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Google I/O 2025でNotebookLMモバイルアプリを正式発表:AIアシスタントの新たな展開

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Google NotebookLM、ついにモバイルアプリ化:AI研究アシスタントがポケットに - IO 2025で発表 - innovaTopia - (イノベトピア)

Googleは2025年5月20日、年次開発者会議「Google I/O 2025」において、AIを活用した研究・執筆支援ツール「NotebookLM」のiOSおよびAndroid向けモバイルアプリを正式に発表した。昨日5月19日にAndroid版が先行リリースされたことに続き、本日のI/Oでは包括的な機能紹介と今後のロードマップが明らかにされた。

Google I/Oという公式の場での発表により、NotebookLMのモバイル展開がGoogleのAI戦略における重要な位置づけであることが明確になった。Google LabsのプロダクトマネージャーであるBiao Wangは基調講演で、「NotebookLMのモバイル化は単なるプラットフォーム拡張ではなく、知識との関わり方を変革するための重要なステップ」と強調した。

アプリは発売直後から高い人気を獲得し、リリースから24時間以内にApple App Storeの「生産性」カテゴリで2位、全体で9位に達した。トラフィック分析会社Similarwebによると、NotebookLMプラットフォームへの月間訪問数は過去6ヶ月で56%増加し、4800万回以上の訪問を記録している。

I/Oでは、昨日の発表では触れられなかった新機能「ビデオオーバービュー」も紹介された。この機能により、ユーザーはPDFや画像などのコンテンツから短いアニメーション付き要約ビデオを生成できるようになる。これは現在のオーディオオーバービュー機能を視覚的に拡張するもので、近日中に英語版で提供開始される予定だ。

アプリは発売直後から高い人気を獲得し、リリースから24時間以内にApple App Storeの「生産性」カテゴリで2位、全体で9位に達した。トラフィック分析会社Similarwebによると、NotebookLMプラットフォームへの月間訪問数は過去6ヶ月で56%増加し、4800万回以上の訪問を記録している。

モバイルアプリの主な機能には以下が含まれる

  • オフライン再生:「オーディオオーバービュー」(アップロードされたドキュメントやメディアに関するAI生成のポッドキャストディスカッション)をダウンロードして、インターネット接続がない場所でも再生可能
  • バックグラウンド再生:他のアプリを使用しながらオーディオコンテンツを聴くことが可能
  • インタラクティブなAIホスト:インターネット接続時には「Join(参加)」ボタンをタップして、AIホストに質問したり会話の流れを変更したりすることが可能
  • 簡単なコンテンツ共有:ウェブサイト、PDF、YouTubeビデオなどをスマートフォンの共有メニューから直接NotebookLMに追加可能

NotebookLMアプリはiOS 17以降を実行するiPhoneとiPad、およびAndroid 10以降を実行するAndroidデバイスで利用可能である。現在のバージョンは最小限の実用製品(MVP)として説明されており、ユーザーのフィードバックに基づいて継続的に改善される予定だ。

また、Googleは近日中に「ビデオオーバービュー」機能を追加する予定で、これによりユーザーはPDFや画像などのコンテンツから短いアニメーション付き要約ビデオを生成できるようになる。

企業向けには「NotebookLM Business」(現在は「NotebookLM Plus」と呼ばれる)が提供されており、拡張された容量、コラボレーションツール、使用分析、オーディオ強化などの機能が含まれている。2026年にはGoogle One AIプレミアムプランにも含まれる予定だ。

NotebookLMはすでに学生、研究者、知識労働者の間で人気を博しており、スタートアップやベンチャーキャピタル部門の一部では元MetaのプロダクトVPで現在Slow Venturesのゼネラルパートナーであるサム・レッシンのように、CRMや内部ウィキの代わりに採用されている例もある。

References:
文献リンクGoogle finally launches NotebookLM mobile app at I/O: hands-on, first impressions

【編集部解説】

Google I/O 2025でのNotebookLMモバイルアプリの正式発表は、昨日のAndroid版先行リリースの情報をさらに深化させる重要な発表となりました。昨日の記事では触れられなかった詳細な機能や将来の展望が明らかになり、GoogleがこのツールをAI戦略の中核に位置づけていることが明確になりました。

特に注目すべきは、I/Oの基調講演で発表された「ビデオオーバービュー」機能です。これまでのオーディオオーバービュー(音声要約)機能を視覚的に拡張するもので、PDFや画像などから短いアニメーション付き要約ビデオを生成できるようになります。これにより、複雑な情報の理解がさらに促進されることが期待されます。

また、I/Oでは初期の利用データも公開されました。リリースから24時間以内にApp Storeの「生産性」カテゴリで2位、全体で9位に達したという実績は、このツールへの高い期待と需要を示しています。Similarwebのデータによると、NotebookLMプラットフォームへの月間訪問数は過去6ヶ月で56%増加し、4800万回以上に達しているとのことです。

昨日の記事で触れたオフライン再生やバックグラウンド再生機能に加え、I/Oではインタラクティブな「Join(参加)」ボタンの機能がより詳細に紹介されました。これにより、ユーザーはオーディオオーバービューの再生中にAIホストに質問したり、会話の流れを変更したりすることができます。この機能は、移動中でも深い理解を得るための重要なツールとなるでしょう。

企業向けの「NotebookLM Plus」(旧NotebookLM Business)についても、I/Oでより詳細な情報が公開されました。拡張された容量、コラボレーションツール、使用分析などの機能に加え、2026年にはGoogle One AIプレミアムプランにも含まれる予定であることが明らかになりました。これは、Googleが個人ユーザーだけでなく、企業ユーザーも重要なターゲットとして位置づけていることを示しています。

ハンズオンレビューからは、初期バージョンならではの課題も見えてきます。URLの追加に関する不安定さやノートブックの読み込み遅延など、ユーザー体験を損なう可能性のある問題が報告されています。これらは今後のアップデートで改善されることが期待されますが、初期採用者は一定の忍耐が必要かもしれません。

プライバシー面では、I/Oでの発表でより明確になりましたが、GoogleはNotebookLMで個人データをAIモデルのトレーニングに使用しないと明言しています。特に企業や教育機関のWorkspaceアカウントでは、データ処理がWorkspaceまたはEducationの利用規約に準拠しており、コンプライアンス基準が強化されています。これは規制の厳しい業界や機密データを扱う組織にとって重要なポイントです。

興味深いのは、I/Oでの発表に合わせて、すでに一部のスタートアップやベンチャーキャピタル部門が、従来のCRMや内部ウィキの代わりにNotebookLMを採用している事例が紹介されたことです。元MetaのプロダクトVPで現在Slow Venturesのゼネラルパートナーであるサム・レッシンは、CRMの代わりにNotebookLMを使用していると述べています。これは、NotebookLMが単なる個人の生産性ツールを超えて、組織の知識管理インフラとしての可能性を示しています。

昨日の記事で触れたように、NotebookLMは2023年に「Project Tailwind」として実験的にスタートしたプロジェクトでしたが、I/Oでの発表を通じて、このツールがGoogleのAI戦略における重要な位置づけであることが明確になりました。特に、RAG(検索拡張生成)モデルを活用した知識ベースの構築機能は、企業内の膨大なドキュメント、プレゼン資料、会議録などを一元管理し、必要な情報に瞬時にアクセスできるようにする点で革新的です。

日本企業においても、言語の壁を超えた知識共有や、部門間のサイロ化を解消するツールとして活用できる可能性があります。特に、日本特有の「暗黙知」を「形式知」に変換し、組織全体で共有するプロセスを加速する可能性を秘めています。

Google I/O 2025でのNotebookLMモバイルアプリの正式発表は、単なる機能追加の発表ではなく、情報との関わり方を根本から変える可能性を秘めた重要な一歩と言えるでしょう。今後の進化に注目です。

【用語解説】

NotebookLM
Googleが開発したAI搭載の研究・執筆支援ツール。PDFやウェブページ、YouTubeなどの情報源を取り込み、要約や質問応答、ポッドキャスト形式の音声コンテンツ生成などができる。

RAG(検索拡張生成)
Retrieval-Augmented Generationの略。AIが回答を生成する際に、特定の情報源(ドキュメントなど)から関連情報を検索・参照することで、より正確で根拠のある回答を生成する技術。NotebookLMの核となる技術。

オーディオオーバービュー
NotebookLMが生成するAIホストによるポッドキャスト形式の音声コンテンツ。アップロードした資料の内容をAIが会話形式で解説する。

ビデオオーバービュー
近日中に追加される予定の機能。PDFや画像などから短いアニメーション付き要約ビデオを生成する。

Google I/O
Googleが毎年開催する開発者向けの年次カンファレンス。「Input/Output」の略。新製品や新機能の発表の場として知られている。

Gemini
Googleの最新AI言語モデル。NotebookLMはGemini 1.5 Pro、最新バージョンではFlash 2.0でアップグレードされている。

MVP(Minimum Viable Product)
最小限の実用製品。製品開発において、最低限の機能を備えた初期バージョンのこと。ユーザーフィードバックを早期に得て改善を進めるために提供される。

【参考リンク】

NotebookLM公式サイト(外部)
GoogleのAI搭載研究アシスタント「NotebookLM」の公式サイト。アカウント登録やサービス利用が可能。

Google NotebookLM Enterprise(外部)
企業向けの高度なコンプライアンスと管理機能を備えたNotebookLM Enterpriseの詳細情報。

Google Blog – NotebookLM日本語対応の発表(外部)
NotebookLMの日本語対応開始を発表したGoogleの公式ブログ記事。

AI Smiley – NotebookLM解説記事(外部)
NotebookLMの使い方や料金、活用事例を詳しく解説した日本語の記事。

【参考動画】

【編集部後記】

みなさんは、移動時間をどのように活用していますか?NotebookLMのモバイル化は、通勤電車の中や待ち時間を知識獲得の場に変える可能性を秘めています。例えば、興味のある論文やレポートをアップロードして、AIがポッドキャスト形式で解説してくれる機能を試してみてはいかがでしょうか。また、ビジネスシーンでは、チームの知識共有ツールとしての活用も考えられます。NotebookLMをどのように活用したいですか?ぜひSNSでご意見をお聞かせください。

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スマホカメラ×AI技術「DeepDetect」農業のデジタル革命が始まる

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スマホカメラ×AI技術「DeepDetect」農業のデジタル革命が始まる - innovaTopia - (イノベトピア)

ウェールズの研究者が、ジャガイモ疫病と戦うためのAIアプリ「DeepDetectプロジェクト」を開発している。

ジャガイモ疫病は世界のジャガイモ作物の約20%の損失を引き起こし、総額45億ドル以上の経済的損失をもたらしている。この病気はPhytophthora infestans(フィトフトラ・インフェスタンス)という病原体によって引き起こされる。

従来の検査は労働集約的で費用がかかり、ヒューマンエラーが発生しやすいため、見逃された場合は病気が畑全体に広がる可能性がある。新しいAIアプリはスマートフォンのカメラを使用してジャガイモの葉の変化を検出し、農家が通常現れる前に病気の兆候を察知できるようにする。

ウェールズでは17,000ヘクタール以上がジャガイモ栽培に充てられているとされる。研究者は農家からの直接的なフィードバックを収集中で、早期診断により農家がより迅速に病気と戦えるようになることを期待している。この技術は将来的にジャガイモを超えて農業産業の他分野にも拡張される可能性がある。

From: 文献リンクResearchers Want To Use AI To Fight Potato Blight

【編集部解説】

このニュースが注目すべき理由は、農業分野におけるAI活用の新たな地平を示している点にあります。特に食料安全保障の観点から、ジャガイモ疫病という世界的な課題に対する革新的なアプローチが提示されています。

従来の農業では、病気の検出は人間の目視に頼る部分が大きく、症状が目に見えるようになった時点では既に手遅れになることが多々ありました。Phytophthora infestans(フィトフトラ・インフェスタンス)という病原体によるジャガイモ疫病は、1845年のアイルランド大飢饉の原因ともなった歴史的な脅威であり、現在でも湿度の高い条件下では数週間で作物を全滅させる可能性があります。

アベリストウィス大学のDeepDetectプロジェクトは、コンピュータビジョンと機械学習を組み合わせて、スマートフォンのカメラを通じてジャガイモの葉の微細な変化を検出し、人間の目では見えない初期段階での病気の兆候を捉えることを目指しています。この技術の革新性は、従来の広域予防散布からtargeted intervention(標的介入)へのパラダイムシフトにあります。

ある報告によると、ウェールズの農家は予防的な殺菌剤散布に年間500万ポンド以上を費やしていると推定されています。このAIシステムが実現すれば、必要な場所にのみピンポイントで対策を講じることが可能になり、大幅なコスト削減と環境負荷軽減が期待できます。

技術面では、このシステムがリアルタイム位置情報と組み合わされることで、location-specific disease diagnoses(場所特有の病気診断)を提供できる点が重要です。これにより、農家は自分の畑の特定の区画に対して即座に対応できるようになります。

興味深いのは、開発チームが最初から農家との共同設計アプローチを採用していることです。これにより、技術的に優れていても実用性に欠けるという、多くの農業技術製品が陥りがちな問題を回避しようとしています。

将来的な展望として、この技術は他の作物や病害にも応用可能とされており、農業分野におけるpredictive analytics(予測分析)の基盤技術となる可能性があります。特に気候変動により病害の発生パターンが変化する中で、このような早期警告システムの重要性はますます高まるでしょう。

一方で、農家のデジタルリテラシーや通信インフラの整備状況、データプライバシーの問題など、実装に向けた課題も存在します。また、AIの判断精度やfalse positive(偽陽性)・false negative(偽陰性)のリスクについても、実用化に向けて慎重な検証が必要です。

この研究はウェールズ政府のSmart Flexible Innovation Support(SFIS)プログラムの支援を受けており、政府レベルでも農業のデジタル変革が重要政策として位置づけられていることがわかります。世界人口の増加と気候変動という二重の課題に直面する現代において、このような技術革新は単なる効率化を超えた、人類の生存戦略としての意味を持っています。

【用語解説】

potato blight(ジャガイモ疫病)
Phytophthora infestansという病原体によって引き起こされるジャガイモの致命的な病気である。感染した植物から数日で広大な畑を全滅させる能力を持ち、1845年のアイルランド大飢饉の原因ともなった歴史的な脅威である。

machine learning(機械学習)
データから自動的にパターンを学習し、予測や分類を行うAI技術である。農業分野では作物の病気検出や収穫量予測などに活用されている。

targeted intervention(標的介入)
特定の問題が発生している場所にのみピンポイントで対策を講じるアプローチである。従来の広域予防散布と対比される効率的な手法である。

【参考リンク】

Aberystwyth University(アベリストウィス大学)(外部)
ウェールズにある公立大学で、今回のDeepDetectプロジェクトを主導している。農業科学や環境科学の分野で高い評価を受けている。

Welsh Government(ウェールズ政府)(外部)
イギリスの構成国の一つであるウェールズの地方政府。Smart Flexible Innovation Supportプログラムを通じて農業技術革新を支援している。

【参考動画】

【参考記事】

Farming’s new weapon: AI app to spot potato blight before it hits(外部)
ウェールズの科学者が開発中のDeepDetectプロジェクトについて詳しく報じた記事。予防散布に年間527万ポンドを費やしているウェールズの現状や具体的な情報を提供している。

Potato blight warning app to use AI to help farmers – BBC News(外部)
BBCによるDeepDetectプロジェクトの報道。ジャガイモが世界で4番目に重要な主食作物であることや食料安全保障の観点からこの技術の重要性を説明している。

Agriculture Technology News 2025: New Tech & AI Advances(外部)
2025年の農業技術トレンドについて包括的に分析した記事。世界の農場の60%以上がAI駆動の精密農業技術を採用すると予測している。

Phytophthora infestans: An Overview of Methods and Attempts(外部)
Phytophthora infestansの科学的研究論文。病原体の遺伝子構造や高い変異率について詳細な説明を提供している。

【編集部後記】

農業とAIの融合は、私たちの食卓の未来を大きく変える可能性を秘めています。スマートフォンひとつで作物の病気を早期発見できる時代が目前に迫っている今、皆さんはどんな農業の未来を想像されますか?

食料安全保障という人類共通の課題に対して、テクノロジーがどこまで貢献できるのか、一緒に考えてみませんか?また、このような技術が実用化された際、消費者である私たちの生活にはどのような変化が訪れると思われますか?ぜひSNSで皆さんの率直なご意見をお聞かせください。

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Axon Draft One:警察報告書をAIが作成、時間短縮や透明性に疑問

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Axon Draft One:警察報告書をAIが作成、時間短縮や透明性に疑問 - innovaTopia - (イノベトピア)

法執行技術企業Axon社が開発したAIソフトウェア「Draft One(ドラフト・ワン)」が全米の警察署で導入されている。

このツールは警察官のボディカメラの音声認識を基に報告書を自動作成するもので、Axon社の最も急成長している製品の一つである。コロラド州フォートコリンズでは報告書作成時間が従来の1時間から約10分に短縮された。Axon社は作成時間を70%削減できると主張している。

一方で市民権団体や法律専門家は懸念を表明しており、ACLU(米国市民自由連合)は警察機関にこの技術から距離を置くよう求めている。ワシントン州のある検察庁はAI入力を受けた警察報告書の受け入れを拒否し、ユタ州はAI関与時の開示義務を法制化した。元のAI草稿が保存されないため透明性や正確性の検証が困難になるという指摘もある。

From: 文献リンクCops Are Using AI To Help Them Write Up Reports Faster

【編集部解説】

このニュースで紹介されているAxon社のDraft Oneは、単なる効率化ツールを超えた重要な議論を巻き起こしています。

まず技術的な側面を整理しておきましょう。Draft Oneは、警察官のボディカメラ映像から音声を抽出し、OpenAIのChatGPTをベースにした生成AIが報告書の下書きを作成するシステムです。Axon社によると、警察官は勤務時間の最大40%を報告書作成に費やしており、この技術により70%の時間を削減できると主張しています。

しかし、実際の効果については異なる報告が出ています。アンカレッジ警察署で2024年に実施された3ヶ月間の試験運用では、期待されたほどの大幅な時間短縮効果は確認されませんでした。同警察署のジーナ・ブリントン副署長は「警察官に大幅な時間短縮をもたらすことを期待していたが、そうした効果は見られなかった」と述べています。審査に要する時間が、報告書生成で節約される時間を相殺してしまうためです。

このケースは単独のものではありません。2024年にJournal of Experimental Criminologyに発表された学術研究でも、Draft Oneを含むAI支援報告書作成システムが実際の時間短縮効果を示さなかったという結果が報告されています。これらの事実は、Axon社の主張と実際の効果に重要な乖離があることを示しています。

最も重要な問題は透明性の欠如です。Draft Oneは、意図的に元のAI生成草案を保存しない設計になっています。この設計により、最終的な報告書のどの部分がAIによって生成され、どの部分が警察官によって編集されたかを判別することが不可能になっています。

この透明性の問題に対応するため、カリフォルニア州議会では現在、ジェシー・アレギン州上院議員(民主党、バークレー選出)が提出したSB 524法案を審議中です。この法案は、AI使用時の開示義務と元草案の保存を義務付けるもので、現在のDraft Oneの設計では対応できません。

法的影響も深刻です。ワシントン州キング郡の検察庁は既にAI支援で作成された報告書の受け入れを拒否する方針を表明しており、Electronic Frontier Foundation(EFF)の調査では、一部の警察署ではAI使用の開示すら行わず、Draft Oneで作成された報告書を特定することができないケースも確認されています。

技術的課題として、音声認識の精度問題があります。方言やアクセント、非言語的コミュニケーション(うなずきなど)が正確に反映されない可能性があり、これらの誤認識が重大な法的結果を招く可能性があります。ブリントン副署長も「警察官が見たが口に出さなかったことは、ボディカメラが認識できない」という問題を指摘しています。

一方で、人手不足に悩む警察組織にとっては魅力的なソリューションです。国際警察署長協会(IACP)の2024年調査では、全米の警察機関が認可定員の平均約91%で運営されており、約10%の人員不足状況にあることが報告されています。効率化への需要は確実に存在します。

しかし、ACLU(米国市民自由連合)が指摘するように、警察報告書の手書き作成プロセスには重要な意味があります。警察官が自らの行動を文字にする過程で、法的権限の限界を再認識し、上司による監督も可能になるという側面です。AI化により、この重要な内省プロセスが失われる懸念があります。

長期的な視点では、この技術は刑事司法制度の根幹に関わる変化をもたらす可能性があります。現在は軽微な事件での試験運用に留まっているケースが多いものの、技術の成熟と普及により、重大事件でも使用されるようになれば、司法制度全体への影響は計り知れません。

【用語解説】

Draft One(ドラフト・ワン)
Axon社が開発したAI技術を使った警察報告書作成支援ソフトウェア。警察官のボディカメラの音声を自動認識し、OpenAIのChatGPTベースの生成AIが報告書の下書きを数秒で作成する。警察官は下書きを確認・編集してから正式に提出する仕組みである。

ACLU(American Civil Liberties Union、米国市民自由連合)
1920年に設立されたアメリカの市民権擁護団体。憲法修正第1条で保障された言論の自由、報道の自由、集会の自由などの市民的自由を守る活動を行っている。現在のDraft Oneに関する問題について警告を発している。

Electronic Frontier Foundation(EFF)
デジタル時代における市民の権利を守るために1990年に設立された非営利団体。プライバシー、言論の自由、イノベーションを擁護する活動を行っている。Draft Oneの透明性問題について調査・批判を行っている。

IACP(International Association of Chiefs of Police、国際警察署長協会)
1893年に設立された世界最大の警察指導者組織。法執行機関の専門性向上と公共安全の改善を目的として活動している。全米の警察人員不足に関する調査を実施している。

【参考リンク】

Axon公式サイト(外部)
Draft Oneの開発・販売元でProtect Lifeをミッションに掲げる法執行技術企業

Draft One製品ページ(外部)
生成AIとボディカメラ音声で数秒で報告書草稿を作成するシステムの詳細

ACLU公式見解(外部)
AI生成警察報告書の透明性とバイアスの懸念について詳細に説明した白書

EFF調査記事(外部)
Draft Oneが透明性を阻害するよう設計されている問題を詳細に分析

国際警察署長協会(外部)
全米警察機関の人員不足状況と採用・定着に関する2024年調査結果を公開

【参考記事】

アンカレッジ警察のAI報告書検証 – EFF(外部)
3ヶ月試験運用で期待された時間短縮効果が確認されなかった結果を詳述

AI報告書作成の効果検証論文 – Springer(外部)
Journal of Experimental CriminologyでAI支援システムの時間短縮効果を否定

警察署でのAI活用状況 – CNN(外部)
コロラド州フォートコリンズでの事例とAxon社の70%時間短縮主張を報告

全米警察人員不足調査 – IACP(外部)
1,158機関が回答し平均91%の充足率で約10%の人員不足状況を報告

カリフォルニア州AI開示法案 – California Globe(外部)
SB 524法案でAI使用時の開示義務と元草稿保存を義務付ける内容を詳述

ACLU白書について – Engadget(外部)
フレズノ警察署での軽犯罪報告書限定の試験運用について報告

アンカレッジ警察の導入見送り – Alaska Public Media(外部)
副署長による音声のみ依存で視覚的情報が欠落する問題の具体的説明

【編集部後記】

このDraft Oneの事例は、私たちの身近にある「効率化」という言葉の裏に隠れた重要な問題を浮き彫りにしています。特に注目すべきは、Axon社が主張する効果と実際の現場での検証結果に乖離があることです。

日本でも警察のDX化が進む中、同様の技術導入は時間の問題かもしれません。皆さんは、自分が関わる可能性のある法的手続きで、AIが作成した書類をどこまで信頼できるでしょうか。また、効率性と透明性のバランスをどう取るべきだと思いますか。

アンカレッジ警察署の事例のように、実際に試してみなければ分からない課題もあります。ぜひSNSで、この技術に対する率直なご意見をお聞かせください。私たちも読者の皆さんと一緒に、テクノロジーが人間社会に与える影響について考え続けていきたいと思います。

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Anthropic Claude Sonnet 4、100万トークンのコンテキスト対応でソフトウェアプロジェクト全体の一括解析が可能に

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Anthropic Claude Sonnet 4、100万トークンのコンテキスト対応でソフトウェアプロジェクト全体の一括解析が可能に - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年8月12日、AnthropicはClaude Sonnet 4が1リクエストで最大100万トークンを処理可能になったと発表した。

Public BetaとしてAnthropicのAPIとAmazon Bedrockで提供し、Google CloudのVertex AI対応は予定中である。75,000行超のコードベース解析が可能となり、内部テスト「needle in a haystack」で100%の正確性を達成した。

価格は入力200Kトークン以下が$3/M、出力が$15/M、超過分は入力$6/M、出力$22.5/Mとなる。Menlo Venturesの調査ではAIコード生成市場でAnthropicは42%、OpenAIは21%のシェアを持つ。主要顧客はCursorとGitHub Copilotで、年間収益ランレート50億ドルのうち約12億ドルを占める。初期利用はTier 4やカスタムレート制限のAPI顧客、Fortune 500企業などである。

From: 文献リンクClaude can now process entire software projects in single request, Anthropic says

【編集部解説】

AnthropicがClaude Sonnet 4に最大100万トークンのコンテキスト(文脈)処理を開放しました。単一リクエストで約75,000行のコードや約75万語のドキュメントを一気に読み込める規模で、APIおよびAmazon Bedrock経由のPublic Betaとして段階的に展開されています。これにより、これまで分割前提だった大規模リポジトリや多数文書の横断的な関連把握が、1回の入出力で可能になります。

技術的には、長文脈での「needle in a haystack(干し草の山の中の針)」的検索・想起の正確性が論点です。Anthropicは内部評価で100%の再現性を謳いますが、これはあくまで社内テストであり、実運用におけるコード異臭検知や設計上のトレードオフ把握など、多層的な推論の持続性は現場検証が不可欠です。ただし、プロジェクト全体像を”丸ごと”見渡せること自体は、ファイル粒度の分割では失われがちだった依存関係と設計意図を保ったまま提案できる余地を広げます。

実装・料金面では、200Kトークン以下は従来の$3/MTok(入力)・$15/MTok(出力)に据え置き、200K超から$6/MTok・$22.50/MTokへ切り替わる二段制です。長文脈のβ利用は当面Tier 4およびカスタム制限の組織が対象で、プロンプトキャッシング(prompt caching(プロンプトの再利用キャッシュ))と併用することでリピート照会型ワークロードの総コストを抑制できる設計です。この「キャッシュ×長文脈」によるRAG代替のコスト・品質最適化は、法務・金融・製造のナレッジ資産を持つ企業にとって実践的な選択肢になり得ます。

市場文脈では、コード生成が企業導入の主用途として伸び、Menlo Ventures調査でAnthropicのコード生成シェアは42%、OpenAIは21%とされています。企業は価格より性能を優先し、より高性能モデルへの素早いアップグレードが常態化しています。一方で、価格攻勢を強める競合(例:GPT-5)や、プラットフォーム戦略におけるアライアンスの力学は、モデル採用の流動性を高める要因となります。

できるようになることは明確です。第一に、リポジトリ全体の設計レビュー、リファクタリング計画、仕様と実装の整合性監査を「文脈を保ったまま」一気通貫で回せます。第二に、数百ファイル規模の文書群からの合意形成資料やリスク論点の抽出など、関係性を前提とする要約・統合がしやすくなります。第三に、ツール呼び出しを跨いだエージェント運用で、長いワークフローの一貫性と再現性を保ちやすくなります。

留意すべきリスクもあります。長文脈は「見えすぎるがゆえの錯覚」を生みやすく、誤った前提の連鎖や過剰一般化が交じると、広範囲に影響する提案ミスになり得ます。加えて、過去バージョンで観測された望ましくない振る舞いの教訓から、安全性設計は今後も注視が必要です。ベータ段階では、重要判断におけるヒューマン・イン・ザ・ループを厳格に保つべきです。

規制・ガバナンス面では、長文脈化に伴い入力データの守備範囲が拡大します。権限分離、機密区分、データ最小化の実装が不十分だと、不要な個人情報・営業秘密まで取り込むリスクが増します。監査可能性(誰が・いつ・何を入力し、どの判断がなされたか)を担保するためのログ設計や、キャッシュのTTL・アクセス制御は、モデル選定と同列の経営課題です。

長期的には、RAG前処理中心の「情報を選んでから渡す」設計から、長文脈を前提に「まず全体を見せ、モデル自身に選ばせる」設計への再編が進みます。これは、情報アーキテクチャとMLOpsの分業を再定義し、エージェント編成・権限設計・コスト会計の枠組みまで影響を与えます。GeminiやOpenAIも大規模コンテキストの路線にあり、長文脈×価格×推論性能の三つ巴は当面の焦点であり続けるでしょう。

最後に、なぜ今か。モデル性能の頭打ち議論が出る中で、「入力側の律速」を外すことは実務価値に直結します。プロダクトロードマップ、設計思想、運用手順、テスト資産、ナレッジの「全体」を理解したうえで提案できるAIは、開発現場の意思決定速度と品質を底上げします。長文脈は魔法ではありませんが、現場の「分割に伴う損失」を削る現実的なテコになります。

【用語解説】

コンテキストウィンドウ(context window)
モデルが一度のリクエストで保持・参照できる入力の範囲のこと。

トークン(token)
テキストを分割した最小単位で、課金やモデルの処理量の基準となる。

needle in a haystack(干し草の山の中の針)
大量テキスト中の特定情報を探索する内部評価手法の通称。

Public Beta(公開ベータ)
一般開放された試験提供段階で、正式版前の段階を指す。

プロンプトキャッシング(prompt caching)
繰り返し使う大規模プロンプトをキャッシュして遅延とコストを削減する仕組み。

RAG(Retrieval-Augmented Generation)
検索・取得結果を補助情報として生成に用いる方式。

リポジトリ横断コード解析
リポジトリ全体を読み込み、依存関係や設計をまたいで解析・提案すること。

コンテキスト対応エージェント
長いワークフローや多数のツール呼び出しにわたり文脈を保持するAIエージェント。

【参考リンク】

Anthropic(外部)
人工知能モデルClaudeを提供する企業で、Sonnet 4の1Mトークン文脈を発表している。

Claude Sonnet 4: 1Mトークン対応発表(外部)
Sonnet 4の1Mトークン対応、ユースケース、価格調整、提供範囲を案内する発表ページである。

Anthropic API Pricing(外部)
Sonnet 4の長文脈価格やティア条件、バッチ割引、キャッシュ適用などの詳細を示す。

Amazon Bedrock(外部)
複数基盤モデルを提供するAWSの生成AIサービスで、Claudeの提供も含む。

Google Cloud Vertex AI(外部)
Google CloudのAIプラットフォームで、基盤モデルの提供と統合機能を持つ。

【参考動画】

【参考記事】

Claude Sonnet 4 now supports 1M tokens of context(外部)
Sonnet 4が最大1Mトークンの文脈に対応し、リポジトリ全体の解析、文書群統合、コンテキスト対応エージェントなどのユースケースが拡張された。

Anthropic’s Claude AI model can now handle longer prompts(外部)
Sonnet 4が1Mトークンに対応し、約750,000語または75,000行規模の入力が可能になった。

Menlo Ventures – 2025 Mid-Year LLM Market Update(外部)
企業LLM市場のシェア変動、API支出の倍増、コード生成の台頭、Anthropicのコード生成シェア42%などを提示。

Techmeme summary: Anthropic updates Claude Sonnet 4(外部)
1Mトークンの文脈対応、約750K語/75K行、5倍拡張という要点を集約し、同日の報道の中心情報を短く示す。

Simon Willison: Claude Sonnet 4 now supports 1M tokens of context(外部)200Kと1Mでの二段価格、βヘッダー指定、Tier 4制限など、実装上の具体的留意点を補足し、他社(Gemini)の価格比較も紹介。

【編集部後記】

みなさんは、開発しているサービスやプロジェクトの全体像を、AIが一度に理解して提案してくれるとしたら、どんな活用を思い描きますか。75,000行のコードベースを分割せずに扱えることは、単なる効率化を超えた可能性を秘めています。

これまで、大規模なシステムの改善提案を得るためには、開発者が手作業でコードを分割し、重要な文脈を失うリスクを抱えながら作業していました。しかし今回のClaude Sonnet 4の長文脈対応により、プロジェクト全体の設計思想や依存関係を保ったまま、AIからの提案を受けられるようになります。

もちろん、200Kトークン超で$6/$22.50という価格設定は決して安くありません。しかし、分割作業に費やしていた時間コストや、文脈を失うことで生じる品質リスクを考慮すれば、多くの企業にとって合理的な投資と言えるでしょう。

この技術がもし皆さんの職場や個人プロジェクトに導入されたら、どんな変化が起こるのか。コードレビューの質は向上するのか、設計判断のスピードは上がるのか。そして何より、開発者の創造性がより高い領域に向かうのか。ぜひ想像しながら、この技術の可能性について考えてみてください。

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