KDDIとセコム、陸上自衛隊向けAI警備システムを受託──VLM・ドローン・無人車両で1日1,000人分の省人化へ

KDDIとセコム、陸上自衛隊向けAI警備システムを受託──VLM・ドローン・無人車両で1日1,000人分の省人化へ

KDDIとセコムは2026年2月26日、防衛省から陸上自衛隊の駐屯地向けリモート警備システムの構築を受託したと発表した。本案件は2025年10月28日にKDDIが委託先として選定され、セコムと共同で実施する。

本システムは、固定型AIカメラ・センサーとVMS(映像管理システム)やVLM(視覚言語モデル)基盤、UGV(無人地上車両)、AIドローンをセキュアなネットワーク基盤で連携させ、駐屯地内の警備・巡回を24時間365日体制で支援する。侵入監視システムと巡察業務効率化システムの2種類で構成される。防衛省は将来的に全国の駐屯地で1日当たり約1,000人分の省人化を目指している。連携企業としてティアフォー、KDDIスマートドローン、KDDI総合研究所、KDDIエンジニアリングが参画する。今後、実証運用を経て全国展開を目指す。

From: 文献リンクKDDIとセコム、防衛省から陸上自衛隊向けリモート警備システムの構築を受託 | KDDI News Room

【編集部解説】

今回の発表は、日本の防衛領域において「民生AI技術」が本格的に実装されるフェーズに入ったことを示す象徴的な事案です。

防衛省は2022年に閣議決定された「防衛力整備計画」において、省人化・無人化を重要な柱と位置づけています。令和7年度(2025年度)の防衛関係予算では、駐屯地等警備のリモート監視に関して約40の駐屯地で導入検証を行うために176億円が計上されました。今回のKDDI・セコムへの委託は、この大規模な予算計画の中で具体的な実行段階に入った案件と位置づけられます。

背景には、自衛隊が直面する深刻な人的基盤の課題があります。陸上自衛隊の常備自衛官の定員は約15万人ですが、近年は募集の充足率が低下傾向にあり、広大な駐屯地の警備に十分な人員を割くことが年々困難になっています。「1日当たり約1,000人分の省人化」という目標は、この構造的な問題に対するテクノロジーによる解決策として打ち出されたものです。

技術面で注目すべきは、侵入検知にVLM(視覚言語モデル)を採用している点でしょう。従来の監視カメラシステムでは、動体検知や画像認識ベースの手法が主流でした。VLMは画像と言語を統合的に処理できるマルチモーダルAIであり、カメラ映像から「何が起きているか」を文脈的に理解する能力を持ちます。これを侵入検知用にファインチューニングすることで、誤検知の低減と検知精度の向上が期待されます。KDDI総合研究所がこの基盤構築を担当します。

もう一つの技術的な注目点は、ティアフォーの自動運転オープンソースソフトウェア「Autoware」がUGV(無人地上車両)の自律走行に活用されることです。ティアフォーは名古屋大学発のスタートアップで、レベル4自動運転の社会実装を推進してきた企業です。これまで主に公道での自動運転バスや物流への応用が知られていましたが、防衛分野への技術提供は、同社の技術が持つ汎用性と信頼性を示す事例となります。

KDDIとセコムの協業は今回が初めてではありません。両社は2017年から5G技術実証で提携し、2018年にはドローンを活用した遠隔巡回警備の実証実験、2019年には5Gを活用したスタジアム警備の実証実験を行っています。つまり今回の受託は、約9年にわたる民間での技術蓄積が防衛分野へと展開された結果といえます。

ポジティブな側面としては、隊員を単純な監視・巡回業務から解放し、より高度な任務や訓練に人的資源を集中できるようになる点が挙げられます。また、24時間365日の機械的な監視は、人間の疲労や注意力低下に起因する見落としリスクを低減する効果も見込まれます。

一方、潜在的なリスクについても目を向ける必要があります。AIカメラやUGV、ドローンを統合したシステムは、サイバー攻撃の標的となる可能性を持ちます。セキュアなネットワーク基盤の構築をKDDIが担うとされていますが、防衛施設の監視データがネットワーク上を流れる以上、情報保全の観点からは極めて高い水準のセキュリティが求められます。

加えて、AI監視技術の防衛利用は、将来的に民間転用される可能性も含め、社会的な議論の対象となりうる領域です。技術そのものの有用性と、その運用におけるガバナンスの在り方は、分けて議論されるべきテーマでしょう。

長期的に見れば、本案件は日本の「防衛とテクノロジー企業の協業モデル」の先行事例として意味を持ちます。今後、実証運用での有効性検証を経て全国展開が実現すれば、防衛分野におけるAI・ロボティクス活用の標準モデルとなる可能性があります。

【用語解説】

VMS(Video Management System)
映像管理システム。複数の監視カメラの映像を一元的に記録・管理・再生するためのソフトウェア基盤である。

VLM(Vision-Language Model)
視覚言語モデル。画像(映像)と自然言語を統合的に処理するマルチモーダルAIの一種。従来の画像認識が「物体の検出」に留まるのに対し、VLMはカメラ映像の状況を文脈的に理解・記述する能力を持つ。本システムでは侵入検知用にファインチューニング(特定タスク向けにモデルの重みを再調整する手法)が施されている。

UGV(Unmanned Ground Vehicle)
無人地上車両。人が搭乗せずに自律走行または遠隔操作で地上を移動するロボット車両の総称である。

防衛力整備計画
2022年12月に閣議決定された、日本の防衛力を5年間(2023〜2027年度)で抜本的に強化するための計画。省人化・無人化は重要な柱の一つとして位置づけられている。

省人化
業務の自動化・効率化により、必要な人員数を削減すること。防衛省は駐屯地警備のリモート監視を通じ、全国で1日当たり約1,000人分の省人化を目標としている。

【参考リンク】

KDDI ニュースルーム(外部)
KDDIの公式ニュース配信サイト。ニュースリリースやトピックスを掲載している。

セコム株式会社(外部)
日本初の警備保障会社。AIカメラやロボット、ドローンを活用した警備ソリューションを展開。

株式会社ティアフォー(外部)
名古屋大学発スタートアップ。オープンソース自動運転ソフトウェア「Autoware」を開発・公開。

KDDIスマートドローン株式会社(外部)
KDDI子会社。モバイル通信を活用したドローンの遠隔飛行サービスを提供している。

KDDI総合研究所(外部)
KDDIグループの研究開発拠点。本システムではVLM基盤の構築を担当する。

The Autoware Foundation(外部)
ティアフォーが設立した国際団体。オープンソース自動運転ソフト「Autoware」を管理・運営。

【参考記事】

2025年度防衛関係費の概要(参議院常任委員会調査室)(外部)
駐屯地警備リモート監視に176億円、約40駐屯地での導入検証と1,000人/日の省人化目標を記載。

防衛力抜本的強化の進捗と予算─令和7年度予算の概要─(防衛省)(外部)
防衛省公式の令和7年度予算概要。AI活用の省人化・無人化の取り組みを記載している。

特集 令和7年度 防衛関係予算について(財務省)(外部)
防衛関係予算総額約8兆4,748億円の全体像とリモート監視による省人化推進を解説。

防衛力整備計画 自衛隊の能力等に関する主要事業(防衛省)(外部)
省人化を図りつつ基地警備機能を強化する方針、無人アセットの整備について記載。

海洋防衛力の未来を支える艦船の省人化技術(三菱総合研究所)(外部)
自衛隊全体で進む省人化の潮流を「もがみ」型護衛艦の事例を中心に解説したコラム。

【編集部後記】

AIカメラやドローン、無人車両が「警備員の代わり」を務める時代が、自衛隊の駐屯地から始まろうとしています。人手不足という課題は防衛分野に限った話ではなく、私たちの暮らしのあらゆる場面に通じるものです。こうした技術が社会に広がったとき、どんな景色が見えてくるのか。みなさんはどうお感じになりますか?ぜひSNSなどでご意見をお聞かせください。

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