Spotify × Liquid Death「Eternal Playlist Urn」── Bluetoothスピーカー内蔵の骨壷で”死後も音楽を”

音楽ストリーミングサービスのSpotifyと飲料会社Liquid Deathは、Bluetoothスピーカー内蔵の火葬用骨壷「Eternal Playlist Urn」を発表した。骨壷の蓋にワイヤレスBluetoothスピーカーが埋め込まれており、USB-Cケーブルで充電する。販売数は150個限定、価格は1個495ドルである。あわせてSpotifyは、モバイルアプリ上で「Eternal Playlist Generator」を公開した。ユーザーが「あなたの”永遠のバイブス”は?」「お決まりの幽霊の鳴き声は?」などの質問に回答すると、死後に聴くためのプレイリストが自動生成され、骨壷のスピーカーに同期できる。Liquid Deathは死をモチーフにしたブランディングで知られ、Berry It Alive、Convicted Melon、Severed Limeなどのフレーバーを展開している。

From: 文献リンクSpotify and Liquid Death Create a Music-Streaming Urn That Will Rock Your Afterlife

【編集部解説】

この製品は、実用的なテクノロジーガジェットというよりも、ブランドマーケティングの文脈で捉えるべきものです。150個限定・495ドルという設定が示す通り、大量販売を目的とした製品ではありません。

Liquid Deathは2019年にマイク・セサリオ氏が創業した缶入りウォーターブランドで、ヘビーメタルや死をモチーフにした過激なブランディングで急成長しました。2024年3月のシリーズE(一部報道ではシリーズDとも表記)で6,760万ドルを調達し、企業評価額は14億ドルに達しています。2024年の小売売上高は3億3,300万ドルで、2026年にはIPOも計画されていると報じられています。こうした文脈を踏まえると、今回の骨壷コラボは、IPO前の話題づくりとしての側面も見えてきます。

一方のSpotifyにとって、ハードウェアとの関わりは苦い記憶を伴います。2022年に発売した車載デバイス「Car Thing」は需要の低迷とサプライチェーンの問題から発売わずか5カ月で生産終了となり、2024年12月にはデバイス自体が完全に機能停止しました。同社の2022年第2四半期決算では、Car Thingに関連して約3,100万ドルの一時損失を計上しています。今回のEternal Playlist Urnは、Spotifyが自社で企画・製造するハードウェアではなく、Liquid Death側の製品にブランドとデジタル体験を提供するという形式です。Car Thingの教訓を踏まえた、リスクを抑えたコラボレーションモデルと言えるでしょう。

技術的に注目すべきは、骨壷そのものよりも「Eternal Playlist Generator」の仕組みです。ユーザーの視聴履歴と質問への回答を組み合わせてプレイリストを自動生成するこの機能は、Spotifyがこれまで「Wrapped」や「daylist」で培ってきたパーソナライゼーション技術の延長線上にあります。ユーモラスな文脈ではありますが、ユーザーデータを活用した体験型コンテンツ生成の一つの実験として捉えることができます。

より広い視点で見ると、この製品はデジタルサービスが「生と死」の境界領域に踏み込み始めている潮流の一端でもあります。故人のSNSアカウントの管理、AIによる故人の音声再現、デジタル遺産の継承など、テクノロジーと追悼の交差点は今後さらに拡大していく領域です。今回のプロダクトはあくまでジョークグッズの域を出ませんが、「個人の音楽的アイデンティティを死後にも残す」というコンセプト自体は、デジタル遺産をめぐる議論に一石を投じるものかもしれません。

なお、骨壷のスピーカーはBluetooth接続でUSB-C充電式のため、「永遠に」音楽を再生するには誰かが定期的に充電を行う必要があります。TechCrunchも記事の中で、蓋に収められた小型スピーカーの音質には疑問を呈しています。

【用語解説】

Eternal Playlist Urn(エターナル・プレイリスト・アーン)
Liquid DeathとSpotifyが共同開発した、Bluetoothスピーカー内蔵の火葬用骨壷。ポリレジン製で、サイズは約7×7×11インチ、重量2.4ポンド。蓋部分にスピーカーを内蔵し、USB-Cで充電する。150個限定、495ドル。

Eternal Playlist Generator(エターナル・プレイリスト・ジェネレーター)
Spotifyが米国ユーザー向けに提供するモバイル専用のデジタルツール。ユーザーの視聴履歴と質問への回答を組み合わせて「死後に聴くためのプレイリスト」を自動生成する。生成されたプレイリストは友人と共有でき、Eternal Playlist Urnのスピーカーに同期も可能である。

Car Thing(カー・シング)
Spotifyが2022年2月に米国で一般発売した車載音楽再生デバイス。価格は89.99ドル。需要低迷とサプライチェーンの問題により発売約5カ月で生産終了となり、2024年12月9日にデバイスが完全に機能停止した。Spotifyは2022年第2四半期決算で同製品に関連して約3,100万ドルの一時損失を計上している。

パーソナライゼーション技術
ユーザーの行動履歴や嗜好データをもとに、個々のユーザーに最適化されたコンテンツや体験を提供する技術の総称である。Spotifyでは年末の「Wrapped」や日替わりプレイリスト「daylist」などで活用されている。

デジタル遺産
故人が残したデジタルデータやオンラインアカウント、サブスクリプションなどの総称である。SNSアカウントの追悼モード設定や、デジタル資産の相続といった問題が近年注目されている。

【参考リンク】

Spotify Newsroom – Eternal Playlist Urn発表記事(外部)
Spotify公式ニュースルーム。Eternal Playlist UrnとPlaylist Generatorの発表詳細を掲載。

Liquid Death – Eternal Playlist Urn製品ページ(外部)
Eternal Playlist Urnの製品詳細と購入ページ。150個限定で米国内のみ販売している。

Liquid Death公式サイト(外部)
2019年創業の缶入りウォーターブランド。過激なブランディングで知られ、企業評価額は14億ドル。

Spotify公式サイト(外部)
世界最大級の音楽ストリーミングサービス。月間アクティブユーザー数は6億7,800万人を超える。

【参考動画】

World’s First Music-Streaming Urn from Liquid Death x Spotify
Liquid Death公式YouTubeチャンネルにて公開された約45秒のプロモーション動画。「死後の最悪なことは?音楽が聴けないこと」というコンセプトで、骨壷スピーカーの機能をユーモラスに紹介している。TechRadar、MusicRadar、Consequence等の複数メディアが記事中で引用。動画はLiquid Death公式YouTubeチャンネルにて視聴可能。

Liquid Death公式YouTubeチャンネル(外部)
Liquid Deathの公式チャンネル。過激なブランドプロモーション動画やコラボ企画を多数公開している。

【参考記事】

Spotify and Liquid Death release a limited-edition speaker shaped like … an urn?(外部)
TechCrunchによる報道。骨壷の仕様詳細とSpotifyの過去のハードウェア協業の歴史に言及。

Liquid Death in 2026: Usage, Revenue, Valuation & Growth Statistics(外部)
Liquid Deathの財務データを網羅。売上高3億3,300万ドル、評価額14億ドル等の数値を掲載。

Car Thing – Wikipedia(外部)
SpotifyのCar Thingの全履歴。発売から機能停止、約3,140万ドルの損失計上までを時系列で記録。

Liquid Death Takes Spotify Into the Afterlife With $495 ‘Eternal Playlist’ Urn(外部)
マーケティング視点からの分析。Spotifyの6億7,800万ユーザーを活用した希少性戦略を評価。

Spotify’s Car Thing officially non-operational(外部)
Music Business Worldwide報道。Car Thing機能停止の経緯と約3,100万ドルの一時損失を詳述。



【編集部後記】

Bluetoothスピーカー内蔵の骨壷——冗談のような製品ですが、ここにはいくつかの興味深い問いが含まれています。

私たちが日々積み重ねている音楽の視聴履歴は、ある意味で「音のアイデンティティ」とも呼べるものです。それを死後にまで持ち越すという発想は、突飛に聞こえて、実はデジタル遺産という現実のテーマに接続しています。

もちろん、495ドルの骨壷が私たちの生活を変えることはないでしょう。しかし、Spotifyのパーソナライゼーション技術がジョークグッズにまで応用される時代に、自分のデジタルな足跡が死後どう扱われるのか——一度考えてみる価値はあるかもしれません。

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