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油井亀美也宇宙飛行士打ち上げが示すISS終焉と商業宇宙ステーション時代の幕開け

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油井亀美也宇宙飛行士打ち上げが示すISS終焉と商業宇宙ステーション時代の幕開け - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年8月2日午前0時43分、長野県川上村出身の油井亀美也宇宙飛行士を乗せたクルードラゴン宇宙船がケネディ宇宙センターから打ち上げられた。

この打ち上げは、単なる宇宙飛行士の再飛行以上の意味を持っている。25年にわたって人類の宇宙活動の中心となってきた国際宇宙ステーション(ISS)が2030年の退役に向かう中、油井飛行士の今回のミッションは、宇宙開発が「官主導から民間主導」へと転換する歴史的な過渡期における重要な架け橋としての役割を担っているのだ。

ISSが築き上げた25年間の軌跡

人類史上最大の国際協力プロジェクト

ISSは1998年のザーリャモジュール打ち上げから始まり、15か国が参画する人類史上最大規模の国際宇宙プロジェクトとして発展してきた。総重量420トン、全長109メートルという巨大な構造体は、30を超えるモジュールと構造要素で構成され、地上から約400キロメートル上空を秒速7.66キロメートルで周回している。

この25年間で、ISS は以下のような画期的な成果を生み出した

科学的成果

  • 3,000件を超える科学実験の実施
  • 高品質タンパク質結晶生成による創薬研究の加速
  • 全天X線監視装置「MAXI」によるブラックホール新発見
  • 微小重力環境を活用した新材料開発

技術的革新

  • 長期宇宙滞在技術の確立(最長記録504日)
  • ロボティクス技術の実証と発展
  • 生命維持システムの高度化
  • 自動ドッキング技術の標準化

国際協力の模範

  • 冷戦後の米露協力の象徴的プロジェクト
  • 多国籍クルーの協働による文化融合
  • 技術標準の国際統一への貢献

日本の「きぼう」が果たした独自の役割

ISS最大の実験モジュールである「きぼう」日本実験棟は、日本の宇宙技術力を世界に示す重要なプラットフォームとなった。全長20.5メートル×幅8.9メートル×高さ8.6メートル、質量約26トンという規模で、以下の革新的機能を提供している

  • J-SSOD小型衛星放出機構:ISSで唯一の50kg級超小型衛星軌道投入能力
  • 10メートル主アーム:精密なロボット操作による船外実験支援
  • エアロック機能:真空環境への直接アクセス能力
  • 独自通信システム:筑波宇宙センターからの24時間運用体制

油井飛行士を含む日本人宇宙飛行士たちは、この「きぼう」を舞台に数々の世界初の実験を実施し、宇宙科学の発展に貢献してきた。

深刻化する老朽化問題:ISSの限界

ロシア製モジュールの危機的状況

しかし、25年の長期運用により、ISSには深刻な老朽化問題が浮上している。特にロシア製モジュールでの空気漏れが大きな懸念となっている。

ズヴェズダ(サービスモジュール)では

  • 2019年から継続する空気漏洩
  • 2024年4月に1日当たり1.68kgの空気漏洩を記録(許容値の6倍)
  • ISS諮議委員会がリスクレベル最高値「リスク5」に認定

ザーリャ(最古のモジュール)では

  • 表面亀裂の拡大が確認されている
  • 1998年打ち上げから27年経過による構造的劣化

ロシアの宇宙開発企業「エネルギア」によると、ISSのロシア部分に搭載されているシステムの少なくとも80%が使用期限を過ぎている状況だ。

交換不可能な構造的制約

これらの老朽化したモジュールを新しいものに交換することは技術的に不可能である。ズヴェズダはISS全体の姿勢制御と軌道維持を担う中核モジュールであり、ザーリャは基本構造の一部として他のモジュールを支持している。当初15年程度の運用期間を想定して設計されたこれらのモジュールは、現在の長期運用には対応しきれていない。

宇宙開発の新時代:民間主導への大転換

各国の独自宇宙ステーション競争

ISS後の宇宙インフラを巡り、世界各国で新世代宇宙ステーション開発競争が激化している。

ロシア:ROSS(Russian Orbital Service Station)

  • 2027年:最初のモジュールを極軌道付近に打ち上げ
  • 建設費用:約1兆1,000億円
  • 特徴:太陽同期軌道による地球全表面の継続観測

中国:天宮(Tiangong)宇宙ステーション

  • 2022年12月に建設完了、現在安定運用中
  • 2025年の成果:新種バクテリア「Niallia」の発見
  • 次世代計画:2030年までの有人月面着陸を目標

インド:Bharatiya Antariksh Station(BAS)

2028年:最初のモジュール打ち上げ予定
2035年:ステーション完成予定
さらなる構想:2040年までに月周回宇宙ステーション建設

商業宇宙ステーション時代の到来

最も注目すべきは、商業宇宙ステーションの台頭である。NASAのCommercial LEO Destinations(CLD)プログラムでは、総額470億円を投資して民間企業によるISS後継基地の開発を支援している。

主要プロジェクト

  • Axiom Station:世界初の完全商業宇宙ステーション
  • Orbital Reef:Blue Origin主導の「混合利用ビジネスパーク」
  • Starlab Space:三菱商事が参画する国際コンソーシアム
  • Haven-1:Vast Spaceによる2026年5月打ち上げ予定

これらの商業ステーションは、従来の科学研究だけでなく、宇宙製造業、宇宙観光業、宇宙物流業といった新たな産業の創出を目指している。

日本の戦略的対応:「きぼう」後継機プロジェクト

民間主導による独自モジュール開発

日本は民間主導のアプローチでISS後継時代に備えている。2025年7月、三井物産の子会社である日本低軌道社中が宇宙戦略基金の支援を受け、以下のプロジェクトを本格始動した

「日本モジュール」開発

  • 概要:ISS「きぼう」実験棟の後継機
  • 接続先:米国商業宇宙ステーション(CLD)への接続型
  • 目的:日本独自の宇宙実験・研究拠点の確保

「商用物資補給船」開発

  • 機能:複数の商業宇宙ステーションへの物資補給
  • 技術:異なるドッキング規格への対応能力
  • 戦略:ISS退役後の物資補給市場でのリーダーシップ確保

企業連合による多角的参画

有人宇宙システム(JAMSS)は、アジア初の民間宇宙ステーション利用パートナーとしてVast Haven-1との協力を発表。ISS「きぼう」運用で蓄積したノウハウを商業ベースで展開する。

三菱商事・三菱重工連合は、Starlab Spaceの重要パートナーとして国際コンソーシアムに参画。日本の宇宙技術とサプライチェーンを国際市場に展開している。

Tech for Human Evolution:宇宙インフラ民主化の意義

官から民への歴史的転換

油井飛行士の今回の打ち上げは、宇宙開発の民主化という歴史的転換点を象徴している。ISS時代の国家機関主導モデルから、民間企業が主体となる競争・協力モデルへの移行は、以下のような革新をもたらす:

技術革新の加速

  • 建設・運用コストの劇的削減
  • 新材料・新技術の実証加速
  • 商業宇宙活動の拡大
  • 宇宙旅行の一般化

市場創出効果

  • 数兆円規模の新市場の誕生
  • 宇宙製造業:微小重力環境を活用した高付加価値製品
  • 宇宙観光業:富裕層向けの宇宙体験サービス
  • 宇宙不動産業:軌道上施設の所有・賃貸サービス

日本の競争優位性とチャンス

日本は以下の技術的アドバンテージを持っている

  • 25年間のISS運用経験で蓄積された生命維持・実験技術
  • 高精度ロボティクス技術(「きぼう」ロボットアームなど)
  • 信頼性の高い輸送システム(H3ロケット、新型補給機)

この優位性を活かし、日本は宇宙インフラの民主化において重要な役割を果たす可能性を秘めている。

未来への展望:宇宙経済圏の本格始動

2030年代の多極化した宇宙環境

2030年代には、複数の宇宙ステーションが同時運用される新たな時代が到来する

  • ISS後継商業ステーション(米欧日加)
  • ROSS(ロシア)
  • 天宮(中国)
  • BAS(インド)

この多極化した宇宙環境は、宇宙技術の民主化と多様化を促進し、月面基地建設、火星探査、小惑星資源開発といった次世代宇宙開発の技術基盤となる。

まとめ

油井飛行士の再打ち上げは、人類の宇宙進出における新たなフェーズの始まりを告げている。ISS時代の終焉と商業宇宙ステーション時代の幕開けは、宇宙ビジネスが一部の国家機関から全世界の民間企業・個人にまで民主化される歴史的瞬間だ。

この官から民への大転換は、宇宙という新たなフロンティアでの投資機会とイノベーションの現場を体験する絶好のタイミングとなる。2030年代には、宇宙が真の経済圏として機能し、私たちの生活と密接に結びついた産業インフラとなるだろう。

油井飛行士が今回のミッションで実施する微小重力環境での実験は、この新たな宇宙経済の基盤技術となる可能性を秘めている。ISS最後の時代を飾る日本人宇宙飛行士の活動は、次世代宇宙インフラ時代における日本の技術的優位性を世界に示す重要な機会となるはずだ。

【用語解説】

国際宇宙ステーション(ISS)
地上約400キロメートル上空を周回する、15か国が参画する人類史上最大規模の国際宇宙実験施設。1998年から建設が開始され、総重量420トン、全長109メートルの巨大構造体として運用されている。

クルードラゴン(Crew Dragon)
SpaceX社が開発した有人宇宙船。最大7人の宇宙飛行士を地球低軌道に運ぶことが可能で、ISS への人員輸送を担っている。再使用可能な設計により、宇宙輸送コストの大幅削減を実現した。

ズヴェズダ(Zvezda)
ISSのロシア製サービスモジュール。生命維持システム、姿勢制御、軌道維持を担うISS全体の「心臓部」として機能している。2000年に打ち上げられ、現在深刻な空気漏れ問題が発生している。

ザーリャ(Zarya)
1998年に打ち上げられたISS最初のモジュールで、ロシア製の機能貨物ブロック(FGB)。当初は電力・推進・姿勢制御機能を担っていたが、現在は主要貨物倉庫として使用されている。

ROSS(Russian Orbital Service Station)
ロシアが独自に開発を進める次世代宇宙ステーション。2027年に最初のモジュールを極軌道付近に打ち上げ予定で、ISS撤退後のロシアの宇宙拠点となる。

天宮(Tiangong)
中国が独自開発した宇宙ステーション。2022年12月に建設が完了し、現在安定運用中。総質量100,000kg、居住空間110㎥の規模で運用されている。

CLD(Commercial LEO Destinations)プログラム
NASAが総額470億円を投資して実施する、民間企業によるISS後継基地開発支援プログラム。商業宇宙ステーション時代への移行を目的としている。

BAS(Bharatiya Antariksh Station)
インドが計画している地球周回宇宙ステーション。2028年に最初のモジュール打ち上げ、2035年に完成予定。さらに2040年までに月周回宇宙ステーション建設も構想している。

宇宙戦略基金
日本政府が宇宙産業の国際競争力強化を目的として設立した官民ファンド。民間企業の革新的な宇宙技術開発を支援し、宇宙分野での日本の存在感向上を図っている

【参考リンク】

Blue Origin(外部)
ジェフ・ベゾス創設の宇宙企業。Orbital Reef商業宇宙ステーションの開発を主導し、再使用可能ロケット技術の革新者として宇宙アクセスコストの削減を目指している。

Axiom Space(外部)
世界初の完全商業宇宙ステーション「Axiom Station」を開発中。現在はISSへの商業有人宇宙飛行サービスを提供し、2020年代後半の独立運用開始を予定している。

三菱商事(外部)
日本の五大商社の一つで、Starlab Space連合に参画。宇宙ビジネス分野での新たな投資機会を開拓し、日本の宇宙産業の国際競争力向上に貢献している。

Vast Space(外部)
2026年5月にHaven-1を打ち上げ予定の新興宇宙企業。将来的には人工重力を持つ宇宙ステーションの開発を目指し、宇宙居住技術の革新に取り組んでいる。

Starlab Space(外部)
Voyager、Airbus、三菱商事、MDA Spaceの国際合弁企業。次世代宇宙ステーションの開発を通じて、ISS後の継続的な人類の宇宙滞在を実現する。

【参考記事】

国際宇宙ステーションで空気漏れ 現時点で「危険はない」(外部)
2020年に発生したISS空気漏れ問題について報じた記事。ロシア製ズヴェズダモジュールでの空気漏れの発見経緯と、乗組員による調査活動の詳細を解説している。

国際宇宙ステーション、「修復不能な」故障の恐れ ロシア関係者が警告(外部)
ロシアの宇宙開発企業「エネルギア」のチーフ・エンジニアによるISS老朽化警告を報じた記事。ISSロシア部分のシステム80%が使用期限超過という深刻な状況を詳細に報告している。

三井物産の子会社、日本低軌道社中が「きぼう」後継機と補給船の開発に着手(外部)
2024年7月に設立された日本低軌道社中の事業内容と戦略について詳述。ISS退役後の日本の宇宙活動継続に向けた民間主導アプローチの具体的取り組みを説明している。

ISSで空気漏れ、ロシアのモジュール(外部)
2020年のISS空気漏れ問題についてロスコスモスの公式発表を報じた記事。ズヴェズダモジュールでの空気漏洩確認と、宇宙飛行士の安全性に関する詳細情報を提供している。

【編集部後記】

2025年8月2日午前0時43分、油井亀美也宇宙飛行士を乗せたクルードラゴン宇宙船の打ち上げ成功を見守りながら、私たちinnovaTopiaはこの瞬間が持つ深い意味を噛みしめていた。

単なる再打ち上げではない、宇宙開発史における重大な転換点――取材を進める中で、この認識はより確信に変わった。

ISS建設開始から27年、日本人宇宙飛行士の活動開始から35年を経て、宇宙開発は「官主導から民間主導」という根本的パラダイムシフトを迎えている。ズヴェズダモジュールの深刻な空気漏れ問題や老朽化により、人類の宇宙活動拠点が物理的な限界を迎えつつある現実を目の当たりにし、技術の継承と革新の重要性を改めて実感した。

特に印象深かったのは、日本が「きぼう」で培った25年間の技術的資産を、いかに次世代宇宙インフラ時代に活かすかという戦略的課題である。三井物産の子会社・日本低軌道社中による民間主導アプローチや、三菱商事のStarlab Space参画は、まさにTech for Human Evolutionの具現化と言えるだろう。

2030年代には、複数の商業宇宙ステーションが軌道上で並行稼働する多極化時代が到来する。この変化は、政府機関が独占していた宇宙への扉が、ついに民間企業、そして将来的には個人にまで開かれることを意味している。

油井飛行士の今回のミッションは、ISS最後の時代を飾る日本人宇宙飛行士の活動として、次世代宇宙経済圏における日本の技術的優位性を世界に示す重要な機会となるはずだ。

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8月15日【今日は何の日?】Wow!シグナル記念日──AIによる宇宙探査と「発見の利権」を考察。

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 - innovaTopia - (イノベトピア)

1977年8月15日。天文学者ジェリー・エーマンは、記録紙の余白に赤いペンでWow!と書きなぐりました。それは、人類が宇宙からの謎めいた囁きを垣間見た、歴史的な瞬間でした。

そして現代、AIという新たな”知性”は、天文学的なデータの中から「第二のWow!」を発見する能力を我々に与えました。しかし、その発見の瞬間は、人類史の輝かしい新章の幕開けであると同時に、我々の文明が試される「究極の選択」の始まりでもあります。

発見は我々を一つにするのでしょうか、それとも新たな「大航海時代」の引き金となるのでしょうか。本稿では、AIによる探査の最前線から、発見されたメッセージが内包する意味、その後の社会・経済への激震、そして人類に突きつけられる理想と現実までを、詳細に論じます。

AIが拓く探査の新時代

かつてのSETI(地球外知的生命体探査)は、人間の目と幸運に頼る、大海で一本の針を探すような試みでした。しかし、AIの登場がすべてを変えました。

特に大きな壁だったのが、地球自身が発する電波ノイズ(RFI)です。AIは、この無数のノイズの波形を「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」などの技術で学習し、あたかも熟練の警備員が群衆から不審者を見つけ出すかのように、ノイズだけを的確に除去します。

さらに、AIは我々が想定するパターンに合わない「真の異常(アノマリー)」を検出します。これは単なるパターンマッチングではありません。AIは「正常な宇宙とは何か」を自ら学習し、そこから逸脱する未知の現象を捉えるのです。これにより、Breakthrough Listenのようなプロジェクトは、人間では見逃していたであろう無数の候補信号を特定し始めています。

もはや、発見は「いつか」ではなく「いかにして」の段階に入りました。そして、AIのログファイルにその一行が記録された時、物語は次の章へと移ります。

メッセージの「内容」という新たな変数

AIが信号の存在を特定したとして、次に人類が直面するのは「そこには何が書かれているのか?」という、さらに深遠な問いです。信号の「内容」は、我々の未来を全く異なる方向へと導く可能性を秘めています。

宇宙のロゼッタストーンか?

もし信号が、数学や物理学の定数といった普遍的な言語で書かれた「教科書」だったらどうでしょう。それは、かつて人類がパイオニア探査機に載せた銘板や、ボイジャーのゴールデンレコードに込めた想いへの、宇宙からの返信かもしれません。AIを用いた暗号解読チームが組織され、人類の知性が総力を挙げて、未知の科学技術や哲学の解読に挑むことになります。

コズミック・マルウェアの脅威

一方で、その信号は、我々の文明を狙った「トロイの木馬」かもしれません。信号をコンピュータで処理・解読しようとした瞬間に、悪意あるコードが作動し、地球上の金融システムや電力網を破壊する。そんな地球外からのサイバー攻撃という、究極のセキュリティリスクも専門家から指摘されています。解読の試み自体が、引き返せない罠である可能性です。

理解不能の壁

最も厄介なのは、信号が科学でも脅威でもなく、我々の知性では全く理解できない「何か」だった場合です。それは異星の芸術かもしれませんし、我々の論理体系とは根本的に異なる哲学かもしれません。人類はここで初めて、自らの知性の限界と、宇宙における自らの存在の小ささを痛感することになるでしょう。

経済と社会の激震

メッセージの内容がどうであれ、その「発見」という事実だけで、私たちの社会と経済は根底から揺さぶられます。

市場のパニックと熱狂

「発見」の第一報が流れれば、金融市場は即座に反応します。宇宙開発ベンチャーや素材科学企業の株価は天井知らずに高騰する一方、既存のエネルギー産業や、一部の伝統的権威に依存する企業の価値は暴落するでしょう。世界経済は、未曾有の「ETショック」に見舞われます。

産業構造の創造的破壊

もしメッセージの解読により、クリーンで無限のエネルギー技術や、常温超伝導の秘密がもたらされたらどうなるでしょうか。石油や天然ガスに依存した国家経済は崩壊し、エネルギー産業全体が再編を迫られます。全産業の基盤が覆る「創造的破壊」が、世界中で同時に発生するのです。

人類の価値観の変容

「我々は独りではなかった」という事実が常識となれば、人々の価値観は大きく変わります。国家や民族といった境界線の意味は薄れ、「地球人類」としての一体感が生まれるかもしれません。一方で、既存の宗教や哲学は、その教義の根本的な見直しを迫られることになり、社会的な混乱も予想されます。

究極の選択 – 「共有」か「独占」か

これほどのインパクトを持つ発見を前にして、「それを誰が管理するのか」という地政学的な問題が、人類にのしかかります。その瞬間、人類は二つの道が交わる分岐点に立ちます。

【Aルート:理想】「全人類の資産」としての公開

理想の道は、「宇宙条約」の精神に則り、発見を全人類の資産として共有する世界です。パブリックブロックチェーンを用いて発見の全プロセスを公開し、透明性と公平性を担保することで、究極の「科学の民主化」が実現します。

【Bルート:現実】「国家の利権」としての独占

しかし、絶大な利益を前に、ある国がそれを独占しようと考えるのは自然なことです。プライベートブロックチェーンとパブリックブロックチェーンへのハッシュ値記録を組み合わせることで、発見の事実を後から証明しつつ、水面下で情報を独占する「デジタル帝国主義」が始まる可能性があります。

テクノロジーは「鏡」です

AIが信号を見つけ、その内容が人類の運命を揺さぶり、ブロックチェーンがその後の秩序を左右します。しかし、注目すべきは、これらの技術が、設計次第で正反対の未来をどちらも実現できてしまうという事実です。

テクノロジーは、それ自体に意思を持ちません。使う人間の意図を増幅する「鏡」なのです。

地球外知的生命体の探査は、結局のところ我々自身を見つめる行為に他なりません。それは、宇宙における我々の孤独を問うだけでなく、我々が他者と、そして未知と出会った時に、どのような選択をする種族なのかを厳しく問い質します。

その答えは、まだ誰も知りません。


【Information】

SETI研究所 (The SETI Institute)
地球外知的生命の起源や存在を探求する、世界を代表する非営利研究機関です。電波天文学だけでなく、生命が宇宙で発生するための条件を探る宇宙生物学など、多角的なアプローチで研究を行っています。

Breakthrough Listen (ブレークスルー・リッスン)
観測史上最大規模の地球外知的生命体探査プロジェクトです。世界各地の高性能な電波望遠鏡と最新のAI技術を駆使し、最も包括的な探査を行っており、観測データは研究者のために公開されています。

国連宇宙局 (UNOOSA – United Nations Office for Outer Space Affairs)
宇宙空間の平和的利用の促進と、宇宙活動に関する国際協力のハブとなる国連の機関です。記事中で触れた「宇宙条約」の管理など、宇宙に関する国際的なルール作りにおいて中心的な役割を担っています。

METI International (メティ・インターナショナル)
SETIが「聞く」ことを主眼とするのに対し、METIは「(地球から)意図的なメッセージを送る」ことを研究・議論する機関です。メッセージを送ることの是非や、その内容について科学的・倫理的な観点から探求しています。

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【SuperKEKB】KEKフォトウォークに参加してきました。:電子-陽電子衝突加速器【現地訪問】

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こんにちは。サイエンスライターの野村です。今回は6/22に開催された「KEKフォトウォークに参加してきましたので、その時の探訪記です。

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つくば駅前からの風景。画面中央付近にロケットが見えるかと思いますが、このあたりに図書館やプラネタリウムがあり、文化施設が密集しています。

KEKフォトウォークとは?

KEKフォトウォークは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)が主催する撮影イベントです。KEKは茨城県つくば市にある素粒子物理学や加速器科学の研究機関で、このフォトウォークは一般の方々にKEKの研究活動や施設について興味を持ってもらうことを目的としています。
https://www2.kek.jp/outreach/kekpw
加速器の美しい曲線、実験装置の精密な構造、研究者の活動風景など、科学の現場ならではの魅力的な被写体が多くあります。

今回は特別?

KEK フォトウォークは、世界15の研究所が参加する「グローバル・フィジックス・フォトウォーク」の一環です。これは米国立フェルミ加速器研究所、欧州合同原子核研究機関(CERN)、ドイツ電子シンクロトロン研究所、カナダTRIUMF研究所、そしてKEKなどの世界的な研究機関が同時開催する特別な企画です。

この国際コンテストでは、KEK を含む参加機関・研究所から3作品が推薦され、世界の素粒子物理の広報担当者のウェブサイト上でフォトコンテストにノミネートされ、全世界からの一般投票によって「グランプリ」を決定します。

10年ぶりの開催
2020年の「グローバル・フォトウォーク」はコロナウイルスの流行によって中止されたため、今回のコンテストは実に10年ぶりです。応募者多数の中、当選しましたので現地へ赴く運びになりました。

ところで何を見に行ったの?

SuperKEKBとは?
SuperKEKBは、KEK(高エネルギー加速器研究機構)にある世界最高性能の電子・陽電子衝突型加速器です。

基本的な仕組み
SuperKEKBは、電子と陽電子(電子の反粒子)をほぼ光速まで加速し衝突させる装置です。地下に建設された周囲約3kmのリング状のトンネル内で、電子は7GeV、陽電子は4GeVのエネルギーまで加速された状態でリング状のトンネル内を逆方向に周回し、Belle II測定器と呼ばれる検出器内で衝突します。

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トンネル入り口にあったSuperKEKBの概略図

私が今回写真撮影に向かったのはSuperKEKBのトンネル内です。(電子と陽電子のビームを収束させるための四極電磁石と六極電磁石の他にビームの「進路」を調整するための偏向電磁石がある場所です。)

参考動画のリング部分の下あたりを歩いていました。

SuperKEKBを使ってなにがわかるの?
1. 物質と反物質の謎を解く研究
この宇宙がなぜ物質でできているのか疑問に思ったことはありませんか?実は、宇宙が誕生した時には物質と反物質が同じ量作られたはずなのですが、現在の宇宙は物質ばかりでできています。SuperKEKBプロジェクトでは、物質と反物質の性質にわずかな違いがあることを詳しく調べて、この宇宙の大きな謎を解明しようとしています。ニュートリノ振動実験の記事も併せて読んでね!

2. まだ見つかっていない新しい粒子を探す研究
現在の物理学では説明できない現象がまだたくさんあります。例えば、宇宙の質量のかなりの部分を占めるとされる「暗黒物質」の正体などです。SuperKEKBプロジェクトでは、これまで発見されていない新しい種類の粒子を見つけることで、宇宙のより深い仕組みを理解しようとしています。

3. 素粒子の基本的な性質を調べる研究
物質を構成する最も小さな粒子である素粒子には、いくつかの種類があります。Belle Ⅱ 測定器では、これらの粒子がどのように変化し、どのような法則に従って振る舞うのかを精密に測定しています。

これらの研究を通じて、私たちが住む宇宙の成り立ちや、物質の根本的な性質について新しい発見をすることが、SuperKEKBプロジェクトの大きな目標です。

ここがすごいよ!SuperKEKBー日本は加速器先進国?

1. 世界記録の衝突性能を達成
SuperKEKBは2024年12月27日にルミノシティ(衝突性能)5.1×10^34 cm^-2 s^-1を達成し、世界最高記録を更新し続けています。このルミノシティはすべての種類の衝突加速器の中で、世界最高の記録で、欧州のCERNや米国フェルミ研究所の記録を上回る快挙です。

ルミノシティって?
単に言えば、「1秒間にどれだけ多くの粒子同士を衝突させることができるか」を表す数値なのです。この値の大きさは非常に重要です。粒子と粒子の衝突によって新しい粒子が生まれたりするわけですから、言ってしまえば「一回の実験でどれだけ精度の良い実験ができるか、どれだけレアなイベントを得られるか」がルミノシティにかかっています。

日本は世界最強の加速器を持っているのです。実は。

KEK到着

今回は少し早めに現地に到着したので、少しだけ常設展示室の中を探索していました。フォトウォークの受付を済ませると、建物内にある、コミュニケーションプラザで素粒子についてのいろいろな展示を見てきました。

KEKコミュニケーションプラザとは?
KEKコミュニケーションプラザでは、加速器が動く仕組みや素粒子について学んだり、宇宙から降り注いでいる宇宙線を観察したり、タンパク質の立体構造を目で見たり、身近なものに含まれている放射線を自分で測ってみたりすることができます。

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フォトウォーク受付!

素粒子のフィルム写真

これは昔素粒子の検出に使われていた。「泡箱」と呼ばれる装置のレンズです。
泡箱(バブルチャンバー)は、素粒子物理学の実験で粒子の軌跡を視覚化するために使われた検出器です。

動作原理
泡箱は液体水素で満たされた容器です。(その他の物質で満たされた泡箱も存在します。)荷電粒子が液体中を通過すると、その経路に沿って気泡が形成されます。これは、粒子が液体分子とエネルギーを交換し、局所的な沸騰を引き起こすためです。形成された気泡の軌跡を写真撮影することで、粒子の経路、運動量、電荷などの物理量を測定できました。

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実際に当時に撮影されたフィルムも横に置いてありました。フィルムをのぞき込んでみると素粒子の軌跡が克明に映し出されています。現在では、このような検出手法は使われなくなりました。しかし、このような比較的単純な手法であっても、人の目では見ることができない微小な粒子の姿を捉えることができたのです。

これが何十年も前の技術だったということを考えると、本当に驚くべきことです。

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素粒子の軌跡のフィルム

KEKは大先輩?
実は日本初の公開ウェブページを作ったのはKEKらしいです。言ってしまえばinnovaTopiaの大先輩ですね。

ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を発明したのはCERNのティム・バーナーズ=リーであることは有名ですが、日本におけるウェブの歴史を語る際、KEK(高エネルギー加速器研究機構、当時は高エネルギー物理学研究所)の果たした役割は決して見過ごすことはできません。CERNもKEKも素粒子物理学の研究機関で、科学者たちの間で大規模な実験のための情報共有が必要不可欠だったという背景があることも少し面白いですね。

1992年9月30日、KEKの森田洋平氏によって「KEK Information」と題された日本初のウェブページが公開されました。この歴史的な出来事の背景には、国際的な科学者コミュニティのネットワークがありました。

興味深いのは、この日本初のウェブサイト誕生の経緯です。森田氏は1992年9月にフランスで開催された国際会議に出席した後、CERNに立ち寄り、そこでバーナーズ=リー博士と直接会話する機会を得ました。CERNのカフェテリアでの昼食中、バーナーズ=リー博士から「情報はネットワーク上でみんなと共有して、はじめて価値が生まれる。WWWはハイパーテキストのリンクで世界中の情報をお互いに結びつけることを可能にする。KEKもぜひWWWサーバーを立ちあげて欲しい」と直接依頼されたのです。

この要請を受けて、森田氏は急遽CERNの端末を借りてKEKのサーバーにログインし、単一のページとしてHTML形式のウェブページを作成しました。この「KEK Information」は茨城県つくば市にある文部省高エネルギー物理学研究所計算科学センターのサーバー上に設置され、日本のインターネット史に重要な一歩を刻みました。

KEKがウェブの先駆者となったのは偶然ではありません。素粒子物理学の研究においては、世界中の研究機関との情報共有が不可欠であり、CERNで生まれたWWWという技術の価値を即座に理解し、実践に移す土壌がKEKにはあったのです。

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先輩じゃないっすか!?ウイッスウイッス…

当日はコミュニケーションプラザ内で、SuperKEKBの装置概要や、どのようなことを目指して電子と陽電子をぶつけているのかについて動画を用いた説明を受けてから施設内を見学しました。

トンネル内での写真撮影

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偏向電磁石。

電子も陽電子も電荷を帯びた粒子であるため、磁場のある空間ではローレンツ力を受けて軌道が曲がります。上の写真は偏向電磁石です。このローレンツ力を利用して陽電子と電子の軌道を調整しているらしいです。

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四極電磁石

この電磁石はさっきとは異なり4つのコイルがあります。この構造によって広がってしまう電子と陽電子の軌道を収束させています。

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六極電磁石

四極電磁石のほかに六極電磁石を用いて、レンズ系でいうところの「色収差」のようなものが電子ビームに生じてしまうことを防いでいるらしいです。

自分の身長程度もある大きな電磁石と、ここまで長い距離真空が保たれている装置を見たことがなかったので、正直歩いている間は現実の世界で起こっていることだと実感できませんでした。巨大実験は装置を見ているだけで少し幸せな気持ちになれます。

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ARESキャビティ

ARESキャビティについて手短に説明いたします。

ARESキャビティとは常伝導加速空洞のことで、ARESはAccelerator Resonantly coupled with Energy Storageの略です。

これはSuperKEKB加速器システムにおいて使用されている加速空洞の一種で、常伝導(超伝導ではない)技術を用いた粒子加速装置です。電子や陽電子ビームにエネルギーを与える役割を果たします。

SuperKEKBでは超伝導加速空洞と併用される形で、このARES空洞が加速器システムの一部として組み込まれており、全体として世界最高レベルの衝突性能を実現するための重要な構成要素となっています。

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電子と陽電子の通り道

画面中央よりやや上に見える銅色のパイプが電子の通り道、下に見える銀色のパイプが陽電子の通り道です。陽電子がうまく通れるようにKEKは独自の工夫をしているそうです。

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トリスタン実験で活躍した装置たち

出口付近にはTRISTAN実験で活躍していた装置たちが並んでいました。

TRISTAN実験は、1986年に完成したリング状衝突加速器TRISTAN(Transposable Ring Intersecting Storage Accelerator in Nippon)を用いた実験で、文部省高エネルギー物理学研究所が5年の期間をかけて開発しました。

トリスタン計画は1980年代初頭から90年代中頃まで実施されたプロジェクトで、当時の世界最高エネルギーにおける電子陽電子反応の研究が実施されました。加速器としては電子と陽電子それぞれ300億電子ボルト(30GeV)の電子陽電子衝突型加速器で、約3kmの周長上の4か所に於いて電子ビームと陽電子ビームの衝突がなされました。

実験機器萌えの話

科学の世界には、日常生活ではなかなか目にすることのない独特な実験機器が数多く存在します。巨大な加速器や精密な分析装置、無骨ながらも美しいガラス器具など、その姿や機能には独特の魅力が詰まっています。

こうした実験機材に心惹かれる「科学系の実験機材萌え」という感覚を持つ人たちが、実は一定数存在します。彼ら・彼女らは、機材の機能美や構造の複雑さ、あるいは未知の現象を解き明かすための“道具”としての力強さに惹かれ、時には写真集や模型、イラストなどでその魅力を楽しんでいます。

科学機器は、一般の人にとっては遠い存在かもしれません。しかし、その無機質なフォルムや精巧な設計、そして「人類の知を切り拓くための最前線」という背景を知れば知るほど、そこにロマンを感じずにはいられません。
科学の発展を支える“縁の下の力持ち”である実験機材たち。そんな彼らに密かに心を寄せるファンがいることも、科学の世界の面白さのひとつと言えるでしょう。

実際にフラスコやその他の実験器具や電気素子のアクセサリーや日用品が販売されたりしています。

https://shop.systemgear.com/view/item/000000000925
(これは電子基板をモチーフにしたキーホルダーです。)

https://rikashitsu.jp/online-shop/products/list228.html
(フラスコの形をしたワイングラスです。ほかにも理科室のような内装をコンセプトにしたバーがあったり案外「科学器具に萌える」ひとは多いのかもですね。)

【編集部後記】

2025年に9/23にKEKの一般公開があります。是非皆様も巨大科学の膨大な時間と年月をかけた人類の実験科学の最先端を体験してください!(仕事の予定が合えば僕も行きたいな…)詳細は下記URLより

https://www2.kek.jp/openhouse/2025(KEK一般公開)

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スペーステクノロジーニュース

3I/ATLAS「エイリアン探査機説」をハーバード大学物理学者が提唱、確率0.005%の異常軌道に注目

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3I/ATLAS「エイリアン探査機説」をハーバード大学物理学者が提唱、確率0.005%の異常軌道に注目 - innovaTopia - (イノベトピア)

ハーバード大学の物理学者アヴィ・ローブ博士が、2025年7月1日にチリのATLAS望遠鏡で発見された星間天体3I/ATLASについて、エイリアンの探査機である可能性を示唆した。

この天体は直径0.32〜5.6キロメートル(最有力1km未満)で、典型的な彗星とは異なり前方に光を発している。火星、金星、木星の軌道と整列する軌道を持ち、ランダムに太陽系に入る天体がこのように整列する確率は0.005%である。ローブ博士はフォックスニュース・デジタルに対し「軌道が設計されたものかもしれない」「偵察任務の目的を持っていた可能性がある」と述べた。

地球外知的生命探査(SETI)の観点から、高度な文明が探査機を配備する可能性があるとし「もしそれが技術的なものであることが判明すれば、人類の未来に大きな影響を与える」と説明している。

From:文献リンクCould an Alien Probe Be Passing Through Our Solar System? Harvard Expert Weighs I

【編集部解説】

innovaTopiaの読者の皆さまにとって、この3I/ATLASという星間天体の話題は、単なる天文学上の発見を超えた深刻な意味を持っています。ローブ博士の主張は科学界で議論を呼んでいますが、最新の観測結果と合わせて検証すると、興味深い事実が浮かび上がってきます。

まず注目すべきは、3I/ATLASの軌道特性の異常性です。ランダムに太陽系に侵入する天体が惑星軌道と5度以内で整列する確率は0.2%、さらに金星、火星、木星に接近する確率は0.005%という極めて低い数値が示すのは、統計学的に考えると確かに「設計された可能性」を排除できない現実です。

技術的観点から見ると、3I/ATLASは従来の彗星とは決定的に異なる特徴を示しています。当初20キロメートルとされていた直径は、ハッブル宇宙望遠鏡の詳細観測により大幅に下方修正され、現在は0.32〜5.6キロメートル、最も可能性が高いのは1キロメートル未満とされています。この小さなサイズでありながら顕著な活動性を示すという新たな謎を生み出しています。

重要な修正点として、当初「彗星活動の兆候がない」とされていましたが、現在は明確な彗星活動が確認されています。ジェミニ南天文台とNASA赤外線望遠鏡施設による2025年7月5日と14日の近赤外分光観測で氷の検出に成功し、スイフト天文台による7月30日と8月1日の紫外線観測では水蒸気と水酸基イオンが検出されました。これらの観測により、3I/ATLASは確実に活発な彗星であることが証明されています。

SETI(地球外知的生命探索)の文脈では、このような探査機仮説は決して非科学的ではありません。高度な文明が他の星系を調査するために探査機を派遣するという概念は、人類自身がボイジャーやパイオニア探査機で実践している手法です。特に3I/ATLASの軌道が複数の惑星を効率的に観測できる設計になっている点は、偵察任務の観点から合理的な経路設計と考えることも可能です。

興味深いことに、3I/ATLASは太陽系最速の訪問者として記録されており、時速210,000キロメートルという驚異的な速度で移動しています。この速度は、天体が数十億年間にわたって星間空間を移動し、星や星雲の重力によって加速されてきたことを示唆しています。

現在、3I/ATLASは9月まで地上望遠鏡で観測可能ですが、その後太陽に近づきすぎるため地球からは見えなくなります。12月初旬に太陽の反対側で再び観測可能になる予定です。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による8月と12月の観測が計画されており、近日点通過前後での化学組成の変化を詳細に調査する予定です。

一方で、科学界の多数派は自然起源説を支持しており、専門家の中にはローブ博士の仮説を批判する声もあります。しかし、過去にも’Oumuamua(オウムアムア)の異常な加速現象など、従来理論では説明困難な星間天体の挙動が観測されており、新しい物理現象や技術的可能性を排除すべきではありません。

この事案が示すのは、科学的探求における開放性の重要性です。異常なデータに対して既存の枠組みで説明を試みる姿勢と同時に、従来の常識を超えた可能性も検討する柔軟性が、真の科学的進歩をもたらすのです。

【用語解説】

アヴィ・ローブ博士
ハーバード大学の理論物理学者で、地球外生命探査分野の第一人者。宇宙論と天体物理学を専門とし、2017年の星間天体オウムアムアについても地球外技術である可能性を提唱して議論を呼んだ。現在はハーバード・スミソニアン天体物理学センター内の理論・計算研究所の所長を務める。

3I/ATLAS
2025年7月1日に発見された3番目の星間天体(Interstellar objectの「I」)。正式名称はC/2025 N1 (ATLAS)。太陽系外から飛来し、直径は0.32〜5.6キロメートル、最も可能性が高いのは1キロメートル未満とされる。

ATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)
地球に接近する小惑星の早期発見を目的とした自動観測システム。ハワイ大学が開発し、現在4台の望遠鏡がハワイ、南アフリカ、チリで稼働している。直径50センチメートルの望遠鏡で7.4度という広い視野を持つ。

SETI(地球外知的生命探査)
Search for Extraterrestrial Intelligenceの略で、電波や光学望遠鏡を用いて地球外知的生命体からの信号を探査する科学的プロジェクト。1960年代から続く国際的な研究活動である。

星間天体
太陽系外の他の恒星系から飛来した天体。これまでに確認されたのは2017年のオウムアムア、2019年のボリソフ彗星、そして2025年の3I/ATLASの3個のみで、非常に稀な現象である。

ハッブル宇宙望遠鏡
地球軌道上で稼働するNASAの宇宙望遠鏡。大気の影響を受けないため、極めて高解像度の画像撮影が可能。3I/ATLASの正確なサイズ測定に貢献した。

【参考リンク】

NASA – 3I/ATLAS 公式情報(外部)
NASAによる3I/ATLASの公式情報と2025年10月30日近日点通過の詳細データ

ハーバード大学天文学部 – アヴィ・ローブ教授ページ(外部)
理論・計算研究所所長として宇宙論と地球外生命探査研究を主導する公式プロフィール

ATLAS プロジェクト公式サイト(外部)
4台の望遠鏡による24時間体制天体監視システムと最新発見情報を提供

SETI Institute 公式サイト(外部)
地球外知的生命探査の観点からの3I/ATLAS専門的解説と研究者ディスカッション

【参考記事】

Wikipedia – 3I/ATLAS(外部)
ハッブル宇宙望遠鏡観測による直径修正と水氷検出を含む彗星活動の詳細

NASA – As NASA Missions Study Interstellar Comet, Hubble Makes Size Estimate(外部)
2025年7月21日ハッブル宇宙望遠鏡観測による直径推定の大幅修正とコマの詳細構造

Is the Interstellar Object 3I/ATLAS Alien Technology? (arXiv)(外部)
ローブ博士による学術論文。軌道整列確率0.2%と金星・火星・木星接近確率0.005%を数学的証明

SETI Institute – Comet 3I/ATLAS: A Visitor from Beyond the Solar System(外部)
ATLAS観測網による発見過程と双曲軌道を持つ星間天体としての特性の専門的解説

Sky at Night Magazine – Hubble captures sharpest image yet of interstellar visitor 3I/ATLAS(外部)
時速210,000キロメートルの太陽系史上最速訪問者データと観測スケジュール詳細

【編集部後記】

3I/ATLASの発見と継続的な観測は、私たちが宇宙に抱く根本的な疑問「私たちは一人ぼっちなのか?」に新たな視点を与えてくれました。科学的事実として確認された異常な軌道整列と、彗星活動の詳細データが示す複雑性は、自然現象の限界を改めて考えさせられます。

読者の皆さんは、もし本当に地球外文明の探査機が太陽系を訪れているとしたら、その技術レベルをどの程度と想像されますか?また、このような発見が人類の宇宙観や科学技術の発展にどのような影響を与えると思われるでしょうか?12月の再観測で新たな証拠が見つかることを、皆さんはどのように期待されますか?

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