Tangem Pay、日本上陸|セルフカストディのまま、暗号資産でVisaが使える時代へ

Tangemは2026年4月4日、日本市場において新サービス「Tangem Pay」の提供開始を発表した。同サービスはTangem Walletアプリに統合されており、ユーザーはPolygonネットワーク上のUSDCを支払い用アカウントにチャージし、バーチャルVisaカードを通じて決済を行う。

カードはApple PayおよびGoogle Payに追加でき、Visa加盟店であればオンライン・店舗を問わず利用可能だ。月額費用・カード発行手数料・Tangemによる取引手数料は発生しない。USDCからUSDへの変換は1:1で行われ、ネットワーク手数料および為替手数料のみが適用される。日本展開にあたってはSBIホールディングスの支援を受けている。Tangemは2017年設立のスイス企業であり、日本総代理店は株式会社FORTUNEが務める。

From: 文献リンクTangem、日本で「Tangem Pay」をローンチ

【編集部解説】

「暗号資産を日常で使う」という命題は、Web3の黎明期からずっと語られてきました。しかし現実には、使うたびに取引所へ送金し、法定通貨に換えて、手数料を払う——その煩雑さが普及の壁になってきました。Tangem Payは、その壁を正面から突き崩しにきた仕組みです。

まず、仕組みをシンプルに整理しましょう。ユーザーはPolygonネットワーク上のUSDC(米ドル連動のステーブルコイン)をTangem Payの決済用スマートコントラクトアカウントにチャージします。支払い時には、そのスマートコントラクトから必要な金額だけが自動的に引き落とされ、Visaの決済ネットワークを通じて加盟店へ届きます。お店側には通常の法定通貨決済として処理されるため、店舗側に暗号資産対応の準備は一切不要です。

「セルフカストディ」という言葉について補足しておきます。一般的な暗号資産カードでは、ユーザーの資産がサービス会社の管理するウォレット(カストディ型)に預けられます。つまり、企業が倒産したり不正アクセスを受けたりすると、資産を失うリスクが生じます。2022年のFTX破綻がその最悪の事例でしょう。Tangem Payでは、主要資産はTangem Walletのセルフカストディ環境に留まり、チャージ分のみがPolygon上のスマートコントラクトへ移動します。このスマートコントラクトはユーザーが主体的に制御しており、決済パートナーのRainが関与できるのはユーザーがすでに承認した決済分のみに限られます。

ただし、プレスリリースには触れられていない重要な裏側があります。実際にサービスを提供しているのは米国企業のPaera LLC、コンプライアンスと決済処理を担うのはRain(ステーブルコイン決済インフラ企業)、カードを発行しているのはVisa認定のThird Nationalです。Tangem Payは単一企業の製品ではなく、複数の金融・技術インフラの連携によって成立しています。この点は、万一トラブルが生じた際のサポート体制や責任の所在を理解するうえで、ユーザーとして把握しておきたいところです。

また、Tangem Payのグローバルローンチは実際には2025年11月に行われており、日本を含む38〜42カ国が対象となっていました。今回のプレスリリースは、日本における認知向上と正式展開を改めてアナウンスするものと理解するのが正確です。

技術的な観点からはPolygonネットワークの選択が興味深いポイントです。Polygonはイーサリアムのレイヤー2チェーンであり、トランザクション手数料が0.01ドル以下と非常に低コスト。これにより、コーヒー一杯のような少額決済にも対応できます。

規制面では、日本でもステーブルコインに関する法整備が2023年から進んでおり、USDCのような外国発行のステーブルコインの国内流通にはまだ制度的な不確実性が残ります。Tangem Payが国内でどこまでスムーズに展開できるかは、今後の規制動向と切り離せません。SBIホールディングスという強力な後ろ盾は、こうした規制環境をナビゲートする意味でも戦略的な意義があります。

長期的な視点で見ると、このサービスが示しているのは「ウォレット=銀行口座」という新しいパラダイムです。Tangemはウォレットを「保管(Store)・運用(Grow)・利用(Spend)」の統合プラットフォームとして描いており、今後フィジカルカードの発行やインセンティブプログラムの追加も視野に入れています。暗号資産が「投資対象」から「生活インフラ」へと移行していく流れのなかで、Tangem Payはその具体的な一手といえるでしょう。

【用語解説】

セルフカストディ
暗号資産の秘密鍵(資産へのアクセス権)を、取引所などの第三者に預けず、自分自身で管理する方法。「Not your keys, not your coins(鍵を持たなければ、それはあなたのコインではない)」という原則に基づく。

ステーブルコイン
米ドルなどの法定通貨に価値を連動させた暗号資産の一種。価格が安定しているため決済手段として活用されやすい。USDCはその代表例で、1USDC=1USDに固定されている。

スマートコントラクト
ブロックチェーン上で自動実行されるプログラム。あらかじめ設定されたルールに従い、第三者の介在なしに取引や処理を自動的に行う。Tangem Payでは、ユーザーの決済用残高がこのスマートコントラクト上で管理され、ユーザーが承認した金額のみが引き落とされる仕組みになっている。

レイヤー2(L2)
既存のブロックチェーン(レイヤー1)の上に構築された追加処理層。メインチェーンの混雑を回避し、処理速度の向上と手数料の削減を実現する。Polygonはイーサリアムのレイヤー2として機能する代表格である。

KYC(Know Your Customer)
金融機関が顧客の本人確認を行う手続きのこと。マネーロンダリング防止や不正取引対策として、法規制上求められることが多い。Tangem Payでは決済アカウントの開設時のみKYCが必要で、メインウォレットの匿名性には影響しない。

MiCA(Markets in Crypto-Assets)
EUが策定した暗号資産に関する包括的な規制フレームワーク。ステーブルコイン発行者への準備金要件や情報開示義務などを定め、2024年から段階的に施行されている。

GENIUS Act(ジーニアス法)
米国で審議・制定が進んだ「ペイメント・ステーブルコイン」に関する連邦法。ステーブルコインの法的定義の確立や、発行体に対する流動資産による準備金保有・月次開示の義務付けなどを主な内容とする。

FTX
2022年に経営破綻した大手暗号資産取引所。カストディ型サービスの危険性を世界に知らしめた事件として暗号資産史上最大級の破綻とされ、多くのユーザーが資産を失った。セルフカストディへの関心が高まる契機となった。

【参考リンク】

Tangem 公式サイト(日本語)(外部)
2017年創業のスイス企業。セルフカストディ型ハードウェアウォレットを製造・販売。Tangem Payの開発元。

Tangem Pay 公式ページ(外部)
Tangem Payの機能・対応地域・料金体系・FAQを網羅した公式ページ。最も信頼性の高い一次情報源。

株式会社FORTUNE(日本総代理店)(外部)
Tangemの日本総代理店。日本国内でのTangemウォレット販売およびサポートを担う企業。

Visa(ビザ)(外部)
世界最大の決済ネットワーク。世界1億3,000万以上の加盟店を持ち、Tangem Payのカード決済基盤を提供する。

Circle(USDC発行元)(外部)
USDCを発行する米国フィンテック企業。Tangem Payの決済通貨として採用されるドル連動ステーブルコインの発行元。

Polygon(ポリゴン)(外部)
イーサリアムのレイヤー2ブロックチェーン。手数料0.01ドル以下の低コストが強みで、Tangem Payの決済基盤として採用されている。

Rain(レイン)(外部)
Tangem Payのコンプライアンス・決済処理を担うステーブルコイン決済インフラ企業。2億5,000万ドルのシリーズC調達済み。

【参考記事】

Tangem brings self-custody to payments with global USDC Visa card — Cryptopolitan(外部)
グローバル展開42カ国・GENIUS ActやMiCAとの規制上の関係を詳報。数字・規制面で最も充実した記事の一つ。

Tangem Wallet Review 2026 — Coin Bureau(外部)
カード生産枚数600万枚超・5社の協業構造・過去のセキュリティ事例を網羅した2026年版の詳細レビュー。

Self-custody meets KYC: Tangem launches Visa payments with Paera — Cointelegraph(外部)
展開国数38カ国・CEOマルコス・ヌネスのコメントを掲載。42カ国との差異を把握するうえで参照した重要記事。

What is Tangem Pay? A Serious Step Toward Self-Custodial Payments — Coin Bureau(外部)
仕組み・手数料・展開地域・Rainとの共同署名モデルを体系的に解説。編集部解説の訂正根拠となった記事。

Tangem Pay to Connect Cold Wallet Users to USDC Spending — BitDegree(外部)
Paera・Third National・Rain・Sumsub・Ellipticの5社構成を正確に整理。インフラ理解に不可欠な記事。

Tangem Pay is Now Available to All Users in Select Regions Worldwide — Tangem Blog(外部)
EEAへの展開開始(2026年3月23日〜)などを確認できる、Tangem公式の最新一次情報源。

【編集部後記】

暗号資産を「持っているけど、日常ではまだ使えていない」という方は、まだまだ多いのではないでしょうか。私たちも同じ問いを抱えながらこの記事を書きました。

自分の資産を手放さずに、コンビニでもネットショッピングでも使える——そんな体験が現実になりつつある今、あなたはどう感じますか?ぜひ率直な声を聞かせてください。

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