さくらインターネット、音声合成(TTS)APIを追加──VOICEVOX採用で国内完結型の音声AIパイプラインを実現

さくらインターネット、音声合成(TTS)APIを追加──VOICEVOX採用で国内完結型の音声AIパイプラインを実現

さくらインターネットは2026年2月26日、生成AI向け推論API基盤「さくらのAI Engine」において、テキストを自然な音声として生成する「音声合成(TTS)API」の提供を開始しました。音声合成エンジンにはオープンソースソフトウェアのVOICEVOXを採用し、「ずんだもん」「四国めたん」「春日部つむぎ」など8種類のキャラクター音声モデルが利用可能です。

同APIはOpenAI Text to Speech API互換の形式で提供されるため、既存のOpenAI互換アプリケーションへの組み込みも容易です。「さくらのAI Engine」ではこれまで音声入力(STT)と会話生成(LLM)のAPIを提供してきましたが、今回のTTS追加により、対話型サービスに必要な音声入力・会話生成・音声合成の一連処理が国内基盤上で完結できるようになりました。

あわせて、ブラウザ上でAIモデルの応答を試用できるPlayground機能も改善され、コード不要で音声合成を体験できるようになっています。活用例として、音声チャットアプリケーションの構築、コールセンターの一次応対自動化、自治体・観光案内の音声ガイド、企業向けAIアシスタントの音声応答機能などが想定されています。

From: 文献リンクさくらインターネット、生成AI向け推論API基盤「さくらのAI Engine」にて「音声合成(TTS)API」を提供開始

【編集部解説】

今回の発表の核心は、「音声合成APIの追加」そのものよりも、音声入力(STT)・会話生成(LLM)・音声合成(TTS)という対話型AIに必要な3つの処理が、すべて国内のインフラ上で完結する環境が整った点にあります。

「さくらのAI Engine」は、2025年9月に一般提供が開始された推論API基盤です。さくらインターネットが国内で運営するデータセンター上に構築されており、NVIDIA製GPUを用いた推論処理を提供しています。これまでチャット(テキスト生成)と音声認識(Whisperベース)のAPIが利用可能でしたが、音声の「出力」に相当するTTSが欠けていました。今回このピースが埋まったことで、たとえばユーザーが音声で質問し、AIが応答を生成し、それを音声で読み上げるという一連のフローを、海外サーバーを経由せずに構築できるようになったわけです。

音声合成エンジンに採用されたVOICEVOXは、2021年にヒホ(ヒロシバ)氏が公開したオープンソースの日本語音声合成ソフトウェアです。ディープラーニングを用いた自然なイントネーション生成が特徴で、「ずんだもん」や「四国めたん」といったキャラクター音声が動画制作者やVTuberコミュニティで広く愛用されてきました。クレジット表記を行えば商用・非商用を問わず無料で利用できるライセンス体系も、普及を後押ししてきた要因の一つです。

開発者にとって注目すべきは、このAPIがOpenAI Text to Speech APIと互換性のある形式で提供されている点でしょう。すでにOpenAI互換のエンドポイントを前提としたアプリケーションを運用している場合、接続先を切り替えるだけで国内基盤への移行が可能になります。この「差し替え可能な設計」は、特定のプラットフォームへのロックインを避けたい企業にとって実用的な選択肢となり得ます。

こうした「国内完結型AI基盤」が持つ意味は、単なるレイテンシの改善にとどまりません。日本政府は2025年12月に「人工知能基本計画」を閣議決定し、AI分野への大規模投資とともに、データ主権の確保やAIエコシステムの国内構築を重要方針として掲げています。特に自治体・医療・金融といったセキュリティ要件の高い分野では、音声データを含む個人情報が国外のサーバーを経由しないことへの需要は今後さらに高まると考えられます。さくらインターネットが想定する活用例にコールセンター応対や自治体の音声ガイドが含まれているのは、まさにこの文脈を反映したものといえるでしょう。

一方で、留意すべき点もあります。VOICEVOXの音声モデルは個性的なキャラクター音声が中心であり、ビジネス用途で求められるニュートラルなナレーション音声としては、選択肢がまだ限られています。VOICEVOXプロジェクトには、キャラクター設定のない中立的な音声「VOICEVOX Nemo」も存在しますが、今回の提供ラインナップには含まれていません。プレスリリースでは「今後も音声モデルの追加を予定」とされており、ビジネス向けの声質がどの程度拡充されるかが、実用範囲を広げる鍵となります。

また、音声合成技術には、AIによる声の模倣やディープフェイク音声への悪用というリスクが常につきまといます。VOICEVOXの各キャラクター音声にはそれぞれ個別の利用規約が設けられていますが、クラウドAPI経由で広く利用可能になることで、利用規約の遵守をどのように担保するかという運用面の課題も意識しておく必要があるでしょう。

長期的な視点で見ると、今回の動きは、日本国内でAIの音声インターフェースを「自前で」構築するための基盤が着実に整いつつあることを示しています。海外の大手プラットフォームに依存しない選択肢が増えることは、技術的な多様性と事業の継続性の両面で、日本のAI活用の健全な発展を支えるものとなるはずです。

【用語解説】

TTS(Text to Speech)
テキスト(文字情報)を音声データに変換する技術の総称である。音声アシスタントやナビゲーションシステムなど、機械が人間に「話しかける」場面で広く用いられている。

STT(Speech to Text)
音声をテキストに変換する技術。TTSとは逆方向の処理であり、音声入力や文字起こしに使われる。「音声認識」とほぼ同義である。

推論(Inference)
学習済みのAIモデルに入力を与え、出力(応答や予測)を生成する処理のこと。モデルの学習(トレーニング)とは異なり、パラメーターの更新は行わない。

OpenAI互換API
OpenAIが提供するAPIのエンドポイント仕様に準拠したインターフェースのこと。この仕様に合わせることで、OpenAIのAPIを前提に開発されたアプリケーションが、接続先の変更だけで他のサービスに切り替えられるようになる。

RAG(Retrieval Augmented Generation)
検索拡張生成。LLMが回答を生成する際に、外部のデータベースやドキュメントから関連情報を検索・取得し、それを根拠として応答の精度を高める手法である。

LLM(Large Language Model)
大規模言語モデル。膨大なテキストデータで学習され、文章生成や要約、翻訳、対話などを行うAIモデルの総称である。

データ主権
国家や組織が、自らのデータの管理・保管・処理に関する統制権を保持するという概念。AI時代において、個人情報や機密データが海外サーバーに依存するリスクへの対策として重視されている。

Playground機能
「さくらのAI Engine」に搭載された、ブラウザ上でAIモデルの応答をチャット形式で試用できる機能。コードを書かずにモデルの挙動を確認・比較できる。

【参考リンク】

さくらインターネット株式会社 公式サイト(外部)
国内独立系データセンター事業者。クラウド、ホスティング、GPU基盤などデジタルインフラを幅広く提供。

さくらのAI Engine(外部)
さくらインターネットの生成AI向け推論API基盤。国内DC上でLLM・音声認識・TTS・RAGをOpenAI互換で提供。

VOICEVOX 公式サイト(外部)
ヒホ氏開発の無料オープンソース音声合成ソフト。ディープラーニングによる自然な日本語音声生成が特徴。

OpenAI 公式サイト(外部)
ChatGPTやGPTシリーズ等を開発する米国AI企業。同社のAPI仕様は業界の事実上の標準となっている。

【参考動画】

【参考記事】

さくらインターネット、「さくらのAI Engine」を一般提供開始(2025年9月)(外部)
AI Engineの一般提供開始を告知。料金体系や国内DC基盤、NVIDIA製GPU採用などの詳細を記載。

さくらのAI EngineにTTS API、VOICEVOX対応で音声AI処理を国内基盤で完結(電波新聞)(外部)
VOICEVOXがオープンソースTTSである点や、国内基盤でのデータ管理の安心性を訴求している点を報道。

日本政府、「AI基本計画」を閣議決定(ビジネス+IT)(外部)
2025年12月閣議決定のAI基本計画を解説。1兆円規模の民間投資やAIガバナンス強化の方針を報じている。

政府、AIに1兆円投資へ 基盤モデル国産化やフィジカルAI実装めざす(日本経済新聞)(外部)
政府AI「源内」の10万人規模展開やAISIの200人規模拡充など、国家AI戦略の具体策を報じている。

【編集部後記】

AIが「聞いて、考えて、話す」という一連の流れを、国内のサーバーだけで実現できる時代が近づいています。みなさんが日々触れているサービスの裏側で、音声AIの選択肢が静かに広がりつつあります。もし音声インターフェースを使ったプロダクトやサービスを構想されている方がいれば、「どの基盤を選ぶか」という視点で、今回のニュースを眺めてみてはいかがでしょうか。

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