カネカが女性医療事業参入、国立成育医療研究センターとアプリ「MyPrecca®」開発 滋賀県・姫路市と協定

カネカが女性医療事業参入、国立成育医療研究センターとアプリ「MyPrecca®」開発 滋賀県・姫路市と協定

株式会社カネカは2026年1月9日、妊娠と出産をサポートする女性医療事業に参入すると発表した。同社は2025年12月に滋賀県および姫路市とプレコンセプションケア推進に関する連携協定を締結した。国立成育医療研究センターとの共同研究に基づき開発したプレコンセプションケアアプリ「MyPrecca®(マイプレッカ)」の実証評価を開始し、18~39歳の女性を対象に有用性を評価する。

MyPrecca®は食事・運動・睡眠など日々の記録に基づき、健康増進のためのアドバイスやレポートを提供する。2026年度から全国の自治体および企業に展開する予定である。また、不妊治療クリニックでの腟内フローラ検査サービスの試験運用も進めている。

From: 文献リンク妊娠と出産をサポートする女性医療事業に参入 -プレコンセプションケア推進に関する連携協定を滋賀県および姫路市と締結-

【編集部解説】

化学メーカーとして知られるカネカが女性医療事業に参入するという発表は、一見すると意外な展開に映るかもしれません。しかし、同社が長年培ってきた医療機器事業の知見を活かし、少子化という社会課題に真正面から取り組む姿勢は注目に値します。

今回の発表で鍵となるのは「プレコンセプションケア」という概念です。これは妊娠前からの健康管理を指す言葉で、2025年5月にこども家庭庁が「プレコンセプションケア推進5か年計画」を発表したことで、国策としても本格的に動き出した分野となっています。同計画では、今後5年間で「プレコンサポーター」を5万人以上養成し、30代以下の認知度を80%にすることを目標に掲げています。

カネカが国立成育医療研究センターと共同開発したアプリ「MyPrecca®」は、この政策の流れと連動する形で登場しました。アプリは食事・運動・睡眠などの日々のデータから健康状態を可視化し、定期的なアドバイスを提供します。重要なのは、このアプリが単なる健康管理ツールではなく、妊娠・出産を含めた将来設計を考える「きっかけ」を提供することを目指している点です。

並行して進められている腟内フローラ検査サービスも見逃せません。腟内には乳酸菌などの善玉菌によるフローラ(細菌叢)が存在し、その状態が妊娠率に大きく影響することが近年の研究で明らかになっています。

カネカは血管内治療用カテーテルや血液浄化器などの医療機器を製造してきた実績があり、2024年11月には北海道に約100億円を投じてカテーテル新プラントの建設を決定するなど、医療機器事業に積極的に投資しています。この医療機器製造の技術基盤が、検査サービスの展開を支えています。

滋賀県と姫路市との連携協定締結も戦略的です。自治体と組むことで、18〜39歳の女性を対象とした大規模な実証評価が可能になります。2026年度からの全国展開を見据え、実際の使用データを収集しながらサービスを改善していく狙いがあると考えられます。

ただし、課題も存在します。プレコンセプションケアという概念自体の認知度がまだ低く、「妊娠を前提とした価値観の押し付け」と受け取られる懸念もあります。実際、一部では個人の選択の自由やプライバシーの観点から慎重な議論も行われています。また、腟内フローラ検査については、科学的エビデンスの蓄積が進んでいるものの、すべてのケースで必要な検査とは限りません。

それでも、少子化という構造的な課題に対して、テクノロジーを活用した「予防的アプローチ」を提供しようとする試みは評価できます。妊娠を希望する人が、適切な時期に適切な情報を得て、自分の身体の状態を知った上で選択できる環境を整えることは、個人のQOL向上にもつながります。

カネカの今回の参入は、化学メーカーが持つ技術を異分野に応用し、社会課題の解決に挑む事例として興味深いものです。2026年度からの本格展開で、どれだけの利用者を獲得し、実際に少子化問題の解決に貢献できるのか。その成否は、テクノロジーが社会課題にどこまで切り込めるかを示す試金石となるでしょう。

【用語解説】

プレコンセプションケア

性別を問わず、適切な時期に性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザインや将来の健康を考えて健康管理を行うこと。米国CDCやWHOが推奨しており、日本では2015年に国立成育医療研究センター内に日本初の専門外来が設立されました。妊娠希望の有無や性別に関係なく、すべての若者に重要とされています。

プレコンサポーター

自治体・企業・教育機関等において、性や健康に関する正しい知識の普及を図り、健康管理を行うよう促す人材。こども家庭庁は今後5年間で5万人以上の養成を目指しています。保健師、養護教諭、企業の人事担当者、管理栄養士などが想定されています。

腟内フローラ(子宮内フローラ)

腟内や子宮内に存在する細菌叢のこと。善玉菌であるラクトバチルス(乳酸菌)が優位な状態が好ましく、この割合が妊娠率や妊娠継続率に影響することが研究で明らかになっています。ラクトバチルスは乳酸を産生し、生殖器内を酸性に保つことで悪玉菌の増殖を抑える働きをします。

ラクトバチルス

乳酸菌の一種で、腟内や子宮内に存在する善玉菌。糖を分解して乳酸を産生し、酸性環境を作ることで病原菌の侵入を防ぐバリア機能を持ちます。ラクトバチルスの割合が90%以上の女性は、90%未満の女性と比べて妊娠率が約2倍、生児獲得率が約10倍になるという研究結果が報告されています。

【参考リンク】

国立成育医療研究センター プレコンセプションケアセンター(外部)
日本初のプレコンセプションケア専門外来。プレコン・チェックシートなどを提供しています。

こども家庭庁 プレコンセプションケアの提供のあり方に関する検討会(外部)
プレコンセプションケア推進5か年計画の詳細や関連資料を掲載しています。

カネカ Health Care Solutions Unit(外部)
カネカの医療機器事業の概要。血管内治療用カテーテルなどの製品情報を掲載。

Varinos 子宮内フローラ検査(外部)
子宮内フローラ検査を世界で初めて実用化した企業による検査サービスの説明。

【参考記事】

性や妊娠の知識普及へ5万人養成 政府、初の5カ年計画(外部)
日本経済新聞によるプレコンセプションケア推進5か年計画の報道記事。

【こども家庭庁】「プレコンセプションケア推進5か年計画」を発表(外部)
日本栄養士会による5か年計画の解説。プレコンサポーターの役割も説明しています。

北海道に医療用カテーテル新プラントを新設(外部)
カネカの医療機器事業拡大の取り組み。約100億円を投資する新プラント建設を発表。

【編集部後記】

みなさんは「プレコンセプションケア」という言葉を聞いたことがありますか。妊娠の有無に関わらず、自分の身体と健康について考えるきっかけとして、こうしたアプリや検査サービスが登場していることは興味深いですね。カネカのような化学メーカーが医療分野に参入し、国立成育医療研究センターと組んで開発したという点も注目です。今後、テクノロジーが私たちの健康管理やライフデザインにどう関わっていくのか。みなさんはどう感じますか。

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