パリを拠点とするLightning Stock Exchange(Lise)は、EUの分散型台帳技術(DLT)パイロット制度のもと、2025年に完全トークン化株式取引所の運営を認可された。
Liseは2026年4月9日、航空機・防衛システム・宇宙開発向けの複合材部品を製造するフランスのST Groupを上場させる予定だ。ST Groupの今後10年間の潜在的プログラム収益は約5,900万ユーロ(約6,800万ドル)とされる。Liseの出資者にはBNP Paribas、CACEIS(Crédit Agricole Groupの子会社)、Bpifranceが名を連ねる。
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Europe’s first blockchain IPO is here: France’s new exchange is taking aerospace firm public onchain
【編集部解説】
今回のニュースを理解するうえで、まず「オンチェーンIPO」とは何かを整理しましょう。通常の株式公開(IPO)では、証券会社、引受幹事、中央証券保管機関(CSD)など多くの中間業者が介在し、取引から決済完了まで数営業日を要します。これに対してLiseが実現しようとしているのは、株式の発行・売買・決済というすべてのプロセスを、単一のブロックチェーン基盤(Hyperledger Besu)上で完結させる仕組みです。中間業者を極力排除することで、コストと時間の大幅な削減が期待できます。
Liseは、EUの「DLTパイロット制度」という規制上の実験枠組みを活用しています。これは2023年3月に施行されたもので、ブロックチェーンを使った金融市場インフラに対して、既存の金融規制(MiFID II)の一部を免除する「サンドボックス(実証実験環境)」です。Liseはこの制度のもと、フランス健全性監督破綻処理機構(ACPR)から、取引(MTF)と決済(CSD)を一体化した「DLT TSSライセンス」を取得しています。同様のライセンスを持つのは、ドイツの21X、リトアニアのAxiologyを含め欧州でまだ数社ほどです。
上場するST Groupはトゥールーズ近郊の中小企業で、エアバスA350・A320やダッソー「ラファール」戦闘機向けの複合材部品を手がけています。2025年の売上高は約300万ユーロで前年比18.7%増、2030年には約1,100万ユーロへの成長を目指しています。LiseのCEOであるマーク・ケペネギアン氏は「ST Groupにとって従来型の上場は重すぎてコストが高すぎる」と述べており、ブロックチェーンが中小企業に現実的な資金調達ルートをもたらす可能性を強調しています。
Liseの仕組みの特筆すべき点は、投資家側の参入障壁の低さにもあります。申し込み・保管手数料は無料で、最低投資額は1株から、配分方式は先着順です。これは従来のIPOで機関投資家が優遇されてきた構造とは大きく異なります。
一方で、課題も見逃せません。トークン化された証券はこれまで、流動性の低さ・投資家アクセスの制限・規制上の摩擦という3つの壁に阻まれてきました。Liseが実際に継続的な取引量と流動性を確保できるかどうかは、4月9日以降の二次市場の動向を見なければ判断できません。
また、現行のDLTパイロット制度には取引量の上限があり、Lise自身も規制当局に対して制度の改定を求めています。この制度の枠内で実証実績を積み重ねることが、より大きな規模への移行に向けた最重要ステップです。今回のST Groupの上場は、その「最初の証拠」として規制当局と市場の双方から注目されています。
大局的に見れば、NasdaqやNYSEといった米国の巨大取引所もトークン化証券取引の計画を進めており、欧州がこの分野で先行するかどうかは、今後の規制整備と実証実績の積み重ねにかかっています。Liseが描く「株式市場の再設計」が現実のものとなるか、4月9日はその試金石となります。
【用語解説】
IPO(新規株式公開)
企業が初めて株式を公開市場で発行・売却するプロセスである。従来は証券会社や引受幹事など複数の中間業者が介在し、取引所への申請から上場までに多大なコストと時間を要する。
トークン化(Tokenization)
株式や債券などの金融資産をブロックチェーン上のデジタルトークンとして発行・記録する技術である。所有権の移転や決済がコード上で自動執行されるため、従来型の仲介コストや決済遅延を大幅に削減できる可能性がある。
DLTパイロット制度(EU Distributed Ledger Technology Pilot Regime)
2023年3月にEUが施行した規制上の実証実験枠組みである。ブロックチェーンを活用した金融市場インフラに対して、既存の金融規制(MiFID II)の一部を免除し、新しいビジネスモデルの実証を許可するサンドボックスとして機能する。
MTF(多角的取引システム / Multilateral Trading Facility)
複数の売買注文を照合・執行する非公式の取引プラットフォームである。伝統的な証券取引所と同等の機能を持ちながら、より柔軟な規制のもとで運営される。
CSD(中央証券保管機関 / Central Securities Depository)
有価証券の保管・管理・決済を担う中央機関である。通常はMTFとは別の組織が担うが、Liseはこの両機能を一つのブロックチェーン基盤上に統合している。
Hyperledger Besu
Linux Foundationが管理するオープンソースのブロックチェーンプラットフォームである。企業向けの「プライベート型・許可制ブロックチェーン」として設計されており、金融機関での採用が進んでいる。Liseはこの基盤上で取引・決済を処理する。
RWA(リアルワールドアセット / Real World Assets)
不動産・債券・株式・商品などの現実世界の資産をトークン化したものを指す総称である。近年、機関投資家による採用が急増しており、市場規模は急拡大している。
【参考リンク】
Lise(Lightning Stock Exchange)(外部)
フランスで認可された欧州初の完全トークン化株式取引所。中小企業向けIPOをブロックチェーン上で24時間365日対応で実施することを目指している。
Kriptown(外部)
Liseの親会社にあたるフランスのフィンテック企業。スタートアップ・中小企業向けにデジタル資産を活用した資金調達プラットフォームを運営している。
BNP Paribas(外部)
フランスを代表するグローバル銀行グループ。Liseの主要株主として出資し、欧州のトークン化証券市場の整備を支援する金融機関の一つである。
CACEIS(Crédit Agricole Group)(外部)
Crédit Agricole Groupの資産サービス部門。Kriptownに少数株主として出資しており、Liseの決済インフラを担う金融機関である。
Bpifrance(外部)
フランス政府系の公的投資・融資機関。中小企業の成長支援を使命とし、Liseの主要株主として欧州のブロックチェーン金融インフラを後押ししている。
【参考記事】
Lise To Host Fully Onchain IPO With ST Group Listing|Cointelegraph(外部)
LiseがST GroupをオンチェーンIPOで上場させる計画を詳報。Hyperledger Besu採用やトークン化株式の市場規模など技術・数値面を含む。
Europe’s First Blockchain IPO Lists on France’s Lise Exchange|BeInCrypto(外部)
ST Groupの2025年売上高・2030年目標・主要取引先など財務データと、DLTパイロット制度の規制上限問題を詳述した記事。
France to Launch World’s First Fully On-Chain IPO on April 9|The Crypto Times(外部)
投資家向け条件(手数料ゼロ・最低1株)の詳細と、Liseが米Securitize・スイスSIXに先行すると主張する背景を報道。
France’s Lise lands DLT license for stock exchange|Ledger Insights(外部)
EU内でDLT TSSライセンスを持つ数社(Lise・21X・Axiology)の比較と、各社の市場ポジションを解説した記事。
France’s Lise Wins License to Launch Europe’s First Tokenized Stock Exchange|CoinDesk(外部)
Liseのライセンス取得の経緯を詳報。対象企業の時価総額要件(5億ユーロ未満、SMEは2億ユーロ未満)などを明記している。
【編集部後記】
株式市場の仕組みが、ブロックチェーンによって静かに書き換えられようとしています。「IPOは大企業のもの」という常識が崩れるとき、資本の流れはどう変わるのでしょうか。私たちと一緒に、4月9日以降の動きを追ってみませんか。

