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6月24日【今日は何の日?】「空飛ぶ円盤記念日・UFO記念日」科学はUFOをどうとらえるか

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 - innovaTopia - (イノベトピア)

77年前のたった一つの目撃証言が、人類の宇宙観を根底から変えてしまいました。1947年6月24日のケネス・アーノルド事件以来、私たちは「宇宙に一人ぼっちなのか?」という問いと向き合い続けています。そして現代科学が出した答えは、想像以上に複雑で、驚くべきものでした。

一人の男性が見た「ありえない」飛行物体

1947年6月24日の午後、ワシントン州のレーニア山上空で起きたことを想像してみてください。実業家のケネス・アーノルドさんが自家用機を操縦していると、突然9つの謎の物体が現れたんです。それらは時速2,700キロという当時としては考えられない速度で、まるで「水面を跳ねるソーサーのように」滑らかに飛んでいました。

面白いのは、アーノルドさん自身は物体が円盤の形だったとは言っていなかったということです。彼が表現したのは「動き方」だったんですね。でも、マスコミが「空飛ぶ円盤」として報じてしまい、この言葉が世界中に広まってしまいました。これって、現代のSNSでの情報拡散とそっくりじゃないですか?

この一件がきっかけで、アメリカ空軍は本格的なUFO調査を始めることになり、「UFO(未確認飛行物体)」という科学用語も生まれました。一人の目撃者の証言が、人類の宇宙に対する考え方を永続的に変えてしまった瞬間だったんです。

「UFO」から「UAP」へ:なぜ名前を変えたのか

最近、NASAや米国防総省が「UFO」ではなく「UAP(未確認空中現象)」という新しい言葉を使うようになったのをご存知ですか?これは単なる言い換えじゃないんです。

考えてみてください。「UFO」と聞くと、どうしても宇宙人やSF映画のイメージが浮かんでしまいますよね。77年間で蓄積されたそんな先入観を一度リセットして、純粋に科学的に研究しようという試みなんです。

言葉が思考を左右するって言いますが、まさにその通りです。「UFO」という言葉に染み付いた偏見が、真面目な科学的研究の邪魔をしていたという反省があるんですね。世界中の研究機関がこの新用語を一斉に採用したのは、それだけ深刻な問題だったということでしょう。

NASAが初めて公開した「本当のところ」

2023年9月、NASAが初めて包括的なUAP報告書を公開しました。多くの人が期待していたような「宇宙人発見!」という内容ではありませんでした。結論は「UAPが地球外から来ているという証拠は見つからなかった」というものです。

でも、ここで注意深く読んでほしいのは、NASAが「存在しない」とは断言していないことです。科学では「証明できない」ことと「存在しない」ことは全く違います。現在のデータでは確証が得られないけれど、調査は続ける—これが科学者らしい誠実な姿勢なんです。

実際、米国防総省のデータを見ると、興味深い数字が出てきます。2024年までに1,652件のUAP報告があり、そのうち21件が現時点で説明できないとされています。たった1.3%ですが、この「謎」が科学者たちの関心を引き続けているんです。なぜでしょうか?

ドレイク方程式:宇宙人の数を計算してみよう

1961年、天文学者のフランク・ドレイクさんが面白い挑戦をしました。「銀河系に、人類と交信できる文明はいくつあるか?」を数学で計算しようとしたんです。

N = R × fp × ne × fl × fi × fc × L

名前定義
R銀河系の中で1年間に誕生する恒星の数
fpひとつの恒星が惑星系を持つ割合
neひとつの恒星系が持つ、生命の存在が可能となる状態の惑星の平均数
fl生命の存在が可能となる状態の惑星において、生命が実際に発生する割合
fi発生した生命が知的なレベルまで進化する割合
fc知的なレベルになった生命体が星間通信を行う割合
L知的生命体による技術文明が通信を行う状態にある期間

この式の面白いところは、正確な答えを出すことが目的じゃないことです。宇宙における知的生命の存在について、科学的に議論できる枠組みを作ったことに価値があるんです。哲学的な思索を、数字で議論できるようにした知的革命だったんですね。

そして現代の観測技術が明らかにした数字は、ドレイクさんの予想を大きく上回っています。ケプラー宇宙望遠鏡などが発見した系外惑星は5,000個を超え、そのうち数十個が生命が住めそうな「ハビタブルゾーン」にあります。

計算してみると、天の川銀河だけで100億個の生命存在可能惑星、観測できる宇宙全体では10²³個という天文学的な数字になります。これだけあれば、どこかに知的生命がいてもおかしくないと思いませんか?

フェルミのパラドックス:「みんなどこにいるの?」

「みんなどこにいるんだろうね?」—1950年、物理学者のエンリコ・フェルミさんが同僚との昼食で発したこの何気ない疑問が、現代宇宙論最大の謎の一つになりました。

統計的に見れば宇宙人がいる可能性は高いのに、なぜ一度も会ったことがないのか。この「大いなる沈黙」について、科学者たちはいくつかの仮説を立てています。

距離の問題 一番近い恒星系でも4.2光年離れています。現在の技術では到達に7万年かかってしまいます。でも、もっと深刻なのは時間の問題かもしれません。文明の寿命を10万年だとすると、銀河系規模で「同じ時期に存在する」確率は驚くほど低くなるんです。私たちは宇宙史における一瞬の泡の中に生きているのかもしれませんね。

動物園仮説 これは面白い考え方で、高度な宇宙文明が意図的に地球に関わらないようにしているという説です。まるで動物園の動物を保護するように、「発達途上の文明には干渉しない」という宇宙のルールがあるのかもしれません。

グレート・フィルター理論 これは少し怖い仮説です。進化の過程に、ほとんどの文明が突破できない「関門」があるという考えです。核兵器、気候変動、AI—私たちは今、そのフィルターの前に立っているのかもしれません。

カルダシェフ・スケール:文明のレベルを測ってみよう

1964年、ニコライ・カルダシェフさんが提案した文明の分類法は、本当に壮大です。エネルギーの使用量で文明の発達段階を測るという発想なんです。

タイプI文明(惑星文明) 地球全体のエネルギーを自由に使える文明です。気候をコントロールしたり、地震を予測したり、資源を完全にリサイクルしたりできます。人類は現在0.73レベル—あと100-200年でこの段階に到達すると予想されています。

タイプII文明(恒星文明) 太陽のような恒星のエネルギーを丸ごと利用できる文明です。ダイソン球という巨大な構造物で恒星を囲んで、そのエネルギーを全部利用するという、SFのような話ですが、理論的には可能です。

タイプIII文明(銀河文明) 銀河全体のエネルギーを制御できる文明です。複数の恒星系を自由に行き来し、銀河の進化すらも管理下に置くという、もはや神々のレベルですね。

もし地球外文明がタイプII以上に達しているなら、彼らの技術は人類には魔法のように見えるでしょう。私たちが彼らを認識できない理由も、ここにあるのかもしれません。

もし宇宙が無限だったら?想像を絶する可能性

現代の宇宙論が到達した最も驚異的な考えの一つが、無限宇宙の可能性です。永続インフレーション理論、多元宇宙論—これらの理論が示唆するのは、私たちが観測できる宇宙を超えた無限の広がりです。

もし宇宙が本当に無限なら、量子力学の確率論によって、あらゆる可能な組み合わせが実現することになります。地球と全く同じ惑星、人類と同じ進化を辿った知性、さらには今この瞬間のあなたと全く同じ存在が、無限に存在することになるんです。

想像してみてください。どこかの宇宙で、今この記事と全く同じ文章を読んでいる、あなたと同じ人がいるかもしれません。しかも、無限にです。

でも、もっとワクワクするのは「可能性の爆発」です。炭素系の生命だけでなく、シリコン系、プラズマ系、量子情報系、さらには私たちの物理法則を超越した存在—無限宇宙は、想像の限界すら超える多様性を約束しています。

SETI:60年以上続く宇宙人探しの旅

1960年のオズマ計画開始以来、人類は系統的に宇宙の声を聞こうとし続けています。でも、この60年間の探査は、偶然の発見の連続でもありました。

Wow!シグナル(1977年) 72秒間だけ受信された信号は、背景雑音の30倍という強さでした。研究者があまりの驚きに「Wow!」と書き込んだことから、この名前がついています。でも、その後45年間、同様の信号は一度も観測されていません。あれは何だったんでしょうか?

高速電波バースト(FRB)の謎 2007年の発見以来、数百件が観測されているFRB。その一部は規則的なパターンを示していて、人工的な起源の可能性が議論されています。特にFRB 180916.J0158+65は、16.35日という正確な周期を持っています。自然現象でこれほど精密な周期性が生まれるものでしょうか?

現代の技術革命 AIと機械学習の導入で、SETIは根本的に変わりました。従来の電波探査に加えて、レーザー光の探査、大気分析、巨大構造物の探査など、多角的なアプローチが展開されています。

特に面白いのは「テクノシグネチャー」探査です。大気汚染、人工照明、電波放射など、技術文明の痕跡を直接探すという試みです。もし発見されれば、それは決定的な証拠になります。

タビーの星が教えてくれた科学の美しさ

KIC 8462852、通称「タビーの星」の話は、現代科学の姿勢を象徴する素晴らしい事例です。2015年、この恒星が最大22%も暗くなったり明るくなったりする現象が発見されました。

最初は「巨大な人工構造物があるのでは?」と大騒ぎになりました。ダイソン球、軌道リング、巨大ソーラーパネル—一時は地球外文明の痕跡として世界中が注目しました。

でも、継続的な観測と詳細な分析により、恒星周辺の塵雲による自然現象という説明が有力になりました。最初の興奮から、仮説の提示、継続的観測、データによる検証、そして謙虚な結論の受け入れ—これが科学の美しい姿なんです。

がっかりした人も多いでしょうが、これこそが真の科学的探求の価値なんです。間違いを恐れず、でも証拠に従って結論を変える勇気を持つ。これができるからこそ、科学は信頼できるんですね。

現代物理学が描く、私たちの知らない宇宙

見えない宇宙の96%

宇宙の96%はダークマターとダークエネルギーで占められています。私たちが見ている星や銀河は、宇宙全体のたった4%に過ぎません。これって、驚きませんか?

もし高度な文明がこの見えない96%を操れるようになったら、彼らの活動は私たちには全く見えないものになってしまいます。私たちの目には何もない空間で、実は壮大な文明が展開されているかもしれません。

私たちの世界は「影」かもしれない

ホログラフィック原理という理論があります。私たちの3次元世界が、実はより高次元の境界面に投影された「影」のようなものだという考えです。もしこれが正しければ、私たちの現実認識そのものが、とんでもなく限定的ということになります。

地球の極限環境が教えてくれた驚きの事実

地球上の過酷な環境に住む微生物の研究は、私たちの生命観を根底から覆しました。これまで「生命が住めるはずがない」と思われていた場所で、たくましく生きている生物たちが発見されたんです。

想像してみてください。これらの環境です:

  • 120°C以上の熱湯のような高温
  • pH 0の強酸性
  • 強烈な放射線
  • 酸素が全くない環境

それなのに、こんな場所で元気に生きている微生物がいるんです。深海の熱水噴出孔、火山の火口、放射性廃棄物の貯蔵施設、地下深くの岩盤の中—まさに地獄のような場所が、彼らにとっては快適な住まいなんですね。

これらの発見は、宇宙で生命が存在できる範囲(ハビタブルゾーン)の概念を根本的に変えました。従来は「水が液体で存在する、地球のような温和な環境」でしか生命は無理だと思われていました。でも実際は、生命はもっとずっとたくましくて、私たちの想像をはるかに超える環境に適応できることが分かったんです。

ということは、火星の地下、木星の衛星エウロパの氷の下、土星の衛星タイタンのメタンの海—これまで「生命なんて無理」と思われていた場所でも、何かが生きている可能性があるということです。宇宙における生命存在の可能性が、一気に何倍にも広がったんですね。

地球外知性探査が抱える深い謎

現代の地球外知性探査は、いくつかの深刻な問題に直面しています。

観測者効果の問題 私たちが探査する行為自体が、結果に影響を与えるかもしれません。高度な文明が私たちの探査活動に気づいて、わざと隠れているとしたらどうでしょう?

技術格差の問題 AIの急速な発達で、人類は技術的特異点に近づいています。もし地球外文明がすでにこの段階を通過しているなら、彼らの活動は私たちの理解を完全に超えているかもしれません。

時間感覚の違い 宇宙的な時間スケールと人間的な時間スケールの違いは致命的かもしれません。宇宙文明の「一瞬」が、人類史全体に相当するかもしれないんです。私たちは適切なタイミングで宇宙を見ているんでしょうか?

分からないことを分からないと言える勇気

77年間のUFO/UAP研究が到達した結論は、多くの人の期待とは違うものでした。でも、それは人類の知的成熟を示す重要な到達点でもあります。「分からないことは分からない」と正直に認める勇気、探求を続ける情熱、そして宇宙の前での謙虚さ—これらが現代科学の最も貴重な財産です。

現在の科学的結論ははっきりしています。UFOが地球外知性の乗り物である確実な証拠はありません。でも同時に、地球外知性そのものの存在可能性は統計的にほぼ確実とされています。この一見矛盾する状況こそが、現代宇宙科学の最前線なんです。

6月24日のUFO記念日は、人類が宇宙での自分たちの位置について深く考える良い機会ですね。もし宇宙が無限で、無限の多様性を内包しているなら、私たちの想像を絶する存在が、今この瞬間も、宇宙のどこかで思考し、創造し、そして私たちと同じように宇宙の謎について考えているかもしれません。

その発見の日まで、私たちは科学的な厳密さと無限の好奇心を武器に、この宇宙最大の謎と向き合い続けるのです。答えはまだ見つかっていません。でも、問い続けること自体に、人類の存在意義があるのかもしれませんね。

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8月15日【今日は何の日?】Wow!シグナル記念日──AIによる宇宙探査と「発見の利権」を考察。

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1977年8月15日。天文学者ジェリー・エーマンは、記録紙の余白に赤いペンでWow!と書きなぐりました。それは、人類が宇宙からの謎めいた囁きを垣間見た、歴史的な瞬間でした。

そして現代、AIという新たな”知性”は、天文学的なデータの中から「第二のWow!」を発見する能力を我々に与えました。しかし、その発見の瞬間は、人類史の輝かしい新章の幕開けであると同時に、我々の文明が試される「究極の選択」の始まりでもあります。

発見は我々を一つにするのでしょうか、それとも新たな「大航海時代」の引き金となるのでしょうか。本稿では、AIによる探査の最前線から、発見されたメッセージが内包する意味、その後の社会・経済への激震、そして人類に突きつけられる理想と現実までを、詳細に論じます。

AIが拓く探査の新時代

かつてのSETI(地球外知的生命体探査)は、人間の目と幸運に頼る、大海で一本の針を探すような試みでした。しかし、AIの登場がすべてを変えました。

特に大きな壁だったのが、地球自身が発する電波ノイズ(RFI)です。AIは、この無数のノイズの波形を「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」などの技術で学習し、あたかも熟練の警備員が群衆から不審者を見つけ出すかのように、ノイズだけを的確に除去します。

さらに、AIは我々が想定するパターンに合わない「真の異常(アノマリー)」を検出します。これは単なるパターンマッチングではありません。AIは「正常な宇宙とは何か」を自ら学習し、そこから逸脱する未知の現象を捉えるのです。これにより、Breakthrough Listenのようなプロジェクトは、人間では見逃していたであろう無数の候補信号を特定し始めています。

もはや、発見は「いつか」ではなく「いかにして」の段階に入りました。そして、AIのログファイルにその一行が記録された時、物語は次の章へと移ります。

メッセージの「内容」という新たな変数

AIが信号の存在を特定したとして、次に人類が直面するのは「そこには何が書かれているのか?」という、さらに深遠な問いです。信号の「内容」は、我々の未来を全く異なる方向へと導く可能性を秘めています。

宇宙のロゼッタストーンか?

もし信号が、数学や物理学の定数といった普遍的な言語で書かれた「教科書」だったらどうでしょう。それは、かつて人類がパイオニア探査機に載せた銘板や、ボイジャーのゴールデンレコードに込めた想いへの、宇宙からの返信かもしれません。AIを用いた暗号解読チームが組織され、人類の知性が総力を挙げて、未知の科学技術や哲学の解読に挑むことになります。

コズミック・マルウェアの脅威

一方で、その信号は、我々の文明を狙った「トロイの木馬」かもしれません。信号をコンピュータで処理・解読しようとした瞬間に、悪意あるコードが作動し、地球上の金融システムや電力網を破壊する。そんな地球外からのサイバー攻撃という、究極のセキュリティリスクも専門家から指摘されています。解読の試み自体が、引き返せない罠である可能性です。

理解不能の壁

最も厄介なのは、信号が科学でも脅威でもなく、我々の知性では全く理解できない「何か」だった場合です。それは異星の芸術かもしれませんし、我々の論理体系とは根本的に異なる哲学かもしれません。人類はここで初めて、自らの知性の限界と、宇宙における自らの存在の小ささを痛感することになるでしょう。

経済と社会の激震

メッセージの内容がどうであれ、その「発見」という事実だけで、私たちの社会と経済は根底から揺さぶられます。

市場のパニックと熱狂

「発見」の第一報が流れれば、金融市場は即座に反応します。宇宙開発ベンチャーや素材科学企業の株価は天井知らずに高騰する一方、既存のエネルギー産業や、一部の伝統的権威に依存する企業の価値は暴落するでしょう。世界経済は、未曾有の「ETショック」に見舞われます。

産業構造の創造的破壊

もしメッセージの解読により、クリーンで無限のエネルギー技術や、常温超伝導の秘密がもたらされたらどうなるでしょうか。石油や天然ガスに依存した国家経済は崩壊し、エネルギー産業全体が再編を迫られます。全産業の基盤が覆る「創造的破壊」が、世界中で同時に発生するのです。

人類の価値観の変容

「我々は独りではなかった」という事実が常識となれば、人々の価値観は大きく変わります。国家や民族といった境界線の意味は薄れ、「地球人類」としての一体感が生まれるかもしれません。一方で、既存の宗教や哲学は、その教義の根本的な見直しを迫られることになり、社会的な混乱も予想されます。

究極の選択 – 「共有」か「独占」か

これほどのインパクトを持つ発見を前にして、「それを誰が管理するのか」という地政学的な問題が、人類にのしかかります。その瞬間、人類は二つの道が交わる分岐点に立ちます。

【Aルート:理想】「全人類の資産」としての公開

理想の道は、「宇宙条約」の精神に則り、発見を全人類の資産として共有する世界です。パブリックブロックチェーンを用いて発見の全プロセスを公開し、透明性と公平性を担保することで、究極の「科学の民主化」が実現します。

【Bルート:現実】「国家の利権」としての独占

しかし、絶大な利益を前に、ある国がそれを独占しようと考えるのは自然なことです。プライベートブロックチェーンとパブリックブロックチェーンへのハッシュ値記録を組み合わせることで、発見の事実を後から証明しつつ、水面下で情報を独占する「デジタル帝国主義」が始まる可能性があります。

テクノロジーは「鏡」です

AIが信号を見つけ、その内容が人類の運命を揺さぶり、ブロックチェーンがその後の秩序を左右します。しかし、注目すべきは、これらの技術が、設計次第で正反対の未来をどちらも実現できてしまうという事実です。

テクノロジーは、それ自体に意思を持ちません。使う人間の意図を増幅する「鏡」なのです。

地球外知的生命体の探査は、結局のところ我々自身を見つめる行為に他なりません。それは、宇宙における我々の孤独を問うだけでなく、我々が他者と、そして未知と出会った時に、どのような選択をする種族なのかを厳しく問い質します。

その答えは、まだ誰も知りません。


【Information】

SETI研究所 (The SETI Institute)
地球外知的生命の起源や存在を探求する、世界を代表する非営利研究機関です。電波天文学だけでなく、生命が宇宙で発生するための条件を探る宇宙生物学など、多角的なアプローチで研究を行っています。

Breakthrough Listen (ブレークスルー・リッスン)
観測史上最大規模の地球外知的生命体探査プロジェクトです。世界各地の高性能な電波望遠鏡と最新のAI技術を駆使し、最も包括的な探査を行っており、観測データは研究者のために公開されています。

国連宇宙局 (UNOOSA – United Nations Office for Outer Space Affairs)
宇宙空間の平和的利用の促進と、宇宙活動に関する国際協力のハブとなる国連の機関です。記事中で触れた「宇宙条約」の管理など、宇宙に関する国際的なルール作りにおいて中心的な役割を担っています。

METI International (メティ・インターナショナル)
SETIが「聞く」ことを主眼とするのに対し、METIは「(地球から)意図的なメッセージを送る」ことを研究・議論する機関です。メッセージを送ることの是非や、その内容について科学的・倫理的な観点から探求しています。

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【SuperKEKB】KEKフォトウォークに参加してきました。:電子-陽電子衝突加速器【現地訪問】

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こんにちは。サイエンスライターの野村です。今回は6/22に開催された「KEKフォトウォークに参加してきましたので、その時の探訪記です。

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つくば駅前からの風景。画面中央付近にロケットが見えるかと思いますが、このあたりに図書館やプラネタリウムがあり、文化施設が密集しています。

KEKフォトウォークとは?

KEKフォトウォークは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)が主催する撮影イベントです。KEKは茨城県つくば市にある素粒子物理学や加速器科学の研究機関で、このフォトウォークは一般の方々にKEKの研究活動や施設について興味を持ってもらうことを目的としています。
https://www2.kek.jp/outreach/kekpw
加速器の美しい曲線、実験装置の精密な構造、研究者の活動風景など、科学の現場ならではの魅力的な被写体が多くあります。

今回は特別?

KEK フォトウォークは、世界15の研究所が参加する「グローバル・フィジックス・フォトウォーク」の一環です。これは米国立フェルミ加速器研究所、欧州合同原子核研究機関(CERN)、ドイツ電子シンクロトロン研究所、カナダTRIUMF研究所、そしてKEKなどの世界的な研究機関が同時開催する特別な企画です。

この国際コンテストでは、KEK を含む参加機関・研究所から3作品が推薦され、世界の素粒子物理の広報担当者のウェブサイト上でフォトコンテストにノミネートされ、全世界からの一般投票によって「グランプリ」を決定します。

10年ぶりの開催
2020年の「グローバル・フォトウォーク」はコロナウイルスの流行によって中止されたため、今回のコンテストは実に10年ぶりです。応募者多数の中、当選しましたので現地へ赴く運びになりました。

ところで何を見に行ったの?

SuperKEKBとは?
SuperKEKBは、KEK(高エネルギー加速器研究機構)にある世界最高性能の電子・陽電子衝突型加速器です。

基本的な仕組み
SuperKEKBは、電子と陽電子(電子の反粒子)をほぼ光速まで加速し衝突させる装置です。地下に建設された周囲約3kmのリング状のトンネル内で、電子は7GeV、陽電子は4GeVのエネルギーまで加速された状態でリング状のトンネル内を逆方向に周回し、Belle II測定器と呼ばれる検出器内で衝突します。

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トンネル入り口にあったSuperKEKBの概略図

私が今回写真撮影に向かったのはSuperKEKBのトンネル内です。(電子と陽電子のビームを収束させるための四極電磁石と六極電磁石の他にビームの「進路」を調整するための偏向電磁石がある場所です。)

参考動画のリング部分の下あたりを歩いていました。

SuperKEKBを使ってなにがわかるの?
1. 物質と反物質の謎を解く研究
この宇宙がなぜ物質でできているのか疑問に思ったことはありませんか?実は、宇宙が誕生した時には物質と反物質が同じ量作られたはずなのですが、現在の宇宙は物質ばかりでできています。SuperKEKBプロジェクトでは、物質と反物質の性質にわずかな違いがあることを詳しく調べて、この宇宙の大きな謎を解明しようとしています。ニュートリノ振動実験の記事も併せて読んでね!

2. まだ見つかっていない新しい粒子を探す研究
現在の物理学では説明できない現象がまだたくさんあります。例えば、宇宙の質量のかなりの部分を占めるとされる「暗黒物質」の正体などです。SuperKEKBプロジェクトでは、これまで発見されていない新しい種類の粒子を見つけることで、宇宙のより深い仕組みを理解しようとしています。

3. 素粒子の基本的な性質を調べる研究
物質を構成する最も小さな粒子である素粒子には、いくつかの種類があります。Belle Ⅱ 測定器では、これらの粒子がどのように変化し、どのような法則に従って振る舞うのかを精密に測定しています。

これらの研究を通じて、私たちが住む宇宙の成り立ちや、物質の根本的な性質について新しい発見をすることが、SuperKEKBプロジェクトの大きな目標です。

ここがすごいよ!SuperKEKBー日本は加速器先進国?

1. 世界記録の衝突性能を達成
SuperKEKBは2024年12月27日にルミノシティ(衝突性能)5.1×10^34 cm^-2 s^-1を達成し、世界最高記録を更新し続けています。このルミノシティはすべての種類の衝突加速器の中で、世界最高の記録で、欧州のCERNや米国フェルミ研究所の記録を上回る快挙です。

ルミノシティって?
単に言えば、「1秒間にどれだけ多くの粒子同士を衝突させることができるか」を表す数値なのです。この値の大きさは非常に重要です。粒子と粒子の衝突によって新しい粒子が生まれたりするわけですから、言ってしまえば「一回の実験でどれだけ精度の良い実験ができるか、どれだけレアなイベントを得られるか」がルミノシティにかかっています。

日本は世界最強の加速器を持っているのです。実は。

KEK到着

今回は少し早めに現地に到着したので、少しだけ常設展示室の中を探索していました。フォトウォークの受付を済ませると、建物内にある、コミュニケーションプラザで素粒子についてのいろいろな展示を見てきました。

KEKコミュニケーションプラザとは?
KEKコミュニケーションプラザでは、加速器が動く仕組みや素粒子について学んだり、宇宙から降り注いでいる宇宙線を観察したり、タンパク質の立体構造を目で見たり、身近なものに含まれている放射線を自分で測ってみたりすることができます。

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フォトウォーク受付!

素粒子のフィルム写真

これは昔素粒子の検出に使われていた。「泡箱」と呼ばれる装置のレンズです。
泡箱(バブルチャンバー)は、素粒子物理学の実験で粒子の軌跡を視覚化するために使われた検出器です。

動作原理
泡箱は液体水素で満たされた容器です。(その他の物質で満たされた泡箱も存在します。)荷電粒子が液体中を通過すると、その経路に沿って気泡が形成されます。これは、粒子が液体分子とエネルギーを交換し、局所的な沸騰を引き起こすためです。形成された気泡の軌跡を写真撮影することで、粒子の経路、運動量、電荷などの物理量を測定できました。

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実際に当時に撮影されたフィルムも横に置いてありました。フィルムをのぞき込んでみると素粒子の軌跡が克明に映し出されています。現在では、このような検出手法は使われなくなりました。しかし、このような比較的単純な手法であっても、人の目では見ることができない微小な粒子の姿を捉えることができたのです。

これが何十年も前の技術だったということを考えると、本当に驚くべきことです。

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素粒子の軌跡のフィルム

KEKは大先輩?
実は日本初の公開ウェブページを作ったのはKEKらしいです。言ってしまえばinnovaTopiaの大先輩ですね。

ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を発明したのはCERNのティム・バーナーズ=リーであることは有名ですが、日本におけるウェブの歴史を語る際、KEK(高エネルギー加速器研究機構、当時は高エネルギー物理学研究所)の果たした役割は決して見過ごすことはできません。CERNもKEKも素粒子物理学の研究機関で、科学者たちの間で大規模な実験のための情報共有が必要不可欠だったという背景があることも少し面白いですね。

1992年9月30日、KEKの森田洋平氏によって「KEK Information」と題された日本初のウェブページが公開されました。この歴史的な出来事の背景には、国際的な科学者コミュニティのネットワークがありました。

興味深いのは、この日本初のウェブサイト誕生の経緯です。森田氏は1992年9月にフランスで開催された国際会議に出席した後、CERNに立ち寄り、そこでバーナーズ=リー博士と直接会話する機会を得ました。CERNのカフェテリアでの昼食中、バーナーズ=リー博士から「情報はネットワーク上でみんなと共有して、はじめて価値が生まれる。WWWはハイパーテキストのリンクで世界中の情報をお互いに結びつけることを可能にする。KEKもぜひWWWサーバーを立ちあげて欲しい」と直接依頼されたのです。

この要請を受けて、森田氏は急遽CERNの端末を借りてKEKのサーバーにログインし、単一のページとしてHTML形式のウェブページを作成しました。この「KEK Information」は茨城県つくば市にある文部省高エネルギー物理学研究所計算科学センターのサーバー上に設置され、日本のインターネット史に重要な一歩を刻みました。

KEKがウェブの先駆者となったのは偶然ではありません。素粒子物理学の研究においては、世界中の研究機関との情報共有が不可欠であり、CERNで生まれたWWWという技術の価値を即座に理解し、実践に移す土壌がKEKにはあったのです。

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先輩じゃないっすか!?ウイッスウイッス…

当日はコミュニケーションプラザ内で、SuperKEKBの装置概要や、どのようなことを目指して電子と陽電子をぶつけているのかについて動画を用いた説明を受けてから施設内を見学しました。

トンネル内での写真撮影

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偏向電磁石。

電子も陽電子も電荷を帯びた粒子であるため、磁場のある空間ではローレンツ力を受けて軌道が曲がります。上の写真は偏向電磁石です。このローレンツ力を利用して陽電子と電子の軌道を調整しているらしいです。

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四極電磁石

この電磁石はさっきとは異なり4つのコイルがあります。この構造によって広がってしまう電子と陽電子の軌道を収束させています。

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六極電磁石

四極電磁石のほかに六極電磁石を用いて、レンズ系でいうところの「色収差」のようなものが電子ビームに生じてしまうことを防いでいるらしいです。

自分の身長程度もある大きな電磁石と、ここまで長い距離真空が保たれている装置を見たことがなかったので、正直歩いている間は現実の世界で起こっていることだと実感できませんでした。巨大実験は装置を見ているだけで少し幸せな気持ちになれます。

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ARESキャビティ

ARESキャビティについて手短に説明いたします。

ARESキャビティとは常伝導加速空洞のことで、ARESはAccelerator Resonantly coupled with Energy Storageの略です。

これはSuperKEKB加速器システムにおいて使用されている加速空洞の一種で、常伝導(超伝導ではない)技術を用いた粒子加速装置です。電子や陽電子ビームにエネルギーを与える役割を果たします。

SuperKEKBでは超伝導加速空洞と併用される形で、このARES空洞が加速器システムの一部として組み込まれており、全体として世界最高レベルの衝突性能を実現するための重要な構成要素となっています。

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電子と陽電子の通り道

画面中央よりやや上に見える銅色のパイプが電子の通り道、下に見える銀色のパイプが陽電子の通り道です。陽電子がうまく通れるようにKEKは独自の工夫をしているそうです。

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トリスタン実験で活躍した装置たち

出口付近にはTRISTAN実験で活躍していた装置たちが並んでいました。

TRISTAN実験は、1986年に完成したリング状衝突加速器TRISTAN(Transposable Ring Intersecting Storage Accelerator in Nippon)を用いた実験で、文部省高エネルギー物理学研究所が5年の期間をかけて開発しました。

トリスタン計画は1980年代初頭から90年代中頃まで実施されたプロジェクトで、当時の世界最高エネルギーにおける電子陽電子反応の研究が実施されました。加速器としては電子と陽電子それぞれ300億電子ボルト(30GeV)の電子陽電子衝突型加速器で、約3kmの周長上の4か所に於いて電子ビームと陽電子ビームの衝突がなされました。

実験機器萌えの話

科学の世界には、日常生活ではなかなか目にすることのない独特な実験機器が数多く存在します。巨大な加速器や精密な分析装置、無骨ながらも美しいガラス器具など、その姿や機能には独特の魅力が詰まっています。

こうした実験機材に心惹かれる「科学系の実験機材萌え」という感覚を持つ人たちが、実は一定数存在します。彼ら・彼女らは、機材の機能美や構造の複雑さ、あるいは未知の現象を解き明かすための“道具”としての力強さに惹かれ、時には写真集や模型、イラストなどでその魅力を楽しんでいます。

科学機器は、一般の人にとっては遠い存在かもしれません。しかし、その無機質なフォルムや精巧な設計、そして「人類の知を切り拓くための最前線」という背景を知れば知るほど、そこにロマンを感じずにはいられません。
科学の発展を支える“縁の下の力持ち”である実験機材たち。そんな彼らに密かに心を寄せるファンがいることも、科学の世界の面白さのひとつと言えるでしょう。

実際にフラスコやその他の実験器具や電気素子のアクセサリーや日用品が販売されたりしています。

https://shop.systemgear.com/view/item/000000000925
(これは電子基板をモチーフにしたキーホルダーです。)

https://rikashitsu.jp/online-shop/products/list228.html
(フラスコの形をしたワイングラスです。ほかにも理科室のような内装をコンセプトにしたバーがあったり案外「科学器具に萌える」ひとは多いのかもですね。)

【編集部後記】

2025年に9/23にKEKの一般公開があります。是非皆様も巨大科学の膨大な時間と年月をかけた人類の実験科学の最先端を体験してください!(仕事の予定が合えば僕も行きたいな…)詳細は下記URLより

https://www2.kek.jp/openhouse/2025(KEK一般公開)

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スペーステクノロジーニュース

3I/ATLAS「エイリアン探査機説」をハーバード大学物理学者が提唱、確率0.005%の異常軌道に注目

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3I/ATLAS「エイリアン探査機説」をハーバード大学物理学者が提唱、確率0.005%の異常軌道に注目 - innovaTopia - (イノベトピア)

ハーバード大学の物理学者アヴィ・ローブ博士が、2025年7月1日にチリのATLAS望遠鏡で発見された星間天体3I/ATLASについて、エイリアンの探査機である可能性を示唆した。

この天体は直径0.32〜5.6キロメートル(最有力1km未満)で、典型的な彗星とは異なり前方に光を発している。火星、金星、木星の軌道と整列する軌道を持ち、ランダムに太陽系に入る天体がこのように整列する確率は0.005%である。ローブ博士はフォックスニュース・デジタルに対し「軌道が設計されたものかもしれない」「偵察任務の目的を持っていた可能性がある」と述べた。

地球外知的生命探査(SETI)の観点から、高度な文明が探査機を配備する可能性があるとし「もしそれが技術的なものであることが判明すれば、人類の未来に大きな影響を与える」と説明している。

From:文献リンクCould an Alien Probe Be Passing Through Our Solar System? Harvard Expert Weighs I

【編集部解説】

innovaTopiaの読者の皆さまにとって、この3I/ATLASという星間天体の話題は、単なる天文学上の発見を超えた深刻な意味を持っています。ローブ博士の主張は科学界で議論を呼んでいますが、最新の観測結果と合わせて検証すると、興味深い事実が浮かび上がってきます。

まず注目すべきは、3I/ATLASの軌道特性の異常性です。ランダムに太陽系に侵入する天体が惑星軌道と5度以内で整列する確率は0.2%、さらに金星、火星、木星に接近する確率は0.005%という極めて低い数値が示すのは、統計学的に考えると確かに「設計された可能性」を排除できない現実です。

技術的観点から見ると、3I/ATLASは従来の彗星とは決定的に異なる特徴を示しています。当初20キロメートルとされていた直径は、ハッブル宇宙望遠鏡の詳細観測により大幅に下方修正され、現在は0.32〜5.6キロメートル、最も可能性が高いのは1キロメートル未満とされています。この小さなサイズでありながら顕著な活動性を示すという新たな謎を生み出しています。

重要な修正点として、当初「彗星活動の兆候がない」とされていましたが、現在は明確な彗星活動が確認されています。ジェミニ南天文台とNASA赤外線望遠鏡施設による2025年7月5日と14日の近赤外分光観測で氷の検出に成功し、スイフト天文台による7月30日と8月1日の紫外線観測では水蒸気と水酸基イオンが検出されました。これらの観測により、3I/ATLASは確実に活発な彗星であることが証明されています。

SETI(地球外知的生命探索)の文脈では、このような探査機仮説は決して非科学的ではありません。高度な文明が他の星系を調査するために探査機を派遣するという概念は、人類自身がボイジャーやパイオニア探査機で実践している手法です。特に3I/ATLASの軌道が複数の惑星を効率的に観測できる設計になっている点は、偵察任務の観点から合理的な経路設計と考えることも可能です。

興味深いことに、3I/ATLASは太陽系最速の訪問者として記録されており、時速210,000キロメートルという驚異的な速度で移動しています。この速度は、天体が数十億年間にわたって星間空間を移動し、星や星雲の重力によって加速されてきたことを示唆しています。

現在、3I/ATLASは9月まで地上望遠鏡で観測可能ですが、その後太陽に近づきすぎるため地球からは見えなくなります。12月初旬に太陽の反対側で再び観測可能になる予定です。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による8月と12月の観測が計画されており、近日点通過前後での化学組成の変化を詳細に調査する予定です。

一方で、科学界の多数派は自然起源説を支持しており、専門家の中にはローブ博士の仮説を批判する声もあります。しかし、過去にも’Oumuamua(オウムアムア)の異常な加速現象など、従来理論では説明困難な星間天体の挙動が観測されており、新しい物理現象や技術的可能性を排除すべきではありません。

この事案が示すのは、科学的探求における開放性の重要性です。異常なデータに対して既存の枠組みで説明を試みる姿勢と同時に、従来の常識を超えた可能性も検討する柔軟性が、真の科学的進歩をもたらすのです。

【用語解説】

アヴィ・ローブ博士
ハーバード大学の理論物理学者で、地球外生命探査分野の第一人者。宇宙論と天体物理学を専門とし、2017年の星間天体オウムアムアについても地球外技術である可能性を提唱して議論を呼んだ。現在はハーバード・スミソニアン天体物理学センター内の理論・計算研究所の所長を務める。

3I/ATLAS
2025年7月1日に発見された3番目の星間天体(Interstellar objectの「I」)。正式名称はC/2025 N1 (ATLAS)。太陽系外から飛来し、直径は0.32〜5.6キロメートル、最も可能性が高いのは1キロメートル未満とされる。

ATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)
地球に接近する小惑星の早期発見を目的とした自動観測システム。ハワイ大学が開発し、現在4台の望遠鏡がハワイ、南アフリカ、チリで稼働している。直径50センチメートルの望遠鏡で7.4度という広い視野を持つ。

SETI(地球外知的生命探査)
Search for Extraterrestrial Intelligenceの略で、電波や光学望遠鏡を用いて地球外知的生命体からの信号を探査する科学的プロジェクト。1960年代から続く国際的な研究活動である。

星間天体
太陽系外の他の恒星系から飛来した天体。これまでに確認されたのは2017年のオウムアムア、2019年のボリソフ彗星、そして2025年の3I/ATLASの3個のみで、非常に稀な現象である。

ハッブル宇宙望遠鏡
地球軌道上で稼働するNASAの宇宙望遠鏡。大気の影響を受けないため、極めて高解像度の画像撮影が可能。3I/ATLASの正確なサイズ測定に貢献した。

【参考リンク】

NASA – 3I/ATLAS 公式情報(外部)
NASAによる3I/ATLASの公式情報と2025年10月30日近日点通過の詳細データ

ハーバード大学天文学部 – アヴィ・ローブ教授ページ(外部)
理論・計算研究所所長として宇宙論と地球外生命探査研究を主導する公式プロフィール

ATLAS プロジェクト公式サイト(外部)
4台の望遠鏡による24時間体制天体監視システムと最新発見情報を提供

SETI Institute 公式サイト(外部)
地球外知的生命探査の観点からの3I/ATLAS専門的解説と研究者ディスカッション

【参考記事】

Wikipedia – 3I/ATLAS(外部)
ハッブル宇宙望遠鏡観測による直径修正と水氷検出を含む彗星活動の詳細

NASA – As NASA Missions Study Interstellar Comet, Hubble Makes Size Estimate(外部)
2025年7月21日ハッブル宇宙望遠鏡観測による直径推定の大幅修正とコマの詳細構造

Is the Interstellar Object 3I/ATLAS Alien Technology? (arXiv)(外部)
ローブ博士による学術論文。軌道整列確率0.2%と金星・火星・木星接近確率0.005%を数学的証明

SETI Institute – Comet 3I/ATLAS: A Visitor from Beyond the Solar System(外部)
ATLAS観測網による発見過程と双曲軌道を持つ星間天体としての特性の専門的解説

Sky at Night Magazine – Hubble captures sharpest image yet of interstellar visitor 3I/ATLAS(外部)
時速210,000キロメートルの太陽系史上最速訪問者データと観測スケジュール詳細

【編集部後記】

3I/ATLASの発見と継続的な観測は、私たちが宇宙に抱く根本的な疑問「私たちは一人ぼっちなのか?」に新たな視点を与えてくれました。科学的事実として確認された異常な軌道整列と、彗星活動の詳細データが示す複雑性は、自然現象の限界を改めて考えさせられます。

読者の皆さんは、もし本当に地球外文明の探査機が太陽系を訪れているとしたら、その技術レベルをどの程度と想像されますか?また、このような発見が人類の宇宙観や科学技術の発展にどのような影響を与えると思われるでしょうか?12月の再観測で新たな証拠が見つかることを、皆さんはどのように期待されますか?

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