伊藤忠・パスコ・YellowScan、固定翼eVTOLドローン「Wingcopter 198」で航空測量を革新——110km飛行で災害対応を加速

伊藤忠・パスコ・YellowScan、固定翼eVTOLドローン「Wingcopter 198」で航空測量を革新——110km飛行で災害対応を加速

伊藤忠商事は2026年1月7日、パスコおよびイエロースキャン・ジャパンと、固定翼ドローンの航空測量における実用化に向けた協力に関する覚書を締結した。使用する機体は、伊藤忠商事が資本業務提携を結ぶドイツのWingcopter GmbH製のWingcopter 198(W198)で、垂直離着陸が可能な固定翼eVTOLドローンである。

W198にイエロースキャン・ジャパンが製造・販売するVoyager UAVレーザースキャナーを搭載し、パスコの測量オペレーションの専門知識と組み合わせることで、これまでヘリコプターや有人航空機でのみ可能だった長距離・広域測量を実現する。日本の国土の約70%は山地または丘陵地で、従来は測量が困難な場所が多く存在していた。W198の最大飛行距離は110km、巡航速度は90km/h、最大ペイロードは4.5kgである。

From: 文献リンクITOCHU Announces New Initiative Toward the Practical Use of Fixed-Wing Drones for Aerial Surveying

【編集部解説】

今回の発表は、日本の測量業界に大きな転換点をもたらす可能性を秘めた協業です。伊藤忠商事が2022年3月から資本業務提携を結んでいるドイツのWingcopter製の固定翼eVTOLドローン「W198」に、フランスYellowScan製の世界最高水準レーザースキャナー「Voyager」を搭載し、航空測量国内最大手のパスコの運用ノウハウと組み合わせることで、測量のあり方そのものを変革しようとしています。

なぜこの組み合わせが革新的なのか。従来、日本の測量現場では主にマルチコプター型ドローンが使われてきました。マルチコプターは垂直離着陸ができ、狭い場所でも運用できる利点がありますが、飛行時間は20〜30分程度、飛行距離も数キロメートルに限られます。一方、W198のような固定翼型は最大110kmの飛行距離と90km/hの巡航速度を実現します。これは、これまでヘリコプターや有人航空機でなければ不可能だった長距離・広域測量を、ドローンで実現できることを意味します。

特筆すべきは、W198がeVTOL(電動垂直離着陸機)である点です。通常の固定翼ドローンは長距離飛行に優れる一方で、離着陸に滑走路が必要という致命的な弱点がありました。しかしW198はマルチコプターのように垂直離着陸が可能で、狭い場所からでも飛び立てます。つまり、マルチコプターの機動性と固定翼機の航続距離という、相反する特性を両立させた機体なのです。

この技術が日本で特に重要な理由は、日本の地形的特性にあります。国土の約70%が山地・丘陵地という急峻な地形で、短く急流な河川が多い日本では、人間や従来の測量機器ではアクセスが困難な場所が数多く存在します。災害時のハザードマップ作成、地盤変動の監視、被害状況の把握、復旧計画の策定など、測量は防災のあらゆる段階で不可欠な役割を果たします。

YellowScan Voyagerの性能も注目に値します。オーストリアRIEGL製のVUX-120レーザースキャナーを搭載し、毎秒200万点という高密度な点群データを取得できます。100°という広い視野角と最大440mの測定距離により、複雑な地形や垂直な構造物も正確に捉えられます。これまで航空機やヘリコプターでしか実現できなかった高精度測量を、ドローンで可能にする技術です。

パスコの役割も見逃せません。同社は1953年創業の航空測量国内最大手で、航空写真測量で培った60年以上のノウハウを持ちます。ドローンは飛ばせばデータが取れるというものではなく、飛行計画の立案、気象条件の判断、データの品質管理など、専門的な知識と経験が必要です。パスコはすでに国土交通省の「革新的河川管理プロジェクト」でグリーンレーザースキャナーの実用化に貢献するなど、ドローン測量の知見を蓄積しています。

この協業がもたらす実務的なインパクトは計り知れません。従来、広域測量には有人ヘリコプターが必要で、1時間あたり数十万円から百万円以上のコストがかかっていました。天候条件も厳しく、パイロットの安全確保も課題でした。W198を使えば、運用コストは大幅に削減され、より頻繁な測量が可能になります。測量業界が抱える人手不足と高齢化という構造的課題に対しても、自動化・省人化という解決策を提示します。

ただし、課題もあります。W198は2024年3月に第一種型式認証の申請が受理されましたが、まだ認証取得には至っていません。レベル4飛行(有人地帯における目視外飛行)を本格的に実施するには、この認証取得が不可欠です。また、固定翼eVTOLという新しい機体カテゴリーに対する運用ノウハウの蓄積、パイロットの育成、気象条件ごとの安全基準の確立など、実用化に向けて解決すべき課題は残されています。

長期的な視点で見れば、この取り組みは測量という一分野にとどまらない意義を持ちます。W198はすでに医療機器や血液製剤の輸送で実証実験を重ねており、2024年6月には北海道の内浦湾を48kmにわたって横断し、陸路2時間以上の距離を最短28分で輸送することに成功しています。長距離・高速・大容量という特性は、物流、医療、災害対応など、多様な社会課題の解決に応用できる可能性を秘めています。

日本の国土は災害大国でもあります。地震、津波、台風、豪雨、火山噴火——自然災害のリスクは常に存在し、その頻度は気候変動の影響で増加傾向にあります。災害発生時、迅速かつ正確な被害状況の把握は、救命活動や復旧計画の策定に直結します。eVTOLドローンによる広域測量システムが確立されれば、災害対応の初動を劇的に加速できるでしょう。

innovaTopiaが注目するのは、この協業が示す「技術の組み合わせによるイノベーション」という姿勢です。商社の調達力と販売網、ドイツの先進的なドローン技術、フランスの高精度センサー、日本の測量ノウハウ——それぞれが世界トップクラスの強みを持つ企業が、国境を越えて協力することで、単独では実現できなかった価値を創造しています。これは、日本企業が得意とする「すり合わせ」の力を、グローバルな文脈で発揮した好例と言えるでしょう。

【用語解説】

eVTOL(イーブイトール)
electric Vertical Take-Off and Landingの略。電動垂直離着陸機のこと。電動モーターで駆動し、ヘリコプターのように垂直に離着陸できる一方、飛行機のように水平飛行もできる航空機。従来の固定翼機が必要とした滑走路が不要で、マルチコプターの機動性と固定翼機の航続距離を両立させた次世代の航空技術として注目されている。

マルチコプター
3つ以上の回転翼(ローター)を放射状に配置したドローンの総称。一般的には4つのローターを持つクアッドコプターが主流。各ローターの回転速度を変化させることで姿勢制御を行い、垂直離着陸やホバリング(空中停止)が可能。操作が比較的容易で狭い場所でも運用できる反面、飛行時間が20〜30分程度と短く、飛行距離も数キロメートルに限られる。

点群データ
レーザースキャナーなどで取得した、3次元空間上の無数の点の集合体。各点にはX、Y、Z座標の情報が含まれ、これらを組み合わせることで地形や建造物の立体的な形状を正確に再現できる。測量、建設、インフラ点検など様々な分野で活用されており、従来の2次元図面では表現できなかった詳細な地形情報を得られる。

第一種型式認証
改正航空法に基づき、レベル4飛行(有人地帯における目視外飛行)を行うドローンに対して国土交通省が行う認証制度。機体の設計及び製造過程が安全性及び均一性に関する基準を満たしていることを証明するもの。この認証を取得することで、より高度な自律飛行が可能になり、ドローンの産業活用が大きく拡大する。

レベル4飛行
2022年12月の改正航空法で解禁された、有人地帯(第三者上空)における目視外飛行のこと。ドローンの飛行形態は危険度に応じてレベル1〜4に分類され、レベル4は最も高度な飛行形態。市街地上空での配送や広域測量など、ドローンの本格的な社会実装に不可欠な飛行形態として位置づけられている。

ハザードマップ
自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図。洪水、土砂災害、津波、火山噴火など災害の種類ごとに作成される。正確な地形データに基づいて作成されるため、測量は極めて重要な役割を果たす。

レーザースキャナー
レーザー光を照射し、対象物からの反射光を受信することで距離を測定する装置。1秒間に数十万〜数百万回のレーザーパルスを発射し、高密度な点群データを取得できる。航空機やドローンに搭載することで、広範囲の地形や構造物を短時間で3次元計測できる。近年、測量・建設・インフラ点検など様々な産業分野で活用が拡大している。

【参考リンク】

伊藤忠商事株式会社(外部)
日本を代表する総合商社。2022年からドイツWingcopter社と資本業務提携を結び、eVTOLドローンの日本市場での販売代理店として活動。

株式会社パスコ(外部)
1953年創業の航空測量国内最大手企業。ドローン搭載型グリーンレーザースキャナーの開発など先進的な測量技術の実用化に取り組む。

YellowScan(イエロースキャン)(外部)
フランスに本社を置くLiDARシステムの専門メーカー。ドローンやヘリコプターに搭載可能な高性能レーザースキャナーを製造・販売。

Wingcopter GmbH(外部)
2017年にドイツで設立されたeVTOLドローンの開発・製造企業。固定翼とマルチコプターの特性を融合させた独自機体を開発。

YellowScan Voyager製品ページ(外部)
YellowScan社の最高性能LiDARシステム。毎秒200万点の点群データを取得可能で最大440mの測定距離を持つ。

【参考記事】

固定翼式ドローンを活用した航空測量の実用化に向けた新たな取組について|伊藤忠商事株式会社(外部)
今回の協業に関する伊藤忠商事の公式プレスリリース(日本語版)。W198の仕様や日本の地形的特性について記載。

最新eVTOL型ドローンを用いた医療機器輸送に関する実証実験を実施|伊藤忠商事株式会社(外部)
2024年6月実施のW198による北海道内浦湾横断実証実験。片道48km、最短28分で輸送した実績データを掲載。

日本初、固定翼式のドローンの第一種型式認証の申請が国土交通省航空局に受理|伊藤忠商事株式会社(外部)
2024年3月に固定翼式ドローンとして日本初の第一種型式認証申請が受理された発表。レベル4飛行に向けた進捗。

独Wingcopterとの資本業務提携・販売代理店契約の締結について|伊藤忠商事株式会社(外部)
2022年3月の伊藤忠商事とWingcopter社の資本業務提携に関する発表。提携の背景と法規制環境について記載。

伊藤忠商事ら、片道48km最短28分で医療機器を”緊急輸送” – ドローンジャーナル(外部)
内浦湾横断実証実験の詳細レポート。総飛行距離約650km、総飛行時間約7時間など実際の飛行データを掲載。

アフリカでの医薬品輸送から、ECの商品配送まで 独ドローンメーカー Wingcopter – TechBlitz(外部)
Wingcopter社の事業概要とビジョン。従業員数約130名、将来的に50kg、200kgの積載量を持つ機体開発計画を掲載。

航空写真測量の技術をドローンによる測量・計測に | 株式会社パスコ(外部)
パスコのドローン測量技術の紹介。航空測量で培った60年以上のノウハウと具体的な活用分野について記載。

【編集部後記】

今回ご紹介した固定翼eVTOLドローンによる測量システムは、災害大国である日本にとって、まさに「待ち望まれていた技術」かもしれません。もし次に大きな災害が起きたとき、このドローンが被災地の上空を飛び、数時間で広域の被害状況を正確に把握できたら——救助活動や復旧計画がどれほど変わるでしょうか。みなさんは、この技術がどのような分野で最も力を発揮すると思われますか? 測量という一見地味に見える分野が、実は私たちの安全と生活を支える重要なインフラであることを、今回の記事を通じて少しでも感じていただけたら嬉しいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です