Axelspace株式会社は、小型実証衛星4号機(RAISE-4)の打ち上げ目標期間が決定したと発表した。
RAISE-4は、JAXAの革新的衛星技術実証プログラムの一環として同社が開発した膜面展開型デオービット機構「D-SAIL」を搭載したもので、2025年11月25日から12月24日の期間に、Rocket Lab社のElectronロケットによりニュージーランドのマヒア半島第1発射施設から打ち上げられる予定である。D-SAILはAxelspaceとサカセ・アドテック株式会社が共同開発した軌道離脱装置で、面積約2平方メートル、厚さ数十ミクロンの膜面を展開することで大気抵抗を高め、衛星の軌道離脱期間を数年に短縮する。
RAISE-4には8つの実証テーマが搭載され、D-SAILの実証は打ち上げから約1年後に実施される。米国連邦通信委員会は低軌道衛星の運用終了後5年以内の離脱を義務付けている。
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Launch Target Period Set for Axelspace’s D-SAIL …
【編集部解説】
地球周回軌道上に漂うスペースデブリ(宇宙ごみ)は、現代の宇宙産業発展において深刻な課題となっています。JAXAとAxelspace、サカセ・アドテック株式会社の連携による膜面展開型デオービット機構「D-SAIL」は、この問題への革新的な対応例です。D-SAILは、100kg前後の超小型衛星向けに設計され、約2平方メートルのポリイミド膜を宇宙空間で展開することで薄い大気による抵抗力を大幅に増やし、衛星の高度を徐々に下げて大気圏へ再突入させます。これにより、運用終了後の衛星が軌道上に残存する期間を従来の20~25年から数年規模に短縮できる可能性があります。
従来、運用を終えた衛星は推進剤付きのスラスタ等で能動的に軌道離脱させる必要がありましたが、この方法だと衛星の重量や設計自由度が制限され、長期的な運用コストにも影響します。D-SAILは、能動的手段を使わず、地球低軌道の微量な大気を“帆”として高度を下げる受動型の技術であり、衛星のコンパクト化やペイロード容量の増加、コスト削減に寄与します。国際的には、米国FCCが低軌道衛星の運用終了後5年以内に軌道離脱を義務付けるルールを制定し、デブリ対策が急がれる中、日本も政策強化や技術普及に取り組んでいます。
D-SAIL実証では宇宙空間における膜の展開安定性や耐久性の確認も重要であり、ロケット打上げの振動・温度変化、長期保管後の動作確認が求められます。開発陣は、膜面展開の難しさや部材劣化、突発的なトラブルなどにも備え、地上・軌道上での検証を重ねてきました。こうした工程は、持続可能な宇宙資源活用や将来の大規模衛星群運用にも役立つ知見となるでしょう。
今回のRAISE-4でのD-SAIL実証は、衛星企業だけでなく大学や新興ベンチャーがより柔軟かつサステナブルな宇宙活動を展開する土壌作りにも直結します。産業界・政策・研究機関が一体となり、宇宙デブリ削減という地球規模の課題解決に貢献できる点が、本ミッションの意義です。宇宙ごみ問題の現状と日本の技術力・政策調整を総合して考えると、D-SAILを標準搭載した衛星が広がる未来像には国際的な期待が高まっています。今後の検証結果は、世界中の衛星設計や衛星運用のスタンダードを左右する可能性を秘めています。
【用語解説】
D-SAIL
Axelspaceとサカセ・アドテック㈱共同開発による膜展開型軌道離脱装置
RAISE-4
JAXAの実証プログラムに基づく小型実証衛星4号機
デオービット
運用を終えた衛星を軌道から除去すること
FCC 5年ルール
米国の低軌道衛星に対する軌道離脱規制
Electronロケット
Rocket Lab社開発の小型衛星打上げロケット
【参考リンク】
Axelspace株式会社 公式サイト(外部)
日本の超小型衛星開発企業。衛星開発・運用および地球観測データ提供サービスを行っている。
Rocket Lab 公式サイト(外部)
ニュージーランドと米国を拠点とするElectronロケットによる小型衛星打ち上げ企業。
JAXA 革新的衛星技術実証プログラム(外部)
民間や大学の先進技術を軌道上で実証するJAXAによる支援プログラム。
サカセ・アドテック株式会社(外部)
産業用フィルム等の高機能材料を手がける日本企業。D-SAILの膜技術をAxelspaceと共同開発。
【参考動画】
【参考記事】
ESA Space Environment Report 2025(外部)
欧州宇宙機関による2025年版デブリ現状と追跡データ、将来予測をまとめた最新レポート。
Overview and Key Technology of the Membrane Drag Sail for Low Earth Orbit Satellite Deorbit(外部)
膜面展開型デオービット技術の概要と技術課題について解説する学術論文。
The FCC 5-Year Deorbit Rule’s Impact On The Space Industry(外部)
米国の新デブリ規制が衛星運用手法や業界構造に与える影響を詳しく分析した研究。
【編集部後記】
宇宙ごみ問題とデオービット技術は、日々の生活からは遠い話に感じられるかもしれません。しかし、地球の外側で起きている課題や挑戦が、未来の通信・防災・環境観測など、私たちの暮らしにもつながっています。軌道離脱技術がどのように持続可能な宇宙利用につながるか、皆さんはどのような考えをお持ちでしょうか?宇宙を身近に感じながら、一緒に未来の選択肢や技術発展について考えていただければ嬉しいです。

