PYUSDx発表:MoonPay・M0・PayPalが「アプリ専用ステーブルコイン」を数日で発行できる基盤を公開

PYUSDx発表:MoonPay・M0・PayPalが「アプリ専用ステーブルコイン」を数日で発行できる基盤を公開

2026年2月27日、MoonPayとM0は、PayPal USD(PYUSD)に裏付けられたアプリケーション特化型ステーブルコインの作成を可能にするインフラプラットフォーム「PYUSDx」を発表した。

PYUSDxは、M0のユニバーサルステーブルコインプラットフォームとMoonPay Groupの発行・流通インフラを組み合わせたもので、開発者はブランド化されたステーブルコインを数カ月ではなく数日で立ち上げることができる。クロスチェーン互換性、オンチェーンでの準備金検証にも対応する。

PYUSDはPaxos Trust Company, NAが発行し、PYUSDxトークンはMoonPay Digital Assets Limitedが発行する。PYUSDxトークンはPayPalやVenmoのアカウントでは利用できない。最初の採用事例として、USD.aiがAIインフラ向けステーブルコインの構築にPYUSDxを使用する。Artemis/The Defiantの分析によると、供給量1000万ドル超の新規発行ステーブルコインの数は2025年に89%増加した。

From: 文献リンクMoonPay, M0 and PayPal Announce PYUSDx: The Infrastructure Platform for PYUSD-Backed Stablecoins

【編集部解説】

今回のPYUSDx発表を理解するには、まず「アプリケーション特化型ステーブルコイン」という概念を押さえる必要があります。従来、ステーブルコインはUSDTやUSDCのように汎用的な「デジタルドル」として流通してきました。PYUSDxが提示するのは、その汎用的なステーブルコイン(PYUSD)を裏付け資産として、各アプリケーションやエコシステムに最適化された「ブランド付きステーブルコイン」を開発者が独自に発行できるようにするフレームワークです。

たとえるなら、PYUSDが「原材料としての米ドル」だとすれば、PYUSDxはその原材料を使って各事業者が自社ブランドの決済トークンを「製造」するための工場にあたります。ゲーム内通貨、送金サービス用トークン、ロイヤルティプログラム用トークンなど、用途に応じたカスタマイズが可能になります。

この動きの背景には、ステーブルコイン市場全体の急拡大があります。Artemis Analyticsのデータによれば、2025年のステーブルコイン取引総額は33兆ドルに達し、前年比72%増を記録しました。ステーブルコイン全体の時価総額も2025年末時点で約3060億ドルに成長しており、JPMorganは2026年中に5000億~7500億ドル規模に達するとの見通しを示しています。

ただし、PYUSD自身のポジションには留意が必要です。PYUSDの時価総額は約40億ドル前後で推移しており、USDT(約1870億ドル)やUSDC(約770億ドル)と比較すると大きな差があります。PayPalにとって、PYUSDxは自社ステーブルコインの流通量を消費者向けアプリ(PayPalやVenmo)の外側で拡大するための戦略的な一手と位置付けられます。The Blockが指摘するように、PYUSDxはPayPalが「サードパーティのステーブルコインを自社アプリに直接統合することなく、PYUSDのリーチを拡大する手段」として機能する可能性があります。

注目すべきは、MoonPayの戦略的な一連の動きです。PYUSDx発表の3日前の2月24日、MoonPayはAIエージェントが自律的に暗号資産ウォレットを作成・管理し、取引を実行できるようにする「MoonPay Agents」を発表しています。そして、PYUSDx上で最初に構築を行う開発者がAIインフラ向けステーブルコインを手がけるUSD.aiであるという事実は、偶然ではないでしょう。MoonPayは、規制されたステーブルコイン発行者とAI駆動型の金融アプリケーションを構築する開発者との「中間レイヤー」としてのポジションを明確に狙っています。

技術的には、PYUSDxはM0のクロスチェーン対応プラットフォームとMoonPayの発行・流通インフラを組み合わせています。開発者は複数のブロックチェーンネットワーク上でトークンを発行でき、オンチェーンでの準備金検証により透明性を担保する仕組みです。従来であれば数カ月を要した法務・技術・運用面の準備を数日に短縮できるとされています。

一方で、潜在的なリスクにも目を向ける必要があります。プレスリリースにも明記されているとおり、PYUSDxトークンはPayPalが発行するPYUSDそのものではなく、PayPalやVenmoのアカウントでは利用できません。つまり、PYUSDxで発行されたトークンの信用と価値はあくまでMoonPay Digital Assets Limitedの発行体としての信頼性に依存し、規制上の取り扱いも管轄地域ごとに異なります。「PayPalの名前が入っているから安心」と短絡的に判断することはできません。

規制面では、2025年7月に成立した米国のGENIUS Act(ステーブルコイン規制法)が、決済用ステーブルコインに対して1対1の準備金裏付けや月次の公開証明、年次の独立監査を義務付けています。PYUSDの発行体であるPaxos Trust CompanyはOCC(通貨監督庁)の規制下にありますが、PYUSDxトークンの発行体であるMoonPay Digital Assets Limitedがどのような規制枠組みに服するかは、今後の各国当局の判断に委ねられる部分が大きいでしょう。

長期的な視点では、PYUSDxのようなフレームワークは「ステーブルコインのプラットフォーム化」という新たな潮流を象徴しています。ステーブルコインが単なる決済手段から、開発者がカスタマイズ可能なプログラマブルマネーのインフラ層へと進化しつつあることを示しています。AIエージェントが自律的に経済活動を行う「エージェントエコノミー」の台頭とも結びつき、マシン・トゥ・マシン決済のための専用通貨が必要とされる未来も現実味を帯びてきました。

【用語解説】

アプリケーション特化型ステーブルコイン(Application-Specific Stablecoin)
汎用的なステーブルコインとは異なり、特定のアプリケーションやエコシステム向けにカスタマイズされたステーブルコインのこと。ゲーム内決済、送金、ロイヤルティプログラムなど、用途に応じた独自の機能やブランドを持たせることができる。

トークン化・発行フレームワーク(Tokenization and Issuance Framework)
デジタルトークンの設計・発行・管理に必要な技術基盤を一括で提供する仕組み。PYUSDxの場合、開発者が準備金管理やコンプライアンスのインフラをゼロから構築する必要がなくなる。

クロスチェーン互換性(Cross-Chain Compatibility)
異なるブロックチェーンネットワーク間でトークンを相互運用できる機能。これにより、Ethereumで発行されたトークンを他のチェーンでも利用可能にするなどの柔軟な展開が可能となる。

オンチェーン準備金検証(On-Chain Reserve Validation)
ステーブルコインの裏付け資産(準備金)の状況をブロックチェーン上で公開・検証する仕組み。従来の監査報告よりもリアルタイム性・透明性が高い。

OCC(Office of the Comptroller of the Currency/通貨監督庁)
米国財務省の外局で、国法銀行および連邦信託会社を監督する規制機関。Paxos Trust Companyの規制当局である。

GENIUS Act
2025年7月18日にトランプ大統領が署名した米国初の連邦ステーブルコイン規制法(正式名称:Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)。決済用ステーブルコインに対して1対1の準備金裏付け、月次公開証明、マネーロンダリング対策などを義務付ける。

エージェントエコノミー(Agent Economy)
AIエージェントが自律的にウォレットを保有し、取引・決済・資本配分などの経済活動を行う新たな概念。MoonPay Agentsはこの領域のインフラとして位置付けられている。

【参考リンク】

MoonPay公式サイト(外部)
2019年設立。180カ国3000万人超にサービス提供するブロックチェーンインフラ企業。PYUSDxの発行・流通を担う。

M0公式サイト(外部)
プログラマブルで相互運用可能なデジタルドル構築のためのユニバーサルステーブルコインプラットフォーム。

PayPal公式サイト(外部)
世界約200市場で展開するグローバル決済プラットフォーム。2023年にステーブルコインPYUSDを発行開始した。

Paxos Trust Company公式サイト(外部)
OCC規制下の全権限認可信託会社。PYUSD発行体として米ドル預金・米国財務省証券による準備金管理を行う。

Artemis Analytics(外部)
ブロックチェーン・暗号資産市場のデータ分析基盤。プレスリリース中の89%増加統計の共同出典元。

USD.ai(外部)
PYUSDx最初の採用事例となるDeFiプロトコル。AIインフラ向けアプリケーション特化型ステーブルコインを構築。

【参考記事】

MoonPay unveils PYUSDx framework for app-specific stablecoins tied to PayPal USD(外部)
The Blockの報道。MoonPayがAI駆動型金融と規制ステーブルコイン発行者の中間レイヤーを目指すと分析。

PayPal launches PYUSD-backed stablecoin issuance platform(外部)
crypto.newsの報道。PYUSDxトークンがPYUSDとは別物でPayPal/Venmo非対応である点を明確に報じた。

Stablecoin Market Growth 2026: Insights from Stablecoin Insider(外部)
2025年のステーブルコイン取引総額33兆ドル(前年比72%増)、時価総額3120億ドルなどの主要数値を報告。

Exclusive Report: Crypto Market Predictions 2026(外部)
Coinpediaの2026年予測。JPMorganが2026年にステーブルコイン市場5000億~7500億ドル規模を予測と報告。

PayPal and MoonPay Let Anyone Launch Their Own Stablecoin — Here’s How(外部)
PYUSDxの技術構造を解説。MoonPay Digital Assets Limitedのニューヨーク州信託免許取得にも言及。

Stablecoin Transactions Rose to Record $33 Trillion in 2025 — Bloomberg(外部)
Bloombergの報道。USDC取引量18.3兆ドル、USDT取引量13.3兆ドルで合計33兆ドルに達したと報告。

PayPal, MoonPay and M0 launch PYUSDx to let devs issue app-specific stablecoins(外部)
Cointelegraph報道。USD.aiがUSDaiおよびsUSDaiを発行するDeFiプロトコルであることを伝えた。

【編集部後記】

ステーブルコインが「持つもの」から「つくるもの」へと変わりつつあります。もしあなたが開発者やサービス設計者だったら、自分のプロダクトに最適化された独自のデジタルドルを持てるとしたら、何に使いたいですか? AIエージェントが自律的にお金を動かす世界が、もう目の前まで来ています。この変化の行方を、一緒に追いかけていけたらうれしいです。

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