Google I/O 2025が米国時間2025年5月20日から21日にかけて、カリフォルニア州マウンテンビューのShoreline Amphitheaterで開催された。基調講演では以下の重要な発表が行われた。
検索関連
AI Mode: 米国内の全ユーザーに今週から提供開始。Gemini AIチャットボットを使ったウェブ検索が可能になる。
Search Live: カメラに映っているものについてリアルタイムで検索・対話できる新機能。
AI技術の進化
Gemini 2.5 Pro: 「Deep Think」と呼ばれる強化推論モードを搭載。複雑な数学やコーディング問題に対応し、回答前に複数の仮説を検討できる。現在は信頼できるテスターのみが利用可能。
Gemini 2.5 Flash: 高速で軽量な新モデル。Google AI Studio、Vertex AI、Geminiアプリで利用可能。
AI Ultra: 月額$249.99(約37,000円)の新サブスクリプションプラン。Googleの最も高度なAIモデルへのアクセスと、Gemini、NotebookLM、Flowなどのアプリでの使用制限の引き上げを提供。YouTube Premiumや30TBのストレージも含まれる。
コミュニケーションツール
Google Beam: Project Starlineが進化した3Dビデオ通信プラットフォーム。HPと協力し、ライトフィールドディスプレイと6台のカメラを搭載したデバイスを2025年後半に提供予定。
Google Meet: 音声翻訳機能を追加。英語とスペイン語の翻訳機能がGoogle AI ProとUltra加入者向けにベータ版として提供開始。
創作支援ツール
Imagen 4: 最新のAIテキスト画像生成ツール。テキスト生成能力が向上し、様々な形式での画像エクスポートが可能に。
Veo 3: 次世代AIビデオ生成ツール。映像と音声を同時に生成可能。
Flow: 新しいAIフィルムメイキングアプリ。Veo、Imagen、Geminiを活用して8秒のAI生成ビデオクリップを作成。
Stitch: AIを使ってアプリインターフェースを生成する新ツール。現在Google Labsで利用可能。
XR(拡張現実)技術
Project Aura: XrealとGoogleが共同開発するAndroid XR搭載スマートグラス。Gemini統合と広視野角を特徴とし、内蔵カメラとマイクを搭載。
Android XR: GoogleはSamsung、Gentle Monster、Warby Parkerとも提携し、他のAndroid XRスマートグラスの開発も進めている。
その他の機能
Project Astra: スマートフォンのカメラを使って周囲のオブジェクトを認識し、明示的な依頼なしに自動的にタスクを実行できる機能。
ChromeのGemini統合: 5月21日からGoogle AI ProとUltraの加入者が利用可能。ウェブページ間の情報を要約したり、サイトをナビゲートしたりする機能を提供。
Gmailのスマートリプライ強化: 受信トレイやGoogle Driveの情報を活用し、よりユーザーらしい返信を事前に作成。相手のトーンも考慮する。7月にGoogle Labsを通じて英語で提供開始予定。
AIショッピング: 自分の全身写真をアップロードして衣服の試着シミュレーションが可能に。「エージェンティックチェックアウト」機能も近日提供予定。
Chromeのパスワード更新支援: パスワード侵害を検出した場合、強力な代替パスワードを生成し、対応サイトで自動更新する機能を2025年後半に提供予定。
References: The 15 biggest announcements at Google I/O 2025
【編集部解説】
Google I/O 2025の発表内容は、AIがもはや単なる実験的技術ではなく、私たちの日常生活やビジネスに深く統合される段階に入ったことを明確に示しています。今回は特に「AIの実用化と社会実装」に焦点が当てられており、研究段階から実用段階へと移行したGoogleのAI戦略が鮮明に表れています。
AIの民主化と階層化が同時進行
注目すべきは、GoogleがAIサービスの「民主化」と「階層化」を同時に進めている点です。Gemini 2.5 FlashのようなモデルをGeminiアプリを通じて無料で提供する一方で、月額$249.99(約37,000円)という高額なAI Ultraプランも導入しました。これはAI技術の二極化を示唆しています。一般消費者向けの基本的なAI機能と、企業や専門家向けの高度なAI機能という区分けが明確になってきたのです。
AI Ultraプランには個人向けYouTube Premiumサブスクリプションや最大30TBのストレージも含まれており、単なるAIサービスではなく、Googleエコシステム全体へのプレミアムアクセスを提供する包括的なプランとなっています。
コミュニケーション革命の新段階
Google BeamとGoogle Meetの翻訳機能は、コミュニケーションの未来を示唆する重要な発表です。Project Starlineから進化したGoogle Beamは、単なるビデオ通話の改良ではなく、物理的な距離を超えた「存在感」を創出する技術として注目に値します。
特に興味深いのは、Google Meetの音声翻訳機能です。「話者の声やトーン、さらには表情までほぼリアルタイムで一致させる」という点は、従来の機械翻訳とは一線を画します。これにより、言語の壁を超えたグローバルなコミュニケーションが、より自然な形で実現する可能性が高まっています。
XRの実用化とAIの融合
XrealとのProject Aura発表は、GoogleがAppleのVision ProやMetaのRay-Ban Smartなどに対抗する形で、XR(拡張現実)市場に本格参入する意思を示したものと言えるでしょう。
GoogleはSamsung、Gentle Monster、Warby Parkerといったファッションブランドとの提携を通じて、テクノロジーとファッションの融合を目指す戦略を展開しています。
特筆すべきは、これらのデバイスがAndroid XRというプラットフォームを基盤としている点です。これはGoogleが単体のデバイスではなく、エコシステムとしてのXR戦略を展開していることを示しています。Samsung、Gentle Monster、Warby Parkerなど複数のパートナーと協力することで、多様なニーズに対応するXRデバイスのラインナップを構築する意図が見て取れます。
AIの「思考力」強化と倫理的課題
Gemini 2.5 Proの「Deep Think」モードは、AIの推論能力の飛躍的な向上を示す重要な進展です。このモードは複雑な数学やコーディングの問題に対して、複数の仮説を検討してから回答する能力を持ち、高度な推論能力を実現しています。
しかし、この進展には倫理的な懸念も伴います。Googleも「安全性の評価に通常よりも時間を要している」と述べているように、高度な推論能力を持つAIの安全性確保は容易ではありません。AIの判断プロセスの透明性や、誤った推論がもたらす潜在的リスクについて、今後さらなる議論が必要になるでしょう。
日常生活へのAI浸透と新たな課題
ChromeへのGemini統合やProject Astraの機能強化は、AIが私たちの日常的なデジタル体験に深く浸透することを意味します。ウェブブラウジングや環境認識といった基本的な活動にAIが関与することで、情報アクセスや環境理解の方法が根本から変わる可能性があります。
特にProject Astraの「明示的な依頼なしに自動的にタスクを実行できる」という機能は、AIの自律性の向上を示す重要な一歩です。しかし、これはプライバシーやユーザーの自己決定権に関する新たな課題も提起します。AIがどこまで自律的に行動すべきか、そしてその判断基準をどう設定するかは、今後の重要な議論点となるでしょう。
創造性支援ツールの進化
Flow、Imagen 4、Veo 3などの創造性支援ツールの発表は、AIが「創造の民主化」をさらに推し進めることを示しています。特にFlowアプリは、専門的な映像制作スキルがなくても、質の高い短編動画を作成できる可能性を開きます。
これらのツールは、クリエイターの表現の幅を広げる一方で、著作権や知的財産権に関する新たな課題も提起します。AIが生成したコンテンツの権利帰属や、既存作品からの「インスピレーション」と「模倣」の境界線など、法的・倫理的な問題が今後さらに重要になるでしょう。
今後の展望
Google I/O 2025の発表内容は、AIが私たちの生活のあらゆる側面に浸透し、人間とAIの共生が新たな段階に入ったことを示しています。今後は、AIの能力向上と並行して、その倫理的・社会的影響に関する議論がさらに重要になるでしょう。
特に注目すべきは、AIの「個人化」と「文脈理解」の進化です。Gmailのスマートリプライがユーザーのトーンや相手との関係性を考慮するように、AIは単なる機能的なツールから、ユーザーの個性や状況を理解する「パーソナルアシスタント」へと進化しています。
また、AIの商業化モデルも重要な観察点です。月額$249.99というAI Ultraの価格設定は、高度なAI機能に対する市場価値の一つの指標となります。今後、AIサービスの価格帯や提供形態がどのように発展するかは、AI産業全体の成熟度を測る重要な指標となるでしょう。
私たちinnovaTopiaは、これらの技術進化を単なる機能追加としてではなく、人間とテクノロジーの関係性を再定義する重要な転換点として捉えています。今後も、技術の進化とその社会的影響の両面から、AI時代の展望を読者の皆様にお伝えしていきます。
【用語解説】
Gemini : GoogleのAIモデルシリーズ。テキスト、画像、音声などを理解・生成できるマルチモーダルAI。ChatGPTに対抗するGoogleの主力AI技術。
マルチモーダルAI : 複数の情報形式(テキスト、画像、音声など)を同時に理解・処理できるAI技術。例えるなら、人間が目で見て、耳で聞いて、総合的に判断するような能力を持つAI。
Deep Think : Gemini 2.5 Proの新機能で、複雑な問題に対して複数の仮説を検討してから回答する機能。例えるなら、チェスのプロ棋士が次の一手を打つ前に複数の手を頭の中でシミュレーションするような思考プロセス。
Android XR : Googleが開発した拡張現実(AR)と仮想現実(VR)向けのプラットフォーム。スマートグラスやVRヘッドセットなどのデバイス向けOS。Androidスマートフォン向けOSの拡張版と考えるとわかりやすい。
Project Astra : Googleが開発中のAIアシスタント。カメラを通して周囲の状況を認識し、自律的に判断・行動できる。
ライトフィールドディスプレイ : 光の強度だけでなく方向も再現できる次世代ディスプレイ技術。従来の平面ディスプレイと違い、見る角度によって異なる映像が見える。例えるなら、ホログラムのような立体的な映像表示が可能。
エージェンティックチェックアウト : AIが代わりにショッピングの決済プロセスを完了する機能。
【参考リンク】
Gemini (外部) Googleの最新AIチャットボット。無料版と有料版があり、テキスト生成や画像認識などの機能を提供している。
HP (Hewlett-Packard) (外部) パソコンやプリンターなどを製造する大手テクノロジー企業。Google Beamデバイスの製造パートナー。
Xreal (外部) AR(拡張現実)スマートグラスを開発する中国の企業。Project Auraの開発パートナー。
Warby Parker (外部) オンラインを中心に展開するアメリカの眼鏡ブランド。Android XRスマートグラスの開発パートナー。
Gentle Monster (外部) 韓国発の高級アイウェアブランド。Android XRスマートグラスの開発パートナー。
Salesforce (外部) 顧客関係管理(CRM)ソフトウェアを提供する企業。Google Beamの初期導入企業の一つ。
Deloitte (外部) 世界最大級の会計・コンサルティングファーム。Google Beamの初期導入企業の一つ。
Duolingo (外部) 人気の言語学習アプリを提供する企業。Google Beamの初期導入企業の一つ。
【参考動画】
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【編集部後記】
Google I/O 2025の発表を見て、皆さんはどの技術に最も可能性を感じましたか? 日常生活でAIアシスタントを活用している方も多いと思いますが、ChromeへのGemini統合やProject Astraのような「先回りしてサポートしてくれるAI」は、私たちの生活をどう変えるでしょうか。また、Flow等の創作支援ツールは、皆さん自身のクリエイティブな表現にどのように役立てられそうですか? SNSで皆さんの考えや期待、あるいは懸念点などをぜひ共有してください。テクノロジーの未来を一緒に考えていきましょう。
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