけでなく、ブランディングサイト、採用サイト、ECサイトなど、多様な顧客接点におけるオウンドAIエージェントとして展開していく予定である。
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オウンドメディアのデータ活用でユーザーの関心や意図を推定する 「関心推測AIエンジン」を開発〜顧客体験を向上させるAIチャットボットソリューションを提供開始〜
【編集部解説】
チャットボットは、これまで「待ち」の姿勢が当たり前でした。ユーザーが質問を入力して初めて動き出す、いわば受付カウンターのような存在です。RAG技術の登場で回答精度は飛躍的に向上しましたが、それでも本質は変わりません。過去の使いづらい体験が積み重なり、多くのユーザーはチャットボットを避けるようになっていました。
博報堂アイ・スタジオが発表した「関心推測AIエンジン」は、この構造そのものを変えようとしています。ユーザーがサイト内をどう移動し、どこで立ち止まり、何に時間を使ったか。こうした行動データとコンテンツ情報を組み合わせて、AIが「いま、この人は何に興味を持っているのか」を推測するのです。
興味深いのは、博報堂DYグループが2024年4月に設立した「Human-Centered AI Institute(HCAI)」の思想が背景にあることです。AIを効率化の道具として使うだけでなく、人の創造性を高めるために使う。この理念が、能動的に対話を始めるチャットボットという形で具現化されています。
グローバルでも、プロアクティブAIは2025年の重要トレンドとして注目されています。Gartnerは、2025年までに顧客インタラクションの95%がAIによって処理されると予測しており、単なる応答から予測的なエンゲージメントへとシフトが進んでいます。
ただし、能動的であることのリスクも考慮すべきでしょう。タイミングを誤れば、押し付けがましいと感じられる可能性があります。ユーザーの意図を正確に推測できなければ、かえって体験を損なうかもしれません。この技術の成否は、どれだけ繊細にユーザーのコンテクストを読み取れるかにかかっています。
今後、マーケティングサイトだけでなく、採用サイトやECサイトなど、多様な接点でのオウンドAIエージェントとしての展開が予定されています。ブランドの個性をAIが学習し、それぞれの企業らしい対話を実現する世界は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。
【用語解説】
RAG(検索拡張生成)
Retrieval-Augmented Generationの略。大規模言語モデル(LLM)が本来持っている知識に、外部データベースからのリアルタイム情報検索を組み合わせることで、AIの回答精度を向上させる技術である。企業独自のコンテンツ(ドキュメント、FAQ、Webサイトなど)を検索して得た情報をLLMに連携させることで、信頼性の高い回答を生成できる。
リードナーチャリング
Lead Nurturingの訳で「見込み顧客育成」を意味する。まだ購買には至っていない見込み顧客に対して、メールマーケティングやオウンドメディア、セミナーなどを通じて継続的にコミュニケーションを図り、購買意欲を高めて契約や受注へと導くプロセスである。マーケティングオートメーション(MA)ツールと組み合わせて活用されることが多い。
HCAI Initiative(Human-Centered AI Initiative)
博報堂DYグループが2024年4月に立ち上げた横断的なAI推進プロジェクト。生活者と社会に資する人間中心のAI技術の研究および実践を行う研究開発組織で、AIを効率化の道具としてだけでなく、人間の能力や可能性、創造性を拡張するための技術として開発・活用することを目指している。
コンバージョン率
Webサイトやマーケティング施策において、訪問者が目標とする行動(商品購入、資料請求、会員登録など)を完了した割合を示す指標である。CVR(Conversion Rate)とも呼ばれ、マーケティング効果を測定する重要な指標として用いられる。
【参考リンク】
株式会社博報堂アイ・スタジオ(外部)
オウンドメディアを中心にデータ起点の顧客体験設計とUIデザイン、システム開発、運用を提供するデジタル領域のスペシャリスト集団
博報堂DYホールディングス(外部)
博報堂DYグループのコーポレートサイト。人間中心のAI戦略「HCAI Initiative」の取り組みやAI活用の最新情報を公開
【参考記事】
100+ AI Chatbot Statistics and Trends in 2025(外部)
2025年のAIチャットボット統計。Gartnerの予測では2025年までに顧客インタラクションの95%をAIが処理
【編集部後記】
あなたが普段利用するWebサイトで、チャットボットが自分の関心を察して話しかけてきたら、どう感じるでしょうか。便利だと思う反面、少し驚くかもしれません。能動的なAIが当たり前になる時代は、もうすぐそこまで来ています。みなさんが日々訪れるサイトでも、この技術が活用され始めるかもしれません。「待つAI」から「気づくAI」への転換は、私たちのオンライン体験をどう変えていくのでしょう。ぜひ一緒に、この変化を見守っていきたいと思います。

