CryptoRankのデータによると、トランプファミリーに関連するミームコインであるOfficial Trump($TRUMP)とMelania Meme($MELANIA)が、史上最高値から下落し、価格は3.66ドルと0.123ドルとなった。
この暴落により、個人投資家の累計損失は43億ドルを超えた。一方、インサイダーはトークン販売と手数料を通じて6億ドル以上を回収しており、個人投資家はインサイダーの1ドルの利益に対して20ドルを失った計算となる。現時点で約200万のウォレットが含み損の状態にある一方、わずか45のクジラウォレットが合計12億ドルの利益を得た。さらに、インサイダー保有分27億ドル相当のトークンが2028年までロックされており、追加の売却圧力が生じる可能性がある。
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Retail Investors Lose $4.3B as Trump Family Linked Memecoins Collapse
【編集部解説】
今回の事案は、単なるミームコインの価格下落ではなく、暗号資産市場における構造的な問題を凝縮した象徴的な事例として注目に値します。
この暴落の背景には、DeFiプラットフォームMeteora上で行われた「シングルサイド流動性供給(single-sided liquidity provision)」という手法が存在します。これは、トークンのみを流動性プールに片側で預け入れ、ステーブルコインなどのペア資産を伴わない手法です。新規の個人投資家が購入するたびに、その資金が自動的にインサイダー側へ吸い上げられる仕組みが構築されていました。
Meteoraの共同創設者ベンジャミン・チョウに対しては、2025年5月にニューヨーク南部地区連邦裁判所で集団訴訟が提起され、同年10月の第二次修正訴状でRICO法(組織犯罪対策法)に基づく請求が追加されています。訴状によれば、$MELANIAのほか、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領に関連する$LIBRAなど、少なくとも15のトークンで同様の「パンプ・アンド・ダンプ」操作が行われたと主張されています。
注目すべきは、こうした被害が拡大した制度的背景です。2025年2月、SECの企業金融部門はミームコインについて「連邦証券法の適用対象外」とするスタッフ声明を発表しました。SEC委員のヘスター・パースも「ミームコインに対してSECの保護を期待すべきではない」と明言しています。この声明は$TRUMPと$MELANIAのローンチからわずか数週間後に出されたもので、民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員らからは「大統領の利益のための法的抜け穴」だとする批判の声が上がりました。
この規制上の空白地帯が、個人投資家の保護を実質的に不在のものとしています。従来の証券であれば、開示義務や内部者取引規制によって一定の歯止めがかかりますが、ミームコインは「コレクティブル(収集品)」と分類されることで、そうした保護枠組みの外に置かれている状況です。
さらに長期的な懸念として、2028年まで27億ドル相当のインサイダー保有トークンがロックされている点が挙げられます。これらのロック解除時には、市場に大きな売り圧力が加わる可能性があり、現在含み損を抱える約200万のウォレット保有者にとって、回復の見通しは不透明なままです。
本件はまた、政治的権力と暗号資産の結びつきがもたらすリスクを問いかけるものでもあります。$TRUMPトークンの上位保有者にはトランプ大統領との晩餐会への招待が提供され、外国人投資家を含む参加者の中には政策への影響を意図した者もいたと報じられています。「トークンを購入すれば政治的アクセスが得られる」という構図は、従来の選挙資金規制では想定されていなかった新たな問題領域を生み出しています。
暗号資産市場全体にとっても、この事案の影響は軽視できません。ミームコイン全体の時価総額がこの30日間で約100億ドル減少しているという分析もあり、投機的な資金が市場内で循環するのではなく、暗号資産市場そのものから流出している兆候が見られます。セレブリティや政治家の知名度に依存したトークンの相次ぐ失敗は、市場全体の信頼に影響を及ぼしかねません。
【用語解説】
ミームコイン(Memecoin)
インターネット上の話題や人物の知名度を基盤とした暗号資産トークン。技術的な実用性や収益分配の仕組みを持たず、価値は主に投機的需要と市場のセンチメントに依存する。
シングルサイド流動性供給(Single-sided Liquidity Provision)
分散型取引所の流動性プールに、通常のペア資産(例:トークンとステーブルコイン)ではなく、片方の資産のみを預け入れる手法。今回の事案では、インサイダーがトークンのみを預け入れ、個人投資家の購入資金を自動的にステーブルコイン(USDC)として吸い上げる仕組みに利用された。
パンプ・アンド・ダンプ(Pump and Dump)
意図的に資産価格を釣り上げた後、高値で売り抜ける手法。伝統的な証券市場では違法とされる。
RICO法(Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act)
米国の組織犯罪対策法。組織的・継続的な不正行為に対して、利益の没収や3倍の損害賠償を求めることができる。Meteora共同創設者に対する集団訴訟はこの法律に基づいて提起されている。
クジラ(Whale)
暗号資産市場において、大量のトークンを保有し、市場価格に影響を与え得る大口投資家やウォレットを指す。
トークンロック(Token Lock)
一定期間、トークンの売却や移転を制限する仕組み。プロジェクトの信頼性を担保する目的で設定されるが、ロック解除時に大量売却が発生するリスクもある。
【参考リンク】
CryptoRank(外部)
暗号資産市場のデータ分析プラットフォーム。今回のレポートの発信元である。
Meteora(外部)
Solanaブロックチェーン上の分散型流動性プロトコル。$TRUMPと$MELANIAの取引基盤として使用された。
SEC ミームコインに関するスタッフ声明(外部)
2025年2月公開。ミームコインの売買は連邦証券法の適用対象外とする見解を示した文書。
【参考記事】
Investors In Trump Family Memecoins Record $4.3 Billion In Losses As Tokens Sink(外部)
$TRUMP史上最高値75ドルからの92%下落、取引所の手数料収益1億7200万ドルなどの数値を報道。
Meteora Involvement in TRUMP and MELANIA Meme Coin Scheme Sparks Retail Investor Losses(外部)
Meteoraでのシングルサイド流動性供給の手法と、インサイダー12億ドル獲得の構造を詳述。
Meteora Founder Accused of Using Melania Trump, Milei for $57M Memecoin Scam(外部)
ベンジャミン・チョウに対するRICO法集団訴訟の訴状内容と共謀の構図を報道。
Melania Trump memecoin team ‘weaponized fame to disarm diligence’(外部)
2025年5月の訴訟提起から10月の修正訴状までの経緯と新証拠を報じたFortune記事。
$TRUMP and other meme coins won’t be protected by SEC(外部)
SEC委員パースがミームコインの投資家保護対象外を明言。規制緩和の動向を詳述。
Trump Meme Coin Resurface: Investors Loss $4.3B in TRUMP and MELANIA(外部)
元SEC弁護士の見解と消費者保護観点からの規制議論の広がりを紹介。
Thousands of investors in Trump’s memecoin lost $2 billion(外部)
Chainalysis分析に基づくローンチ19日間の損失総額20億ドルと手数料1億ドルの詳細。
【編集部後記】
暗号資産の世界では、新しい技術や仕組みが次々と生まれています。その中には大きな可能性を秘めたものもあれば、今回のように深刻な問題を抱えたものもあります。「誰が、どのような仕組みで利益を得ているのか」という視点は、テクノロジーとお金が交差する領域を見つめるうえで、私たち一人ひとりにとって大切な問いかけではないでしょうか。みなさんはこの構造をどのようにご覧になりますか。

