MrBeast×Step、子どもへの暗号資産マーケティングにウォーレン上院議員が警告

マサチューセッツ州のエリザベス・ウォーレン上院議員は2026年3月23日、ジミー・ドナルドソン(MrBeast)とBeast IndustriesのCEOジェフ・ハウゼンボルドに書簡を送付した。書簡では、Beast Industriesが2026年2月に買収したモバイルバンキングアプリStepを通じて未成年者に暗号資産取引をさせる計画の有無を問い、4月3日までの回答を求めている。

Stepは700万人のユーザーを持ち、2022年に18歳未満が暗号資産を売買・保有・受け取りできるアプリの計画を発表していた。2025年10月にはMrBeast Financialの商標が出願され、暗号資産両替サービスの提供が含まれていた。Beast Industriesは2026年1月にBitMine Immersion Technologyから2億ドルの出資を受けている。

From: 文献リンクSenator Warren questions whether MrBeast will market crypto to kids

【編集部解説】

今回の一連の動きは、単なる「有名人が金融アプリを買った」という話ではありません。クリエイターエコノミー、フィンテック、暗号資産規制、そして未成年者保護という複数の潮流が、一点で交差した事案です。

ウォーレン上院議員が送付したのは、実は12ページに及ぶ詳細な書簡です。そこには単純な懸念表明にとどまらず、Stepが過去にどのような行動を取ってきたかが克明に記されています。たとえばStepは2022年、「How to Talk to Your Parents About Investing in Crypto(暗号資産への投資について親を説得する方法)」というタイトルの動画をYouTubeで公開し、親が「暗号資産に一切関わりたくない」「お金を全部失うと思っている」という場合でも、子どもが親を説得するための具体的なスクリプトまで提供していました。保護者の同意が前提と謳いながら、その保護者を「攻略する方法」を子どもに教えていたわけです。

ドナルドソンのYouTubeチャンネルにおいて、視聴者の39%が13〜17歳、そして大多数が25歳未満であるというデータ(2025年4月時点)は、この問題の核心を示しています。世界最多登録者数を誇るチャンネルのファン層が、そのまま金融サービスの顧客候補になるという構図は、従来の銀行・フィンテック業界が何十億ドルもかけて実現しようとしてきた「若年層へのリーチ」を一夜にして手に入れることを意味します。

見落とせないのが、Stepのパートナー銀行であるEvolve Bank & Trustの問題です。Evolveは2024年、フィンテック仲介企業Synapseの破綻に伴い、最大約9,600万ドルの顧客資金が所在不明となる事態に関与しました。同年、FRBから資金洗浄対策や消費者保護の不備を理由に制裁措置を受け、さらにサイバー攻撃による顧客データ流出も確認されています。Stepのユーザーには多くの未成年者が含まれており、その個人情報保護の観点からも、Evolveとのパートナーシップは注目に値します。

Beast Industriesの側にもリスク要因があります。2024年には社内に最高人事責任者も法務責任者も匿名通報制度も存在しなかったと報じられています。2026年2月にはBeast Industriesの動画編集担当者がインサイダー取引で規制機関に報告され、解雇される事態が起きています。ドナルドソン自身も2024年、アルトコインの宣伝と売り抜けによって利益を得たという疑惑が浮上しており、本人は否定しているものの、金融サービス運営体制の成熟度には疑問符がついたままです。

一方で、ポジティブに解釈できる側面もあります。Stepは2024年に暗号資産取引を自主的に終了した経緯があり、Beast IndustriesはウォーレンのアプローチをDecryptの取材に対して「感謝している」と表明し、法令遵守の姿勢を示しています。MrBeast Financialの商標にはクレジットカード、少額融資、保険、投資管理など幅広いサービスが含まれており、必ずしも暗号資産一本槍というわけではありません。

規制の観点では、今回の書簡はウォーレン議員による単独の問い合わせにとどまりますが、回答期限が4月3日に設定されており、その内容次第では議会での立法動議につながる可能性があります。特に、クリエイターエコノミー企業が金融規制下に置かれた際のガバナンス基準をどう定めるかは、今後の規制論議において先例となり得ます。

長期的に見れば、この事案は「インフルエンサーが金融サービスを運営する時代」の幕開けを告げるものとも言えます。フィンテック業界にとっては顧客獲得コストの概念が根本から変わる可能性を示し、規制当局にとってはエンターテインメントと金融の境界が溶けていく現実に向き合うきっかけとなるでしょう。

なお、本記事内のHawk Tuahインフルエンサーの損失額「約20万ドル」は、一見して時価総額の下落規模(ピーク時の約4億9,000万ドルから約4,100万ドルへ)と大きく乖離しているように見えます。しかしこれはウェルチの弁護士が示した「一般の小口投資家が実際に被った損失の推計額」であり、供給量の97%を10ウォレットが保有し公開流通分がわずか3%だったという構造に起因しています。元記事の数字に誤りはありません。

【用語解説】

ミームコイン
インターネットのミームやブームに便乗して作られた暗号資産の総称。実用的な技術基盤や価値の裏付けを持たないケースが多く、価格の乱高下が激しい。HAWKコインはその代表例。

ラグプル(Rug Pull)
暗号資産プロジェクトの開発者や関係者が、投資家から資金を集めた後に突然プロジェクトを放棄・逃亡する詐欺的行為。価格が急落し、投資家が損失を被る。

DeFi(分散型金融)
Decentralized Financeの略。銀行などの中央機関を介さず、ブロックチェーン上のスマートコントラクトによって金融サービスを提供する仕組み。ウォーレン議員の書簡でもBeast IndustriesのDeFi参入意向が問題視されている。

NFT(非代替性トークン)
Non-Fungible Tokenの略。ブロックチェーン上で発行される、唯一性を持つデジタル資産。アート・音楽・ゲームアイテムなどに活用されるが、投機的性格が強く、詐欺リスクも高い。Stepはかつてティーンエイジャー向けに50種以上のトークンおよびNFT取引を広告していた。

アルトコイン
ビットコイン以外の暗号資産の総称。ウォーレン書簡では、Stepがビットコイン以外のアルトコインへのアクセスをティーンに向けて告知していた点が問題視されている。

FDIC
Federal Deposit Insurance Corporationの略。米国の連邦預金保険公社。銀行破綻時に1預金者あたり最大25万ドルまで預金を保護する制度を運営している。ただし、破綻したのが銀行ではなく仲介フィンテック企業(Synapseのような)の場合、FDIC保険が適用されないケースがある点がウォーレン書簡で指摘されている。

インサイダー取引
非公開の内部情報を利用して有価証券や金融商品を売買する行為。Beast Industriesでは2026年2月、動画編集担当者がMrBeastの動画に関する非公開情報を用いてKalshiで取引を行ったとして、規制機関への報告と解雇処分が行われた。

【参考リンク】

Step 公式サイト(外部)
ティーン・若者向けフィンテックアプリ。クレジット構築・銀行・投資機能を提供。2026年2月にBeast Industriesに買収。

Beast Industries 公式サイト(外部)
MrBeastが設立した持株会社。Feastables・Step等を傘下に持つ。2024年時点の企業評価額は52億ドル。

BitMine Immersion Technologies 公式サイト(外部)
イーサリアム資産運用を主軸とする暗号資産企業。2026年1月にBeast Industriesへ2億ドルを出資。

Evolve Bank & Trust 公式サイト(外部)
StepのパートナーFDIC加盟銀行。2024年にSynapse破綻関与・FRB制裁・データ漏洩が相次いで報告された。

米上院銀行・住宅・都市問題委員会 公式サイト(外部)
ウォーレン上院議員が所属する委員会の公式サイト。MrBeast宛て書簡のPDFも同サイトで公開されている。

【参考記事】

ウォーレン上院議員によるBeast Industries宛て公開書簡(原文PDF)(外部)
12ページの書簡全文。Stepの過去の暗号資産販促手法・Evolve問題・Beast Industriesのガバナンス課題を詳述。11項目の質問を含む。

YouTube star MrBeast buys youth-focused financial services app Step|CNBC(外部)
Beast IndustriesによるStep買収を報じた初期報道。2億ドル出資と月間50億回再生のリーチ規模に言及。

Will MrBeast Push Crypto on Kids? Senator Warren Raises Alarm|Decrypt(外部)
ウォーレン書簡を詳報。Stepの50種超デジタル資産広告・2024年の暗号資産終了経緯・DeFi参入意向を整理。

MrBeast’s company buys Gen Z-focused fintech app Step|TechCrunch(外部)
Stepの総調達額$491 million・著名人投資家の存在・Feastablesの2024年推定売上2億5,000万ドルを報じる。

MrBeast Buys Teen Banking App Step, Drawing Praise and Political Scrutiny|Brave New Coin(外部)
MrBeast Financial商標の広範なサービス内容と企業評価額$5.2 billionを整理。クリエイターエコノミーの構造的意義を分析。

MrBeast’s Teen Banking App Draws Concerns Over Crypto Plans|Entrepreneur(外部)
CEOハウゼンボルドの「ゲーム化してバイラルにする」発言を報じ、若年層への金融商品訴求への懸念を論じる。

Hawk Tuah girl warns others to stay clear of crypto|Cointelegraph(外部)
ウェルチ弁護士が小口投資家の実損を約20万ドルと推計。供給の97%を10ウォレットが保有した構造的背景を報じる。

【編集部後記】

「好きなYouTuberが作った金融アプリなら信頼できる」——そう感じるのは、ごく自然な感覚かもしれません。でも、エンターテインメントの文脈で育まれた「信頼」は、金融の文脈でも同じように機能するのでしょうか。

クリエイターエコノミーと金融サービスが交差するこの新しい地平を、みなさんはどう見ていますか?

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