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サステナブルニュース

6月17日【今日は何の日?】砂漠化および干ばつと闘う世界デー ~『デューン 砂の惑星』は現実になるのか?テクノロジーと私たちの選択が未来を分ける~

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 - innovaTopia - (イノベトピア)

本日6月17日は、国連が定める「砂漠化および干ばつと闘う世界デー」です。1994年のこの日に「国連砂漠化対処条約」が採択されたことを記念しています。
2025年のテーマは「Restore the land. Unlock the opportunities」(土地を回復させよう。機会を解き放とう)です。

このテーマを聞いて、多くの方が遠い国の砂漠の風景を思い浮かべるのではないでしょうか。でも、一緒に少し違う角度から考えてみませんか?

フランク・ハーバートのSF小説『デューン 砂の惑星』をご存知でしょうか。そこでは生命の水が極限まで渇望され、巨大なサンドワームが支配する砂の海が広がっています。貴重な資源を巡る争い、生態系を根底から変えるテクノロジー、そしてその過酷な環境に適応し生きる人々の姿が描かれています。

この物語は遠い銀河のフィクションでしょうか?それとも私たちが直面しつつある現実の痛烈なメタファーなのでしょうか?

砂漠化は単なる自然現象ではありません。私たち人類が築き上げてきた文明システムが地球に落とす「長い影」の物語です。そして今、その影を光に変えようとする新たなテクノロジーと人間の選択の物語が始まろうとしています。

私たちはいかにして砂漠を創り出したか

まず一緒に向き合ってみたいのが、ある事実です。砂漠化の多くは自然の失敗ではなく、人間が設計したシステムの意図せざる結果だということです。

2006年、国連食糧農業機関(FAO)は『畜産物の長い影(Livestock’s Long Shadow)』という衝撃的な報告書を発表しました。この報告書は世界の土地劣化と砂漠化の主要な原因の一つが、20世紀の技術的「進歩」の象徴であった工業的畜産にあることを明らかにしました。

驚異的な土地利用: 地球上の氷雪に覆われていない土地の約半分は農業のために使われています。そしてその農地の実に4分の3以上が畜産(家畜の放牧や飼料の生産)のために利用されています。

森林破壊の駆動源: 特にラテンアメリカでは、かつてアマゾンの熱帯雨林だった地域の70%が放牧地へと姿を変えました。私たちが消費する食肉を生産するために、地球の肺とも呼ばれる森が今この瞬間も失われ続けています。

これは効率と生産性を極限まで追求した集約的生産システムがもたらした予期せぬコストです。私たちを豊かにするはずだったシステムが、なぜ地球の生命基盤そのものを脅かすことになったのでしょうか?この疑問から一緒に考えてみませんか。

テクノロジーという名の大地再生

物語は絶望では終わりません。人類の創意工夫は自らが作り出した課題に対し、かつてないスケールの解決策を生み出し始めています。「Tech for Human Evolution」――テクノロジーは人類の進化のために。その理念を体現する希望の光がいくつも見えてきています。

GeoAIで地球の健康を診る

私たちは地球という生命体の状態をリアルタイムで把握する新たな「感覚器官」を手に入れました。それが地理空間情報とAIを融合させた「GeoAI」です。

衛星が地球の「目」となり、AIが「脳」となって広大な土地のデータを解析します。例えば正規化植生指数(NDVI)という指標を使えば、植物の健康状態を色分けして可視化できます。これにより砂漠化の兆候を早期に発見し、どの土地が助けを必要としているかを正確に診断できるのです。これは人類の知覚能力そのものの進化と言えるかもしれません。

生命のOSを書き換える:CRISPRによる耐乾燥作物

もし植物自身が過酷な環境に適応できたらどうでしょうか?ノーベル賞を受賞したゲノム編集技術「CRISPR(クリスパー)」がその可能性の扉を開きました。

科学者たちはまるで生命のOSを書き換えるように、植物が持つDNAの中から乾燥に耐える能力に関わる遺伝子を正確に編集し始めています。この技術により従来の品種改良とは比較にならないスピードで、干ばつや高温に強い作物を生み出すことが可能になります。これは自然の力と人間の知性が融合し、気候変動時代を生き抜くための新たな進化の形かもしれません。

アグリボルタイクスが砂漠を緑に変える

エネルギー問題と食料問題、そして土地問題を同時に解決するアイデアがあります。それが「アグリボルタイクス(ソーラーシェアリング)」です。

中国の内モンゴル自治区にあるクブチ砂漠。かつて「死の海」と呼ばれたこの場所に巨大な太陽光パネルが設置されています。しかしその目的は発電だけではありません。

パネルが作り出す日陰は灼熱の太陽から大地を守り、土壌の水分蒸発を抑えます。これによりパネルの下に植物が育つための「マイクロクライメット(微気候)」が生まれるのです。実際に太陽光発電所の設置エリアでは顕著な「緑化傾向」が確認されています。エネルギーを生み出しながら土地を癒し、生態系を回復させる。これは私たちの土地との関係が収奪的なものから共生的なものへと進化する可能性を示唆しているのではないでしょうか。

土地からの解放:垂直農法

もし食料生産を「土地」という制約から完全に解放できたらどうでしょう?

「垂直農法(Vertical Farming)」はその名の通り、建物の階層を利用して垂直方向に作物を育てる革新的な農業です。特に「エアロポニックス(空中栽培)」と呼ばれる技術は土を一切使わず、栄養分を含んだ霧を根に直接噴霧して植物を育てます。

この方法なら従来の農業に比べて水の使用量を90%以上も削減でき、天候に左右されず都市の真ん中で一年中新鮮な野菜を生産できます。これは広大な農地を自然に還し、再野生化(リワイルディング)させるという壮大な未来への扉を開くかもしれません。

光が落とす新たな影

ただ、テクノロジーは万能の魔法ではありません。その光が強ければ新たな影もまた生まれます。

生態系への配慮: 砂漠に大規模なソーラーファームを建設することは、そこに息づく固有の生態系を分断し、リクガメのような生物の生息地を脅かす可能性があります。

資源という課題: パネルの性能を維持するためには定期的な洗浄が必要です。しかし水が貴重な砂漠で、その洗浄水をどう確保するのでしょうか。砂嵐が頻発する地域でのメンテナンスコストも無視できません。

倫理的な問い: CRISPR技術は生命の設計図にどこまで介入することが許されるのでしょうか。その恩恵は富める国や人々に偏り、新たな格差を生み出すのではないでしょうか。

「進化」とは常に試行錯誤のプロセスです。これらの課題に真摯に向き合う知的な誠実さこそが、テクノロジーを真に人類の進化へと繋げる鍵となるのかもしれません。

私たちの選択が未来の景色を変える

地球規模の壮大な問題も、その根源をたどれば私たち一人ひとりの日々の選択に行き着きます。砂漠化との闘いの最前線は遠い国の砂丘ではなく、私たちの食卓とクローゼットの中にこそあるのかもしれません。

あなたの食卓は、大地と繋がっている

食品ロスという名の無駄: 日本ではまだ食べられるのに捨てられてしまう食品、いわゆる「フードロス」が年間約472万トン(家庭から)発生しています。これはその食品を生産するために使われた広大な土地と大量の水が無駄になっていることを意味します。フードロス削減アプリの「TABETE」や「Kuradashi」「タダヤサイ」などを活用し、美味しくお得に食事を「レスキュー」することは誰にでもできる大地を守るアクションです。

肉食のインパクト: 前述の通り畜産業は土地利用の最大の要因の一つです。例えば牛肉1kgを生産するために排出される温室効果ガスは豆類の数十倍にもなります。毎日の食事で少しだけ植物由来の食品を選ぶ。その小さな選択が地球全体の土地利用のあり方を変える力を持っています。

あなたのクローゼットが、世界の水を消費している

Tシャツ一枚の代償: 一枚のコットンTシャツを作るために、どれくらいの水が必要かご存知ですか?その量は実に約2,700リットル。これは一人の人間が3年近くかけて飲む水の量に匹敵します。

賢い選択のための「ものさし」: 私たちはより環境負荷の少ない製品を選ぶための「ものさし」を持つことができます。例えばオーガニック繊維の国際基準である「GOTS認証」や、日本の環境ラベル「エコマーク」などは、その製品が環境や社会に配慮して作られたことの証です。ファストファッションの衝動買いを一度だけ我慢し、長く使える一着をこうした認証を頼りに選んでみる。それもまた未来の砂漠化を防ぐパワフルな一歩です。

緑化すべきは、私たち自身の「内なる砂漠」

『デューン』の物語は惑星アラキスを緑豊かな星へと変える「テラフォーミング」の夢を描きました。それは資源を巡る闘争の物語であると同時に、人々の意識と価値観を変革する物語でもありました。

今、私たちはかつてSFの世界でしか描かれなかったような惑星を癒すためのテクノロジーを手にしつつあります。GeoAIで地球を診断し、CRISPRで生命を適応させ、アグリボルタイクスで大地と共生する。

でも本当の課題はテクノロジーの有無ではないのかもしれません。

私たちが本当に緑化すべき「砂漠」とは乾いた土地の上にあるのではなく、短期的な利益や目先の便利さばかりを求める私たち自身の「内なる砂漠」ではないでしょうか。

テクノロジーという強力なツールを、私たちはどのような哲学と倫理観を持って使いこなすのか。その集合的な意識の「進化」なくして真のサステナビリティは実現できません。

6月17日。この日に少しだけ想像してみませんか?あなたの今日の選択が10年後、100年後の地球の景色をほんの少しだけ緑豊かなものに変えるかもしれないということを。

【参考リンク】

GeoAI
地理空間データとAI(機械学習・ディープラーニング)を融合させた技術 。画像や各種データから情報を自動で抽出し、パターンの検出や未来の予測を行うことで、都市計画や自然資源管理、防災など多様な分野での迅速な意思決定を支援します 。

TABETE
美味しく安全に食べられるにも関わらず、廃棄の危機にある食事を「レスキュー」できるフードシェアリングサービス 。ユーザーはアプリを通じて近隣のお店の余剰食品を割引価格で購入でき、手軽に食品ロス削減という社会貢献に参加できます 。

Kuradashi
フードロス削減を目指す日本発のソーシャルグッドマーケット 。賞味期限が近いなどの理由で廃棄される可能性のある商品を、お得な価格で販売。購入金額の一部は環境保護や社会福祉団体への寄付につながる仕組みです 。

タダヤサイ
訳あり野菜やフルーツ、冷凍フルーツなどをお得な価格で販売する通販サイトです。見た目に難がある野菜や旬の果物を、全国に送料込みで届けることで、食品ロス削減と消費者の節約を両立することをコンセプトとしています。

エコマーク
日本環境協会が運営する、日本で唯一のタイプI環境ラベル 。製品のライフサイクル全体(生産から廃棄まで)で環境への負荷が少ないと認められた商品やサービスに付けられ、消費者の環境配慮型の商品選択を助けます 。

GOTS認証
オーガニック繊維製品の世界的な基準を定める国際認証 。原料の収穫から環境・社会に配慮した製造、そしてラベリングまで、サプライチェーン全体を第三者機関が検査し、消費者に信頼性の高い製品を保証します 。

【参考記事】

Livestock’s Long Shadow – A Well-Fed World

Massive 2-GW Agrivoltaic Project Aims To Restore Desert In China

CRISPR-Cas9 Plant Genome Editing for Drought Resistance

The Water Impact of Textiles & Why Everywhere Uses Recycled Cotton


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エネルギー技術ニュース

中国・墨脱ダムプロジェクト建設開始|三峡ダム4倍の発電能力が南アジア水資源に与える影響

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墨脱ダム2025年7月着工、中国が1,670億ドル投じる世界最大水力発電プロジェクトの地政学的衝 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国が発表した墨脱ダムプロジェクトは、チベット高原のヤルツァンポ川に建設される大規模水力発電施設である。計画出力は60ギガワットで、三峡ダムの4倍の発電能力を持つ。新華社通信によると、総事業費は1.2兆元(約1,670億ドル)と推定される。

中国は現在193の水力発電プロジェクトを進めており、総発電能力は270ギガワットに達する見込みである。これらのプロジェクトの80%は100メガワット以上の規模で、59%が準備段階または研究段階にある。

墨脱ダムの建設により、これまでに34の稼働中ダムで12万人以上が移住を余儀なくされた。193のダム全体では75万人から100万人が影響を受ける可能性がある。

チベットから流れる水には約18億人が依存しており、インドなどの下流域に影響する。中国は下流への悪影響はないと約束しているが、インドは自国保護のため必要な措置を講じると表明している。中国の人口は14億人で、世界の水資源の6%を保有する。

このプロジェクトは中国のエネルギー需要増加への対応と近隣諸国への電力輸出を可能にする。チベット地域は地震リスクと気候変動による影響も懸念される。

From:文献リンクChina’s $165B Mega-Dam Could Rival the Power of an Entire Nation’s Nuclear Fleet

【編集部解説】

innovaTopiaの読者のみなさんにこの墨脱ダムプロジェクトの重要性をお伝えするために、まず正確な数字から整理していきましょう。

建設開始は2025年7月19日で、李強首相が出席した正式な着工式が行われました。総事業費については複数の情報源があり、中国新華社は1.2兆元(約1,670億ドル)、その他の報道では1,370億ドルから1,700億ドルと幅があります。年間発電量は300億キロワット時で、これは英国全体の年間電力消費量に匹敵する規模です。

発電能力については60ギガワットで、三峡ダムの約4倍の発電能力となります。年間発電量では3倍という表現が正確です。運転開始は2033年を予定しており、一部では2045年完成予定とする情報もあります。

このプロジェクトが注目される理由は、単なる発電施設を超えた戦略的意味にあります。建設地のチベット高原は、アジア大陸の「給水塔」と呼ばれています。

墨脱ダムが位置するヤルツァンポ川は、インドに入るとブラマプトラ川となり、最終的にはバングラデシュに流れ込みます。約18億人がこの水系に依存しており、中国はこの巨大ダムによって下流域の水資源をコントロールする力を手に入れることになります。

技術的な課題も見逃せません。建設予定地は世界で最も地震活動が活発な地域の一つです。インドプレートとユーラシアプレートの境界に位置し、2021年には氷河崩壊により約1億トンの岩石と氷の大規模な地滑りが発生した地域でもあります。

工学的には、50キロメートルの区間で2,000メートルの落差を活用し、ナムチャバルワ山を貫通する4本の20キロメートルのトンネルを通じて、5つの段階的な水力発電所に水を送る計画となっています。

環境面では、このプロジェクトがチベット高原の生物多様性に与える影響が懸念されています。ダム建設により川の自然な流れが変化し、下流域の肥沃な土壌を支える栄養豊富な堆積物の流れが遮断される可能性があります。これはインドのアッサム州やバングラデシュの農業生産性に長期的な影響を与えかねません。

地政学的な影響も重要です。中国がこのプロジェクトを「生態保護を優先する」と位置づける一方、インドは自国保護のため「必要な措置を講じる」と表明しています。これは2019年のメコン川流域での事例と同様、中国が近隣諸国に対する外交カードとして水資源を活用できることを意味します。

経済面では、シティグループの分析によると、建設初年度だけで中国のGDP成長率を0.1%押し上げる効果が見込まれています。建設、セメント、鉄鋼業界への波及効果も大きく、関連企業の株価は発表後に大幅上昇しました。

このダムが完成すれば、中国西部から東部の大都市圏への電力供給が可能になり、同時に近隣諸国への電力輸出により経済的な影響力を拡大させることも期待されています。

innovaTopiaが「未来を報じるメディア」として今この記事を取り上げる理由は明確です。このプロジェクトは21世紀の地政学における「水資源を巡る覇権」という新しいパワーゲームの象徴だからです。20世紀が石油の世紀だったとすれば、21世紀は水の世紀になりつつあり、中国はその先手を打っているといえるでしょう。

【用語解説】

墨脱ダムプロジェクト
正式名称は雅魯藏布江墨脱水力発電所(Motuo Hydropower Station)。チベット高原のヤルツァンポ川に建設予定の世界最大規模の水力発電施設。60ギガワットの発電能力を持ち、年間300億キロワット時を発電予定。

ギガワット(GW)
10億ワットを表す電力の単位。1ギガワット=1,000メガワット。原子力発電所1基の出力がおよそ1ギガワット程度であることから、60ギガワットは原子力発電所60基分に相当する。

ヤルツァンポ川
チベット高原を流れる河川で、インドに入るとブラマプトラ川、バングラデシュではジャムナ川と名前が変わる。全長2,900キロメートルで、約18億人の生活用水を支える国際河川。

段階式発電(カスケード発電)
複数のダムを段階的に配置し、連続的に発電を行うシステム。墨脱プロジェクトでは5つの発電所が段階的に配置される予定。

【参考リンク】

新華社通信(外部)
中国の国営通信社。墨脱ダムプロジェクトの公式発表を含む中国政府の最新情報を提供

中国華能集団(外部)
墨脱ダムの運営主体となる中国最大級の国有電力企業、多様なエネルギー源を扱う

Global Energy Monitor(外部)
世界のエネルギープロジェクトを追跡監視、水力発電プロジェクトの詳細データを提供

【参考記事】

Medog Hydropower Station – Wikipedia(外部)
正式着工日や建設スケジュール、地震リスクや環境影響について詳細に記載

China Launches Construction of Megadam Project – ENR(外部)
李強首相出席の着工式詳細とトンネル工事や段階式発電所の技術的構成を解説

China Embarks on a New Hydroelectric Project — the World’s Largest(外部)
総事業費と年間発電量の具体的数値、2030年代の運転開始予定について報告

Beijing begins construction the Motuo Dam in Tibet – AsiaNews(外部)
新華社発表の総事業費とGDP押し上げ効果、2021年氷河崩壊事故について詳述

By building the world’s biggest dam, China hopes to control more than just its water supply(外部)
三峡ダムとの正確な比較データと水資源外交の前例についての分析を提供

China’s mega-dam and the weaponisation of water in South Asia(外部)
総事業費と最終承認時期、インドとの水資源を巡る外交対立の詳細を報告

【編集部後記】

水資源が新たな「戦略的武器」となる時代に、私たちはどう向き合うべきでしょうか。中国の墨脱ダムプロジェクトは、単なる巨大インフラを超えて、21世紀の地政学を象徴する出来事だと感じています。

日本も島国として水資源には恵まれていますが、技術立国として、またアジアの一員として、この「水の世紀」にどんな役割を果たせるのか。テクノロジーが国境を越えた協力の架け橋になり得るのか、それとも新たな対立の火種となってしまうのか。
ぜひSNSで、みなさんの視点をお聞かせください。

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サステナブルニュース

中国CASIC、時速1000kmマグレブの最大障壁「トンネルブーム」を96%削減する技術開発に成功

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中国CASIC、時速1000kmマグレブの最大障壁「トンネルブーム」を96%削減する技術開発に成功 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国航天科工集団公司(CASIC)の研究チームが、マグレブ列車の時速1,000キロ実現を阻んできた「トンネルブーム」問題の解決策を開発した。

この技術は銃器のサプレッサーからヒントを得て、トンネルの入口と出口に100メートル長の多孔質バッファーを設置し、トンネル内壁にも多孔質コーティングを施すものである。初期シミュレーションと縮小プロトタイプテストでトンネルブーム強度を最大96%削減することに成功した。

2024年後半に山西省で実施された大規模試験では、プロトタイプマグレブが時速1,000キロ近くに到達し、バッファーの有効性が確認された。中国の現在のマグレブプロトタイプは時速600キロで設計されているが、この技術により時速1,000キロへの到達が可能となる。

実用化されれば北京-上海間の移動時間を現在の4.5時間から2.5時間に短縮できる。一方、日本のリニア中央新幹線は時速505キロで東京-大阪間を67分で結ぶ予定だが、当初の2027年開業は無期限延期となっている。

From:文献リンクChina’s Engineers May Have Just Removed the Final Barrier to 1,000 KM/H Maglev Trains That Will Make Flights Obsolete

【編集部解説】

このニュースが示すのは、単なる技術的なブレークスルーを超えた、交通システム全体のパラダイムシフトの可能性です。

今回の技術的な突破口を理解するには、まず「トンネルブーム」という物理現象について説明する必要があります。高速列車がトンネルに進入する際、列車の前方で圧縮された空気が激しい圧力波を生み出し、トンネル出口で爆音となって放出される現象です。現在の新幹線(時速320キロ)でも発生しますが、マグレブが時速600キロで走行する場合、わずか2キロのトンネルでも強烈な轟音が発生し、時速1,000キロでは物理的に不可能とされていました。

中国航天科工集団(CASIC)が開発した解決策は、銃器のサイレンサーからヒントを得た多孔質バッファーシステムです。トンネルの両端に100メートルの緩衝区間を設け、圧縮空気を段階的に逃がすことで、轟音を最大96%削減することに成功しています。

この技術の重要性は、単なる騒音問題の解決にとどまりません。現在、中国は約48,000キロメートルの高速鉄道網を構築していますが、マグレブの商業化により、航空機と同等の移動時間でCO₂排出量を大幅に削減できる新たな交通手段の実現が視野に入ります。

特に注目すべきは、この技術が実現する経済圏の概念変化です。北京-上海間が2.5時間で結ばれれば、約1,200キロメートルの距離が通勤圏内となり、「1時間経済圏」の構築が現実的になります。これは日本の首都圏や関西圏を超える規模の巨大都市圏の形成を意味し、労働市場や不動産価値に根本的な変化をもたらす可能性があります。

一方で、この技術の実用化には課題も残されています。山西省での実証実験では時速1,000キロ近くに到達したと報告されていますが、これは限定的な条件下でのテストです。商業運行では乗客の安全性、システムの信頼性、そして膨大なインフラコストという現実的な問題が待ち受けています。

規制面では、時速1,000キロという速度は航空機の離陸速度を上回るため、既存の鉄道安全基準では対応できません。新たな安全認証制度の構築や国際標準の策定が必要となり、これらの整備には相当な時間を要するでしょう。

日本との競争という観点では、リニア中央新幹線の2027年開業予定が無期限延期となる中、中国が先行する形となっています。しかし、日本の超電導リニア技術は時速505キロでの安定運行を目指しており、確実性という点では異なるアプローチを取っています。

長期的には、この技術は地政学的な影響も与える可能性があります。中国がマグレブ技術で世界をリードすれば、一帯一路構想における高速交通インフラの輸出戦略において決定的な優位性を得ることになるでしょう。

innovaTopiaの読者の皆さんにとって、このニュースが意味するのは、交通革命の到来が現実味を帯びてきたということです。私たちが目撃しているのは、移動の概念そのものを変革する技術的転換点なのかもしれません。

【用語解説】

トンネルブーム
高速列車がトンネルに進入する際、列車の前方で圧縮された空気が激しい圧力波を生み出し、トンネル出口で爆音となって放出される物理現象である。列車がピストンのような働きをして空気を圧縮することで発生し、速度が上がるほど強烈になる。

多孔質バッファー
銃器のサイレンサーからヒントを得た騒音低減技術で、多数の小孔を持つ材料により圧縮空気を段階的に逃がし、急激な圧力変化を防ぐシステムである。中国の研究チームがトンネルブーム解決のために開発した。

磁気浮上(マグレブ)
磁力により車体を浮上させて走行する鉄道技術である。車輪と軌道の摩擦がないため、従来の鉄道よりも高速走行が可能で、騒音や振動も少ない。日本のリニア技術と中国のマグレブ技術が代表的である。

超電導リニア(SCMaglev)
超電導磁石を利用したマグレブ技術で、ニオブチタン合金のコイルを-269℃まで冷却し、液体ヘリウムで冷やすことで強力な磁場を生成する。日本のリニア中央新幹線で採用されている技術である。

【参考リンク】

中国航天科工集団公司(CASIC)公式サイト(外部)
中国の国有軍事企業で、ミサイルシステムや宇宙技術の開発製造を手がける。マグレブ列車などの民生技術開発も進める大型ハイテク企業

中国中車集団(CRRC)公式サイト(外部)
世界最大の鉄道車両メーカーで、高速列車、都市鉄道車両、機関車の研究開発・製造・販売を手がける。中国のマグレブ列車プロトタイプの製造も担当

JR東海リニア中央新幹線公式サイト(外部)
東京-名古屋-大阪間を時速505キロで結ぶ超電導リニア計画の公式サイト。工事計画や技術解説、建設状況などの最新情報を提供

【参考記事】

South China Morning Post – China tests 1,000 km/h maglev train breakthrough(外部)
中国が山西省で実施した大規模試験において、時速1,000キロ近くに到達したマグレブプロトタイプの成果を詳報

【編集部後記】

時速1,000キロという数字を聞いて、皆さんはどのような未来を想像されますか?東京から大阪まで約30分、まさに通勤圏内になる世界です。でも技術の進歩と同時に、私たちの生活様式や働き方も根本的に変わっていくのかもしれません。

この技術が実用化されたとき、皆さんは最初にどこへ行ってみたいですか?また、超高速移動が可能になることで、ご自身の仕事や人生設計にどんな変化が起こりそうでしょうか。

皆さんの率直なご意見や想いを、ぜひSNSで聞かせてください。一緒に未来を考えましょう。

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エネルギー技術ニュース

Feichi Technology製水素トラック、チリで南米初テスト—ウォルマートが2025年9月に運用開始

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Feichi Technology製水素トラック、チリで南米初テスト—ウォルマートが2025年9月に運用開始 - innovaTopia - (イノベトピア)

ウォルマート・チリが2025年9月からラテンアメリカ初のグリーン水素燃料電池トラックのテストを開始する。中国・佛山のFeichi Technology製のセミトレーラートラックは、49トン牽引可能で航続距離750キロメートル、水素燃料75キログラムを搭載する。実用的航続距離は約560キロメートルである。

このテストは615万ドルの官民パートナーシップ「ヒドロハウル技術プログラム」の一環で、チリ生産開発公社(CORFO)が345万ドルを資金提供した。1年間のテスト期間中、ウォルマート・チリのキリクラ配送センターを拠点として、サンティアゴ首都圏、バルパライソ、オヒギンス地域で実際の商品配送を実施する。

同配送センターは2023年にラテンアメリカ初のグリーン水素生産プラントとなり、1500万ドルを投じて200台の鉛蓄電池フォークリフトを水素燃料電池版に交換した実績がある。

チリは南北4,200キロメートルに及び、ウォルマートが約400店舗を運営するが、現在はキリクラのみが給油源のため、南端のプンタ・アレナスなど遠隔地は航続距離外にある。ウォルマートは2040年までの事業脱炭素化を目指しており、チリは2045年までに炭素排出大型車両の販売を段階的に廃止する計画である。

From:文献リンクWalmart Will Test a Green-Hydrogen Fuel Cell Truck in Chile The country’s size and terrain make it an ambitious testbed

【編集部解説】

私たちにとって、このニュースが示す技術革新の本質について考えてみましょう。

この水素燃料電池トラックの取り組みは、単なる環境対策を超えた戦略的意味を持っています。チリという国の地理的特性を理解することが重要で、南北4,200キロメートルという距離は日本の本州の約4倍にあたります。この距離を水素トラックでカバーするのは、技術的に極めて挑戦的な試みといえるでしょう。

実用航続距離560キロメートルという制約の中で、水素インフラ整備戦略が成否を決定します。カリフォルニア大学の研究では、5,000台の大型トラック運用に15-20の給油ステーションが必要とされており、チリの地形を考慮すると更に綿密な配置計画が求められます。

技術面で注目すべきは、中国のFeichi Technology社の存在です。同社は佛山を拠点とする燃料電池車両の専門メーカーで、中国国内で豊富な実績を蓄積しています。中国が2025年末までに2万5,000台の水素燃料電池車両導入を目標とする中で、その技術が南米に展開される意味は大きいでしょう。

75キログラムの水素燃料で49トンを牽引しながら750キロメートルの航続距離を実現する性能は、ディーゼルトラックに近いレベルです。しかし、チリのアンデス山脈では急勾配が燃料効率に大きく影響するため、平地での性能とは大きく異なる可能性があります。

このプロジェクトの強みは、既存インフラの活用にあります。キリクラ配送センターでは2023年から1500万ドルを投じたグリーン水素生産プラントが稼働し、200台のフォークリフトを既に水素燃料電池に転換している実績があります。この運用ノウハウがトラックテストの基盤となっているのです。

課題として、水素インフラ整備の高コストが挙げられます。アメリカ全土でも80カ所未満の水素給油ステーションしかない現状で、チリのような新興市場では更に大きな投資障壁となります。

規制面では、チリが2045年までに炭素排出大型車両の販売段階的廃止を目標としていることが重要です。この政策背景があってこそ、615万ドルの大型投資が正当化されています。

長期的視点では、このテストが成功すれば鉱業や建設業での水素トラック導入が加速し、チリが「グリーン水素ロジスティクス・ハブ」として南米をリードする可能性を秘めています。豊富な風力・太陽光資源を活用した水素製造優位性を物流分野で実証できれば、輸出産業としての発展も期待できるでしょう。

このプロジェクトは、まさに「Tech for Human Evolution」の実例です。技術が人類の持続可能な発展にどう貢献できるかという問いに対する、具体的な回答の一つと位置づけられます。

【用語解説】

グリーン水素
再生可能エネルギー(風力・太陽光など)を使用して水を電気分解することで生成される水素。製造過程でCO2を排出しないため「グリーン」と呼ばれる。従来の天然ガス由来の水素(グレー水素)と区別される。

燃料電池
水素と酸素の化学反応により電気を生成する装置。副産物として水のみが排出される。バッテリーと異なり、燃料である水素がある限り継続的に電気を生成できる。

CORFO(チリ生産開発公社)
Corporación de Fomento de la Producciónの略。チリ政府の技術革新と産業開発を促進する公的機関。1939年設立で、研究開発プロジェクトへの資金提供や技術移転を支援している。

セミトレーラートラック
トラクター(牽引車)とトレーラー(被牽引車)が分離可能な大型貨物車。一般的に長距離輸送で使用され、49トンまでの積載が可能。

航続距離
燃料補給なしで走行可能な最大距離。燃料電池トラックの場合、水素タンクの容量と燃費効率によって決まる。

脱炭素化
事業活動や製品ライフサイクルにおけるCO2排出量を実質的にゼロにすること。2050年カーボンニュートラルに向けた世界的な取り組みの中核概念。

【参考リンク】

Feichi Technology(佛山飛馳汽車科技有限公司)(外部)
中国最大級の燃料電池車メーカーの一つ。1971年設立で50年以上の歴史を持つ

Walmart Chile 企業情報(外部)
チリで398店舗を運営。2009年にD&S社買収により参入し配送センター9カ所へ拡大予定

CORFO チリ生産開発公社(外部)
チリの経済発展と技術革新を促進する政府機関。今回のプロジェクトに345万ドル拠出

【参考記事】

Walmart Chile’s Groundbreaking Hydrogen Fuel Cell Truck Pilot(外部)
ヒドロハウル・プログラムの詳細解説。615万ドルの予算構成と参画企業の役割を詳述

Hydrogen-Powered Truck Receives Official Certification(外部)
2025年6月30日の正式認証取得を報告。南米初の公道走行許可の歴史的意義を解説

Investing in Chile’s Future: Walmart’s Five-Year Commitment(外部)
ウォルマートのチリ投資戦略。5年間で13億ドル投資、70店舗新設計画を発表

【編集部後記】

このチリでの水素トラック実証実験は、私たちの生活にも確実につながってくる変化の兆しです。日本でも既にセブンイレブンやファミリーマートの配送で燃料電池トラックのテストが始まっていることをご存じでしょうか。

皆さんがネット通販で商品を注文したとき、その商品がどんなトラックで運ばれてくるのか考えたことはありますか?配送の脱炭素化は、私たち一人一人の選択にも関わってきます。

もし配送料が少し高くなっても環境に優しい水素トラックを選びますか?それとも従来通りコスト重視でしょうか?
こうした選択が、実は未来の物流システム全体を決めていくのかもしれませんね。
皆さんの率直なお考えをお聞かせください。

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