LINE WORKS株式会社は2026年4月1日より、関連会社のNAVER Cloud Japan株式会社が提供するAI音声モニタリング電話サービス「NAVER CareCall」の販売を開始した。AIが高齢者へ定期的に自動電話をかけ、安否確認・健康状態のモニタリング・心理的サポートを行うものである。
正式提供に先立ち、NAVER Cloudと島根県出雲市は2025年7月に業務協定を締結。出雲市内の高齢者約70名を対象に約9ヶ月間の実証実験を実施した。出雲市は65歳以上が人口の30%を占める。日本では2050年に65歳以上が総人口の約3分の1に達すると見込まれており、福祉事業者の人手不足が深刻化している。本サービスは主に福祉事業者向けに提供され、ケアマネージャーの業務負担軽減を目的とする。
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高齢者向けAI音声モニタリング電話サービス「NAVER CareCall」の販売を開始|PR TIMES
【編集部解説】
「電話がかかってくる」——それだけで、誰かとつながれる。スマートフォンの操作も、アプリのインストールも、何も要らない。NAVER CareCallが体現しているのは、テクノロジーの「引き算の設計」です。最先端のAIをあえて”古い電話”に乗せることで、デジタルから最も遠い場所にいる人たちへリーチしようとしています。
このサービスの原点は、2021年11月に韓国・釜山の海雲台区でスタートしたCLOVA CareCallです。もともとはCOVID-19の濃厚接触者モニタリングを目的として開発されましたが、パンデミック後に高齢者・独居者向けの感情ケアと健康管理へと転用されました。現在、韓国国内では約150の自治体・福祉機関に導入され、およそ5万人の高齢者が利用中です。韓国の地方自治体の過半数がすでに採用しているという事実は、技術実証を超えた「社会インフラ化」の段階にあることを示しています。
定量的な成果も出ています。NAVER Cloudと延世大学の共同研究(2026年3月発表)によると、サービス導入地域では孤独死が44.2%減少との相関が確認され、救急搬送件数も9.2%低下しています。一方で一般病院への受診は1.5%増加しており、これは日常通話の中で健康上の異変を早期発見し、重症化する前に受診を促せているためと研究者らは分析しています。同研究ではサービスが年間約340億ウォン(約2,270万米ドル)の社会的価値を創出したと推計しています。
今回の日本展開において注目すべきは、単なるサービス輸出ではなく、日韓が共通の社会課題——超高齢化と介護人材不足——に対して協働で挑む構図になっている点です。2050年に65歳以上が総人口の約3分の1に達するとされる日本は、ある意味で韓国よりさらに深刻な当事者であり、同種のサービスが必要とされる市場規模も大きい。
ポジティブな側面として、電話インフラさえあれば導入できる低コスト・低摩擦な設計は、地方の過疎地域や離島での展開にも向いています。また、会話ログが自動でテキスト化・要約されることで、ケアマネージャーの記録業務は大幅に省力化されます。人が人を見る時間を確保するために、AIが人の代わりに「聞く」という役割分担は、介護現場のリデザインとして理にかなっています。
一方でリスクや課題も直視する必要があります。先行研究では、会話の繰り返しパターンに「機械的」と感じるユーザーも報告されており、長期的な感情的エンゲージメントの維持が技術的課題として残ります。また、健康情報という極めてセンシティブなデータを扱うサービスである以上、個人情報保護と情報セキュリティの設計が問われます。万が一の誤検知・見逃しが生命に関わりうる領域だけに、AIの判断と人間の介入をどう組み合わせるかの設計思想が重要です。
規制面では、日本の介護保険制度や個人情報保護法との整合性、そして将来的に災害時の安否確認インフラとして活用する場合の行政との連携枠組みが、普及を左右するポイントになるでしょう。プレスリリースが「将来的に災害時の大規模安否確認にも活用」と明記していることは、単なる福祉ツールを超えた社会インフラへの布石と読めます。
「AIに電話してもらう」ことへの心理的ハードルが下がっていくにつれて、このサービスが描く未来は介護領域にとどまりません。予防医療、メンタルヘルス、地域コミュニティの再構築——AIが「声のあるインフラ」として機能し始める世界の入口が、この一本の電話にあるかもしれません。
【用語解説】
ケアマネージャー(介護支援専門員)
介護保険制度に基づき、要介護者や家族の相談に応じ、適切な介護サービスの計画(ケアプラン)を作成・調整する専門職。利用者への定期的な電話連絡や健康状態の記録といった業務も担っており、本サービスが代行を目指す主な対象業務でもある。
孤独死
独居の高齢者などが、誰にも気づかれないまま自宅で亡くなること。日本でも深刻な社会問題であり、定期的な安否確認の重要性が高まっている。
介護保険制度
2000年に施行された日本の社会保険制度。40歳以上が保険料を納め、要介護・要支援と認定された人が介護サービスを受けられる仕組みである。ケアマネージャーはこの制度の中核を担う存在。
超高齢化社会
65歳以上の人口が総人口の21%を超えた社会を指す。日本はすでにこの段階にあり、出雲市のように30%を超える地域も珍しくない。
予防医療
病気の発症や重症化を未然に防ぐことを目的とした医療アプローチ。NAVER CareCallの通話による早期異変検知は、この予防医療の観点からも評価されている。
【参考リンク】
LINE WORKS株式会社 公式サイト(外部)
「LINE WORKS」やAI製品を展開するLINE WORKS株式会社の公式サイト。NAVER CareCallの日本での販売を担当する。
NAVER CareCall 製品紹介ページ(外部)
NAVER CareCallの公式製品ページ。サービスの概要・特徴・利用イメージ・問い合わせフォームが掲載されている。
NAVER Cloud 公式サイト(日本語)(外部)
韓国最大級のクラウドサービスプロバイダー。NAVER CareCallの開発元であり、独自の超大規模AIモデルHyperCLOVA Xを擁する。
延世大学(Yonsei University)公式サイト(外部)
韓国の名門私立大学。NAVER CloudとCareCallの社会的価値測定に関する共同研究を発表したESG研究センターが所属する。
【参考動画】
出雲市での実証実験に参加した福祉事業者および利用者へのインタビュー動画(LINE WORKS公式チャンネル)。
【参考記事】
Naver AI CareCall Reduces Solitary Deaths by 44.2%|The Pickool(外部)
NAVER Cloudと延世大学の共同研究を報じる記事。孤独死44.2%減、救急搬送9.2%減などの数値結果と社会的価値試算を掲載。
CLOVA CareCall Adopted in Izumo, Japan|Naver Corporation via publicnow.com(外部)
出雲市との業務協定締結を報じたNAVER公式発表。韓国で自治体の過半数が導入済みとの情報や2021年のサービス開始経緯を確認できる。
AI for people: CLOVA Carecall Service by NAVER|Futurium(欧州AI Alliance)(外部)
欧州AI Allianceに掲載されたNAVER公式解説。音声認識・会話記憶機能・プライバシー設計など技術の詳細が詳述されている。
Understanding the Benefits and Challenges of Deploying Conversational AI|ACM Digital Library(外部)
CareCall関係者34名へのインタビュー研究。会話の繰り返しへの不満やLLM型チャットボットの課題を指摘する学術論文。
Naver Showcases AI Care Tech for Elderly at Osaka Expo|Korea Bizwire(外部)
大阪万博でのNAVER CareCall展示を報じた記事。1日約4,000人が訪問するなど日本人来場者の高い関心を伝えている。
【編集部後記】
「AIに電話をかけてもらう」という体験を、あなたはどう感じますか?違和感を覚える方もいれば、むしろ人に気を遣わずに話せると感じる方もいるかもしれません。
テクノロジーが「ケア」に踏み込むとき、私たちが本当に大切にしたいものは何か——そんなことを、一緒に考えていけたらと思っています。

