Rippleは2026年3月26日、AIを活用してXRP Ledger(XRPL)のセキュリティを強化する戦略を発表した。
XRPLは2012年から稼働し、1億件以上のレジャー処理と30億件以上のトランザクションを実績として持つ。新戦略は6つの柱で構成され、開発ライフサイクル全体へのAI統合、AI支援専任レッドチームの設置、コードベースの近代化、XRPL CommonsやXRPL Foundation(XRPLF)などのパートナーとの協力拡大、アメンドメント審査基準の引き上げ、コミュニティへの透明性確保からなる。レッドチームはすでに10件以上のバグを発見した。次のXRPLリリースは新機能を含まず、バグ修正と改善のみに充てられる予定だ。
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Strengthening XRP Ledger Security with AI For Next Phase of Growth
【編集部解説】
XRPLのセキュリティ強化をめぐる今回の発表は、単なる技術的なアップデートにとどまりません。金融インフラとしての信頼性をどう担保するかという、ブロックチェーン業界全体が直面している問いへの一つの回答と言えます。
まず、今回の取り組みの背景を整理しておきましょう。XRPLは2012年から稼働を続ける「老舗」のブロックチェーンです。その長い歴史は信頼性の証である一方、コードベースには設計当時の前提や古いパターンが蓄積されています。これはXRPLに限らず、長期稼働する大規模ソフトウェアが共通して抱える構造的な課題です。
今回、Rippleが採用したAI活用のアプローチには、技術的な意味で注目すべき点があります。「ファジング」とは、意図的に異常なデータや境界値をシステムに大量投入して、予期せぬ挙動やクラッシュを引き起こすテスト手法です。これをAIが自動・大規模に実行することで、人間のエンジニアが手動では到底網羅できない組み合わせのエッジケースを効率的に洗い出せるようになります。「レッドチーム」は、悪意ある攻撃者の視点でシステムの弱点を突く専門チームのことで、防衛側の盲点を発見する役割を担います。
発見された10件以上のバグについては、現時点で公開されているのは低深刻度のものに限られており、深刻な脆弱性の存在は確認されていません。また複数の報道も「パニックになる必要はない」という論調で一致しています。これらのバグは現在すべて修正が進められており、XRPLがAI活用以前から堅牢なシステムであったことの証左でもあります。
このアプローチが持つ長期的な意義は、セキュリティの「姿勢」を変えた点にあります。従来の「問題が起きてから対処する」モデルから、「問題が起きる前に能動的に探し出す」モデルへの転換です。金融インフラにおいて、この違いは極めて大きい。一度の障害が国際送金の停止やトークン化資産の毀損につながりかねないからです。
潜在的なリスクとして留意すべき点もあります。AIを用いたセキュリティ分析はあくまで補助的なツールであり、AIそのものが新たな攻撃ベクターになる可能性も業界では指摘されています。また、「10件以上のバグが見つかった」という事実がコミュニティの不安を煽るリスクも否定できません。Rippleがその点を意識し、透明性を確保しながら情報開示を低深刻度のものに限定しているのは、リスクコミュニケーションとして適切な判断と言えるでしょう。
規制の観点でも、このタイミングは見逃せません。RippleはシンガポールのMAS(金融管理局)が主導するBLOOMイニシアチブへの参加、オーストラリアでの金融サービスライセンス取得、そしてRLUSDステーブルコインの普及推進と、世界各地での規制対応を同時並行で進めています。機関投資家や中央銀行との連携を深めるうえで、セキュリティ水準の可視化と継続的な向上は、今や「あれば望ましい」ものではなく、参入条件そのものになりつつあります。
次のXRPLリリースをバグ修正と改善のみに充てるという判断は、開発方針として重要なシグナルです。新機能の追加よりも基盤の堅牢化を優先するこの選択は、XRPLを「実験的なプロジェクト」ではなく「金融オペレーティングシステム」として位置付ける意思表示に他なりません。
【用語解説】
ファジング(Fuzzing)
ソフトウェアに対して意図的に大量の異常なデータや境界値を入力し、予期しない動作やクラッシュを引き起こすことで脆弱性を発見するテスト手法だ。人手では網羅しきれない膨大な入力パターンをAIが自動生成・実行することで、効率が飛躍的に向上する。
レッドチーム
組織内に設置された、攻撃者の視点でシステムの弱点を積極的に探す専門チームのことだ。防衛側(ブルーチーム)とは独立して動き、実際のサイバー攻撃を模した手法でセキュリティの穴を洗い出す役割を担う。
アメンドメント(Amendment)
XRPLにおいて、プロトコルの仕様や機能を変更・追加するための公式な改正プロセスだ。ネットワーク上のバリデーターの80%以上が2週間以上継続して賛成票を投じることで初めて有効化される仕組みとなっている。
エッジケース
システムが通常の動作範囲の「端」(境界値)に近い、想定外の条件や入力を受けた際に発生する特殊な動作パターンのことだ。長期稼働システムでは、レガシー機能と新機能が交わる境界部分でエッジケースが生じやすい。
バグバウンティ(Bug Bounty)
外部のセキュリティ研究者や一般のハッカーが、製品やシステムの脆弱性を発見・報告した際に報奨金を支払う制度だ。内部チームだけでは発見しにくい脆弱性を広く募集することで、セキュリティの網羅性を高める狙いがある。
【参考リンク】
Ripple 公式サイト(外部)
2012年創業のブロックチェーン決済企業。グローバル決済インフラXRPLの主要開発者であり、RLUSDを含む金融ソリューションを提供する。
XRP Ledger 公式コミュニティサイト(XRPL.org)(外部)
XRP Ledgerの公式コミュニティサイト。技術ドキュメント・開発者向けリファレンス・ブロックチェーンツールを網羅する一次情報源だ。
XRPL Foundation 公式サイト(外部)
XRPL Foundationは2020年設立。ただし新たなフランス法人への移行・設立基盤は2024年後半〜2025年に進んだ。
XRPL Commons 公式サイト(外部)
XRPLエコシステムの成長支援を目的とする非営利コミュニティ組織。開発者向けトレーニングやハッカソンを運営し、拠点はパリだ。
【参考記事】
Ripple Reveals Plans to Improve XRP Ledger Security Using AI(外部)
rippled v3.0.0からPermissioned Domains有効化まで、今回の発表に至る直近XRPLアップデートの経緯を詳しく伝える記事だ。
Ripple’s AI Finds 10 Bugs in the XRP Ledger; But The Community Shouldn’t Panic(外部)
AIレッドチームが発見した10件以上のバグはいずれも低深刻度と解説し、コミュニティへの過剰な不安を払拭する論調の記事だ。
XRP Ledger Next-Level Security Push Aims to Power XRP’s Next Phase of Adoption(外部)
XRPLバリデーターが「次世代セキュリティ」と評価。旧来のバグバウンティを超えた新フレームワークとして今回の取り組みを位置づける記事だ。
XRPL Security Shifts to Proactive AI Testing for Institutional-Grade Finance(外部)
機関投資家向け金融インフラとしてのXRPLに焦点を当て、エコシステム全体のセキュリティ協調とアメンドメント基準引き上げを解説する。
【編集部後記】
「AIがバグを見つける」と聞いて、どんな印象を持たれましたか。頼もしさを感じる方もいれば、「それほど脆弱だったのか」と不安になる方もいるかもしれません。私たちも同じ問いを抱えながらこの記事を読みました。ただ一つ確かなのは、金融インフラの「安全」は一度作れば終わりではなく、問い続けるプロセスだということ。あなたはこの取り組みを、どう受け止めますか。

