Xona Pulsar衛星×Astroscaleで持続可能な宇宙運用へ|軌道上サービスの商用転換

Xona Pulsar衛星×Astroscaleで持続可能な宇宙運用へ|軌道上サービスの商用転換

Astroscaleは、衛星産業における宇宙持続可能性が必須要件となりつつある中、軌道上サービス・組立・製造(ISAM)技術で業界をリードしている。

同社は欧州の大手航空宇宙メーカーから第2世代ドッキングプレートの大規模なリピート商用受注を獲得した。また、測位・航法・時刻同期衛星Pulsarを展開するXonaからもフォローオン注文を受けている。

Astroscaleのドッキングプレートは、衛星を初日からサービス可能でレジリエントかつ将来性のあるものにし、軌道上サービス、アップグレード、寿命終了時の制御された除去を可能にする。これにより、オペレーターは進化する規制への準拠、長期的なコストの削減、軌道デブリのリスクからの保護という優位性を獲得できる。

同社は設立から10年以上にわたり、ELSA-dやADRAS-Jといった複数の軌道上実証ミッションを成功させてきた経験を持つ。

From: 文献リンクResponsible Space Operations is Becoming Standard – Astroscale is Leading the Way

【編集部解説】

宇宙ビジネスの様相が大きく変わろうとしています。Astroscaleのドッキングプレートが欧州の航空宇宙大手から100機を超える大規模受注を獲得したという事実は、単なる商談の成功以上の意味を持つでしょう。これは「宇宙の持続可能性」が、環境意識の高い企業の努力目標から、ビジネスの必須要件へと移行しつつあることを示しています。背景には軌道上のデブリ問題の深刻化があります。ESAの2025年宇宙環境レポートによれば、現在約4万個の物体が追跡されており、そのうち活動中の衛星は約1万1000個に過ぎません。1cm以上のデブリは120万個を超えると推定され、これらは衛星に壊滅的な損傷を与える能力を持ちます。

特に注目すべきは、2025年6月に欧州委員会が発表したEU宇宙法です。この規制案は、衛星運用者に対してデブリ削減計画の提出、衝突回避策、寿命終了時の軌道離脱などを義務付けようとしています。つまり、Astroscaleのような軌道上サービス技術は、近い将来に「あると便利」から「ないと運用できない」存在になる可能性が高いのです。

Astroscaleのドッキングプレートが持つ技術的優位性も見逃せません。同社のELSA-d、ADRAS-Jといったミッションを通じて、磁気捕獲やランデブー・近接運用(RPO)技術を実証してきた実績があります。特にADRAS-Jは、準備されていない既存のデブリに15メートルまで接近することに成功しており、これは商業ミッションとして前例のない成果でした。

この技術は衛星に何をもたらすのでしょうか。まず、軌道上でのアップグレードが可能になります。地上で新しい衛星を製造して打ち上げるコストと比較すれば、既存の衛星を改修する方が遥かに経済的です。さらに、故障した衛星を回収・修理したり、ミッション終了後に確実に除去したりすることで、将来のデブリ発生を防げます。

Xonaのような新興企業が最初からドッキングプレートを組み込んだ設計を選択している点も興味深い動きです。Xonaは測位・航法・時刻同期(PNT)システムPulsarを開発しており、GPS妨害やなりすまし攻撃への耐性を持つ次世代インフラを目指しています。国家安全保障にも関わるこうしたミッションで、保守性と持続可能性が設計段階から組み込まれているのは、業界の意識変化を象徴しています。

ただし課題も残されています。現在の技術は主に「協調的」なドッキング、つまり予めドッキングプレートが装着された衛星を対象としています。制御不能に回転する既存のデブリを捕獲する「非協調的」ドッキングは、軌道力学のモデリングや衝撃力に耐えるシステム設計など、極めて複雑な技術課題を抱えています。

それでも、宇宙産業が「使い捨て」から「循環型経済」へとパラダイムシフトを起こしつつあることは間違いないでしょう。AstroscaleのドッキングプレートはTRL9(技術成熟度レベル9)に達しており、15年以上の飛行寿命を持つ製品レベルのソリューションとなっています。この技術が標準装備となる日は、思ったより早く訪れるかもしれません。

【用語解説】

ISAM(軌道上サービス・組立・製造)
In-orbit Servicing, Assembly and Manufacturingの略。軌道上での点検、修理、組立や製造などの技術。

TRL(技術成熟度レベル)
Technology Readiness Level。技術開発の進捗度を示す9段階の指標。

【参考リンク】

Astroscale(アストロスケール)公式サイト(外部)
世界初のスペースデブリ除去専業企業。実証ミッションや事業の詳細が豊富に掲載されている。

Xona Space Systems公式(外部)
Pulsar測位衛星で次世代高精度衛星測位の事例や特徴が分かる公式ページ。

EU Space Act – European Commission(外部)
欧州委員会の宇宙活動規制案の内容と背景を公式情報として詳しく知ることができる。

【参考記事】

Airbus Selects Astroscale’s Second Generation Docking Plates(外部)
AirbusがAstroscaleの第2世代ドッキングプレートを100機以上の衛星に採用。TRL9技術成熟度と15年以上の飛行寿命。

Airbus Orders More Than 100 Satellite Docking Plates from Astroscale(外部)
欧州衛星事業者による大量発注事例や最新プライムコメント、OneWeb第3世代関連も掲載。

Xona Pulsar satellites to leverage Astroscale tech for resilient operations(外部)
XonaがPulsar衛星にAstroscale技術を導入。設計段階から持続可能性を追求した事例。

ESA Space Environment Report 2025(外部)
軌道上デブリの最新分布・衛星数・業界リスク評価が豊富に掲載。データの根拠として重要な資料。

【編集部後記】

みなさんは衛星や宇宙ごみ(スペースデブリ)の課題について、どのような印象をお持ちでしょうか。今回ご紹介した事例や技術の動向は、私たちの頭上―宇宙の安全や未来に直結しています。

宇宙開発は企業や国家だけの話ではなく、日常生活の通信や地球環境、さらには人類の新しい挑戦にもつながるテーマです。もし今回の内容に少しでも「自分も関わってみたい」「もっと知ってみたい」と感じたなら、ぜひご自身の視点で探究や議論を進めていただければ嬉しいです。

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