AnthropicのClaude Code、COBOL近代化に参入──IBM株13%急落、メインフレーム事業の構造的転換点か

AnthropicのClaude Code、COBOL近代化に参入──IBM株13%急落、メインフレーム事業の構造的転換点か

2026年2月23日(月)、Anthropicが自社のClaude Codeツールを用いてCOBOL(Common Business-Oriented Language)で構築されたレガシーシステムの近代化を自動化できると発表した。

COBOLは1950年代後半に開発されたプログラミング言語で、米国のATM取引の推定95%で使用されている。Claude Codeは、数千行のコードにわたる依存関係のマッピング、ワークフローの文書化、リスクの特定を行うことができるとされる。COBOL近代化はIBMの主要事業のひとつであり、同社は大規模トランザクション処理向けのメインフレームシステムを販売してきた。

この発表を受け、IBMの株価は同日13.2%近く下落し、223.35ドルで取引を終えた。年初来の下落率は24%超となった。前週金曜日にはAnthropicがClaude Code Securityを発表し、複数のサイバーセキュリティ企業の株価も下落していた。

From: 文献リンクIBM is the latest AI casualty. Shares tank 13% on Anthropic programming language threat

【編集部解説】

今回の出来事を理解するには、COBOLという言語が現代のインフラにどれほど深く根を張っているかを知る必要があります。1959年に開発されたこの言語は、銀行のATM、航空券の予約システム、行政の基幹業務など、社会の土台を支え続けてきました。Anthropicの推計によれば、米国のATM取引の95%がいまだにCOBOLで動いています。

問題は、この巨大なインフラを支えられる人材が急速に減っていることです。COBOLを学べる大学はごくわずかしか残っておらず、現役のCOBOLエンジニアの多くはすでに引退しています。コードそのものは動いていても、なぜそう書かれたのかを理解している人間がいなくなりつつあるのです。

こうした状況下で、Anthropicが発表したのがClaude Codeによるレガシーコード近代化の提案でした。コードの依存関係を自動でマッピングし、失われたワークフローを文書化し、移行リスクを特定する。これまで大規模なコンサルティングチームが数年がかりで行っていた作業を、AIが数四半期に短縮できるとAnthropicは主張しています。

しかし、ここで重要な文脈があります。IBMは2023年8月の時点で、すでに「watsonx Code Assistant for Z」というAIツールを発表し、COBOLからJavaへの変換を支援するサービスを提供してきました。つまり、AIによるCOBOL近代化というアイデア自体は新しいものではありません。The Register誌もこの点を指摘しています。

IBM側の反論も注目に値します。同日公開されたブログ記事で、IBMソフトウェア部門上級副社長兼最高商務責任者(Chief Commercial Officer)のロブ・トーマス氏は、COBOLの「翻訳」とプラットフォームの「近代化」はまったく別の問題だと主張しました。IBM Zのメインフレームは、z/OS、CICS、IMS、Db2などが数十年にわたって緊密に統合されたアーキテクチャであり、コードを移すだけではその性能や信頼性は再現できないという趣旨です。iOSとiPhoneの関係に例え、ソフトウェアとハードウェアの密結合こそがIBM Zの価値の源泉だと強調しました。

市場の反応の激しさにも背景があります。2026年2月は、Anthropicの連続的な発表がソフトウェア・セキュリティ関連銘柄を次々と揺さぶった時期でした。前週金曜日にはClaude Code Securityの発表でサイバーセキュリティ株が下落しており、市場は「まず売り、後で考える」というモードに入っていました。Wedbush Securitiesのダン・アイブズ氏はCNBCに対し、この売りは「ウォール街で見た中で最も実態と乖離した取引だ」と述べています。

実際、IBMの業績そのものは堅調です。2025年第4四半期の売上高は197億ドルで、前年同期比12%増。IBM Zメインフレームの売上は前年比67%成長を記録し、過去20年以上で最高の四半期収益を達成しています。生成AIの受注残高は125億ドルを超えており、決算の不振が株価下落の原因ではありません。

とはいえ、この出来事が示す長期的な含意は無視できません。AIがレガシーコードの理解コストを劇的に下げられるとすれば、IBMのメインフレーム事業を支えてきた「ロックイン」構造、すなわち移行が困難だからこそ顧客が留まるという力学が揺らぐ可能性があります。すぐに起こる変化ではないにせよ、市場はその方向性に敏感に反応しました。

もうひとつ見逃せないのは、この問題がIBMだけにとどまらないという点です。AccentureやCognizant Technology Solutionsなど、レガシーシステムの近代化コンサルティングで収益を上げている企業の株価も同日下落しています。AIが「コンサルタントの大軍」を不要にするのであれば、影響を受けるのはITサービス業界全体に及びます。

日本にとっても、この動向は他人事ではありません。国内の金融機関や行政システムでもCOBOLは広く使われており、技術者の高齢化と人材不足は深刻な課題となっています。AIによるレガシーコード近代化のコスト構造が変わるのであれば、日本のDX戦略にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

【用語解説】

COBOL(Common Business-Oriented Language)
1959年に開発された事務処理用プログラミング言語。金融機関のATM、航空会社の予約システム、行政の基幹業務など、ミッションクリティカルなシステムで現在も広く使われている。Anthropicの推計では米国のATM取引の95%がCOBOLで処理されている。

レガシーシステム
長期間にわたり運用されてきた旧世代の情報システム。安定稼働している一方、技術者の高齢化や文書化の不足により、維持・更新のコストが年々増大する傾向にある。

メインフレーム
大量のトランザクション処理を高い信頼性で実行するための大型コンピューター。銀行や保険会社、政府機関などで基幹業務に使用される。IBM Zシリーズが代表的な製品である。

技術的負債(Technical Debt)
ソフトウェア開発において、短期的な効率を優先した設計や実装が将来的に蓄積するメンテナンスコストのこと。レガシーシステムでは数十年にわたる修正の積み重ねにより、技術的負債が膨大になっている場合が多い。

ロックイン
特定のベンダーの製品やサービスへの依存度が高まり、他社製品への移行が事実上困難になる状態。COBOLとIBMメインフレームの関係はその典型例とされてきた。

Claude Code Security
Anthropicが2026年2月に発表したClaude Codeの新機能。コードベースのセキュリティ脆弱性をスキャンし、人間がレビューすべきソフトウェアの脆弱性を検出する。

【参考リンク】

Anthropic公式ブログ「How AI helps break the cost barrier to COBOL modernization」(外部)
今回の株価急落の契機となったAnthropicブログ記事。Claude CodeによるCOBOL近代化の手法と利点を解説。

Claude Code公式ページ(外部)
Anthropicが提供するAIコーディングツールClaude Codeの公式製品ページ。機能概要や対応言語を掲載。

IBM公式ブログ「Lost in Translation: What the AI Code Debate Keeps Getting Wrong」(外部)
Anthropicへの反論記事。コードの「翻訳」とプラットフォーム「近代化」の違いをIBM上級副社長が論じる。

IBM watsonx Code Assistant for Z公式ページ(外部)
IBMが2023年から提供するAIベースのCOBOL近代化支援ツール。COBOL→Java変換や自動テスト機能を備える。

IBM Z公式ページ(外部)
IBMのメインフレーム製品ラインIBM Zシリーズの公式ページ。最新のz17を含む製品情報を掲載している。

Anthropic Code Modernization Playbook(外部)
AnthropicがCOBOL近代化の具体的な手順を解説したプレイブック。ブログ記事と連動した実践ガイド。

【参考記事】

Anthropic’s COBOL Bet Shakes Mainframe Economics(外部)
IBMの2月月間下落率が1968年以降最大となる可能性をBloomberg集計データで報道。業績好調下の急落を分析。

IBM RELEASES FOURTH-QUARTER RESULTS(外部)
IBM公式の2025年第4四半期決算。売上高197億ドル、IBM Z成長率67%、フリーキャッシュフロー147億ドル。

Anthropic says Claude Code can help streamline COBOL modernization, but IBM says it’s not that simple(外部)
Anthropicの主張とIBMの反論を並列で報道。ロブ・トーマス氏のハードウェア密結合論を紹介している。

Anthropic touts AI for COBOL, IBM stock takes a hit(外部)
IBMが2023年に同様のツールを発表済みである点を指摘。COBOL近代化を巡るFUDの歴史的文脈を論じる。

Anthropic AI Tool Triggers Historic IBM Stock Plunge(外部)
Wedbush Securitiesダン・アイブズ氏の「最も実態と乖離した取引」発言を引用。時価総額約310億ドル減少を報道。

IBM Unveils watsonx Generative AI Capabilities to Accelerate Mainframe Application Modernization(外部)
2023年8月のIBM公式プレスリリース。AIによるCOBOL近代化がAnthropic独自の着想でないことを示す一次資料。

【編集部後記】

みなさんが日々利用しているATMや決済システムの裏側で、65年以上前に生まれた言語が今も静かに動き続けています。AIがその「見えないインフラ」を塗り替えようとしている今、私たちの暮らしを支える技術の地殻変動が始まっているのかもしれません。この動きは日本の金融・行政システムにも無関係ではありません。みなさんはこの変化をどうご覧になりますか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です