中国・杭州市で、海上回収可能な再使用ロケットの製造工場の建設が1月7日に始まった。北京を拠点とする宇宙打ち上げ企業Space Epochが主導するこのプロジェクトは総額52億元(7億4000万ドル)で、完成後は年間最大25機の中型から大型の液体燃料ロケットを製造する。
創業者兼会長のWei Yi氏は杭州日報の取材に対し、同社のステンレス鋼と液体酸素・メタンを用いた技術により、打ち上げコストを従来の1キログラムあたり8万〜10万元から2万元に削減できると説明した。Space Epochの試験ロケット「遠行者1号」は5月に初の海上回収飛行を完了しており、2025年後半以降、LandSpaceの朱雀3号、国が支援する長征12A、Space Pioneer、Galactic Energyなど複数の中国企業が垂直離着陸や近軌道回収の実験を実施している。
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China breaks ground on its first sea-recovery reusable rockets plant – CGTN
【編集部解説】
中国が再使用ロケット工場の建設に踏み切った背景には、同国の衛星コンステレーション計画があります。国営のGuowangプロジェクトと上海を拠点とするThousand Sailsコンステレーションは、それぞれ1万基以上の衛星で構成される計画で、SpaceXのStarlinkに対抗する通信インフラの構築を目指しています。2025年にはGuowangだけで15回の打ち上げが実施されましたが、2026年以降はさらに打ち上げ頻度が増加する見込みです。つまりSpace Epochの工場は、この巨大な需要を見据えた戦略的投資と言えます。
コスト削減については、同社が目指す1キログラムあたり2万元という数字を検証する必要があります。これは従来の中国製ロケット(8万〜10万元)と比較すると75%のコスト削減ですが、1元=21円換算で約42万円となります。SpaceXのFalcon 9の再使用時の打ち上げ価格は1キログラムあたり約2,720ドル(1ドル=150円換算で約41万円)とされており、Space Epochの目標価格はこれとほぼ同等の競争力を持つことになります。ただし、SpaceXが開発中のStarshipは1キログラムあたり100ドル以下を目標としており、実現すれば桁違いのコスト削減となります。
技術面では、Space Epochがステンレス鋼と液体酸素・メタンの組み合わせを採用している点が注目されます。これはSpaceXのStarshipと同じアプローチで、ステンレス鋼は製造コストが低く、極低温にも強いという利点があります。一方、中国の国営プロジェクトLong March 9は2030年に初打ち上げ予定で、1キログラムあたり1,500ドルを目指していますが、Space Epochは民間企業として、より機動的な開発を進めています。
海上回収という手法も重要なポイントです。中国は広大な内陸部から多くのロケットを打ち上げており、落下する第1段が居住地域に被害を与えるリスクがありました。海上回収は安全性の向上だけでなく、沿岸部からの打ち上げを可能にし、運用の柔軟性を高めます。Space Epochの試験ロケット「遠行者1号」は2025年5月に初の海上回収飛行を完了しており、技術的な実証は進んでいます。
日本にとって、この動きは重要な示唆を含んでいます。JAXAは1998年から再使用ロケット実験機RVTの開発を世界に先駆けて開始しましたが、実用化には至りませんでした。現在はRV-XとCALLISTOという2つのプロジェクトを進めていますが、RV-Xの飛行試験は2025年度の予定で、商業化の目標は2030年代です。H-IIAロケットの打ち上げコストが約100億円であるのに対し、再使用型ロケットで約25億円を目指していますが、中国や米国との技術格差は広がりつつあります。
再使用ロケット市場は、今後10年で大きく変化する可能性があります。SpaceXのStarshipが目標コストを達成すれば、宇宙輸送の経済性は根本的に変わり、火星探査や月面基地建設といったプロジェクトが現実的なものになります。中国はSpace Epochのような民間企業と国営プロジェクトの両輪で開発を進めており、複数のアプローチで技術を蓄積しています。この競争が激化する中で、日本がどのような戦略で存在感を示していくのかが問われています。
【用語解説】
再使用ロケット
打ち上げ後に機体の一部または全部を回収し、整備を経て再び使用できるロケット。従来の使い捨て型と比較して、製造コストを大幅に削減できる。SpaceXのFalcon 9が商業的に成功した代表例である。
海上回収
ロケットの第1段ブースターを洋上のプラットフォームや船舶で回収する技術。陸上回収と比較して、打ち上げ地点からの制約が少なく、より柔軟な運用が可能となる。また居住地域への落下リスクを回避できる。
液体酸素・メタン推進剤
ロケットエンジンの燃料として液体メタンを、酸化剤として液体酸素を使用する組み合わせ。従来のケロシン系燃料と比較してクリーンで、エンジンの再使用に適している。SpaceXのStarshipやRaptorエンジンでも採用されている。
垂直離着陸(VTVL)
Vertical Takeoff and Vertical Landingの略。ロケットが垂直に打ち上げられた後、同じく垂直の姿勢で地上または海上に着陸する技術。推力制御と高度な誘導技術が必要とされる。
衛星コンステレーション
複数の人工衛星を協調して運用するシステム。特に低軌道に数百から数万基の衛星を配置し、全地球的な通信サービスなどを提供する。SpaceXのStarlinkや中国のGuowangが代表例である。
Starlink(スターリンク)
SpaceXが運用する衛星インターネットサービス。低軌道に数千基の通信衛星を配置し、地球上のほぼ全域で高速インターネット接続を提供する。2026年1月時点で約7,000基以上の衛星が運用されている。
【参考リンク】
SpaceX(外部)
イーロン・マスク創業の米国民間宇宙企業。再使用ロケットFalcon 9で市場をリードし、Starshipを開発中。
LandSpace(藍箭航天)(外部)
中国の民間ロケット企業。液体酸素・メタンエンジン搭載の朱雀シリーズを開発。2025年12月に軌道回収を試験。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙開発を担う国立研究開発法人。RV-XとCALLISTOの2つの再使用ロケット飛行実験を推進中。
中国航天科技集団公司(CASC)(外部)
中国の国有宇宙企業。長征ロケットシリーズを運用し、2030年に再使用型Long March 9の初打ち上げ予定。
【参考記事】
China’s first offshore reusable rocket recovery base starts construction(外部)
Global Timesによる詳細報道。Qian Tang Haoロケットの仕様と2026年末の初飛行計画を報じている。
China to debut reusable Long March 10-derived rocket in first half of 2026(外部)
SpaceNewsによる中国の再使用ロケット開発全体の概観。2026年に予定される複数の初打ち上げについて報じている。
Record launches, reusable rockets and a rescue: China made big strides in space in 2025(外部)
Space.comによる2025年の中国宇宙開発総括。92回の打ち上げ記録と衛星コンステレーション計画の進展を詳述。
Reusable Rockets vs. Disposable Rockets: Market Trends and Cost Reduction Stats(外部)
再使用ロケットによるコスト削減効果の統計データ。Falcon 9が最大70%削減したことなどを分析。
How Much Does It Cost to Launch a Rocket? [By Type & Size](外部)
各国ロケットの打ち上げコスト比較。Falcon 9再使用時で約2,720ドル/kg、Starship目標66.67ドル/kgなど。
日本の再使用ロケット開発の現在 ~低コスト・高頻度の打ち上げへ(外部)
SPACE CONNECTによるJAXAの再使用ロケット開発状況の解説。RV-Xは2025年度飛行試験予定。
Long March 9 Rocket Will Be a Game-changer for China’s Space Program(外部)
The Diplomatによる中国Long March 9計画の分析。コストを1,500ドル/kgへ削減する目標を詳述。
【編集部後記】
中国の民間企業が年間25機の再使用ロケットを生産する工場を建設し始めました。打ち上げコストを75%削減するという目標は、宇宙輸送の経済性を根本から変える可能性を秘めています。一方、日本は1990年代から再使用ロケット研究を進めてきたにもかかわらず、実用化では後れを取っています。この技術格差が今後の宇宙開発にどのような影響を与えるのか、皆さんはどうお考えになりますか。私たちinnovaTopia編集部も、日本の宇宙産業がこの競争の中でどう存在感を示していくのか、引き続き注視してまいります。

