Meta、史上最大規模6.6GWの原子力契約を発表——AI時代のエネルギー戦略が示す未来

Meta、史上最大規模6.6GWの原子力契約を発表——AI時代のエネルギー戦略が示す未来

2026年1月9日、Metaは原子力エネルギー分野における史上最大規模の企業契約を発表しました。Vistra、TerraPower、Okloの3社と提携し、2035年までに最大6.6GWの電力を確保する計画です。

この規模はニューハンプシャー州全体の電力需要を上回るもので、AI開発を支えるデータセンターの膨大な電力需要に対応するための戦略的な動きとなります。昨年6月に締結したConstellation Energyとの契約と合わせ、Metaは米国史上最も重要な原子力エネルギーの企業購入者の1つとなりました。

今回の契約は、既存の原子力発電所の運転延長・出力増強と、次世代小型モジュール炉への投資という二段階のアプローチが特徴です。Vistraとの契約では、オハイオ州のペリー発電所とデービス・ベッセ発電所、ペンシルバニア州のビーバーバレー発電所から2.1GW以上の電力を20年間購入し、さらに3発電所で合計433MWの出力増強を支援します。これは米国の企業顧客が支援する原子力出力増強としては最大規模となります。

TerraPowerとの契約では、ビル・ゲイツ氏が共同創設した企業が開発する次世代ナトリウム冷却高速炉「Natrium」の建設を支援します。2032年までに2基のユニットで最大690MWの発電能力を確保し、さらに2035年までに最大6基の追加ユニットから2.1GWのエネルギーを得る権利を取得しました。合計8基で2.8GWのベースロード発電容量と1.2GWの内蔵エネルギー貯蔵を実現する計画です。

Okloとの契約では、OpenAI CEOのSam Altman氏が主要投資家を務める企業が開発する75MWの液体金属冷却高速炉「Aurora Powerhouse」の建設を支援します。オハイオ州パイク郡に先進的原子力技術キャンパスを建設し、早ければ2030年に稼働開始、2034年までに最大1.2GWの電力を供給する予定です。

これらのプロジェクトは数千の建設雇用と数百の長期運用雇用を創出し、米国の原子力サプライチェーンを強化することが期待されています。Metaは「オハイオ州ニューオールバニーのPrometheusスーパークラスターを含む、私たちの事業を支える電力網に電力を供給する」と述べており、AI開発の中核インフラを支えるエネルギー戦略の重要性を強調しています。

From: 文献リンクMeta Announces Nuclear Energy Projects, Unlocking Up to 6.6 GW to Power American Leadership in AI Innovation

【編集部解説】

Metaが発表した今回の原子力エネルギー契約は、単なる電力調達以上の意味を持つ、テクノロジー産業における歴史的な転換点です。最大6.6GWという規模は、ニューハンプシャー州全体の電力需要を上回るものであり、一企業による原子力エネルギーへのコミットメントとしては前例のないレベルです。

この動きの背景にあるのは、AI開発がもたらす圧倒的な電力需要の増加です。Metaがオハイオ州ニューオールバニーに建設中のPrometheusスーパークラスターは、同社のAI研究開発の中核を担う施設となります。AIモデルの訓練と推論には、従来のデータセンターとは比較にならない電力が必要であり、しかもそれは24時間365日、途切れることなく供給される必要があります。

注目すべきは、Metaが「既存プラントの延命」と「次世代技術への投資」という二つの戦略を同時に展開している点です。Vistraとの契約では、オハイオ州とペンシルバニア州の3つの既存原子力発電所から2.1GW以上の電力を購入し、さらに合計433MWの出力増強を支援します。これは米国の企業顧客が支援する原子力出力増強としては最大規模となります。

一方、TerraPowerとOkloへの投資は、小型モジュール炉(SMR)という次世代技術への賭けです。TerraPowerのNatrium炉は、ビル・ゲイツ氏が共同創設した企業が開発する345MWのナトリウム冷却高速炉で、溶融塩エネルギー貯蔵システムを統合することで、ピーク時には500MWまで出力を上げることができます。非加圧設計により安全性が大幅に向上し、再生可能エネルギーとの組み合わせにも適しています。

Okloは、Sam Altman氏(OpenAI CEO)が主要投資家として支援する企業です。同社のAurora Powerhouse炉は75MWの液体金属冷却高速炉で、最大10年間燃料補給なしで運転でき、新鮮な燃料だけでなく使用済み核燃料も利用できる設計となっています。本質的に安全な設計により、オペレーターの介入なしに自己安定化・自己制御が可能です。

この動きはMeta単独のものではありません。Microsoftは2028年の再稼働を目指してペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所と20年間、160億ドルの契約を締結しました。Googleは2030年代までに最大500MWの小型モジュール炉をKairos Powerと開発する契約を結んでいます。AmazonはX-energyに5億ドルを投資し、2039年までに5GW以上の原子力発電容量を目指しています。

2024年から2035年にかけて、データセンターの電力消費は460TWhから1,300TWhへと約3倍に増加すると予測されています。主要ハイパースケーラー4社の2026年の設備投資は合計約6,000億ドルに達する見込みで、そのかなりの部分が電力インフラへの投資となります。

原子力が選ばれる理由は明確です。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは天候に左右され、出力が不安定です。一方、原子力は天候に左右されない安定したベースロード電力を24時間365日供給できます。これは、一瞬たりとも停止できないAI開発インフラにとって不可欠な特性です。

しかし、課題も存在します。小型モジュール炉は、まだ米国で商業運転を開始していません。規制当局による承認プロセスには時間がかかり、TerraPowerの最初のユニットは2032年、Okloは2030年の稼働を目指していますが、これらのスケジュールが守られる保証はありません。また、高濃縮低濃縮ウラン(HALEU)燃料の供給も課題です。かつてロシアが世界唯一の商業供給国でしたが、2022年のウクライナ侵攻以降、米国は国内生産能力の構築を進めています。

コスト面でも不確実性があります。既存の原子力発電所からの電力は最も安価なベースロード電力の一つですが、小型モジュール炉のコストはまだ実証されていません。TerraPowerはメガワット時あたり50〜60ドル、Okloは80〜130ドルを目標としていますが、初期のプラントはこれより高くなる可能性があります。

規制面では、2025年5月にトランプ大統領が署名した4つの大統領令が、先進的原子力技術の展開を加速させる環境を整えました。原子力規制委員会も審査プロセスの迅速化を進めており、TerraPowerの建設許可申請は予定より2ヶ月早く承認されました。

日本への示唆も重要です。日本でもデータセンターの電力需要は増加しており、AI開発競争における電力確保は喫緊の課題です。しかし、福島第一原発事故以降、新規の原子力発電所建設は政治的に困難な状況が続いています。既存の原発再稼働や小型モジュール炉の導入について、エネルギー安全保障とカーボンニュートラルの観点から再考する時期に来ているかもしれません。

Metaの今回の決定は、AI時代のエネルギーインフラがどうあるべきかという問いに対する一つの答えを示しています。原子力は過去の技術ではなく、むしろ未来のテクノロジーを支える基盤として再評価されつつあるのです。

【用語解説】

小型モジュール炉(SMR)
Small Modular Reactorの略。従来の大型原子炉と比べて出力が小さく(一般的に300MW前後)、工場で製造したモジュールを現地で組み立てる次世代原子力発電技術。建設期間の短縮、コスト削減、安全性の向上が期待されている。

ナトリウム冷却高速炉
水の代わりに液体ナトリウムを冷却材として使用する原子炉。高温での運転が可能で、加圧が不要なため安全性が高い。使用済み核燃料を再利用できる特徴も持つ。

溶融塩エネルギー貯蔵システム
溶融塩に熱を蓄え、必要に応じて電力出力を調整できる蓄電技術。原子炉の出力を一定に保ちながら、電力需要のピーク時に追加の電力を供給できる。

ベースロード電力
24時間365日、安定して供給される基幹電力のこと。太陽光や風力などの変動する再生可能エネルギーと対比される。データセンターのように常時稼働する施設には不可欠。

出力増強(uprate)
既存の原子力発電所の設備改良や運転条件の最適化により、発電出力を向上させること。新規建設より短期間・低コストで電力供給を増やせる。

高濃縮低濃縮ウラン(HALEU)
High-Assay Low-Enriched Uraniumの略。ウラン235の濃縮度が5〜20%の核燃料。従来の軽水炉用燃料(濃縮度5%以下)より効率的で、小型モジュール炉の多くがこの燃料を使用する。

PJM電力網
PJM Interconnectionが運営する米国最大の地域送電機関で、13州とワシントンD.C.の電力系統を管理している。ペンシルベニア、ジャージー、メリーランドの頭文字から命名。

ハイパースケーラー
Amazon、Google、Microsoft、Metaなど、世界規模で大量のデータセンターを運営し、クラウドサービスやAIインフラを提供する巨大テクノロジー企業の総称。

GW(ギガワット)/ MW(メガワット)
電力の単位。1GW(ギガワット)=1,000MW(メガワット)=1,000,000kW(キロワット)。1GWは約100万世帯分の電力消費に相当する。

【参考リンク】

Meta(外部)
Facebook、Instagram、WhatsAppなどを運営する米国のテクノロジー企業。AI研究開発に注力しており、大規模なデータセンターインフラを構築している。

TerraPower(外部)
ビル・ゲイツ氏が共同創設した先進的原子力技術開発企業。ナトリウム冷却高速炉「Natrium」を開発し、ワイオミング州で実証プラントを建設中。

Oklo Inc.(外部)
液体金属冷却高速炉「Aurora Powerhouse」を開発する原子力スタートアップ。OpenAI CEOのSam Altman氏が主要投資家の一人。

Vistra Corp(外部)
米国最大級の独立系発電事業者。オハイオ州とペンシルバニア州で複数の原子力発電所を運営している。

Constellation Energy(外部)
米国最大の原子力発電事業者。Metaとイリノイ州の原子力発電所から20年間の電力供給契約を締結している。

米国原子力規制委員会(NRC)(外部)
米国における原子力の安全規制を担当する独立規制機関。新型炉の設計承認や建設・運転許可の審査を行う。

【参考記事】

Meta signs nuclear energy deals to power Prometheus AI supercluster(外部)
Metaの3社との原子力契約の詳細を報じる記事。2035年までに6.6GWの電力を追加し、これはニューハンプシャー州全体の需要を超える規模であることなどを伝えている。

Meta Locks In Up to 6.6 GW of Nuclear Power Through Deals with Vistra, Oklo, and TerraPower(外部)
Metaの原子力契約の技術的詳細を分析。Vistraとの契約では2,609MWの電力が2026年後半から供給開始され、2034年までに全容量が稼働することを報告。

Meta inks nuclear deals for up to 6.6 GW from Oklo, Vistra, TerraPower(外部)
2024年12月のMetaによる原子力RFPプロセスから今回の契約締結に至る経緯を詳述。全ての電力がPJM地域に供給されることなどを伝えている。

Why tech giants such as Microsoft, Amazon, Google and Meta are betting big on nuclear power(外部)
テクノロジー企業が原子力に投資する背景を包括的に解説。米国エネルギー省によれば2050年までに世界の電力使用量が最大75%増加する見込みと指摘。

Nuclear power for AI: inside the data center energy deals(外部)
2025年12月時点での主要テクノロジー企業の原子力契約を総括。グローバルなデータセンター電力消費が2024年の460TWhから2035年には1,300TWhへ増加すると予測。

Looking ahead to 2026: why hyperscalers can’t slow spending without losing the AI war(外部)
ハイパースケーラー4社の2026年の設備投資が約6,000億ドルに達する見込みであることを分析。AI関連サービスの収益は投資額の10%程度という不均衡を指摘。

TerraPower Natrium | Advanced Nuclear Energy(外部)
TerraPowerのNatrium炉の技術仕様を解説。345MWのナトリウム高速炉に溶融塩エネルギー貯蔵システムを組み合わせ、ピーク時には500MWまで出力を増強できる。

【編集部後記】

私たちが日々使うAIサービスの裏側で、これほど大規模なエネルギー確保が進んでいることに驚かれたのではないでしょうか。ChatGPTやGoogle検索、Metaの各種サービスを使うたび、膨大な電力が消費されています。日本でも同様のエネルギー課題に直面する日は近いはずです。みなさんは、日本のテクノロジー企業やデータセンター事業者が、どのような電力戦略を描くべきだと思いますか?再生可能エネルギーだけで足りるのか、原子力の再評価が必要なのか。ぜひご意見をお聞かせください。

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