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6月13日【今日は何の日?】小惑星探査機「はやぶさ」帰還ー低予算開発が生み出した7年間に渡るドラマ

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はやぶさ物語 – 奇跡の帰還

2010年6月13日の夜10時51分、オーストラリアの夜空にすごい光が走りました。それが、7年間もの長い旅を終えて地球に帰ってきた小惑星探査機「はやぶさ」の最後の姿でした。

大気圏に突入して燃え尽きながらも、はやぶさが最後に放出したカプセルは無事にオーストラリアの大地に着地しました。人類初の小惑星からのサンプルリターンという、とんでもない偉業を成し遂げたんです。

https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/hayabusa.html

この瞬間、日本中が大騒ぎになりました。管制室では研究者たちが涙を流して、全国の天文台やプラネタリウムでは見守っていた人たちが拍手喝采でした。ネット上では「はやぶさ」を擬人化したイラストや動画がめちゃくちゃ投稿されて、普通の人たちまでこの小さな探査機の冒険に夢中になってしまいました。

海外メディアも大々的に報じて、NASAをはじめ世界中の宇宙機関から「やるじゃん日本」って声が相次ぎました。

でも、この感動的な帰還の裏には、もう想像もつかないような困難との戦いがあったんです。最初から「そんなの無理だろ」って言われてたこのプロジェクト、限られた予算と人数で、すごい技術革新と人間ドラマを作り出していました。

「無謀」って言われた挑戦のスタート

2003年5月9日、内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた「はやぶさ」は、当時としては前代未聞の壮大な計画を背負っていました。小惑星に着陸して、サンプルを採取して地球に持ち帰るという任務は、技術的難易度があまりにも高くて、国内外の専門家から「そんなことできるわけないだろ」って懐疑的な声が上がっていました。

「そんなことが本当にできるのか」「失敗は目に見えている」

こういう声に対して、プロジェクトマネージャーの川口淳一郎教授(当時)をはじめとする研究チームは、あらゆる工夫を凝らしました。限られた重量制約の中で最大の性能を引き出すため、既存の技術を組み合わせて、新しい発想で課題を解決していったんです。

例えば、小惑星表面での精密な着陸を実現するため、探査機自身が周囲の環境を判断して自律的に行動する「自動航法システム」を開発しました。また、微小重力環境でのサンプル採取という前人未踏の技術にも果敢に挑戦したんです。

https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2024140654SA000

研究者たちは「できない理由を探すのではなく、できる方法を考える」という姿勢を貫いて、一つひとつの技術的課題に正面から向き合いました。彼らの情熱と創意工夫こそが、この困難なプロジェクトの礎となったんですね。

絶望の淵からの奇跡的復活

はやぶさの旅路は、まさに波乱万丈という言葉がぴったりでした。2005年11月、目標の小惑星イトカワへの着陸に成功したものの、その直後から次々と深刻なトラブルに見舞われることになります。

最初の大きな試練は、姿勢制御装置の故障でした。探査機の姿勢を制御するリアクションホイールが次々と故障して、はやぶさは宇宙空間で制御を失った状態になってしまいました。でも、研究チームは諦めませんでした。化学エンジンを使った巧妙な制御方法を編み出して、なんとか姿勢を安定させることに成功したんです。

続いて発生したのは、さらに深刻な燃料漏れ事故でした。化学エンジン用の燃料が漏れ出して、はやぶさは再び制御不能状態に陥ってしまいます。地球との通信も途絶えて、探査機の生死すらわからない状況が続きました。多くの人が「今度こそ終わりだ」と考えたんです。

https://www.astroarts.co.jp/news/2006/03/08hayabusa/index-j.shtml

でも、2006年1月、奇跡が起きました。7週間ぶりに微弱な電波がはやぶさから届いたんです。管制室は歓喜に沸いたけど、喜びもつかの間、探査機の状態は依然として危機的でした。燃料はほとんど残っていないし、本来の予定では不可能とされる帰還軌道への投入が必要だったんです。

ここで川口教授率いる研究チームが示したのは、常識を覆す発想力でした。従来は補助推進装置として使われていたイオンエンジンを主推進装置として活用して、長期間にわたる微小な推力で徐々に軌道を修正するという前例のない手法を採用したんです。さらに、故障したイオンエンジンの回路を組み合わせて一つのエンジンとして機能させる「クロス接続」という技術も編み出しました。

「諦めたらそこで終わり。必ず方法はある」

研究者たちのこの信念が、数々の技術的困難を乗り越える原動力になりました。彼らは毎日のように議論を重ねて、新しいアイデアを試して、失敗してもまた立ち上がったんです。その姿勢こそが、はやぶさプロジェクトの真の価値だったのかもしれませんね。

驚異の低予算プロジェクト

はやぶさプロジェクトを語る上で欠かせないのが、その驚異的な低予算ぶりです。総予算約127億円という金額は、宇宙開発の世界では信じられないほど少ないんです。

比較例を挙げると、アメリカのスペースシャトル1回の打ち上げ費用が約500億円、国際宇宙ステーションの建設費用が約10兆円でした。また、同時期に計画されていたヨーロッパの彗星探査機ロゼッタの予算は約1500億円だったんです。はやぶさの予算は、これらの10分の1から100分の1という規模でした。

この制約の中で、研究チームは徹底的な効率化を図りました。探査機の重量はわずか510キログラム(燃料込み)と軽量化を極限まで追求して、搭載機器も最小限に絞り込んだんです。また、既存技術の応用や民生品の活用により、開発コストを大幅に削減しました。

でも、低予算であることは決してマイナス要因ではありませんでした。むしろ、この制約こそが研究者たちの創造性を刺激して、革新的な技術開発につながったんです。「お金がないからこそ、新しいアイデアが生まれる」という川口教授の言葉通り、限られたリソースの中で最大の成果を生み出すという日本人の得意分野が存分に発揮されたプロジェクトでした。

革新的技術の数々

はやぶさには、当時としては極めて先進的な技術が数多く搭載されていました。これらの技術革新こそが、このプロジェクトの真の価値と言えるでしょう。

自動航法システム

最も革新的だったのは、探査機自身が判断して行動する「自動航法システム」です。地球から小惑星イトカワまでの距離は約3億キロメートル。電波による通信には往復で40分以上かかるため、リアルタイムでの操縦は不可能でした。

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このため、はやぶさには人工知能に近い判断能力が搭載されました。目標天体に接近すると、搭載カメラで小惑星の形状や自転速度を自動的に解析して、最適な着陸地点を選定します。そして、レーザー高度計やターゲットマーカーを使って精密な距離測定を行いながら、わずか数メートルの精度で着陸を実行するんです。

この技術は、後の宇宙探査において標準的な手法となって、現在の火星探査機にも応用されています。

サンプル採取システム

小惑星表面からのサンプル採取も、前例のない技術的挑戦でした。微小重力環境では、従来の「掘る」「すくう」といった方法は使えません。はやぶさが採用したのは、弾丸を高速で撃ち込んで、舞い上がった破片を採取する「インパクター方式」でした。

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着陸の瞬間、探査機底部から直径5ミリメートルのタンタル弾を秒速300メートルで小惑星表面に撃ち込みます。その衝撃で舞い上がった微粒子を、ホーン状の採取装置で回収して、密閉されたカプセルに保管するんです。この一連の作業を、わずか1秒以内で完了させる必要がありました。

イオンエンジンの実用化

最も注目を集めたのは、イオンエンジンの本格的な実用化でした。この技術は1960年代から研究されていたものの、実際の宇宙探査で主推進装置として使われた例は限られていました。

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イオンエンジンは、キセノンガスをイオン化して電気的に加速し、高速で噴射する推進装置です。推力は極めて小さい(500円硬貨1枚分の重さ程度)んですが、燃費が化学エンジンの10倍以上良くて、長期間の運転が可能なんです。

はやぶさでは4基のイオンエンジンを搭載して、約7年間にわたって断続的に運転を続けました。総運転時間は約4万時間に及んで、これは地球から火星までの距離に相当する軌道変更を可能にしたんです。この実績により、イオンエンジンは深宇宙探査の標準技術として確立されることになりました。

人類の知見を変えた研究成果

2010年12月、回収されたカプセルから約1500個の微粒子が発見されたとき、科学界は興奮に包まれました。これらはすべて小惑星イトカワ由来の鉱物粒子で、人類が初めて手にした地球外天体のサンプルだったんです。

顕微鏡での詳細な分析により、驚くべき事実が次々と判明しました。イトカワの微粒子は、地上で発見される隕石とは明らかに異なる特徴を示していたんです。隕石の多くは大気圏突入時の熱や地球環境での変質により、本来の姿を失っています。でも、はやぶさが持ち帰った粒子は、宇宙環境での「生の姿」を保持していました。

分析の結果、イトカワは約45億年前の太陽系形成初期の情報を保持していることが確認されました。また、予想以上に多様な鉱物構成を持つことも判明して、小惑星の形成過程に関する従来の理論を大きく見直すきっかけになったんです。

さらに重要だったのは、微粒子の表面に宇宙風化の痕跡が明確に確認されたことです。これにより、小惑星と隕石を結びつける「ミッシングリンク」が初めて科学的に証明されて、太陽系の歴史解明に大きな進歩をもたらしました。

世界への衝撃と日本技術への評価

はやぶさの成功は、世界の宇宙開発に大きな衝撃を与えました。特にアメリカとヨーロッパの宇宙機関は、日本の技術力を改めて認識することになります。

NASAのチャールズ・ボールデン長官(当時)は「はやぶさの成功は、宇宙探査の新たな時代の幕開けを告げるものだ」と賞賛しました。また、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の幹部からも「日本が示した技術革新は、我々の今後のミッション計画に大きな影響を与える」との声が聞かれました。

国際的な評価の高まりを受けて、世界各国から日本との技術協力を求める声が相次ぎました。実際に、はやぶさ2やその後の深宇宙探査ミッションでは、海外機関との共同研究が活発化しています。また、はやぶさで実証されたイオンエンジン技術は、NASAの小惑星探査機オサイリス・レックスやESAの水星探査機ベピコロンボにも採用されることになりました。

より大きな意味では、はやぶさの成功は「技術大国日本」の復活を世界に印象づけました。1990年代以降、日本の技術力に対する国際的な評価が相対的に低下していた中、宇宙という最先端分野での成功は、日本の底力を改めて示すものでした。

継承される「はやぶさスピリット」

2010年6月13日のあの夜から15年が経過した今、はやぶさの遺産は確実に次世代に受け継がれています。後継機「はやぶさ2」は2014年に打ち上げられて、2020年に小惑星リュウグウからのサンプルリターンに成功。さらなる技術向上を実現しました。

でも、はやぶさプロジェクトの真の価値は、技術的成果だけにとどまりません。限られた予算と人員の中で、諦めることなく困難に立ち向かい続けた研究者たちの姿勢。失敗を恐れず新しい技術に挑戦する勇気。そして何より、「不可能を可能にする」という強い意志。

これらの精神は「はやぶさスピリット」として、現在も日本の宇宙開発を支える原動力になっています。そして、宇宙開発にとどまらず、さまざまな分野で困難に直面した時、人々の心に希望の光を灯し続けているんです。

編集部後記:「はやぶさ」が生み出したカルチャー

はやぶさプロジェクトの成功は、科学技術の分野にとどまらず、日本のポップカルチャーにも大きな影響を与えました。特に印象的だったのは、インターネット文化の中で自然発生的に生まれた「はやぶさたん」現象です。

「はやぶささん」と二次創作ブーム

帰還が近づく2010年頃から、はやぶさを擬人化した「はやぶささん」のイラストや動画がニコニコ動画を中心に爆発的に投稿されました。健気で一生懸命な少女として描かれることが多くて、7年間の困難な旅路を乗り越えて地球に帰ってくるストーリーは、多くの人の心を打ちました。

特に印象的だったのは、はやぶさの機体トラブルを「怪我」として表現して、それでも諦めずに地球を目指す姿を描いた作品の数々でした。最後に大気圏で燃え尽きる場面では、「お疲れさま」「ありがとう」といったコメントが画面を埋め尽くして、多くの視聴者が涙を流しました。

https://amzn.asia/d/1tCmA9b

これらの二次創作は、本来は専門的で理解しにくい宇宙開発プロジェクトを、一般の人々にとって身近で感情移入しやすいものに変換する役割を果たしました。

特に印象的だったのは、Twitter(現X)上に登場した「はやぶさ」本人(?)の一人称アカウントです。このアカウントでは、はやぶさ自身が語りかけるような口調で、宇宙での出来事や地球への想いがつぶやかれていました。「今日もイオンエンジン、がんばっています」「地球が見えてきました。もう少しです」といった投稿は、多くのフォロワーの心を掴んで、まるで本当にはやぶさとコミュニケーションを取っているかのような感覚を人々に与えました。

このアカウントは、リアルタイムでのミッション進行と連動していて、実際の探査機の状況に合わせて投稿内容が変化するという凝った演出も話題になりました。帰還直前には数十万人のフォロワーが見守る中、感動的な「さよなら」のメッセージが投稿されて、多くの人が涙を流しました。

これは、SNSという新しいメディアを通じて科学プロジェクトと一般市民を結びつけた、画期的な試みでもありました。科学と感情が結びついた、稀有な文化現象だったと言えるでしょう。

音楽で奏でられた宇宙への想い

音楽分野でも、はやぶさは大きなインスピレーションを与えました。中でも注目を集めたのは、ボカロPとして活動するキセノンPによる楽曲群です。キセノンPは、はやぶさのイオンエンジンで使用される希ガス「キセノン」から名前を取っていて、宇宙開発への深い愛情がうかがえます。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm10187442

同氏が手がけたはやぶさ関連楽曲は、科学的な正確性と詩的な美しさを両立させた作品として高く評価されました。特に、はやぶさの旅路を音楽で表現した楽曲は、技術的な偉業を感情に訴える形で多くの人に伝える役割を果たしました。

国民的感動とメディアの力

はやぶさの帰還は、久しぶりに日本全体が一つになって応援できるプロジェクトになりました。テレビの特番では、管制室の緊張感あふれる様子がリアルタイムで放送されて、多くの国民がはやぶさの運命を固唾をのんで見守りました。

特に印象的だったのは、帰還直前の数週間、メディアが連日はやぶさの現状を報道して、「がんばれ、はやぶさ」という応援メッセージが全国から寄せられたことです。科学技術プロジェクトがこれほど国民的な関心を集めたのは、戦後の日本では極めて珍しい出来事でした。

この現象は、単なる技術的成功への称賛を超えて、困難に立ち向かう姿への共感、そして「日本もまだやれる」という自信回復の象徴としての意味を持っていたのかもしれません。

「恋する小惑星」

はやぶさの成功とは話が変わりますが、小惑星とカルチャーと言えば、2020年に放送されたアニメ「恋する小惑星(恋アス)」があります。

このアニメは、高校の地学部を舞台に、天文学や地質学の魅力を描いた作品で、小惑星の発見や命名といったテーマが重要な要素として組み込まれていました。作品中では、新発見の小惑星に登場人物の名前を付けるエピソードが描かれて、実際の小惑星命名プロセスについても詳しく説明されました。

興味深いことに、このアニメの放送に合わせて、実在する小惑星に作品の登場人物の名前が付けられるという、現実とフィクションが交錯する出来事も起きました。これは、はやぶさが切り開いた「小惑星を身近に感じる文化」の延長線上にある現象と言えるでしょう。

科学と文化の幸福な邂逅

はやぶさプロジェクトが生み出したこれらの文化現象は、科学技術と大衆文化が見事に融合した稀有な例です。通常、最先端の科学技術は一般の人々には理解しにくくて、感情的な共感を得ることは困難です。

でも、はやぶさの場合は、7年間という長い時間軸の中で起きた数々のドラマ、研究者たちの情熱、そして最終的な成功という物語性が、多くの人の心を捉えました。そして、インターネットを通じて広がった二次創作文化が、その感動をさらに多くの人に伝播させる役割を果たしたんです。

この現象は、現代の科学コミュニケーションの新しい形を示唆するものでもあります。専門知識を一方的に伝達するのではなく、感情や物語を通じて科学の魅力を伝える。そして、受け手が能動的に参加して、自分なりの表現で科学への想いを表現する。

はやぶさが残したこの文化的遺産は、技術的成果と同様に、日本の宇宙開発史において重要な意味を持つものと言えるでしょう。

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8月15日【今日は何の日?】Wow!シグナル記念日──AIによる宇宙探査と「発見の利権」を考察。

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1977年8月15日。天文学者ジェリー・エーマンは、記録紙の余白に赤いペンでWow!と書きなぐりました。それは、人類が宇宙からの謎めいた囁きを垣間見た、歴史的な瞬間でした。

そして現代、AIという新たな”知性”は、天文学的なデータの中から「第二のWow!」を発見する能力を我々に与えました。しかし、その発見の瞬間は、人類史の輝かしい新章の幕開けであると同時に、我々の文明が試される「究極の選択」の始まりでもあります。

発見は我々を一つにするのでしょうか、それとも新たな「大航海時代」の引き金となるのでしょうか。本稿では、AIによる探査の最前線から、発見されたメッセージが内包する意味、その後の社会・経済への激震、そして人類に突きつけられる理想と現実までを、詳細に論じます。

AIが拓く探査の新時代

かつてのSETI(地球外知的生命体探査)は、人間の目と幸運に頼る、大海で一本の針を探すような試みでした。しかし、AIの登場がすべてを変えました。

特に大きな壁だったのが、地球自身が発する電波ノイズ(RFI)です。AIは、この無数のノイズの波形を「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」などの技術で学習し、あたかも熟練の警備員が群衆から不審者を見つけ出すかのように、ノイズだけを的確に除去します。

さらに、AIは我々が想定するパターンに合わない「真の異常(アノマリー)」を検出します。これは単なるパターンマッチングではありません。AIは「正常な宇宙とは何か」を自ら学習し、そこから逸脱する未知の現象を捉えるのです。これにより、Breakthrough Listenのようなプロジェクトは、人間では見逃していたであろう無数の候補信号を特定し始めています。

もはや、発見は「いつか」ではなく「いかにして」の段階に入りました。そして、AIのログファイルにその一行が記録された時、物語は次の章へと移ります。

メッセージの「内容」という新たな変数

AIが信号の存在を特定したとして、次に人類が直面するのは「そこには何が書かれているのか?」という、さらに深遠な問いです。信号の「内容」は、我々の未来を全く異なる方向へと導く可能性を秘めています。

宇宙のロゼッタストーンか?

もし信号が、数学や物理学の定数といった普遍的な言語で書かれた「教科書」だったらどうでしょう。それは、かつて人類がパイオニア探査機に載せた銘板や、ボイジャーのゴールデンレコードに込めた想いへの、宇宙からの返信かもしれません。AIを用いた暗号解読チームが組織され、人類の知性が総力を挙げて、未知の科学技術や哲学の解読に挑むことになります。

コズミック・マルウェアの脅威

一方で、その信号は、我々の文明を狙った「トロイの木馬」かもしれません。信号をコンピュータで処理・解読しようとした瞬間に、悪意あるコードが作動し、地球上の金融システムや電力網を破壊する。そんな地球外からのサイバー攻撃という、究極のセキュリティリスクも専門家から指摘されています。解読の試み自体が、引き返せない罠である可能性です。

理解不能の壁

最も厄介なのは、信号が科学でも脅威でもなく、我々の知性では全く理解できない「何か」だった場合です。それは異星の芸術かもしれませんし、我々の論理体系とは根本的に異なる哲学かもしれません。人類はここで初めて、自らの知性の限界と、宇宙における自らの存在の小ささを痛感することになるでしょう。

経済と社会の激震

メッセージの内容がどうであれ、その「発見」という事実だけで、私たちの社会と経済は根底から揺さぶられます。

市場のパニックと熱狂

「発見」の第一報が流れれば、金融市場は即座に反応します。宇宙開発ベンチャーや素材科学企業の株価は天井知らずに高騰する一方、既存のエネルギー産業や、一部の伝統的権威に依存する企業の価値は暴落するでしょう。世界経済は、未曾有の「ETショック」に見舞われます。

産業構造の創造的破壊

もしメッセージの解読により、クリーンで無限のエネルギー技術や、常温超伝導の秘密がもたらされたらどうなるでしょうか。石油や天然ガスに依存した国家経済は崩壊し、エネルギー産業全体が再編を迫られます。全産業の基盤が覆る「創造的破壊」が、世界中で同時に発生するのです。

人類の価値観の変容

「我々は独りではなかった」という事実が常識となれば、人々の価値観は大きく変わります。国家や民族といった境界線の意味は薄れ、「地球人類」としての一体感が生まれるかもしれません。一方で、既存の宗教や哲学は、その教義の根本的な見直しを迫られることになり、社会的な混乱も予想されます。

究極の選択 – 「共有」か「独占」か

これほどのインパクトを持つ発見を前にして、「それを誰が管理するのか」という地政学的な問題が、人類にのしかかります。その瞬間、人類は二つの道が交わる分岐点に立ちます。

【Aルート:理想】「全人類の資産」としての公開

理想の道は、「宇宙条約」の精神に則り、発見を全人類の資産として共有する世界です。パブリックブロックチェーンを用いて発見の全プロセスを公開し、透明性と公平性を担保することで、究極の「科学の民主化」が実現します。

【Bルート:現実】「国家の利権」としての独占

しかし、絶大な利益を前に、ある国がそれを独占しようと考えるのは自然なことです。プライベートブロックチェーンとパブリックブロックチェーンへのハッシュ値記録を組み合わせることで、発見の事実を後から証明しつつ、水面下で情報を独占する「デジタル帝国主義」が始まる可能性があります。

テクノロジーは「鏡」です

AIが信号を見つけ、その内容が人類の運命を揺さぶり、ブロックチェーンがその後の秩序を左右します。しかし、注目すべきは、これらの技術が、設計次第で正反対の未来をどちらも実現できてしまうという事実です。

テクノロジーは、それ自体に意思を持ちません。使う人間の意図を増幅する「鏡」なのです。

地球外知的生命体の探査は、結局のところ我々自身を見つめる行為に他なりません。それは、宇宙における我々の孤独を問うだけでなく、我々が他者と、そして未知と出会った時に、どのような選択をする種族なのかを厳しく問い質します。

その答えは、まだ誰も知りません。


【Information】

SETI研究所 (The SETI Institute)
地球外知的生命の起源や存在を探求する、世界を代表する非営利研究機関です。電波天文学だけでなく、生命が宇宙で発生するための条件を探る宇宙生物学など、多角的なアプローチで研究を行っています。

Breakthrough Listen (ブレークスルー・リッスン)
観測史上最大規模の地球外知的生命体探査プロジェクトです。世界各地の高性能な電波望遠鏡と最新のAI技術を駆使し、最も包括的な探査を行っており、観測データは研究者のために公開されています。

国連宇宙局 (UNOOSA – United Nations Office for Outer Space Affairs)
宇宙空間の平和的利用の促進と、宇宙活動に関する国際協力のハブとなる国連の機関です。記事中で触れた「宇宙条約」の管理など、宇宙に関する国際的なルール作りにおいて中心的な役割を担っています。

METI International (メティ・インターナショナル)
SETIが「聞く」ことを主眼とするのに対し、METIは「(地球から)意図的なメッセージを送る」ことを研究・議論する機関です。メッセージを送ることの是非や、その内容について科学的・倫理的な観点から探求しています。

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【SuperKEKB】KEKフォトウォークに参加してきました。:電子-陽電子衝突加速器【現地訪問】

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こんにちは。サイエンスライターの野村です。今回は6/22に開催された「KEKフォトウォークに参加してきましたので、その時の探訪記です。

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つくば駅前からの風景。画面中央付近にロケットが見えるかと思いますが、このあたりに図書館やプラネタリウムがあり、文化施設が密集しています。

KEKフォトウォークとは?

KEKフォトウォークは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)が主催する撮影イベントです。KEKは茨城県つくば市にある素粒子物理学や加速器科学の研究機関で、このフォトウォークは一般の方々にKEKの研究活動や施設について興味を持ってもらうことを目的としています。
https://www2.kek.jp/outreach/kekpw
加速器の美しい曲線、実験装置の精密な構造、研究者の活動風景など、科学の現場ならではの魅力的な被写体が多くあります。

今回は特別?

KEK フォトウォークは、世界15の研究所が参加する「グローバル・フィジックス・フォトウォーク」の一環です。これは米国立フェルミ加速器研究所、欧州合同原子核研究機関(CERN)、ドイツ電子シンクロトロン研究所、カナダTRIUMF研究所、そしてKEKなどの世界的な研究機関が同時開催する特別な企画です。

この国際コンテストでは、KEK を含む参加機関・研究所から3作品が推薦され、世界の素粒子物理の広報担当者のウェブサイト上でフォトコンテストにノミネートされ、全世界からの一般投票によって「グランプリ」を決定します。

10年ぶりの開催
2020年の「グローバル・フォトウォーク」はコロナウイルスの流行によって中止されたため、今回のコンテストは実に10年ぶりです。応募者多数の中、当選しましたので現地へ赴く運びになりました。

ところで何を見に行ったの?

SuperKEKBとは?
SuperKEKBは、KEK(高エネルギー加速器研究機構)にある世界最高性能の電子・陽電子衝突型加速器です。

基本的な仕組み
SuperKEKBは、電子と陽電子(電子の反粒子)をほぼ光速まで加速し衝突させる装置です。地下に建設された周囲約3kmのリング状のトンネル内で、電子は7GeV、陽電子は4GeVのエネルギーまで加速された状態でリング状のトンネル内を逆方向に周回し、Belle II測定器と呼ばれる検出器内で衝突します。

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トンネル入り口にあったSuperKEKBの概略図

私が今回写真撮影に向かったのはSuperKEKBのトンネル内です。(電子と陽電子のビームを収束させるための四極電磁石と六極電磁石の他にビームの「進路」を調整するための偏向電磁石がある場所です。)

参考動画のリング部分の下あたりを歩いていました。

SuperKEKBを使ってなにがわかるの?
1. 物質と反物質の謎を解く研究
この宇宙がなぜ物質でできているのか疑問に思ったことはありませんか?実は、宇宙が誕生した時には物質と反物質が同じ量作られたはずなのですが、現在の宇宙は物質ばかりでできています。SuperKEKBプロジェクトでは、物質と反物質の性質にわずかな違いがあることを詳しく調べて、この宇宙の大きな謎を解明しようとしています。ニュートリノ振動実験の記事も併せて読んでね!

2. まだ見つかっていない新しい粒子を探す研究
現在の物理学では説明できない現象がまだたくさんあります。例えば、宇宙の質量のかなりの部分を占めるとされる「暗黒物質」の正体などです。SuperKEKBプロジェクトでは、これまで発見されていない新しい種類の粒子を見つけることで、宇宙のより深い仕組みを理解しようとしています。

3. 素粒子の基本的な性質を調べる研究
物質を構成する最も小さな粒子である素粒子には、いくつかの種類があります。Belle Ⅱ 測定器では、これらの粒子がどのように変化し、どのような法則に従って振る舞うのかを精密に測定しています。

これらの研究を通じて、私たちが住む宇宙の成り立ちや、物質の根本的な性質について新しい発見をすることが、SuperKEKBプロジェクトの大きな目標です。

ここがすごいよ!SuperKEKBー日本は加速器先進国?

1. 世界記録の衝突性能を達成
SuperKEKBは2024年12月27日にルミノシティ(衝突性能)5.1×10^34 cm^-2 s^-1を達成し、世界最高記録を更新し続けています。このルミノシティはすべての種類の衝突加速器の中で、世界最高の記録で、欧州のCERNや米国フェルミ研究所の記録を上回る快挙です。

ルミノシティって?
単に言えば、「1秒間にどれだけ多くの粒子同士を衝突させることができるか」を表す数値なのです。この値の大きさは非常に重要です。粒子と粒子の衝突によって新しい粒子が生まれたりするわけですから、言ってしまえば「一回の実験でどれだけ精度の良い実験ができるか、どれだけレアなイベントを得られるか」がルミノシティにかかっています。

日本は世界最強の加速器を持っているのです。実は。

KEK到着

今回は少し早めに現地に到着したので、少しだけ常設展示室の中を探索していました。フォトウォークの受付を済ませると、建物内にある、コミュニケーションプラザで素粒子についてのいろいろな展示を見てきました。

KEKコミュニケーションプラザとは?
KEKコミュニケーションプラザでは、加速器が動く仕組みや素粒子について学んだり、宇宙から降り注いでいる宇宙線を観察したり、タンパク質の立体構造を目で見たり、身近なものに含まれている放射線を自分で測ってみたりすることができます。

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フォトウォーク受付!

素粒子のフィルム写真

これは昔素粒子の検出に使われていた。「泡箱」と呼ばれる装置のレンズです。
泡箱(バブルチャンバー)は、素粒子物理学の実験で粒子の軌跡を視覚化するために使われた検出器です。

動作原理
泡箱は液体水素で満たされた容器です。(その他の物質で満たされた泡箱も存在します。)荷電粒子が液体中を通過すると、その経路に沿って気泡が形成されます。これは、粒子が液体分子とエネルギーを交換し、局所的な沸騰を引き起こすためです。形成された気泡の軌跡を写真撮影することで、粒子の経路、運動量、電荷などの物理量を測定できました。

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実際に当時に撮影されたフィルムも横に置いてありました。フィルムをのぞき込んでみると素粒子の軌跡が克明に映し出されています。現在では、このような検出手法は使われなくなりました。しかし、このような比較的単純な手法であっても、人の目では見ることができない微小な粒子の姿を捉えることができたのです。

これが何十年も前の技術だったということを考えると、本当に驚くべきことです。

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素粒子の軌跡のフィルム

KEKは大先輩?
実は日本初の公開ウェブページを作ったのはKEKらしいです。言ってしまえばinnovaTopiaの大先輩ですね。

ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を発明したのはCERNのティム・バーナーズ=リーであることは有名ですが、日本におけるウェブの歴史を語る際、KEK(高エネルギー加速器研究機構、当時は高エネルギー物理学研究所)の果たした役割は決して見過ごすことはできません。CERNもKEKも素粒子物理学の研究機関で、科学者たちの間で大規模な実験のための情報共有が必要不可欠だったという背景があることも少し面白いですね。

1992年9月30日、KEKの森田洋平氏によって「KEK Information」と題された日本初のウェブページが公開されました。この歴史的な出来事の背景には、国際的な科学者コミュニティのネットワークがありました。

興味深いのは、この日本初のウェブサイト誕生の経緯です。森田氏は1992年9月にフランスで開催された国際会議に出席した後、CERNに立ち寄り、そこでバーナーズ=リー博士と直接会話する機会を得ました。CERNのカフェテリアでの昼食中、バーナーズ=リー博士から「情報はネットワーク上でみんなと共有して、はじめて価値が生まれる。WWWはハイパーテキストのリンクで世界中の情報をお互いに結びつけることを可能にする。KEKもぜひWWWサーバーを立ちあげて欲しい」と直接依頼されたのです。

この要請を受けて、森田氏は急遽CERNの端末を借りてKEKのサーバーにログインし、単一のページとしてHTML形式のウェブページを作成しました。この「KEK Information」は茨城県つくば市にある文部省高エネルギー物理学研究所計算科学センターのサーバー上に設置され、日本のインターネット史に重要な一歩を刻みました。

KEKがウェブの先駆者となったのは偶然ではありません。素粒子物理学の研究においては、世界中の研究機関との情報共有が不可欠であり、CERNで生まれたWWWという技術の価値を即座に理解し、実践に移す土壌がKEKにはあったのです。

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先輩じゃないっすか!?ウイッスウイッス…

当日はコミュニケーションプラザ内で、SuperKEKBの装置概要や、どのようなことを目指して電子と陽電子をぶつけているのかについて動画を用いた説明を受けてから施設内を見学しました。

トンネル内での写真撮影

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偏向電磁石。

電子も陽電子も電荷を帯びた粒子であるため、磁場のある空間ではローレンツ力を受けて軌道が曲がります。上の写真は偏向電磁石です。このローレンツ力を利用して陽電子と電子の軌道を調整しているらしいです。

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四極電磁石

この電磁石はさっきとは異なり4つのコイルがあります。この構造によって広がってしまう電子と陽電子の軌道を収束させています。

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六極電磁石

四極電磁石のほかに六極電磁石を用いて、レンズ系でいうところの「色収差」のようなものが電子ビームに生じてしまうことを防いでいるらしいです。

自分の身長程度もある大きな電磁石と、ここまで長い距離真空が保たれている装置を見たことがなかったので、正直歩いている間は現実の世界で起こっていることだと実感できませんでした。巨大実験は装置を見ているだけで少し幸せな気持ちになれます。

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ARESキャビティ

ARESキャビティについて手短に説明いたします。

ARESキャビティとは常伝導加速空洞のことで、ARESはAccelerator Resonantly coupled with Energy Storageの略です。

これはSuperKEKB加速器システムにおいて使用されている加速空洞の一種で、常伝導(超伝導ではない)技術を用いた粒子加速装置です。電子や陽電子ビームにエネルギーを与える役割を果たします。

SuperKEKBでは超伝導加速空洞と併用される形で、このARES空洞が加速器システムの一部として組み込まれており、全体として世界最高レベルの衝突性能を実現するための重要な構成要素となっています。

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電子と陽電子の通り道

画面中央よりやや上に見える銅色のパイプが電子の通り道、下に見える銀色のパイプが陽電子の通り道です。陽電子がうまく通れるようにKEKは独自の工夫をしているそうです。

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トリスタン実験で活躍した装置たち

出口付近にはTRISTAN実験で活躍していた装置たちが並んでいました。

TRISTAN実験は、1986年に完成したリング状衝突加速器TRISTAN(Transposable Ring Intersecting Storage Accelerator in Nippon)を用いた実験で、文部省高エネルギー物理学研究所が5年の期間をかけて開発しました。

トリスタン計画は1980年代初頭から90年代中頃まで実施されたプロジェクトで、当時の世界最高エネルギーにおける電子陽電子反応の研究が実施されました。加速器としては電子と陽電子それぞれ300億電子ボルト(30GeV)の電子陽電子衝突型加速器で、約3kmの周長上の4か所に於いて電子ビームと陽電子ビームの衝突がなされました。

実験機器萌えの話

科学の世界には、日常生活ではなかなか目にすることのない独特な実験機器が数多く存在します。巨大な加速器や精密な分析装置、無骨ながらも美しいガラス器具など、その姿や機能には独特の魅力が詰まっています。

こうした実験機材に心惹かれる「科学系の実験機材萌え」という感覚を持つ人たちが、実は一定数存在します。彼ら・彼女らは、機材の機能美や構造の複雑さ、あるいは未知の現象を解き明かすための“道具”としての力強さに惹かれ、時には写真集や模型、イラストなどでその魅力を楽しんでいます。

科学機器は、一般の人にとっては遠い存在かもしれません。しかし、その無機質なフォルムや精巧な設計、そして「人類の知を切り拓くための最前線」という背景を知れば知るほど、そこにロマンを感じずにはいられません。
科学の発展を支える“縁の下の力持ち”である実験機材たち。そんな彼らに密かに心を寄せるファンがいることも、科学の世界の面白さのひとつと言えるでしょう。

実際にフラスコやその他の実験器具や電気素子のアクセサリーや日用品が販売されたりしています。

https://shop.systemgear.com/view/item/000000000925
(これは電子基板をモチーフにしたキーホルダーです。)

https://rikashitsu.jp/online-shop/products/list228.html
(フラスコの形をしたワイングラスです。ほかにも理科室のような内装をコンセプトにしたバーがあったり案外「科学器具に萌える」ひとは多いのかもですね。)

【編集部後記】

2025年に9/23にKEKの一般公開があります。是非皆様も巨大科学の膨大な時間と年月をかけた人類の実験科学の最先端を体験してください!(仕事の予定が合えば僕も行きたいな…)詳細は下記URLより

https://www2.kek.jp/openhouse/2025(KEK一般公開)

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スペーステクノロジーニュース

3I/ATLAS「エイリアン探査機説」をハーバード大学物理学者が提唱、確率0.005%の異常軌道に注目

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3I/ATLAS「エイリアン探査機説」をハーバード大学物理学者が提唱、確率0.005%の異常軌道に注目 - innovaTopia - (イノベトピア)

ハーバード大学の物理学者アヴィ・ローブ博士が、2025年7月1日にチリのATLAS望遠鏡で発見された星間天体3I/ATLASについて、エイリアンの探査機である可能性を示唆した。

この天体は直径0.32〜5.6キロメートル(最有力1km未満)で、典型的な彗星とは異なり前方に光を発している。火星、金星、木星の軌道と整列する軌道を持ち、ランダムに太陽系に入る天体がこのように整列する確率は0.005%である。ローブ博士はフォックスニュース・デジタルに対し「軌道が設計されたものかもしれない」「偵察任務の目的を持っていた可能性がある」と述べた。

地球外知的生命探査(SETI)の観点から、高度な文明が探査機を配備する可能性があるとし「もしそれが技術的なものであることが判明すれば、人類の未来に大きな影響を与える」と説明している。

From:文献リンクCould an Alien Probe Be Passing Through Our Solar System? Harvard Expert Weighs I

【編集部解説】

innovaTopiaの読者の皆さまにとって、この3I/ATLASという星間天体の話題は、単なる天文学上の発見を超えた深刻な意味を持っています。ローブ博士の主張は科学界で議論を呼んでいますが、最新の観測結果と合わせて検証すると、興味深い事実が浮かび上がってきます。

まず注目すべきは、3I/ATLASの軌道特性の異常性です。ランダムに太陽系に侵入する天体が惑星軌道と5度以内で整列する確率は0.2%、さらに金星、火星、木星に接近する確率は0.005%という極めて低い数値が示すのは、統計学的に考えると確かに「設計された可能性」を排除できない現実です。

技術的観点から見ると、3I/ATLASは従来の彗星とは決定的に異なる特徴を示しています。当初20キロメートルとされていた直径は、ハッブル宇宙望遠鏡の詳細観測により大幅に下方修正され、現在は0.32〜5.6キロメートル、最も可能性が高いのは1キロメートル未満とされています。この小さなサイズでありながら顕著な活動性を示すという新たな謎を生み出しています。

重要な修正点として、当初「彗星活動の兆候がない」とされていましたが、現在は明確な彗星活動が確認されています。ジェミニ南天文台とNASA赤外線望遠鏡施設による2025年7月5日と14日の近赤外分光観測で氷の検出に成功し、スイフト天文台による7月30日と8月1日の紫外線観測では水蒸気と水酸基イオンが検出されました。これらの観測により、3I/ATLASは確実に活発な彗星であることが証明されています。

SETI(地球外知的生命探索)の文脈では、このような探査機仮説は決して非科学的ではありません。高度な文明が他の星系を調査するために探査機を派遣するという概念は、人類自身がボイジャーやパイオニア探査機で実践している手法です。特に3I/ATLASの軌道が複数の惑星を効率的に観測できる設計になっている点は、偵察任務の観点から合理的な経路設計と考えることも可能です。

興味深いことに、3I/ATLASは太陽系最速の訪問者として記録されており、時速210,000キロメートルという驚異的な速度で移動しています。この速度は、天体が数十億年間にわたって星間空間を移動し、星や星雲の重力によって加速されてきたことを示唆しています。

現在、3I/ATLASは9月まで地上望遠鏡で観測可能ですが、その後太陽に近づきすぎるため地球からは見えなくなります。12月初旬に太陽の反対側で再び観測可能になる予定です。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による8月と12月の観測が計画されており、近日点通過前後での化学組成の変化を詳細に調査する予定です。

一方で、科学界の多数派は自然起源説を支持しており、専門家の中にはローブ博士の仮説を批判する声もあります。しかし、過去にも’Oumuamua(オウムアムア)の異常な加速現象など、従来理論では説明困難な星間天体の挙動が観測されており、新しい物理現象や技術的可能性を排除すべきではありません。

この事案が示すのは、科学的探求における開放性の重要性です。異常なデータに対して既存の枠組みで説明を試みる姿勢と同時に、従来の常識を超えた可能性も検討する柔軟性が、真の科学的進歩をもたらすのです。

【用語解説】

アヴィ・ローブ博士
ハーバード大学の理論物理学者で、地球外生命探査分野の第一人者。宇宙論と天体物理学を専門とし、2017年の星間天体オウムアムアについても地球外技術である可能性を提唱して議論を呼んだ。現在はハーバード・スミソニアン天体物理学センター内の理論・計算研究所の所長を務める。

3I/ATLAS
2025年7月1日に発見された3番目の星間天体(Interstellar objectの「I」)。正式名称はC/2025 N1 (ATLAS)。太陽系外から飛来し、直径は0.32〜5.6キロメートル、最も可能性が高いのは1キロメートル未満とされる。

ATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)
地球に接近する小惑星の早期発見を目的とした自動観測システム。ハワイ大学が開発し、現在4台の望遠鏡がハワイ、南アフリカ、チリで稼働している。直径50センチメートルの望遠鏡で7.4度という広い視野を持つ。

SETI(地球外知的生命探査)
Search for Extraterrestrial Intelligenceの略で、電波や光学望遠鏡を用いて地球外知的生命体からの信号を探査する科学的プロジェクト。1960年代から続く国際的な研究活動である。

星間天体
太陽系外の他の恒星系から飛来した天体。これまでに確認されたのは2017年のオウムアムア、2019年のボリソフ彗星、そして2025年の3I/ATLASの3個のみで、非常に稀な現象である。

ハッブル宇宙望遠鏡
地球軌道上で稼働するNASAの宇宙望遠鏡。大気の影響を受けないため、極めて高解像度の画像撮影が可能。3I/ATLASの正確なサイズ測定に貢献した。

【参考リンク】

NASA – 3I/ATLAS 公式情報(外部)
NASAによる3I/ATLASの公式情報と2025年10月30日近日点通過の詳細データ

ハーバード大学天文学部 – アヴィ・ローブ教授ページ(外部)
理論・計算研究所所長として宇宙論と地球外生命探査研究を主導する公式プロフィール

ATLAS プロジェクト公式サイト(外部)
4台の望遠鏡による24時間体制天体監視システムと最新発見情報を提供

SETI Institute 公式サイト(外部)
地球外知的生命探査の観点からの3I/ATLAS専門的解説と研究者ディスカッション

【参考記事】

Wikipedia – 3I/ATLAS(外部)
ハッブル宇宙望遠鏡観測による直径修正と水氷検出を含む彗星活動の詳細

NASA – As NASA Missions Study Interstellar Comet, Hubble Makes Size Estimate(外部)
2025年7月21日ハッブル宇宙望遠鏡観測による直径推定の大幅修正とコマの詳細構造

Is the Interstellar Object 3I/ATLAS Alien Technology? (arXiv)(外部)
ローブ博士による学術論文。軌道整列確率0.2%と金星・火星・木星接近確率0.005%を数学的証明

SETI Institute – Comet 3I/ATLAS: A Visitor from Beyond the Solar System(外部)
ATLAS観測網による発見過程と双曲軌道を持つ星間天体としての特性の専門的解説

Sky at Night Magazine – Hubble captures sharpest image yet of interstellar visitor 3I/ATLAS(外部)
時速210,000キロメートルの太陽系史上最速訪問者データと観測スケジュール詳細

【編集部後記】

3I/ATLASの発見と継続的な観測は、私たちが宇宙に抱く根本的な疑問「私たちは一人ぼっちなのか?」に新たな視点を与えてくれました。科学的事実として確認された異常な軌道整列と、彗星活動の詳細データが示す複雑性は、自然現象の限界を改めて考えさせられます。

読者の皆さんは、もし本当に地球外文明の探査機が太陽系を訪れているとしたら、その技術レベルをどの程度と想像されますか?また、このような発見が人類の宇宙観や科学技術の発展にどのような影響を与えると思われるでしょうか?12月の再観測で新たな証拠が見つかることを、皆さんはどのように期待されますか?

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