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7月18日【今日は何の日?】「Intel創業の日」―インテル入ってる

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はじめに

1968年7月18日、フェアチャイルドセミコンダクターを退職したロバート・ノイスとゴードン・ムーア(ムーアの法則で知られる)らによって、世界最大の半導体メーカーとなったIntel社が誕生しました。今から57年前の出来事です。

「インテル入ってる」というキャッチフレーズで親しまれ、パソコンの心臓部として私たちの生活に欠かせない存在となったIntelの歩みを振り返りながら、競合他社との激しい競争や、AI時代における新たな挑戦について詳しく見ていきましょう。

Intel社の概要と創業の経緯

創業の背景と設立

Intel Corporationは1968年7月18日、フェアチャイルドセミコンダクターを退職したロバート・ノイスとゴードン・ムーアらによって設立されました。社名の由来は「Integrated Electronics(集積されたエレクトロニクス)」です。

興味深いエピソードがあります。当初は、ゴードン・ムーアとロバート・ノイスの名前を組み合わせて「Moorenoyce」という社名を考えていましたが、ホテルチェーンで同名の会社が既に登記されていたため、「Intel」という名前になったそうです。

創業者の一人であるゴードン・ムーアは、半導体の集積密度が18〜24ヶ月で倍増するという「ムーアの法則」で知られています。この法則は今日まで半導体業界の指針となっています。そして3番目の社員としてアンドルー・グローヴが入社したことで、後にIntelの経営を支える強力なトリオが揃うことになりました。

なお、アンドルー・グローヴについては、1968年に社内の関係悪化を理由にロバート・ノイス、ゴードン・ムーアとともにフェアチャイルド・セミコンダクターを去りました。ノイスとムーアがインテルを設立した際、グローヴは創業には関わりませんでしたが、3番目の社員として設立当日に入社したという経緯があります。

初期の事業展開

当初のIntelは半導体メモリを主力製品とし、磁気コアメモリの置き換えを目指していました。順調に革新的な製品を市場に送り出していきます。

1969年4月にはIntel初の製品であるSRAM 3101を発表(記憶容量64ビット)。翌1970年10月には世界初のDRAM 1103を発表(記憶容量1,024ビット)しました。

そして1971年、半導体業界、ひいてはコンピュータ業界全体に革命をもたらす製品が誕生します。1971年11月15日、世界初のマイクロプロセッサである4004(4ビット、クロック周波数108 kHz、トランジスター数2,300個)を発表したのです。この4004こそが、現在のCPUの原点となった記念すべき製品でした。

PC時代の到来とIntelの飛躍

1980年代に入ると、Intelにとって運命的な出来事が起こります。1981年8月、IBMが同社初のパソコン「IBM PC」を発表し、CPUに8088が採用されました。これがIntelの急成長のきっかけとなったのです。

IBM PCの成功により、Intelの8086系アーキテクチャは業界標準となり、「x86アーキテクチャ」として現在まで続く地位を確立しました。

1985年10月、IntelはDRAM事業から撤退し、CPUの開発・生産に経営資源を集中させる決断を下します。同時に、x86シリーズでは初の32ビットマイクロプロセッサであるi386を発表しました。この決断こそが、Intelを世界最大のCPUメーカーへと押し上げる分岐点となったのです。

競合他社との激烈な競争史

AMD – 最大のライバルとの長きにわたる戦い

セカンドソース時代から独立路線へ

IntelとAMDの関係は、意外にも協力関係から始まりました。1982年、AMDはセカンドソースの一員として、インテルCPUの生産を開始。1984年にはインテルの80286と完全互換のCPUを出荷しました。

IBM PCとMS-DOSの組み合わせが標準パソコンとしての地位を確立すると、8086に基づいた「x86アーキテクチャー」が世界標準になっていきます。このときまでは、IntelとAMDは”x86同盟”の下で手を組み、競合する米モトローラなどに対抗していました。

しかし、Intelは1985年に発表した「Intel 386プロセッサ」以降、セカンドソースを認めない方針に切り替え、半導体を作るのに必要な重要資料を公開しなくなりました。これがIntelとAMDの決別の決定的な転換点となりました。

独自路線での競争激化

1991年、AMDは最初の互換プロセッサとして「Am386」を製造・販売しますが、Intelは既に次世代CPUの「i486」シリーズを販売していました。「Am386」は旧世代でしたが、低価格製品として採用されました。この頃から、AMDは「高性能・低価格」という独自のポジショニングを確立していくことになります。

「ギガヘルツ争」とAthlonの登場

1990年代後半から2000年にかけて起こった「1GHz」を目指す戦いは、両社のブランドイメージをかけた総力戦となりました。2000年頃、Intel社は「Pentium III」で1GHzを達成。一方のAMDも、負けじと「Athlon」で1GHzを達成します。

特にデュアルコア時代に突入すると、2005年5月には初のPC用デュアルコアCPUである「Pentium D」がリリースされ、それに対抗するように翌月には「Athlon 64 X2」がリリースされるなど、両社一歩も譲らない性能競争が繰り広げられました。

驚くべきことに、この時点でAMDが性能と消費電力、発熱の低さでIntelを一歩リードし、世界の巨人Intelが業界2位のAMDに敗れるという前代未聞の事態が発生しました。これは半導体業界史上、極めて稀な出来事でした。

Coreシリーズによる復活とRyzenの反撃

一時はAMDの後塵を拝したIntelですが、新たなブランド「Coreシリーズ」の開発によって再び業界のトップに君臨します。「Core」「Core 2 Duo」「Core 2 Quad」「Core iシリーズ」と進化を続け、2000年代中盤以降は事実上、AMDが追いつくことのできない壁となった状況が長く続きました。

一時期AMDは高性能CPU市場からの事実上の撤退を余儀なくされました。しかし、2017年にAMDが投入したRyzenシリーズは、この状況を劇的に変えました。AMDは近年、Ryzenシリーズで大きな進歩を遂げ、Intel製CPUと互角以上の性能を示すようになりました。特に、マルチコア性能、電力効率、コストパフォーマンスでAMDは優位性を持っています。

市場シェアの逆転

そして2021年、ついに歴史的な変化が起こります。2021年1〜3月のCPU市場シェアにおいて、AMDが50.7%となり、Intelを超えたことが明らかになりました。さらに、AMDが時価総額でIntelを逆転したという企業価値の面でも歴史的な転換点を迎えています。

NVIDIA – GPU分野からAI時代の覇者へ

グラフィックス分野での競争

当初、IntelとNVIDIAの関係は、CPUとGPUという異なる市場での棲み分けが明確でした。「GPU」とは、グラフィックボードに搭載されている演算用のプロセッサで「Graphics Processing Unit」の略称です。GPUメーカーの大手として「NVIDIA」「AMD」「Intel」が存在していますが、NVIDIAが圧倒的な存在感を示してきました。

AI時代の到来とNVIDIAの躍進

GPUは浮動小数点演算を高速に実行することに特化した機能を持っているという特性が、AI時代において決定的な意味を持つことになります。GPUを使えば、CPUの数十倍の速度で学習を行うことができます。例えば、これまで1回の学習に1週間かかっていたものが、GPUを使えば半日で終わるようになるのです。

NVIDIAはデータセンターGPU市場で圧倒的なリードを誇り、市場シェアの92%を占めています。2023年の四半期売上高は、第1四半期の43億米ドル規模から、第4四半期の160億米ドル規模へと飛躍(272%増)しました。この急成長は、生成AIブームによるものです。

Intelの苦戦とNVIDIAの圧倒的優位

NVIDIAとAMDの旧来の競合相手であるIntelは、データセンターGPU分野では後れを取っています。データセンター向けにAIサーバの需要が伸びている昨今において、Intelのデータセンター向け売上高は伸び悩むどころか下落基調にあります。サーバーの「常識」が激変する中、NVIDIAのGPUがIntelのCPUを圧倒するという状況が現実のものとなっています。

Intelの現在の挑戦と未来への取り組み

業績の現状と課題

Intelは現在、厳しい状況に直面しています。2024年第1四半期(1〜3月)より営業赤字および当期赤字が拡大していること、第3四半期の見通しが良くないことなどがネガティブに評価され、Intelの株価は大きく下落しました。

もともとIntelは、四半期の売上高が200億米ドル前後に達していましたが、昨今では150億米ドルをなかなか超えることができず、赤字計上に陥っているという深刻な状況にあります。特に、かつては四半期で60億米ドル以上の売上高を計上していたデータセンター分野で、今ではその半分しかないという苦戦が目立ちます。

構造改革と将来への布石

こうした状況を受けて、業績悪化を受けたIntelは、2025年までに100億ドルのコスト削減を進めるという大規模な構造改革に着手しています。

また、2024年12月に退任したパット・ゲルシンガー前CEOに代わり、2025年3月、ケイデンス(CDNS)の元CEO、リップ・ブー・タン氏を新CEOに指名するなど、経営陣の刷新も図られています。

AI PC時代への対応

一方で、Intelも新たな時代への適応を図っています。AI PCの中核となるのは、そのプロセッサです。AI PC向けとして登場したIntel Core Ultraプロセッサでは、従来のCPUとGPUに加え、AI専用プロセッサとなるNPUを搭載するなど、AI時代に向けた技術革新を進めています。

業界全体への影響と今後の展望

競争がもたらした技術革新

これらの企業が激しい競争を繰り広げることで、CPUの性能は飛躍的に向上し、高性能な製品を安価に入手できるようになりました。これはまさに競争の恩恵を示しています。AMDの躍進は、CPU市場に健全な競争をもたらし、技術革新を加速させていることは間違いありません。

多極化する半導体市場

現在の半導体市場は、単純な二強構図から複雑な多極化の様相を呈しています。半導体業界において、Nvidia、AMD、Intelの3社は、その革新性と技術力で市場をリードする主要な企業です。それぞれが独自の製品と技術を持ち、多様な用途と市場ニーズに応えています。

CPU分野ではIntelとAMDが、GPU分野ではNVIDIAが、そしてAI分野では各社が異なるアプローチで競争を繰り広げています。この多様性こそが、技術革新の源泉となっているのです。

おわりに

1968年7月18日に産声を上げたIntelは、半導体業界の発展とともに歩み、時にはその牽引役となり、時には激しい競争にさらされながらも、常に技術革新の最前線に立ち続けてきました。「ムーアの法則」に象徴される技術の指数関数的進歩は、IntelのDNAに深く刻まれているといえるでしょう。

現在、AI時代の到来という新たな転換点を迎える中で、Intelは過去の栄光にとらわれることなく、変革への挑戦を続けています。AMDとの熾烈な競争、NVIDIAのGPU分野での圧倒的優位という現実を受け入れながらも、新たな技術領域での巻き返しを図っています。

「インテル入ってる」というキャッチフレーズが示すように、Intelは長年にわたって私たちの身近な存在であり続けてきました。創業から57年を迎えた今日、同社がどのような新たな章を刻んでいくのか、その行く末に注目が集まります。技術革新への飽くなき挑戦と、競争による切磋琢磨こそが、半導体業界全体の発展を支えているのです。

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NvidiaがH20チップ「バックドア」疑惑を反論、中国との半導体対立が激化

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NvidiaがH20チップ「バックドア」疑惑を反論、中国との半導体対立が激化 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国国営放送CCTV関連アカウント「Yuyuan Tantian」が2025年8月10日、WeChatでNvidiaのH20人工知能チップを「環境に優しくなく、先進的でもなく、安全でもない」と批判し、ハードウェアの「バックドア」を通じた「リモートシャットダウン」機能があると主張した。

これに対してNvidiaは同日、「チップにはリモートアクセスや制御を可能にするバックドアは存在しない」と反論した。

同社は火曜日にも「キルスイッチ」機能の存在を否定していた。NvidiaのH20チップは、トランプ政権が4月に課した販売禁止を解除した後、中国への出荷を再開している。H20チップは2023年後半の輸出規制後にNvidiaが中国市場向けに開発したもので、主力のH100やB100チップより性能が劣る。

同社は5月に未販売H20在庫で45億ドルの減損処理を実施し、輸出規制により7月四半期の収益ガイダンスが80億ドル低下したと発表した。Nvidia株は金曜日に182.70ドルで終了し、今年は36%上昇している。

From: 文献リンクNvidia claps back against Chinese accusations its H20 chips pose a security risk

【編集部解説】

このニュースの背景には、AI時代における半導体の地政学的重要性があります。H20チップは、Nvidiaが2023年後半の米国輸出規制を受けて中国市場専用に開発したAIチップです。本来のフラッグシップモデルであるH100やB100と比較して性能を制限したこの製品は、まさに米中テクノロジー競争の象徴的存在と言えるでしょう。

中国国営メディアが今回提起した「バックドア」や「リモートシャットダウン」機能への懸念は、単なる技術的問題を超えた安全保障上の課題を浮き彫りにしています。実際に、米国議会では2025年5月8日にTom Cotton上院議員が「Chip Security Act(チップ安全保障法案)」を提出し、輸出規制対象となる先進AIチップに位置検証システムの搭載を義務付ける提案をしています。この法案は、中国による不正アクセスを防ぐことを目的とし、半導体を通じた技術流出防止が狙いです。

Nvidiaの立場は複雑な状況にあります。同社は中国を最大市場の一つと位置づけ、未販売H20在庫で45億ドルの減損処理を行うなど、中国市場への依存度の高さが数字で示されています。また、輸出規制により7月四半期の収益ガイダンスが80億ドル押し下げられたと警告しており、経済的インパクトは甚大です。

技術的観点から見ると、H20チップは意図的に性能を制限された製品であるにも関わらず、中国では予想以上の売上を記録していました。これは中国のAI開発需要の高さと、代替品の不足を物語っています。しかし、中国側の批判は性能面だけでなく、「環境に優しくない」という主張も含んでおり、技術的優位性に加えて持続可能性という新たな競争軸を持ち込んでいる点が注目されます。

将来的な影響として、この対立は全球的なAIエコシステムの分断を加速させる可能性があります。中国が独自のAI半導体開発を本格化させる一方で、米国は技術流出防止を強化する構図が鮮明になっています。両国の貿易協議では、中国が高帯域幅メモリチップの輸出規制緩和を求めているとの報道もあり、半導体を巡る攻防は今後も続くでしょう。

【用語解説】

H20チップ
Nvidiaが2023年後半の米国輸出規制を受けて中国市場専用に開発したAI用半導体。H100やB100といった主力製品と比較して性能を意図的に制限した製品である。

バックドア
コンピュータシステムやソフトウェアにおいて、通常の認証や承認プロセスを回避して不正にアクセスできる隠れた侵入経路のこと。

キルスイッチ
機器やシステムを緊急時に遠隔から無効化する機能のこと。セキュリティ上の理由で搭載される場合もある。

エクスポートコントロール(輸出規制)
国家安全保障や外交政策上の理由から、特定の技術や製品の輸出を制限する政府規制のこと。

WeChat
中国のテンセント社が運営するメッセージングアプリ。中国では主要なコミュニケーションツールとして広く利用されている。

Chip Security Act
2025年5月8日にTom Cotton上院議員が提出した法案。輸出規制対象のAIチップに位置検証システムの搭載を義務付ける内容である。

【参考リンク】

NVIDIA公式サイト(外部)
GPUを発明し、AI、HPC、ゲーミング分野で革新を推進する世界的企業の公式サイト

【参考記事】

S.1705 – 119th Congress (2025-2026): Chip Security Act(外部)
Tom Cotton上院議員が2025年5月8日に提出したチップ安全保障法案の公式記録

Congress’ Proposed Chip Security Act Threatens to Create New Cyber Vulnerabilities(外部)
サイバーセキュリティ政策センターによるChip Security Act分析記事

US licenses Nvidia to export chips to China, official says(外部)
米商務省がNvidiaに対してH20チップの対中輸出ライセンス発行開始を報じた記事

How The Chip Security Act Could Impact the Global AI Race(外部)
データセンターマガジンによるChip Security ActのグローバルAI競争への影響分析

【編集部後記】

今回のNvidia H20チップを巡る米中対立は、私たち一人ひとりが使うAI技術の未来に直結する問題です。皆さんは普段どのようなAIサービスを利用されていますか?ChatGPTやClaude、画像生成AIなど、これらのサービスの根幹を支えているのがまさにこうしたAIチップなのです。

技術の地政学化が進む中で、私たちが享受できるAIサービスの品質や価格、さらには革新のスピードまでもが影響を受ける可能性があります。innovaTopiaでは引き続きこの分野の動向を追っていきますが、読者の皆さんは今回の件をどのように捉えられたでしょうか?AI技術の発展と安全保障のバランスについて、ぜひSNSでお聞かせください。

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AI(人工知能)ニュース

Nvidia・AMD、中国向けAIチップ売上の15%を米政府に支払い合意—H20・MI308輸出で年間22.5億ドル

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 - innovaTopia - (イノベトピア)

NvidiaとAMDは、中国への高性能AIチップ販売において売上の15%を米国政府に支払うことで、販売ライセンスを取得することに合意した。

Financial Timesが匿名情報源を引用して8月11日に報じた。NVIDIAは中国でのH20 AIチップ販売収益から15%を分配し、AMDはMI308チップ販売の15%を分配する。

トランプ政権は2025年4月に中国への特定の高性能AI推論チップの販売を制限したが、NVIDIAが国内で最大5000億ドル相当のデータセンター投資を約束した数か月後に禁止措置を一時停止した。7月にNVIDIAはH20 AIチップの中国向け販売を再開すると発表した。これはバイデン政権による制限を受けて中国での販売専用に設計されたチップである。

米商務長官Howard Lutnick(ハワード・ルトニック)によると、NVIDIAの方針転換は電気自動車用充電式バッテリーなどの部品製造に必要な希土類元素に関する中国との貿易協議に関連していた。国家安全保障専門家と元政府高官らは先月、Lutnickに書簡を送り政府に方針転換を求めた。

From:  - innovaTopia - (イノベトピア)Nvidia, AMD may sell high-end AI chips to China if they pay US a cut

【編集部解説】

今回のニュースは、米国のAIチップ産業政策において極めて重要な転換点を示しています。この15%の 収益分配スキームは、従来の輸出管理規制とは根本的に異なる、前例のない アプローチと言えるでしょう。

複数の報道機関の確認により、この合意の具体的な仕組みが明らかになりました。NVIDIAのH20チップ販売から得る収益の15%、AMDのMI308チップ販売からの15%を米国政府に支払うことで、中国への輸出ライセンスを取得できる仕組みです。

政策転換の背景と意義

この政策変更の核心には、従来の「国家安全保障 vs 経済利益」という二元論を超えた、新たな戦略的思考があります。トランプ大統領は記者会見で「Jensen(CEO)が私に会いに来て、H20チップ販売の制限緩和を求めた。私は『もしそれをするなら、国として何かを支払ってもらう必要がある』と言った。当初20%を要求したが、彼が15%まで交渉した」と具体的な経緯を明かしています。

興味深いのは、この政策転換が希土類元素を巡る米中貿易交渉の一環として位置づけられていることです。つまり、AIチップという単一の技術領域を超えた、より包括的な経済戦略の一部として設計されているのです。

市場規模と経済的インパクト

複数の報道を総合すると、中国市場はNVIDIA、AMD両社にとって極めて重要です。NVIDIAは2025年1月期に中国から170億ドルの売上(全売上の13%)、AMDは2024年に62億ドル(全売上の24%)を計上しています。

特に注目すべきは、H20チップの販売実績と予測です。2025年5月の決算発表では、H20チップが第1四半期だけで46億ドルの売上を記録し、中国市場が全体収益の12.5%を占めていました。New York Timesの報道によると、NVIDIAは年末までにH20チップだけで150億ドル以上の売上を見込んでおり、15%の政府分配により22.5億ドルが米国政府の収入となる計算です。

アナリストの試算では、制限前なら今年中国で150万台のH20チップを販売し、約230億ドルの収益を上げる可能性があったとされています。また、Morgan Stanleyは制限解除によりAMDが2025年に30億~50億ドルの収益を見込むと予測しています。

技術的側面の解説

H20チップとMI308チップは、いずれも中国市場向けに設計された「制限版」AIチップです。H20はバイデン政権の輸出規制に対応してNVIDIAが開発した専用チップで、最高性能チップから機能を制限したバージョンです。トランプ大統領はこれを「obsolete(時代遅れ)」と表現していますが、これは中国が既に類似の技術を保有しているという認識を示しています。

潜在的リスクと批判

この政策には深刻な懸念も提起されています。元国家安全保障会議のLiza Tobin氏は「北京は輸出ライセンスが収益機会に変わるのを見て喜んでいるに違いない」と指摘し、国家安全保障の観点から強い批判を展開しています。

また、下院中国問題委員会の有力民主党議員Raja Krishnamurthi氏は「チップ輸出管理を交渉材料として扱うべきではない」として、国家安全保障を収益のために危険にさらすことへの警告を発しています。

長期的影響と業界への波及効果

この 前例は、今後の米国テクノロジー産業政策に大きな影響を与える可能性があります。シンガポールの貿易政策専門家Deborah Elms氏が指摘するように、「米国企業が輸出ライセンス取得のために収益分配を義務付けられる事例は前例がない」のです。

この仕組みが成功すれば、他の戦略的技術分野でも類似の収益分配モデルが導入される可能性があり、米国政府の技術輸出管理政策の新たなパラダイムとなるかもしれません。

一方で、中国政府の反応も注目されます。中国国営メディアはH20チップのセキュリティ脆弱性について批判を展開しており、この収益分配協定に対する中国側の対応が今後の米中テクノロジー関係を左右する要因となりそうです。

【用語解説】

H20チップ: NvidiaがH100の性能を制限して中国市場向けに特別に開発したAIチップ。米国の輸出規制に対応するため、メモリ帯域幅や演算性能を意図的に下げて設計されている。

MI308チップ: AMDが開発した中国向けのAIアクセラレータチップ。MI300Xから性能を制限したバージョンで、米国の輸出規制を回避するために開発された。

AI推論チップ: 訓練済みのAIモデルを使って実際の推論処理を行うために最適化されたチップ。データセンターでAIサービスを提供する際に必要不可欠な半導体。

希土類元素(rare earth elements): レアアース。電気自動車の電池やスマートフォンの部品製造に不可欠な鉱物資源。中国が世界生産の約6割を占め、輸出規制の対象となっている。

収益分配: 企業が売上の一定割合を政府に支払う仕組み。今回の事例では、中国への輸出ライセンス取得の条件として売上の15%を米政府に納付する。

輸出管理規制: 国家安全保障上重要な技術や製品の海外輸出を政府が管理・制限する制度。軍事転用の可能性がある製品について適用される。

【参考リンク】

Nvidia公式サイト(日本)(外部)世界最大のGPUメーカーであるNvidiaの日本語公式サイト。AI、データセンター、ゲーミング分野の製品情報や技術解説を提供。

AMD公式サイト(日本)(外部)CPUとGPUの両方を手がける半導体大手AMDの日本語公式サイト。Instinct MI300シリーズなどのAI向け製品情報を掲載。

【参考動画】

【参考記事】

U.S. Government to Take Cut of Nvidia and AMD A.I. Chip Sales to China(外部)H20チップ年末売上予測150億ドル、政府取り分22.5億ドルの具体的数値。AMD MI308売上予測8億ドルも含む詳細な市場分析。

US licenses Nvidia to export chips to China, official says(外部)H20チップ第1四半期実績46億ドル、中国市場シェア12.5%の公式決算データ。制限による影響額50億ドルから実際は10億ドル減の修正情報も含む。

Nvidia Stock in Focus as 15% China Sales Agreement Opens H20(外部)アナリスト予測による年間150万台、230億ドル規模の市場予測。制限前の潜在的売上規模を示す重要なデータ。

AMD expects $800M charge due to US’ license requirement for AI chips(外部)AMDがMI308輸出制限により最大8億ドルの損失を計上すると発表。4月の規制強化による両社への具体的影響額を詳報。

Security experts warn against H20 chip sales(外部)国家安全保障専門家らによるH20販売再開への批判。元NSC高官Liza Tobin氏らの懸念表明と政策転換への反対意見を詳報。

Trump initially demanded 20% from Nvidia, settled at 15%(外部)トランプ大統領が当初20%を要求、Jensen Huang CEOとの交渉で15%に妥協した経緯。収益分配スキーム決定過程の詳細。

【編集部後記】

今回のNvidiaとAMDの15%収益分配スキームは、まさに「テクノロジーと国家戦略の新しい関係」を示す歴史的な事例です。年間22.5億ドル規模の政府収入という具体的な数字からも、その影響の大きさがうかがえます。

皆さんは、この前例が他の戦略的技術分野に波及する可能性についてどうお考えでしょうか?日本企業も今後、海外展開において類似の「収益分配」を求められる時代が来るかもしれません。特に半導体関連や先端材料技術を持つ日本企業への影響は避けられないでしょう。

読者の皆さんの業界では、こうした地政学的な政策変化がどのような影響をもたらすと思われますか?ぜひコメントやSNSで、あなたの視点をお聞かせください。一緒に未来を考えていきましょう。

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AMD、企業向けZen 5搭載Ryzen Pro 9000 CPU発表

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AMDが、企業向けZen 5アーキテクチャ搭載のRyzen Pro 9000シリーズCPUを発表予定であるというリーク情報が流れている。

リーカー@momomo_usによるX投稿では、Ryzen Pro 9945、9745、9645の3モデルが明かされ、それぞれ12コア、8コア、6コアを搭載するという。

新チップはZen 5アーキテクチャによりクロック当たりの命令数が16%向上し、全モデルが65W TDPで動作する。L3キャッシュはリーク情報によると12コアと8コアのモデルが32MB、6コアモデルが16MBを搭載する模様です。ベースクロック速度では、Ryzen 9 Pro 9945が前世代より300MHz低下する一方、Ryzen 5 Pro 9645は100MHz向上する見込みだ。

企業向け機能としてAMD Memory GuardやAMD Platform Secure Bootなどのセキュリティ機能を搭載し、ローカルAIタスクを高速化する機能強化も実装される見込みである。Ryzen 7000 Proシリーズから1年半経過した今回のリリースにより、企業のAIワークフロー導入を支援する。前世代Ryzen 7000 Proは2022年のZen 4アーキテクチャ発表から1年後に登場していた。

From: 文献リンクEverything You Need To Know About AMD’s New Zen 5 Pro Ryzen AI CPUs

【編集部解説】

まず、今回の情報はリーカー@momomo_usによるX投稿が元となっており、AMD公式からの正式発表ではないことをお伝えします。ただし、AMDは2025年7月にRyzen Threadripper PRO 9000 WXシリーズ(最大96コア)を既に正式発表しており、通常のRyzen Pro 9000シリーズ(12コアまで)についても技術的整合性は高いと判断されます。

記事の事実関係を確認した結果、報じられた内容は概ね妥当であり、AMD Zen 5アーキテクチャの技術的優位性について裏付けが取れています。特にZen 5アーキテクチャの16%のIPC向上は複数のソースで確認されており、実際のベンチマークでも15-27%の性能向上が報告されています。

この発表が持つ技術的意義について、まず理解していただきたいのは、Zen 5アーキテクチャの根本的な進化です。新アーキテクチャでは8ワイドのディスパッチ/リタイア・エンジンを採用し、前世代の6ワイドから大幅に拡張されています。これにより、より多くの命令を同時に処理できるようになり、特にAI処理やマルチタスクが求められる企業環境で威力を発揮します。

企業のIT戦略における影響範囲を考えますと、Ryzen Pro 9000シリーズは単なるCPUアップグレードを超えた意味を持ちます。AMD Memory GuardやAMD Platform Secure Bootといったセキュリティ機能は、リモートワークが常態化した現在の企業環境において重要な差別化要因となります。特にAMD Memory Guardは、システムメモリ全体をリアルタイムで暗号化する技術であり、デバイスの盗難や物理的攻撃からデータを保護します。

製品系統の整理について補足しますと、AMDのZen 5ベース企業向けCPUには以下の3系統があります。Ryzen Threadripper PRO 9000 WXシリーズ(最大96コア、ワークステーション向け、正式発表済み)、通常のRyzen Pro 9000シリーズ(最大12コア、デスクトップ向け、今回のリーク対象)、そしてRyzen AI Pro 300シリーズ(モバイル向け、NPU搭載済み)です。

AI機能の強化について、Zen 5アーキテクチャではAVX-512命令セットのスループットが倍増し、前世代の256ビット実行ユニットを効率化することでAI処理性能を大幅に引き上げています。これにより、機械学習やAES-XTS暗号化処理において30%以上の性能向上が期待されます。ただし、今回リークされたデスクトップ向けRyzen Pro 9000シリーズにNPUが搭載されるかは確認されていません。

企業が注目すべき技術的なポイントとして、TDP65Wという低消費電力設計があります。これは電力効率の向上だけでなく、冷却コストの削減や省スペース化にも寄与するため、データセンターやオフィス環境での運用コスト削減につながります。

潜在的なリスクとしては、新アーキテクチャ導入初期に見られる可能性のあるソフトウェア互換性の問題や、マイクロコードアップデートの必要性が挙げられます。ただし、AMDは18ヶ月の計画的ソフトウェア安定性と24ヶ月の計画的可用性を保証しており、企業での長期運用に配慮した設計となっています。

長期的な視点で見ると、このリリースは企業のAI活用とセキュリティ強化を同時に実現する重要な転換点となる可能性があります。2025年がAI PCの年と言われる中、正式発表された際には、Ryzen Pro 9000シリーズが企業のデジタルトランスフォーメーションを加速させる重要な技術基盤として位置づけられるでしょう。

【用語解説】

Zen 5アーキテクチャ
AMDが2024年に発表した第5世代CPUマイクロアーキテクチャ。前世代のZen 4と比較してクロック当たりの命令実行数(IPC)が16%向上し、8ワイドディスパッチ/リタイア・エンジンと6つのALU(演算論理ユニット)を採用している。

IPC(Instructions Per Clock)
クロック当たりの命令実行数。CPUが1クロックサイクルで実行できる命令の数を示す指標で、この数値が高いほど効率的な処理が可能となる。Zen 5では前世代比16%の向上を実現している。

TDP(Thermal Design Power)
熱設計電力。CPUが動作時に発生する熱量の設計値で、冷却システムが処理すべき熱量を示す。Ryzen Pro 9000シリーズは全モデルが65Wで統一されている。

AVX-512
Advanced Vector Extensions 512の略。512ビット幅のベクトル命令セットで、科学計算やAI処理の高速化を実現する。

AMD Memory Guard
AMDが開発したハードウェアレベルのメモリ暗号化技術。システムメモリ全体をリアルタイムで暗号化し、物理的攻撃やコールドブート攻撃からデータを保護する企業向けセキュリティ機能。

AMD Platform Secure Boot
システム起動時にファームウェアとブートローダーの整合性を検証するセキュリティ機能。不正なコードの実行を防ぎ、企業環境でのシステム改ざんや攻撃を防止する。

【参考リンク】

AMD 公式サイト – Ryzen 9000シリーズ(外部)
Zen 5アーキテクチャを採用したRyzen 9000シリーズの公式技術情報。最大16コア、32スレッド、PCIe 5.0対応などの詳細仕様を提供。

Microsoft 公式サイト – Copilot+ PC(外部)
AI機能を統合したCopilot+ PCの公式情報サイト。40 TOPS以上のAI処理能力を持つPCの生産性向上機能について詳細解説。

【参考動画】

【参考記事】

AMD’s Zen 5 gets down to business with new Ryzen Pro 9000 CPUs – Tom’s Hardware(外部)
Ryzen Pro 9000シリーズのリーク情報詳細分析。65W TDP統一、L3キャッシュ構成について解説。

AMD spills the beans on Zen 5’s 16% IPC gains – The Register(外部)
Zen 5アーキテクチャの16% IPC向上の技術的詳細を解説。フロントエンド、実行エンジンの改良を詳述。

【編集部後記】

今回のリーク情報から見えるZen 5アーキテクチャとAI機能の融合は、私たちの働き方をどう変えていくのでしょうか。特に注目したいのは、正式発表されたThreadripper PRO 9000 WXシリーズが示すAMDの企業向け戦略の本気度です。65W TDPでの16%性能向上は、単なるスペック競争を超えた価値提案です。

皆さんの職場では、セキュリティを重視しながらもAI活用を進める際の技術選択について、どのような視点を大切にされていますか?また、リーク段階の情報をどこまで参考にして設備投資を計画すべきか、現場での判断基準をお聞かせください。私たちinnovaTopiaも、読者の皆さんと一緒にテクノロジーの未来を見極めていきたいと思います。

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