中国科学院が発見:都市大気中のマイクロプラスチック、従来測定の最大100万倍に

中国科学院が発見:都市大気中のマイクロプラスチック、従来測定の最大100万倍に

中国科学院地球環境研究所のTafeng Huらの研究チームは2026年1月7日、Science Advances誌において、中国の広州と西安における都市大気中のマイクロプラスチックとナノプラスチックの濃度測定結果を発表した。

200ナノメートルまで検出可能なコンピューター制御走査電子顕微鏡を用いた半自動分析手法により、広州では1立方メートルあたり1.8×10⁵個のマイクロプラスチックと5.0×10⁴個のナノプラスチックを、西安では1.4×10⁵個のマイクロプラスチックと3.0×10⁴個のナノプラスチックを検出した。

これらの濃度は従来の視覚的識別手法による測定値の10²から10⁶倍に達する。道路粉塵の再飛散が主要な排出源であり、降雨による湿性沈着が都市大気からの主要な除去経路であることが明らかになった。測定は2024年1月から3月にかけて実施された。

From: 文献リンクAbundance of microplastics and nanoplastics in urban atmosphere

【編集部解説】

都市の空気が想像以上にプラスチックで満たされていることが明らかになりました。今回の研究で従来の測定値より100倍から100万倍も高い濃度が検出された理由は、測定技術の革新にあります。

従来の分析では、研究者が顕微鏡で目視確認する手法が主流でした。この方法では主に繊維状のプラスチックを識別していたため、球状や不定形の粒子を見逃していたのです。今回開発された半自動システムは、炭素を含む元素組成から粒子を識別するため、形状に関わらずプラスチックを検出できます。

注目すべきは、大気中のプラスチック粒子が単独で浮遊しているのではなく、すすや鉱物粉塵と結合している点です。論文によれば最大65.7%の粒子が他の物質と凝集していました。この「ヘテロ凝集」により、プラスチック粒子の密度や化学的性質が変化し、大気中での滞留時間や人体への影響が変わる可能性があります。

健康面では、ナノプラスチックが特に懸念されます。粒子が小さいほど肺の奥深くまで到達し、血流に入る可能性が高まるためです。さらに、プラスチック粒子は重金属や有害化学物質を吸着して運ぶ「運び屋」としても機能します。

気候への影響も見過ごせません。プラスチック粒子は雲の凝結核として作用し、雲の形成や降雨パターンを変える可能性が指摘されています。その放射強制力は粒子のサイズや高度によって温暖化にも寒冷化にも働くとされ、気候モデルへの組み込みが急務となっています。

今回の研究には限界もあります。測定は単一サンプルに基づいており、統計的な変動幅は不明です。また、200nm未満の超微細粒子は検出できていません。興味深いことに、260nm以下の粒子がまったく検出されなかった点から、研究チームは極小のプラスチック片が分解されてガスや可溶性物質に変化している可能性を示唆しています。

道路粉塵が主要な発生源であることは、対策の方向性を示しています。タイヤの摩耗や路面の劣化から生じるプラスチック粒子を減らすには、材料の改良や都市設計の見直しが必要でしょう。

この発見は大気汚染の規制にも影響を与えます。現在の大気質基準はPM2.5などの粒子状物質を対象としていますが、プラスチック粒子を特定した規制は存在しません。今後、成分別の規制や測定義務化が議論される可能性があります。

【用語解説】

マイクロプラスチック(MPs)
1マイクロメートル(μm)から5ミリメートルまでのサイズのプラスチック粒子。主に大型プラスチック製品の破砕や劣化によって生成される。海洋汚染の文脈で注目されてきたが、近年は大気中にも広く存在することが明らかになっている。

ナノプラスチック(NPs)
1マイクロメートル未満のプラスチック粒子。マイクロプラスチックよりさらに小さく、肺の奥深くや血管内に侵入する可能性が高い。検出が技術的に困難であり、環境中の実態把握が遅れている。

コンピューター制御走査電子顕微鏡(CCSEM)
自動化された電子顕微鏡システム。数千個の粒子を自動的に配置・分析できるため、人間の目視による識別バイアスを排除できる。エネルギー分散型X線分光法(EDX)と組み合わせることで元素組成の分析が可能。

ヘテロ凝集
異なる種類の粒子同士が結合する現象。プラスチック粒子がすすや鉱物粉塵と結合することで、粒子の密度、形状、化学的性質が変化し、大気中での挙動や人体への影響が変わる。

湿性沈着
降雨や降雪によって大気中の粒子が地表に除去されるプロセス。今回の研究では、都市大気からプラスチック粒子を除去する主要なメカニズムであることが示された。

雲の凝結核
水蒸気が凝結して雲粒を形成する際の核となる微粒子。プラスチック粒子がこの役割を果たすことで、雲の形成プロセスや降水パターンに影響を与える可能性がある。

放射強制力
地球のエネルギー収支を変化させる要因の強さを示す指標。プラスチック粒子は太陽光を反射または吸収することで、地球温暖化または寒冷化の両方向に作用しうる。

PM2.5
大気中に浮遊する粒子状物質のうち、粒径2.5マイクロメートル以下のもの。呼吸器系への健康影響が懸念され、多くの国で大気質の指標として用いられている。

【参考リンク】

Science Advances(外部)
米国科学振興協会が発行するオープンアクセスの査読付き学術誌。今回の研究を掲載。

中国科学院地球環境研究所(IEECAS)(外部)
中国・西安に拠点を置く地球環境科学の研究機関。今回の研究を主導した。

【参考記事】

Urban atmosphere acts as primary reservoir of microplastics, researchers find(外部)
中国科学院の研究を解説。都市大気中の濃度が従来測定値より最大6桁高いと報告。

Researchers sound alarm over ominous ‘clouds’ looming over cities(外部)
1立方メートルあたり最大18万個のマイクロプラスチック粒子が検出されたことを報告。

China’s Urban Air Is a Hidden Plastic Reservoir: Inside the Microplastic Clouds Over Megacities(外部)
複数の環境区画を横断的に調査した研究手法を詳述。200nm検出技術を強調。

Urban Air: A Hidden Reservoir of Microplastics Threatening Climate and Health(外部)
プラスチック粒子が雲凝結核や氷晶核として作用し、気候に影響を与える可能性を指摘。

 

 

【編集部後記】

私たちが毎日吸い込んでいる空気に、想像以上のプラスチック粒子が含まれているかもしれない——今回の研究はそんな可能性を示しています。測定されたのは中国の都市ですが、日本の都市部でも似た状況があるかもしれません。タイヤの摩耗、衣類の繊維、包装材の劣化。私たちの便利な暮らしが、知らず知らずのうちに大気中のプラスチックを増やしているとしたら、どう向き合えばよいのでしょうか。ただ、実態が見えてきたことで、対策への道も開けてきたとも言えます。みなさんは、この「見えない汚染」についてどう考えますか。

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