WeatherNext 2発表、Google DeepMindが8倍高速化したAI気象予測モデル公開

WeatherNext 2発表、Google DeepMindが8倍高速化したAI気象予測モデル公開

Google DeepMindとGoogle Researchは2025年11月17日、最先端の気象予測モデル「WeatherNext 2」を発表した。本モデルは従来比8倍の速度で予測を生成し、最短1時間単位の解像度を実現する。単一のTPUで1分以内に何百もの気象シナリオを予測できる一方、物理ベースのモデルではスーパーコンピュータで数時間を要する。WeatherNext 2は、前世代のWeatherNextモデルと比べ、気温・風・湿度などの変数と0〜15日のリードタイムにおいて99.9%で優れた性能を示す。新たなAIモデリング手法「Functional Generative Network(FGN)」を採用し、予測データはEarth EngineとBigQueryで利用可能となった。Google CloudのVertex AIでアーリーアクセスプログラムも開始され、検索、Gemini、Pixel Weather、Google Maps PlatformのWeather APIで既に実装されている。

From: 文献リンクWeatherNext 2: Our most advanced weather forecasting model

【編集部解説】

WeatherNext 2の真価は、単なる予測速度の向上にとどまりません。このモデルが気象予測の世界に持ち込んだのは「アンサンブル予報」という考え方の民主化です。

従来、何百ものシナリオを同時に計算してリスクを評価する手法は、欧州中期予報センター(ECMWF)のような大規模な気象機関のスーパーコンピュータでしか実現できませんでした。WeatherNext 2は、単一のTPUで1分以内にこれを実現します。この圧倒的な効率化により、企業や研究機関が独自の気象リスク分析を行える環境が整いつつあります。

特筆すべきは「Functional Generative Network(FGN)」という新手法です。このアプローチは、個別の気象要素(マージナル)だけを学習させながら、複雑な相互作用(ジョイント)も予測できる点が画期的といえます。風力発電所の発電量予測や、熱波が影響する広域エリアの特定など、実用性の高い予測が可能になりました。

GoogleはすでにこのモデルをSearch、Gemini、Google Mapsといった日常的なサービスに統合しており、BigQueryやEarth Engineを通じた研究利用も開始しています。Vertex AIでのカスタムモデル推論も提供されることで、各業界が自社のニーズに合わせた予測システムを構築できる道が開かれました。

一方で、AI気象予測モデルは物理法則に基づく従来型モデルとは異なり、過去データのパターン学習に依存します。気候変動により前例のない気象現象が増える中、学習データに含まれない極端な事象への対応力は今後の課題です。GoogleもWeather Labでの実験的サイクロン予測について「公式な気象報告ではない」と明記しており、現時点では既存の気象機関による検証との併用が前提となります。

それでも、99.9%の変数とリードタイムでWeatherNext Genを上回る性能は、AI気象予測の実用化が新たな段階に入ったことを示しています。2025年7月にECMWFが独自のAI予測システム「AIFS ENS」(51種類のアンサンブル予測)を運用開始したことからも、気象予測の世界が大きな転換期を迎えていることがわかります。

【用語解説】

TPU(Tensor Processing Unit)
Googleが独自開発したAI処理専用の集積回路(ASIC)である。ニューラルネットワークの計算に最適化されており、CPUやGPUと比較して15〜30倍の性能と30〜80倍の電力効率を提供する。WeatherNext 2では、単一のTPUで1分以内に何百もの気象シナリオを予測できる。

アンサンブル予報(Ensemble Forecasting)
単一の予測ではなく、わずかに異なる初期条件や計算方法で何十~何百もの予測を同時に実行し、可能性の幅を示す手法である。最悪のシナリオを含む多様な未来を提示することで、より堅牢な意思決定を可能にする。ECMWF(欧州中期予報センター)が1992年から運用している。

Functional Generative Network(FGN)
WeatherNext 2の核心技術である新しいAIモデリング手法。個別の気象要素(マージナル)のみで学習しながら、複雑な相互作用(ジョイント)も予測できる点が画期的である。モデル構造内にノイズを注入することで、物理的に一貫性のある予測を生成する。

CRPS(Continuous Ranked Probability Score)
確率的予測の精度を評価する指標である。予測された確率分布と実際に観測された値との差を測定し、スコアが低いほど予測精度が高いことを示す。WeatherNext 2はこのスコアを直接最小化するよう訓練されている。

マージナルとジョイント
マージナルは特定地点の気温や風速など個別の気象要素を指し、ジョイントは複数の要素が相互作用する広域的な天候システムを指す。従来のモデルはジョイント予測のために膨大な計算が必要だったが、FGNはマージナルの学習からジョイントを導出できる。

WeatherNext Gen
Google DeepMindが開発した前世代のAI気象予測モデル。WeatherNext 2は、このWeatherNext Genと比較して99.9%の変数(気温、風、湿度など)とリードタイム(0〜15日)で優れた性能を達成している。

【参考リンク】

Google Earth Engine(外部)
衛星画像と地理空間データを組み合わせた地球規模の分析プラットフォーム。WeatherNext 2の予測データが利用可能。

Google BigQuery(外部)
Googleが提供するフルマネージド型データウェアハウス。WeatherNext 2の気象予測データが公開されている。

Vertex AI Platform(外部)
Google Cloudの統合型AI開発プラットフォーム。WeatherNext 2のアーリーアクセスプログラムを提供。

ECMWF(欧州中期予報センター)(外部)
ヨーロッパ35カ国が参加する国際的な気象予報機関。2025年7月にAIFS ENSを運用開始。

arXiv論文:Skillful joint probabilistic weather forecasting from marginals(外部)
WeatherNext 2の技術基盤となるFGNの詳細を解説した学術論文。2025年6月に公開。

【参考記事】

ECMWF’s ensemble AI forecasts become operational(外部)
ECMWFが2025年7月1日にAIFS ENSを運用開始。51種類の予測を物理ベースモデルの10倍の速度で生成。

Skillful joint probabilistic weather forecasting from marginals(外部)
FGN手法の技術詳細を解説した学術論文。マージナル学習からジョイント予測を実現する手法を記述。

Tensor Processing Units (TPUs) – Google Cloud(外部)
GoogleのTPU公式ページ。10億人以上のユーザーにサービスを提供するAIアクセラレータの概要を説明。

【編集部後記】

天気予報がここまで進化すると、私たちの日常も少しずつ変わっていくのかもしれません。朝のコーヒーを淹れながらスマホで確認する1時間後の降水確率が、これまで以上に信頼できるものになったら。風力発電の出力予測が正確になれば、再生可能エネルギーへの移行もスムーズになるはず。みなさんの暮らしや仕事の中で、もっと精密な気象予測があれば助かる場面はありますか?スマートホームとの連携や、通勤ルートの最適化など、想像してみるだけでもワクワクしてきます。気象データがもっと身近になる未来、一緒に考えてみませんか。

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