2026年4月4日、Crunchyrollで配信開始された『本好きの下剋上』第4期のオープニング映像において、Wit StudioがAI生成背景を使用したとファンが指摘し、SNS上で批判が殺到した。外注先のNam Hai Artが制作した可能性が高いが、最終承認はWit Studioが行った。
Wit StudioのCEO・和田丈嗣氏はNetflix版『ONE PIECE』リメイクに関するインタビューでAIをクリエイターへの「脅威」と発言しており、その矛盾が批判をさらに強めた。Wit Studioは2023年にもNetflix Japan制作の短編「犬と少年」でAI背景使用の批判を受けており、今回が2度目となる。『呪術廻戦』の総作画監督は「様々なスタジオがすでに生成AIを使用しているが、公にしていない」と証言している。
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Wit Studio Faces Backlash Over AI Art Use in Ascendance of a Bookworm Opening
【編集部解説】
今回の騒動を正確に理解するためには、まず「誰が何をしたのか」という構造を整理する必要があります。批判の矛先はWit Studioに向いていますが、クレジットをたどると、AI背景を実際に制作したのはベトナムの外注スタジオ・Nam Hai Artである可能性が高いとされています。Wit Studioは社内の背景美術職の採用において生成AIの使用を明示的に禁止しているという指摘もあり、今回の問題はWit Studio本体の意図的な選択というよりも、外注先のクオリティコントロールの失敗という側面が強いと考えられます。
ただし、それをもってWit Studioの責任がないとは言えません。最終的な成果物を承認したのはWit Studioであり、その点において批判は正当性を持ちます。アニメ業界における外注・孫請け構造は長年の慣行ですが、AIというリスク要因が加わった今、「承認した側が責任を負う」という原則の重要性はこれまで以上に高まっています。
批判がとりわけ大きくなった背景には、Wit StudioのCEO・和田丈嗣氏がNetflix版『ONE PIECE』リメイクに関するインタビューでAIを「脅威」と明言していた事実があります。公式の発言と現実の制作現場との間に生じた矛盾が、ファンの怒りを増幅させたのです。また、人気アニメYouTuberのジェフ・シュー氏(Mother’s Basementチャンネル)がこの映像を公然と批判したことで、英語圏での炎上速度はさらに加速しました。
2023年の「犬と少年」と今回の事案には、重要な違いがあります。「犬と少年」はNetflix アニメ・クリエイターズ・ベース・rinna・Wit Studioによる共同プロジェクトとして、AI背景の使用を最初から公言した「実験」でした。一方、今回は視聴者がオープニング映像を見て初めて発覚したもので、スタジオ側からの事前説明は一切ありません。「開示された実験」と「発覚した未開示」では、受け手の印象はまるで異なります。
アニメ業界が抱える構造的問題も、この騒動の背景として見落とせません。Business Insiderの報道によると、日本国内のアニメーターは5,000人から6,000人程度しかおらず、1作品の制作に約200人が必要とされる一方、年間約300本もの作品が制作されています。動画担当のアニメーターは1枚の作画に対して約200円(2ドル以下)という低単価で働いており、年収は約110万円(約1万ドル)という水準で、2019年時点の日本の貧困ライン220万円を大きく下回っています。スタジオがAIの誘惑に駆られる背景には、こうした慢性的な人手不足と低賃金構造があります。
この問題が与える影響の範囲は、アニメ業界にとどまりません。Crunchyrollは「声優を含むクリエイティブプロセス」においてAIを使用しないと約束しており、プラットフォーム間でのスタンスの違いが鮮明になっています。AI使用の開示基準をどこに設けるか、外注先を含めたサプライチェーン全体でどう管理するか——これらは日本のコンテンツ産業全体が直面する問いでもあります。
長期的な視点で見れば、AIツールはアニメ制作の生産性を劇的に向上させる可能性を持っています。問題はAIを使うかどうかではなく、「誰が、どのように、どこまで使うか」を業界全体で合意し、透明性を持って実行できるかどうかです。今回の騒動は、その合意形成を避け続けた業界への警告として機能しています。Wit Studioがこの問題にどう向き合うかは、日本アニメの信頼性と国際競争力に直結する問いでもあります。
【用語解説】
生成AI(Generative AI/ジェネレーティブAI)
テキストや画像などを自動生成する人工知能技術の総称である。アニメ背景美術の分野では、手描きのレイアウトをもとにAIが背景画像を生成・加工する用途で使われ始めている。MidjourneyやStable Diffusionなどが代表的なツールだが、「犬と少年」ではDALL-Eをベースにした独自開発のAIが用いられた。
背景美術
アニメにおいて、キャラクターの後ろに描かれる建物・自然・室内などの背景画を制作する工程・職種である。キャラクター作画とは別に専門のスタッフが担当し、1カットごとに緻密な手描き作業が求められる。低賃金・過重労働が慢性化しているアニメ業界の中でも、特に外注化が進みやすい工程とされている。
外注・孫請け構造
アニメ制作において、元請けスタジオが制作の一部を別会社(外注先)に委託し、さらにその外注先が別の会社に再委託(孫請け)する多層的な発注構造のことである。コスト削減や人手不足への対応として広く行われているが、品質管理や倫理的責任の所在が曖昧になりやすい問題をはらんでいる。
【参考リンク】
Wit Studio(ウィットスタジオ)公式サイト(外部)
「進撃の巨人」「SPY×FAMILY」などを手がける東京拠点のアニメ制作スタジオ。Netflix版『ONE PIECE』リメイクを控え、AI問題での対応に注目が集まっている。
Nam Hai Art 公式サイト(外部)
2011年設立のベトナム・ホーチミン市拠点の背景美術専門スタジオ。「進撃の巨人」など多数の日本アニメ制作に長年参加してきた実績を持つ。
Crunchyroll 公式サイト(外部)
世界最大規模のアニメ動画配信プラットフォーム。声優を含むクリエイティブプロセスにAIを使用しないと公言し業界内で注目される。
Netflix Japan 公式サイト(外部)
世界最大の動画配信サービスの日本版。2023年の「犬と少年」でAI背景問題の当事者となり、アニメとAIをめぐる議論の中心に位置する。
【参考記事】
Netflix’s ‘Dog and Boy’ anime causes outrage for incorporating AI-generated art(Engadget)(外部)
年収約110万円・1枚約200円という賃金データを示し、AI導入の構造的問題を批判的に分析した英語記事。
Netflix Made an Anime Using AI Due to a ‘Labor Shortage,’ and Fans Are Pissed(Vice)(外部)
過労死・低賃金などアニメ業界の歴史的な労働問題と絡め、批判の構造的背景を分析した英語記事。
Netflix’s AI Anime Gets Roasted For Crediting Artist As ‘Human’(Kotaku)(外部)
「犬と少年」クレジットでの人間扱い問題を軸に、クリエイターの権利と透明性の観点から論じた英語記事。
【編集部後記】
私たちが毎週楽しんでいるアニメの背景画に、いつの間にかAIが紛れ込んでいたとしたら——あなたはそれを見抜けるでしょうか。そして、見抜けたとして、それは「悪いこと」なのでしょうか。
クリエイターを守りたいという気持ちと、慢性的な人手不足という現実の間で、業界はいま本当に難しい選択を迫られています。この問いに「正解」はなく、私たちも答えを持ち合わせていません。みなさんはどう感じますか?

