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スペーステクノロジーニュース

7月21日【今日は何の日?】「スペースシャトル、最後のミッションを完了」30年の歴史に幕を下ろした日

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 - innovaTopia - (イノベトピア)

2011年7月21日午前5時57分(EDT)、スペースシャトル・アトランティスがケネディ宇宙センターの滑走路15に着陸し、30年間にわたって続いたスペースシャトルプログラムが正式に終了した。

この瞬間は、人類の宇宙探査史において最も革命的な宇宙船の時代が終わりを告げた歴史的な出来事となった。再利用可能な宇宙船による宇宙輸送という野心的な概念は、1981年のコロンビア号による初飛行から30年間、135回のミッションを通じて人類の宇宙への理解を根本的に変え、現在の宇宙開発の基盤を築いた。

スペースシャトルとは何か:革命的な再利用宇宙船の概念

従来の宇宙船との根本的違い

スペースシャトルは、従来の使い捨て宇宙船とは全く異なる設計思想から生まれた革命的な宇宙輸送システムだった。最大の特徴は再利用可能性にあった。アポロ宇宙船やソユーズ宇宙船が一度の飛行で廃棄されるのに対し、シャトルのオービター(軌道船)は航空機のように滑走路に着陸し、整備後に再び宇宙へ飛行することができた。

シャトルシステムは3つの主要コンポーネントで構成されていた:

  • オービター:有人部分を含む宇宙船本体(長さ37m、翼幅24m)
  • 外部燃料タンク(ET):液体水素と液体酸素を格納(高さ47m)
  • 固体ロケットブースター(SRB):打ち上げ時の推進力を提供する2基のロケット

この構成により、シャトルは27,500kgという巨大なペイロードを低軌道に運搬できる能力を持ち、同時に乗組員と貨物を安全に地球に帰還させることができた。

技術的革新の数々

シャトルには数多くの技術的革新が集約されていた。3基のRS-25メインエンジンは、世界初の段階燃焼サイクルエンジンとして、極めて高い性能と信頼性を実現した。このエンジンは現在でも次世代大型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」で使用されている。

熱保護システムも画期的だった。約35,000枚の個別設計されたセラミックタイルが機体を覆い、大気圏再突入時の3,000度に達する高温から乗組員と機体を保護した。この技術は後の宇宙船設計に大きな影響を与えている。

スペースシャトルプログラム:30年間の壮大な計画

プログラムの誕生と目標

スペースシャトルプログラムは1972年にリチャード・ニクソン大統領によって承認された。アポロ計画終了後の宇宙開発において、低コストで高頻度の宇宙輸送を実現することが主要な目標だった。当初の計画では、年間50回の飛行により宇宙輸送コストを大幅に削減し、宇宙を日常的にアクセス可能な場所にすることを目指していた。

5機のオービターとその役割

プログラム期間中、5機のオービターが建造された:

  • コロンビア号(1981-2003):初号機として28回飛行
  • チャレンジャー号(1983-1986):10回飛行後、1986年の事故で失われる
  • ディスカバリー号(1984-2011):最多の39回飛行
  • アトランティス号(1985-2011):33回飛行、最終ミッションを担当
  • エンデバー号(1992-2011):チャレンジャー号の代替として25回飛行

飛行実績と参加国

135回のミッション全体で、16カ国から355名の宇宙飛行士がシャトルで宇宙に向かった。総飛行時間は1,323日、地球を21,030周し、累計飛行距離は地球と太陽の間を約70往復に相当する。これらの数字は、シャトルが人類の宇宙活動を質的にも量的にも大きく拡大したことを示している。

STS-135:30年の歴史を締めくくる最終ミッション

厳選された4人の精鋭クルー

最終ミッションSTS-135は、特別に編成された4人のクルーによって実施された。これは1983年以来最小の乗組員数だったが、各メンバーは豊富な経験を持つエキスパートだった。

クリス・ファーガソン船長(49歳)は海軍大佐として2回のシャトル飛行経験を持ち、このミッションの指揮官として選ばれた。パイロットのダグ・ハーリー(44歳)は、後に2020年のSpaceX Demo-2ミッションで民間宇宙船による初の有人飛行を成功させることになる人物だった。

ミッションスペシャリストのサンディ・マグナス(46歳)はISS長期滞在経験を持つエンジニアで、レックス・ウォルハイム(48歳)は退役空軍大佐として3回のアトランティス飛行を経験していた。

13日間のミッション詳細

2011年7月8日午前11時29分、アトランティスは最後の打ち上げを成功させた。 ミッション期間は12日18時間28分50秒、地球を200周して総距離528万4862マイルを飛行した。

7月10日のISS到着後、クルーは重要な補給作業を実施した。**ラファエロ多目的補給モジュール(MPLM)**を使用して9,400ポンドの物資をISSに移送し、同時に5,700ポンドの廃棄物を地球帰還のため回収した。この作業により、シャトル退役後1年以上のISS運用が可能となった。

シャトル時代最後の宇宙遊泳

7月12日、ISS第28次長期滞在クルーのマイク・フォッサムとロン・ガランによって、シャトル時代最後の宇宙遊泳が実施された。6時間31分の活動では、故障したアンモニアポンプモジュールの回収と、将来の燃料補給技術実証のためのロボット燃料補給実験装置(RRM)の設置が行われた。

象徴的な旗の受け渡し儀式

最も象徴的な瞬間は、STS-1の旗の受け渡し儀式だった。ファーガソン船長は、1981年の初のシャトルミッション(STS-1)で飛行したアメリカ国旗をISS乗組員に手渡した。この旗は「将来の商業宇宙船がそれを奪還するまで」ISSに保管されることが決められていた。

興味深いことに、この予言は2020年に現実となった。SpaceX Demo-2ミッションでダグ・ハーリー(STS-135の元パイロット)とボブ・ベンケンがこの旗を地球に持ち帰り、商業宇宙輸送時代の到来を象徴的に示した。

歴史的な最終着陸

7月21日午前5時57分、アトランティスは滑走路15に無事着陸した。 これはシャトル史上26回目の夜間着陸であり、着陸重量22万6375ポンド、主脚接地から車輪停止まで54秒間の完璧な着陸だった。

車輪停止の瞬間、ファーガソン船長は歴史に残る最後の言葉を発した:

「ヒューストン、ミッション完了。世界に30年以上奉仕した後、シャトルは歴史にその地位を確立し、最終停止に至った。」

管制センターのバリー・ウィルモアは応答した:

「アトランティス、そして真にこの素晴らしい宇宙船を可能にした、この偉大な宇宙飛行国家の何千人もの情熱的な個人たちに祝福を。30年間、世界中の何百万人もの人々にインスピレーションを与えてきた。」

スペースシャトルが人類社会にもたらした功績

天文学革命:ハッブル宇宙望遠鏡

スペースシャトルの最も重要な功績の一つは、ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げと保守だった。1990年のSTS-31ミッションでディスカバリー号によって軌道に設置されたハッブルは、その後5回のシャトルによる保守ミッション(1993、1997、1999、2002、2009年)を受けた。

この保守作業により、ハッブルは30年以上にわたって稼働し続け、宇宙の年齢の測定ダークエネルギーの発見太陽系外惑星の観測など、天文学の根本的な理解を変える発見を数多く生み出した。シャトルの大型ペイロード能力と有人作業能力なくしては、ハッブルの成功は不可能だった。

国際宇宙ステーション:人類最大の宇宙構造物

シャトルプログラムのもう一つの偉大な遺産は、国際宇宙ステーション(ISS)の建設だった。37回のシャトルミッションがISS建設に関与し、大型モジュール、トラス構造、太陽電池パネルなどの主要コンポーネントを軌道に運んだ。

特に注目すべきは、日本の**「きぼう」実験棟**の建設だった。2008年のSTS-123、STS-124、2009年のSTS-127の3回のミッションによって、この巨大な実験施設が完成した。シャトルの大型貨物搭載能力なくしては、きぼうのような大型実験施設の軌道設置は不可能だった。

科学実験と技術実証の拠点

シャトルの貨物ベイは、多数の科学実験の場となった。微小重力環境を活用した材料科学、生命科学、地球観測など、様々な分野の研究が実施された。スペースラブモジュールを使用した22回のミッションでは、ヨーロッパとの国際協力の下で多くの実験が行われた。

これらの実験は、タンパク質結晶成長、金属合金の製造、植物の成長メカニズムの解明など、地上での応用につながる重要な成果を生み出した。

軍事・国家安全保障への貢献

シャトルは民間の科学ミッションだけでなく、国防総省(DoD)ミッションも担当した。10回のDoD専用ミッションでは、偵察衛星の展開、軍事通信衛星の保守、機密実験の実施などが行われた。これらのミッションは冷戦期のアメリカの宇宙戦略において重要な役割を果たした。

商業衛星産業の発展

シャトルは商業衛星の打ち上げも担当し、1980年代から1990年代初頭の商業宇宙産業の発展に重要な役割を果たした。通信衛星、気象衛星、地球観測衛星など、現在の宇宙ベースのサービスの基盤となる衛星の多くがシャトルによって軌道に送られた。

技術革新と産業への波及効果

宇宙技術の民間転用

シャトルプログラムで開発された技術の多くは、民間産業に転用され、日常生活に大きな影響を与えた:

  • 水浄化システム:銀イオンを使用した浄化技術が家庭用浄水器に応用
  • 断熱材技術:エアロゲルなどの先進材料が建築・自動車産業に転用
  • 医療機器:微小重力実験で得られた知見が医療機器の改良に貢献
  • タイヤ化合物:シャトルのタイヤ技術が自動車用タイヤの性能向上に寄与

ロボット技術の発展

カナダアーム(シャトル・リモート・マニピュレーター・システム)は、宇宙ロボット技術の先駆けとなった。この技術は後にISS建設で使用されるカナダアーム2、現在の国際宇宙ステーションロボットシステム、さらには地上の医療用ロボット手術システムにまで発展している。

国際協力の新時代

冷戦後の宇宙外交

シャトルプログラムは、冷戦後の国際宇宙協力の基盤を築いた。特に重要だったのは、1995年から1998年にかけて実施されたシャトル・ミール計画だった。この計画では、9回のシャトルミッションがロシアの宇宙ステーション「ミール」を訪問し、米露の宇宙飛行士が共同で作業を行った。

この協力は、従来の競争関係から協調関係への転換を象徴し、後のISS国際協力の基礎となった。現在、ISS計画には16カ国が参加しており、これはシャトル時代に築かれた信頼関係の産物である。

多国籍宇宙飛行士の育成

シャトルプログラムを通じて、多くの国の宇宙飛行士が宇宙飛行を経験した。日本からは毛利衛向井千秋若田光一野口聡一山崎直子らがシャトルで宇宙に向かい、これらの経験が日本の宇宙開発能力の向上に大きく貢献した。

プログラム終了の背景と教訓

予算制約と現実的課題

シャトルプログラムの終了は、複合的な要因によるものだった。最も重要な問題は運用コストの高騰だった。プログラム全体の総費用は2,090億ドル(2010年価格)に達し、1回の飛行平均コストは16億ドルまで上昇していた。

当初予想された年間50回の高頻度運用は実現されず、実際の年間平均飛行回数は4.5回に留まった。これは当初計画の約10%という大幅な乖離だった。

安全性への深刻な懸念

**チャレンジャー号事故(1986年)コロンビア号事故(2003年)**は、プログラムの安全性に対する根本的な疑問を提起した。135回のミッションで2回の事故(事故率1.5%)は、当初の安全予測を大幅に上回る高いリスクを示していた。

特にコロンビア事故調査委員会(CAIB)は、技術的問題だけでなく、組織文化の問題も事故の原因として指摘した。安全性よりもスケジュールを優先する文化、上層部への悪いニュースの伝達不備、技術的リスクの軽視などが構造的問題として浮上した。

技術的陳腐化の問題

30年間の運用期間中、シャトルの技術は次第に陳腐化していった。最も象徴的だったのは、部品調達の困難だった。1980年代の電子部品が生産終了となり、NASAはeBayで古い部品を検索したり、古い医療機器を購入して部品を取り出すという事態に至った。

35,000枚の熱保護タイルの個別検査、RS-25エンジンの飛行後完全分解点検など、維持管理の複雑さとコストは年々増大していった。

次世代宇宙開発への継承

スペース・ローンチ・システム(SLS)への技術継承

シャトルの技術的遺産は、NASAの次世代大型ロケットスペース・ローンチ・システム(SLS)に直接継承されている。SLSは4基のRS-25エンジン(シャトルのメインエンジン)と、シャトル由来の固体ロケットブースターを使用している。

アルテミス計画における月探査ミッションでは、少なくともアルテミス4まで、シャトルから再生されたRS-25エンジンが使用される予定だ。これは、シャトル技術の直接的な継承を示している。

商業宇宙輸送の発展

シャトル退役後の有人宇宙輸送は、商業クルー計画によって民間企業に委ねられた。SpaceXのドラゴン宇宙船とボーイングのスターライナーは、シャトルの安全基準を改善し、より安全で効率的な宇宙輸送を実現している。

興味深いことに、2020年のSpaceX Demo-2ミッションでは、STS-135の元パイロットだったダグ・ハーリーが乗組員として参加し、シャトル時代から商業宇宙輸送時代への象徴的な橋渡しを果たした。

国際宇宙探査の基盤

シャトルが築いた国際協力モデルは、現在のアルテミス合意や将来の火星探査計画にも継承されている。16カ国が参加するISS運用で培われた多国間協力の経験は、より複雑な深宇宙探査ミッションにおいて重要な資産となっている。

現在への影響と未来への展望

宇宙産業エコシステムの形成

シャトルプログラムは、現在の宇宙産業エコシステムの基盤を形成した。フロリダ州のケープカナベラル周辺、カリフォルニア州の南部、テキサス州のヒューストン周辺には、シャトル時代に形成された宇宙産業クラスターが現在も存在し、SpaceX、Blue Origin、ボーイングなどの次世代宇宙企業の拠点となっている。

人材と知識の継承

シャトル退役により約9,000名の熟練労働者が職を失ったが、多くがアルテミス計画や商業宇宙企業に移籍した。議会は2010年のNASA授権法で、SLSプログラムがシャトルの労働力、資産、能力を活用することを義務付け、重要な専門知識と産業基盤の保全を図った。

宇宙探査の民主化

シャトルが築いた基盤は、現在の「宇宙探査の民主化」につながっている。商業宇宙輸送の発展により、政府機関だけでなく民間企業や個人も宇宙にアクセスできるようになった。これは、シャトルが当初目指していた「宇宙を日常的にアクセス可能な場所にする」という目標が、異なる形で実現されていることを意味している。

時代を超えた遺産

2011年7月21日のアトランティス最終着陸から13年が経過した今、スペースシャトルプログラムの真の価値がより明確になっている。当初の低コスト・高頻度運用という目標は達成されなかったが、人類の宇宙に対する理解と能力を根本的に変えたことは間違いない。

ハッブル宇宙望遠鏡による天文学革命、ISS建設による恒久的な宇宙での人類の存在、国際宇宙協力モデルの確立、多数の技術革新の創出—これらの成果は、投資された2,090億ドルに十分見合う価値を持っている。

現在、アルテミス計画による月探査火星探査計画商業宇宙ステーションの開発など、新たな宇宙時代が始まっている。これらの計画はすべて、シャトルプログラムが築いた技術基盤、人材基盤、国際協力基盤の上に成り立っている。

ファーガソン船長の最後の言葉「シャトルは歴史にその地位を確立し、最終停止に至った」は、単なる終了の宣言ではなく、新たな始まりの序章だった。シャトルの遺産は、人類が宇宙で恒久的に生活し、働き、探索する未来の実現に向けて、今もなお力強く息づいている。

30年間のスペースシャトルプログラムは終了したが、その影響は永遠に続く。2025年以降に予定されている月面基地建設、2030年代の火星有人探査、そして更なる深宇宙探査—これらすべての基盤には、スペースシャトルが築いた革新と協力の精神が根付いている。7月21日という日は、一つの偉大なプログラムの終了を記念すると同時に、人類の宇宙への永続的な旅路における重要なマイルストーンとして、今後も記憶され続けるだろう。

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8月15日【今日は何の日?】Wow!シグナル記念日──AIによる宇宙探査と「発見の利権」を考察。

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 - innovaTopia - (イノベトピア)

1977年8月15日。天文学者ジェリー・エーマンは、記録紙の余白に赤いペンでWow!と書きなぐりました。それは、人類が宇宙からの謎めいた囁きを垣間見た、歴史的な瞬間でした。

そして現代、AIという新たな”知性”は、天文学的なデータの中から「第二のWow!」を発見する能力を我々に与えました。しかし、その発見の瞬間は、人類史の輝かしい新章の幕開けであると同時に、我々の文明が試される「究極の選択」の始まりでもあります。

発見は我々を一つにするのでしょうか、それとも新たな「大航海時代」の引き金となるのでしょうか。本稿では、AIによる探査の最前線から、発見されたメッセージが内包する意味、その後の社会・経済への激震、そして人類に突きつけられる理想と現実までを、詳細に論じます。

AIが拓く探査の新時代

かつてのSETI(地球外知的生命体探査)は、人間の目と幸運に頼る、大海で一本の針を探すような試みでした。しかし、AIの登場がすべてを変えました。

特に大きな壁だったのが、地球自身が発する電波ノイズ(RFI)です。AIは、この無数のノイズの波形を「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」などの技術で学習し、あたかも熟練の警備員が群衆から不審者を見つけ出すかのように、ノイズだけを的確に除去します。

さらに、AIは我々が想定するパターンに合わない「真の異常(アノマリー)」を検出します。これは単なるパターンマッチングではありません。AIは「正常な宇宙とは何か」を自ら学習し、そこから逸脱する未知の現象を捉えるのです。これにより、Breakthrough Listenのようなプロジェクトは、人間では見逃していたであろう無数の候補信号を特定し始めています。

もはや、発見は「いつか」ではなく「いかにして」の段階に入りました。そして、AIのログファイルにその一行が記録された時、物語は次の章へと移ります。

メッセージの「内容」という新たな変数

AIが信号の存在を特定したとして、次に人類が直面するのは「そこには何が書かれているのか?」という、さらに深遠な問いです。信号の「内容」は、我々の未来を全く異なる方向へと導く可能性を秘めています。

宇宙のロゼッタストーンか?

もし信号が、数学や物理学の定数といった普遍的な言語で書かれた「教科書」だったらどうでしょう。それは、かつて人類がパイオニア探査機に載せた銘板や、ボイジャーのゴールデンレコードに込めた想いへの、宇宙からの返信かもしれません。AIを用いた暗号解読チームが組織され、人類の知性が総力を挙げて、未知の科学技術や哲学の解読に挑むことになります。

コズミック・マルウェアの脅威

一方で、その信号は、我々の文明を狙った「トロイの木馬」かもしれません。信号をコンピュータで処理・解読しようとした瞬間に、悪意あるコードが作動し、地球上の金融システムや電力網を破壊する。そんな地球外からのサイバー攻撃という、究極のセキュリティリスクも専門家から指摘されています。解読の試み自体が、引き返せない罠である可能性です。

理解不能の壁

最も厄介なのは、信号が科学でも脅威でもなく、我々の知性では全く理解できない「何か」だった場合です。それは異星の芸術かもしれませんし、我々の論理体系とは根本的に異なる哲学かもしれません。人類はここで初めて、自らの知性の限界と、宇宙における自らの存在の小ささを痛感することになるでしょう。

経済と社会の激震

メッセージの内容がどうであれ、その「発見」という事実だけで、私たちの社会と経済は根底から揺さぶられます。

市場のパニックと熱狂

「発見」の第一報が流れれば、金融市場は即座に反応します。宇宙開発ベンチャーや素材科学企業の株価は天井知らずに高騰する一方、既存のエネルギー産業や、一部の伝統的権威に依存する企業の価値は暴落するでしょう。世界経済は、未曾有の「ETショック」に見舞われます。

産業構造の創造的破壊

もしメッセージの解読により、クリーンで無限のエネルギー技術や、常温超伝導の秘密がもたらされたらどうなるでしょうか。石油や天然ガスに依存した国家経済は崩壊し、エネルギー産業全体が再編を迫られます。全産業の基盤が覆る「創造的破壊」が、世界中で同時に発生するのです。

人類の価値観の変容

「我々は独りではなかった」という事実が常識となれば、人々の価値観は大きく変わります。国家や民族といった境界線の意味は薄れ、「地球人類」としての一体感が生まれるかもしれません。一方で、既存の宗教や哲学は、その教義の根本的な見直しを迫られることになり、社会的な混乱も予想されます。

究極の選択 – 「共有」か「独占」か

これほどのインパクトを持つ発見を前にして、「それを誰が管理するのか」という地政学的な問題が、人類にのしかかります。その瞬間、人類は二つの道が交わる分岐点に立ちます。

【Aルート:理想】「全人類の資産」としての公開

理想の道は、「宇宙条約」の精神に則り、発見を全人類の資産として共有する世界です。パブリックブロックチェーンを用いて発見の全プロセスを公開し、透明性と公平性を担保することで、究極の「科学の民主化」が実現します。

【Bルート:現実】「国家の利権」としての独占

しかし、絶大な利益を前に、ある国がそれを独占しようと考えるのは自然なことです。プライベートブロックチェーンとパブリックブロックチェーンへのハッシュ値記録を組み合わせることで、発見の事実を後から証明しつつ、水面下で情報を独占する「デジタル帝国主義」が始まる可能性があります。

テクノロジーは「鏡」です

AIが信号を見つけ、その内容が人類の運命を揺さぶり、ブロックチェーンがその後の秩序を左右します。しかし、注目すべきは、これらの技術が、設計次第で正反対の未来をどちらも実現できてしまうという事実です。

テクノロジーは、それ自体に意思を持ちません。使う人間の意図を増幅する「鏡」なのです。

地球外知的生命体の探査は、結局のところ我々自身を見つめる行為に他なりません。それは、宇宙における我々の孤独を問うだけでなく、我々が他者と、そして未知と出会った時に、どのような選択をする種族なのかを厳しく問い質します。

その答えは、まだ誰も知りません。


【Information】

SETI研究所 (The SETI Institute)
地球外知的生命の起源や存在を探求する、世界を代表する非営利研究機関です。電波天文学だけでなく、生命が宇宙で発生するための条件を探る宇宙生物学など、多角的なアプローチで研究を行っています。

Breakthrough Listen (ブレークスルー・リッスン)
観測史上最大規模の地球外知的生命体探査プロジェクトです。世界各地の高性能な電波望遠鏡と最新のAI技術を駆使し、最も包括的な探査を行っており、観測データは研究者のために公開されています。

国連宇宙局 (UNOOSA – United Nations Office for Outer Space Affairs)
宇宙空間の平和的利用の促進と、宇宙活動に関する国際協力のハブとなる国連の機関です。記事中で触れた「宇宙条約」の管理など、宇宙に関する国際的なルール作りにおいて中心的な役割を担っています。

METI International (メティ・インターナショナル)
SETIが「聞く」ことを主眼とするのに対し、METIは「(地球から)意図的なメッセージを送る」ことを研究・議論する機関です。メッセージを送ることの是非や、その内容について科学的・倫理的な観点から探求しています。

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【SuperKEKB】KEKフォトウォークに参加してきました。:電子-陽電子衝突加速器【現地訪問】

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 - innovaTopia - (イノベトピア)

こんにちは。サイエンスライターの野村です。今回は6/22に開催された「KEKフォトウォークに参加してきましたので、その時の探訪記です。

 - innovaTopia - (イノベトピア)
つくば駅前からの風景。画面中央付近にロケットが見えるかと思いますが、このあたりに図書館やプラネタリウムがあり、文化施設が密集しています。

KEKフォトウォークとは?

KEKフォトウォークは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)が主催する撮影イベントです。KEKは茨城県つくば市にある素粒子物理学や加速器科学の研究機関で、このフォトウォークは一般の方々にKEKの研究活動や施設について興味を持ってもらうことを目的としています。
https://www2.kek.jp/outreach/kekpw
加速器の美しい曲線、実験装置の精密な構造、研究者の活動風景など、科学の現場ならではの魅力的な被写体が多くあります。

今回は特別?

KEK フォトウォークは、世界15の研究所が参加する「グローバル・フィジックス・フォトウォーク」の一環です。これは米国立フェルミ加速器研究所、欧州合同原子核研究機関(CERN)、ドイツ電子シンクロトロン研究所、カナダTRIUMF研究所、そしてKEKなどの世界的な研究機関が同時開催する特別な企画です。

この国際コンテストでは、KEK を含む参加機関・研究所から3作品が推薦され、世界の素粒子物理の広報担当者のウェブサイト上でフォトコンテストにノミネートされ、全世界からの一般投票によって「グランプリ」を決定します。

10年ぶりの開催
2020年の「グローバル・フォトウォーク」はコロナウイルスの流行によって中止されたため、今回のコンテストは実に10年ぶりです。応募者多数の中、当選しましたので現地へ赴く運びになりました。

ところで何を見に行ったの?

SuperKEKBとは?
SuperKEKBは、KEK(高エネルギー加速器研究機構)にある世界最高性能の電子・陽電子衝突型加速器です。

基本的な仕組み
SuperKEKBは、電子と陽電子(電子の反粒子)をほぼ光速まで加速し衝突させる装置です。地下に建設された周囲約3kmのリング状のトンネル内で、電子は7GeV、陽電子は4GeVのエネルギーまで加速された状態でリング状のトンネル内を逆方向に周回し、Belle II測定器と呼ばれる検出器内で衝突します。

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トンネル入り口にあったSuperKEKBの概略図

私が今回写真撮影に向かったのはSuperKEKBのトンネル内です。(電子と陽電子のビームを収束させるための四極電磁石と六極電磁石の他にビームの「進路」を調整するための偏向電磁石がある場所です。)

参考動画のリング部分の下あたりを歩いていました。

SuperKEKBを使ってなにがわかるの?
1. 物質と反物質の謎を解く研究
この宇宙がなぜ物質でできているのか疑問に思ったことはありませんか?実は、宇宙が誕生した時には物質と反物質が同じ量作られたはずなのですが、現在の宇宙は物質ばかりでできています。SuperKEKBプロジェクトでは、物質と反物質の性質にわずかな違いがあることを詳しく調べて、この宇宙の大きな謎を解明しようとしています。ニュートリノ振動実験の記事も併せて読んでね!

2. まだ見つかっていない新しい粒子を探す研究
現在の物理学では説明できない現象がまだたくさんあります。例えば、宇宙の質量のかなりの部分を占めるとされる「暗黒物質」の正体などです。SuperKEKBプロジェクトでは、これまで発見されていない新しい種類の粒子を見つけることで、宇宙のより深い仕組みを理解しようとしています。

3. 素粒子の基本的な性質を調べる研究
物質を構成する最も小さな粒子である素粒子には、いくつかの種類があります。Belle Ⅱ 測定器では、これらの粒子がどのように変化し、どのような法則に従って振る舞うのかを精密に測定しています。

これらの研究を通じて、私たちが住む宇宙の成り立ちや、物質の根本的な性質について新しい発見をすることが、SuperKEKBプロジェクトの大きな目標です。

ここがすごいよ!SuperKEKBー日本は加速器先進国?

1. 世界記録の衝突性能を達成
SuperKEKBは2024年12月27日にルミノシティ(衝突性能)5.1×10^34 cm^-2 s^-1を達成し、世界最高記録を更新し続けています。このルミノシティはすべての種類の衝突加速器の中で、世界最高の記録で、欧州のCERNや米国フェルミ研究所の記録を上回る快挙です。

ルミノシティって?
単に言えば、「1秒間にどれだけ多くの粒子同士を衝突させることができるか」を表す数値なのです。この値の大きさは非常に重要です。粒子と粒子の衝突によって新しい粒子が生まれたりするわけですから、言ってしまえば「一回の実験でどれだけ精度の良い実験ができるか、どれだけレアなイベントを得られるか」がルミノシティにかかっています。

日本は世界最強の加速器を持っているのです。実は。

KEK到着

今回は少し早めに現地に到着したので、少しだけ常設展示室の中を探索していました。フォトウォークの受付を済ませると、建物内にある、コミュニケーションプラザで素粒子についてのいろいろな展示を見てきました。

KEKコミュニケーションプラザとは?
KEKコミュニケーションプラザでは、加速器が動く仕組みや素粒子について学んだり、宇宙から降り注いでいる宇宙線を観察したり、タンパク質の立体構造を目で見たり、身近なものに含まれている放射線を自分で測ってみたりすることができます。

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フォトウォーク受付!

素粒子のフィルム写真

これは昔素粒子の検出に使われていた。「泡箱」と呼ばれる装置のレンズです。
泡箱(バブルチャンバー)は、素粒子物理学の実験で粒子の軌跡を視覚化するために使われた検出器です。

動作原理
泡箱は液体水素で満たされた容器です。(その他の物質で満たされた泡箱も存在します。)荷電粒子が液体中を通過すると、その経路に沿って気泡が形成されます。これは、粒子が液体分子とエネルギーを交換し、局所的な沸騰を引き起こすためです。形成された気泡の軌跡を写真撮影することで、粒子の経路、運動量、電荷などの物理量を測定できました。

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実際に当時に撮影されたフィルムも横に置いてありました。フィルムをのぞき込んでみると素粒子の軌跡が克明に映し出されています。現在では、このような検出手法は使われなくなりました。しかし、このような比較的単純な手法であっても、人の目では見ることができない微小な粒子の姿を捉えることができたのです。

これが何十年も前の技術だったということを考えると、本当に驚くべきことです。

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素粒子の軌跡のフィルム

KEKは大先輩?
実は日本初の公開ウェブページを作ったのはKEKらしいです。言ってしまえばinnovaTopiaの大先輩ですね。

ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を発明したのはCERNのティム・バーナーズ=リーであることは有名ですが、日本におけるウェブの歴史を語る際、KEK(高エネルギー加速器研究機構、当時は高エネルギー物理学研究所)の果たした役割は決して見過ごすことはできません。CERNもKEKも素粒子物理学の研究機関で、科学者たちの間で大規模な実験のための情報共有が必要不可欠だったという背景があることも少し面白いですね。

1992年9月30日、KEKの森田洋平氏によって「KEK Information」と題された日本初のウェブページが公開されました。この歴史的な出来事の背景には、国際的な科学者コミュニティのネットワークがありました。

興味深いのは、この日本初のウェブサイト誕生の経緯です。森田氏は1992年9月にフランスで開催された国際会議に出席した後、CERNに立ち寄り、そこでバーナーズ=リー博士と直接会話する機会を得ました。CERNのカフェテリアでの昼食中、バーナーズ=リー博士から「情報はネットワーク上でみんなと共有して、はじめて価値が生まれる。WWWはハイパーテキストのリンクで世界中の情報をお互いに結びつけることを可能にする。KEKもぜひWWWサーバーを立ちあげて欲しい」と直接依頼されたのです。

この要請を受けて、森田氏は急遽CERNの端末を借りてKEKのサーバーにログインし、単一のページとしてHTML形式のウェブページを作成しました。この「KEK Information」は茨城県つくば市にある文部省高エネルギー物理学研究所計算科学センターのサーバー上に設置され、日本のインターネット史に重要な一歩を刻みました。

KEKがウェブの先駆者となったのは偶然ではありません。素粒子物理学の研究においては、世界中の研究機関との情報共有が不可欠であり、CERNで生まれたWWWという技術の価値を即座に理解し、実践に移す土壌がKEKにはあったのです。

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先輩じゃないっすか!?ウイッスウイッス…

当日はコミュニケーションプラザ内で、SuperKEKBの装置概要や、どのようなことを目指して電子と陽電子をぶつけているのかについて動画を用いた説明を受けてから施設内を見学しました。

トンネル内での写真撮影

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偏向電磁石。

電子も陽電子も電荷を帯びた粒子であるため、磁場のある空間ではローレンツ力を受けて軌道が曲がります。上の写真は偏向電磁石です。このローレンツ力を利用して陽電子と電子の軌道を調整しているらしいです。

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四極電磁石

この電磁石はさっきとは異なり4つのコイルがあります。この構造によって広がってしまう電子と陽電子の軌道を収束させています。

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六極電磁石

四極電磁石のほかに六極電磁石を用いて、レンズ系でいうところの「色収差」のようなものが電子ビームに生じてしまうことを防いでいるらしいです。

自分の身長程度もある大きな電磁石と、ここまで長い距離真空が保たれている装置を見たことがなかったので、正直歩いている間は現実の世界で起こっていることだと実感できませんでした。巨大実験は装置を見ているだけで少し幸せな気持ちになれます。

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ARESキャビティ

ARESキャビティについて手短に説明いたします。

ARESキャビティとは常伝導加速空洞のことで、ARESはAccelerator Resonantly coupled with Energy Storageの略です。

これはSuperKEKB加速器システムにおいて使用されている加速空洞の一種で、常伝導(超伝導ではない)技術を用いた粒子加速装置です。電子や陽電子ビームにエネルギーを与える役割を果たします。

SuperKEKBでは超伝導加速空洞と併用される形で、このARES空洞が加速器システムの一部として組み込まれており、全体として世界最高レベルの衝突性能を実現するための重要な構成要素となっています。

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電子と陽電子の通り道

画面中央よりやや上に見える銅色のパイプが電子の通り道、下に見える銀色のパイプが陽電子の通り道です。陽電子がうまく通れるようにKEKは独自の工夫をしているそうです。

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トリスタン実験で活躍した装置たち

出口付近にはTRISTAN実験で活躍していた装置たちが並んでいました。

TRISTAN実験は、1986年に完成したリング状衝突加速器TRISTAN(Transposable Ring Intersecting Storage Accelerator in Nippon)を用いた実験で、文部省高エネルギー物理学研究所が5年の期間をかけて開発しました。

トリスタン計画は1980年代初頭から90年代中頃まで実施されたプロジェクトで、当時の世界最高エネルギーにおける電子陽電子反応の研究が実施されました。加速器としては電子と陽電子それぞれ300億電子ボルト(30GeV)の電子陽電子衝突型加速器で、約3kmの周長上の4か所に於いて電子ビームと陽電子ビームの衝突がなされました。

実験機器萌えの話

科学の世界には、日常生活ではなかなか目にすることのない独特な実験機器が数多く存在します。巨大な加速器や精密な分析装置、無骨ながらも美しいガラス器具など、その姿や機能には独特の魅力が詰まっています。

こうした実験機材に心惹かれる「科学系の実験機材萌え」という感覚を持つ人たちが、実は一定数存在します。彼ら・彼女らは、機材の機能美や構造の複雑さ、あるいは未知の現象を解き明かすための“道具”としての力強さに惹かれ、時には写真集や模型、イラストなどでその魅力を楽しんでいます。

科学機器は、一般の人にとっては遠い存在かもしれません。しかし、その無機質なフォルムや精巧な設計、そして「人類の知を切り拓くための最前線」という背景を知れば知るほど、そこにロマンを感じずにはいられません。
科学の発展を支える“縁の下の力持ち”である実験機材たち。そんな彼らに密かに心を寄せるファンがいることも、科学の世界の面白さのひとつと言えるでしょう。

実際にフラスコやその他の実験器具や電気素子のアクセサリーや日用品が販売されたりしています。

https://shop.systemgear.com/view/item/000000000925
(これは電子基板をモチーフにしたキーホルダーです。)

https://rikashitsu.jp/online-shop/products/list228.html
(フラスコの形をしたワイングラスです。ほかにも理科室のような内装をコンセプトにしたバーがあったり案外「科学器具に萌える」ひとは多いのかもですね。)

【編集部後記】

2025年に9/23にKEKの一般公開があります。是非皆様も巨大科学の膨大な時間と年月をかけた人類の実験科学の最先端を体験してください!(仕事の予定が合えば僕も行きたいな…)詳細は下記URLより

https://www2.kek.jp/openhouse/2025(KEK一般公開)

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スペーステクノロジーニュース

3I/ATLAS「エイリアン探査機説」をハーバード大学物理学者が提唱、確率0.005%の異常軌道に注目

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3I/ATLAS「エイリアン探査機説」をハーバード大学物理学者が提唱、確率0.005%の異常軌道に注目 - innovaTopia - (イノベトピア)

ハーバード大学の物理学者アヴィ・ローブ博士が、2025年7月1日にチリのATLAS望遠鏡で発見された星間天体3I/ATLASについて、エイリアンの探査機である可能性を示唆した。

この天体は直径0.32〜5.6キロメートル(最有力1km未満)で、典型的な彗星とは異なり前方に光を発している。火星、金星、木星の軌道と整列する軌道を持ち、ランダムに太陽系に入る天体がこのように整列する確率は0.005%である。ローブ博士はフォックスニュース・デジタルに対し「軌道が設計されたものかもしれない」「偵察任務の目的を持っていた可能性がある」と述べた。

地球外知的生命探査(SETI)の観点から、高度な文明が探査機を配備する可能性があるとし「もしそれが技術的なものであることが判明すれば、人類の未来に大きな影響を与える」と説明している。

From:文献リンクCould an Alien Probe Be Passing Through Our Solar System? Harvard Expert Weighs I

【編集部解説】

innovaTopiaの読者の皆さまにとって、この3I/ATLASという星間天体の話題は、単なる天文学上の発見を超えた深刻な意味を持っています。ローブ博士の主張は科学界で議論を呼んでいますが、最新の観測結果と合わせて検証すると、興味深い事実が浮かび上がってきます。

まず注目すべきは、3I/ATLASの軌道特性の異常性です。ランダムに太陽系に侵入する天体が惑星軌道と5度以内で整列する確率は0.2%、さらに金星、火星、木星に接近する確率は0.005%という極めて低い数値が示すのは、統計学的に考えると確かに「設計された可能性」を排除できない現実です。

技術的観点から見ると、3I/ATLASは従来の彗星とは決定的に異なる特徴を示しています。当初20キロメートルとされていた直径は、ハッブル宇宙望遠鏡の詳細観測により大幅に下方修正され、現在は0.32〜5.6キロメートル、最も可能性が高いのは1キロメートル未満とされています。この小さなサイズでありながら顕著な活動性を示すという新たな謎を生み出しています。

重要な修正点として、当初「彗星活動の兆候がない」とされていましたが、現在は明確な彗星活動が確認されています。ジェミニ南天文台とNASA赤外線望遠鏡施設による2025年7月5日と14日の近赤外分光観測で氷の検出に成功し、スイフト天文台による7月30日と8月1日の紫外線観測では水蒸気と水酸基イオンが検出されました。これらの観測により、3I/ATLASは確実に活発な彗星であることが証明されています。

SETI(地球外知的生命探索)の文脈では、このような探査機仮説は決して非科学的ではありません。高度な文明が他の星系を調査するために探査機を派遣するという概念は、人類自身がボイジャーやパイオニア探査機で実践している手法です。特に3I/ATLASの軌道が複数の惑星を効率的に観測できる設計になっている点は、偵察任務の観点から合理的な経路設計と考えることも可能です。

興味深いことに、3I/ATLASは太陽系最速の訪問者として記録されており、時速210,000キロメートルという驚異的な速度で移動しています。この速度は、天体が数十億年間にわたって星間空間を移動し、星や星雲の重力によって加速されてきたことを示唆しています。

現在、3I/ATLASは9月まで地上望遠鏡で観測可能ですが、その後太陽に近づきすぎるため地球からは見えなくなります。12月初旬に太陽の反対側で再び観測可能になる予定です。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による8月と12月の観測が計画されており、近日点通過前後での化学組成の変化を詳細に調査する予定です。

一方で、科学界の多数派は自然起源説を支持しており、専門家の中にはローブ博士の仮説を批判する声もあります。しかし、過去にも’Oumuamua(オウムアムア)の異常な加速現象など、従来理論では説明困難な星間天体の挙動が観測されており、新しい物理現象や技術的可能性を排除すべきではありません。

この事案が示すのは、科学的探求における開放性の重要性です。異常なデータに対して既存の枠組みで説明を試みる姿勢と同時に、従来の常識を超えた可能性も検討する柔軟性が、真の科学的進歩をもたらすのです。

【用語解説】

アヴィ・ローブ博士
ハーバード大学の理論物理学者で、地球外生命探査分野の第一人者。宇宙論と天体物理学を専門とし、2017年の星間天体オウムアムアについても地球外技術である可能性を提唱して議論を呼んだ。現在はハーバード・スミソニアン天体物理学センター内の理論・計算研究所の所長を務める。

3I/ATLAS
2025年7月1日に発見された3番目の星間天体(Interstellar objectの「I」)。正式名称はC/2025 N1 (ATLAS)。太陽系外から飛来し、直径は0.32〜5.6キロメートル、最も可能性が高いのは1キロメートル未満とされる。

ATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)
地球に接近する小惑星の早期発見を目的とした自動観測システム。ハワイ大学が開発し、現在4台の望遠鏡がハワイ、南アフリカ、チリで稼働している。直径50センチメートルの望遠鏡で7.4度という広い視野を持つ。

SETI(地球外知的生命探査)
Search for Extraterrestrial Intelligenceの略で、電波や光学望遠鏡を用いて地球外知的生命体からの信号を探査する科学的プロジェクト。1960年代から続く国際的な研究活動である。

星間天体
太陽系外の他の恒星系から飛来した天体。これまでに確認されたのは2017年のオウムアムア、2019年のボリソフ彗星、そして2025年の3I/ATLASの3個のみで、非常に稀な現象である。

ハッブル宇宙望遠鏡
地球軌道上で稼働するNASAの宇宙望遠鏡。大気の影響を受けないため、極めて高解像度の画像撮影が可能。3I/ATLASの正確なサイズ測定に貢献した。

【参考リンク】

NASA – 3I/ATLAS 公式情報(外部)
NASAによる3I/ATLASの公式情報と2025年10月30日近日点通過の詳細データ

ハーバード大学天文学部 – アヴィ・ローブ教授ページ(外部)
理論・計算研究所所長として宇宙論と地球外生命探査研究を主導する公式プロフィール

ATLAS プロジェクト公式サイト(外部)
4台の望遠鏡による24時間体制天体監視システムと最新発見情報を提供

SETI Institute 公式サイト(外部)
地球外知的生命探査の観点からの3I/ATLAS専門的解説と研究者ディスカッション

【参考記事】

Wikipedia – 3I/ATLAS(外部)
ハッブル宇宙望遠鏡観測による直径修正と水氷検出を含む彗星活動の詳細

NASA – As NASA Missions Study Interstellar Comet, Hubble Makes Size Estimate(外部)
2025年7月21日ハッブル宇宙望遠鏡観測による直径推定の大幅修正とコマの詳細構造

Is the Interstellar Object 3I/ATLAS Alien Technology? (arXiv)(外部)
ローブ博士による学術論文。軌道整列確率0.2%と金星・火星・木星接近確率0.005%を数学的証明

SETI Institute – Comet 3I/ATLAS: A Visitor from Beyond the Solar System(外部)
ATLAS観測網による発見過程と双曲軌道を持つ星間天体としての特性の専門的解説

Sky at Night Magazine – Hubble captures sharpest image yet of interstellar visitor 3I/ATLAS(外部)
時速210,000キロメートルの太陽系史上最速訪問者データと観測スケジュール詳細

【編集部後記】

3I/ATLASの発見と継続的な観測は、私たちが宇宙に抱く根本的な疑問「私たちは一人ぼっちなのか?」に新たな視点を与えてくれました。科学的事実として確認された異常な軌道整列と、彗星活動の詳細データが示す複雑性は、自然現象の限界を改めて考えさせられます。

読者の皆さんは、もし本当に地球外文明の探査機が太陽系を訪れているとしたら、その技術レベルをどの程度と想像されますか?また、このような発見が人類の宇宙観や科学技術の発展にどのような影響を与えると思われるでしょうか?12月の再観測で新たな証拠が見つかることを、皆さんはどのように期待されますか?

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