Qualcomm Technologies, Inc.は、CESにて次世代ロボティクス包括スタックアーキテクチャを発表した。同時に産業用自律移動ロボットおよびフルサイズヒューマノイド向けロボティクスプロセッサ、Qualcomm Dragonwing IQ10シリーズを披露した。このアーキテクチャはハードウェア、ソフトウェア、複合AIを統合する。
Qualcomm TechnologiesはFigure、Advantech、APLUX、AutoCore、Booster、Kuka Robotics、Robotec.ai、VinMotionと協力してエコシステムを構築している。CESのQualcommブース#5001では、Dragonwing IQ9シリーズを搭載したVinMotionのMotion 2ヒューマノイドとBoosterのK1 Geekが展示される。Figureの創業者兼CEOであるブレット・アドコック氏は、Qualcomm Technologiesのプラットフォームがビジョン実現の構成要素になると述べた。
【編集部解説】
スマートフォンのSnapdragonプロセッサで知られるQualcommが、ロボティクス市場への本格参入を明確にしました。今回発表されたDragonwing IQ10シリーズは、同社がこれまで培ってきたモバイル向けの省電力・高性能技術を、物理世界で動作するロボットに応用した製品です。
注目すべきは「Physical AI」という概念を前面に押し出している点です。これはデジタル空間で動作する従来のAIと異なり、現実世界の物理的制約の中で動作し、センサーで環境を認識し、アクチュエーターで実際に動作するAIを指します。Qualcommはスマートフォンで培ったエッジAI技術、つまりクラウドに依存せずデバイス上で即座に判断する技術を、ロボットに持ち込もうとしています。
同社がFigureやKuka Roboticsといった著名なロボティクス企業との協業を発表した点も重要です。特にFigureは、OpenAIとも提携している注目のヒューマノイドスタートアップです。Qualcommのプラットフォームが業界標準になる可能性を示唆しています。
技術的には、VLA(Vision-Language-Action)やVLM(Vision-Language Model)といった最新のAIモデルに対応し、ロボットが視覚情報と言語を理解して行動する能力を提供します。また「AIデータフライホイール」という概念を導入し、ロボットが実世界で収集したデータを継続的に学習に活用する仕組みを構築しています。
産業用途では小売、物流、製造といった分野での自動化が加速すると予想されます。一方で家庭用ロボットへの展開も視野に入れており、市場の裾野は広がる可能性があります。
課題としては、安全性の担保があります。プレスリリースでは「安全グレード」という言葉が繰り返し使われていますが、物理世界で人間と共存するロボットには、ソフトウェアだけでなくハードウェアレベルでの安全設計が不可欠です。また、AIの判断ミスが物理的な事故につながるリスクも考慮する必要があります。
Qualcommの参入は、ロボティクス市場における半導体競争の激化を意味します。NVIDIAもJetsonシリーズでロボット市場に注力しており、今後は性能、消費電力、コストの三つの軸で競争が展開されるでしょう。
【用語解説】
Physical AI(フィジカルAI)
デジタル空間で動作する従来のAIとは異なり、現実世界の物理的制約の中で動作するAIを指す。センサーで環境を認識し、アクチュエーターで実際に動作することで、物理世界と相互作用する。ロボティクスにおける重要な概念。
VLA(Vision-Language-Action)
視覚情報、言語理解、行動を統合したAIモデル。ロボットがカメラで見た情報と言語指示を理解して、適切な行動を起こす能力を提供する。
VLM(Vision-Language Model)
視覚情報と言語を統合して理解するAIモデル。画像を見て言語で説明したり、言語指示に基づいて画像を理解したりする能力を持つ。
AMR(Autonomous Mobile Robot)
自律移動ロボット。センサーやAIを使って自律的に移動し、障害物を避けながら目的地まで移動できるロボット。主に物流や製造現場で活用される。
エッジAI
クラウドサーバーに依存せず、デバイス上で直接AI処理を行う技術。通信遅延がなく、プライバシー保護やリアルタイム処理に優れる。
AIデータフライホイール
ロボットが実世界で収集したデータを継続的に学習に活用し、性能を向上させ続ける仕組み。データ収集、学習、展開のサイクルを繰り返すことで、AIの能力が加速度的に向上する。
【参考リンク】
Qualcomm Robotics(外部)
Qualcommのロボティクス事業公式ページ。Dragonwingシリーズの製品情報が掲載されている。
Figure AI(外部)
汎用ヒューマノイドロボットを開発するスタートアップ。OpenAIとの提携でも知られる。
KUKA Robotics(外部)
ドイツの産業用ロボットメーカー。次世代ロボティクスでQualcommと協議中。
CES(Consumer Electronics Show)(外部)
世界最大級の家電・技術見本市。毎年1月にラスベガスで開催される。
【参考記事】
Figure Announces Partnership with OpenAI(外部)
Figureが2024年にOpenAIとの提携を発表。AIモデル開発で協力している。
NVIDIA Jetson Platform for Robotics(外部)
NVIDIAのロボティクス向けエッジAIプラットフォーム。Qualcommの競合製品。
【編集部後記】
スマートフォンの頭脳を作ってきた企業が、今度はロボットの頭脳を作ろうとしています。Qualcommの参入は、ロボティクス市場が「試作の時代」から「実用の時代」へ移行する転換点なのかもしれません。
みなさんは、10年後の日常にロボットがいる風景を想像できますか?工場や倉庫だけでなく、店舗や家庭で働くロボットが当たり前になる未来は、もう遠くないのかもしれません。一方で、安全性や雇用への影響といった課題も気になるところです。
Physical AIという言葉が示す「物理世界で動くAI」が、私たちの生活をどう変えていくのか。innovaTopia編集部も、みなさんと一緒に見守っていきたいと思います。


