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5月27日【今日は何の日?】ドラゴンクエストの日-ゲームが築いてきた技術の歴史と社会への影響を振り返る
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りょうとく
奇跡の出会いは伝説へ
『ドラゴンクエスト』シリーズのキャラクターデザインを手掛ける鳥山明氏は、2016年12月29日、NHKで放送された本作の30周年記念特別番組『ドラゴンクエスト30th そして新たな伝説へ』でこのようなメッセージを残しました。
ほんの軽い気持ちで、キャラクターデザインを引き受けたドラゴンクエスト。「ロールプレイングゲームってなに?」そんな時代でした。
まさか、その後30年以上も続くなんて思ってもみませんでした。正直、そんなに続くならお断りしていました。”(鳥山明)
ゲームデザイナー・堀井雄二氏は、当時『週刊少年ジャンプ』のライターとしても活躍しており、同作の開発にあたってキャラクターデザイナーを探していたところ、集英社の編集者であり鳥山明氏の担当であった鳥嶋和彦氏から紹介されたことがきっかけでした。
作曲を手掛けるすぎやまこういち氏も複数のメディアで、エニックス(現・スクウェア・エニックス)が発売していた将棋ゲームのアンケートハガキを書くだけ書いて自宅に放置していたら、妻が気を利かせて投函した縁で開発に携わることになったと語っています。
「黄金トリオ」と呼ばれ、日本のゲーム業界を席巻し続けてきた3人の出会いのきっかけはほんの些細な偶然で、誰もここまで巨大なコンテンツになるとは予想もしておらず、まさに神が引き合わせたといっても過言ではないでしょう。
目次
ゲームとしての『ドラクエ』の進化
1986年5月27日 初代『ドラゴンクエスト』(FC)発売

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日本における家庭用ゲーム機向けのRPGゲームの祖となった本作の容量は約64KB。スマートフォンで撮影した写真1枚(約2MB)の1/30以下の容量に、システムも、グラフィックも、音楽も、すべてが詰まっています。
容量を節約するため、堀井雄二氏はカタカナの量を20文字まで削減し、呪文や町の名前なども極力同じカタカナを繰り返し使えるようにデザインしました。また、作中のすべてのキャラクターのセリフも堀井雄二氏自らが一字一句設定しています。
グラフィックに関しても、主人公は常に画面の手前側を向いており、NPCに話しかけるときには毎回方向を指定しなければならないなどの不便も抱えていました。
後にガラケーアプリ向けにリメイクされる際にも、容量の問題を抱えており、SFC版をベースとしながら、各所で調整を行っていました。この配信をきっかけに、モバイル業界にも「ドラクエが動く容量の端末を開発する」という流れを生んだそうです。
当時のRPGと言えば、海外メーカーがパソコン向けに開発したものが主流で、システムなども比較的複雑なものでした。それらの作品に触発された堀井雄二氏が、「日本人にも親しんでもらえるRPGを作りたい」と思ったのがすべての始まりです。
国内累計販売本数は約150万本であり、初作でありながら大ヒットを記録しています。
2018年に、この初代の発売を記念して、一般社団法人・日本記念日協会によって正式に「ドラゴンクエストの日(ドラクエの日)」として登録されました。
1987年1月26日 『ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々』(FC)発売

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容量は前作の倍の約128KBに増加し、最大3人のパーティ、複数の敵の出現による戦闘の戦略性向上、約6倍の広さのフィールドマップ、船などの新たな移動手段、使用楽曲数の増加などが可能になりました。
国内累計販売本有数は約240万を超え、すでに社会現象を起こしていましたが、発売直前の時期には、人気の無い売れ残りのソフトが大量に余ることで小売店や問屋が圧迫される事態が相次いでおり、発売直後は約40万本ほどしか発注されなかったために、即完売が続出してしまい、余計な混乱を招いてしまいました。
そして本作は開発期間に余裕がなく、全体を通したデバッグが行われておらず、物語のある地点を境に急激に想定レベルが跳ね上がるという事態が発生しました。
それに加えて謎解きやギミックの難易度も高く、多くのプレイヤーが苦しめられたことでしょう。特に「ロンダルキアへの洞窟」は全シリーズを通しても屈指の難易度を誇るダンジョンとして知られています。
1988年2月10日 『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』(FC)発売

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容量はさらに倍の約256KBになり、さらに広くなる世界、「職業」という新たなシステムの導入、昼夜の概念の追加、そしてFC用ソフトとして初の「バッテリーバックアップ」機能が搭載され、「ふっかつのじゅもん」として進行状況を外部(プレイヤー)に記憶させることなく、カセット自体にセーブデータを3つまで保存できるようになりました。
当時はまだ不安定な技術だったためデータ消失が頻発しましたが、以降当たり前となった技術が生まれた瞬間です。特にストーリーを読み進めることを楽しむRPGにとって、セーブデータを保存しておけるという技術がもたらした革新は計り知れないものです。
しかし、ギリギリで容量が足りず、オープニングにロゴを入れることができなかったためにシンプルなタイトルのみの表示となってしまいました。
そして、国内累計出荷本数は約380万本とFC・SFCのソフトの中で3位となった本作は大きな社会現象を巻き起こしました。初代と『Ⅱ』の大ヒットを受けてドラクエブームはさらに過熱し、平日の発売であったにもかかわらず、発売日の前日や早朝から販売店の周りに人だかりができ、学校や会社を休んでまで買いに来た人が続出しました。
特に東京都内の混乱が大きく、一番人が集まった「ビックカメラ池袋東口店」(現在は閉店)では、発売日当日に約1万人が池袋駅までの約2kmの行列をつくるに至りました。
当日の都内だけでも未成年の児童・生徒が356人補導される大事件となり、この事態を受けて警察庁はエニックス(現・スクウェア・エニックス)に対し「予約券を発行し、子供たちが学校を休まないような対応をすべき」と文書で依頼し、その券も日曜日や放課後などの時間に配布するように各販売店にも協力を仰ぎました。
文部省(現・文部科学省)も各都道府県の教育委員会に、子供たちが休んでまで買いに行かないように指導・注意喚起するよう通達しました。
高額な転売や、カツアゲ、窃盗などの事件も多発し、多くのメディアに取り上げられました。この事態を受け、エニックス(現・スクウェア・エニックス)は以降、発売日を祝日や夏休み、冬休みなどにする方針を決めました。
1990年2月11日 『ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち』(FC)発売

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容量は約512KBまで増加しました。半導体技術の発展や、メモリ管理技術の向上など、初代の発売から3年半という短い期間で8倍にまで増加したのは類を見ないほどの技術革新と言えるでしょう。その代わり前作までが定価5000円台(税別)だったのに対し、8500円(税別)と大幅な値上げとなりました。また半導体調達の都合で発売が当初の予定より遅れてしまったという背景もあります。
前作では省略されてしまったオープニングですが、本作ではより少ない容量でアニメーション表現を実現することに成功しました。この秘訣については、当時の開発であるチュンソフトの社員であった内藤寛氏が自身のYouTubeチャンネルにて語っています。
そしてなにより特徴的なのが「AI戦闘システム」の導入です。
従来のゲームにおけるAIとは、簡単なパターンを繰り返したり、特定の動作に特定の反応を返すに留まっていましたが、本作における革新的な要素とは「作戦によって戦闘方針をプレイヤーがいつでも変えられる」「行動直前に行われるリアルタイムな状況判断」「相手のHPや自分のMP残量を考慮した行動」「敵モンスターの呪文耐性の学習」といった複雑な機能を複数備えていた点です。
この時代では「エキスパートシステム」と呼ばれ、特定の専門分野における知識をルールベースで構築し、推論エンジンを用いた意思決定を行うAIシステムが存在していました。産業や医療など幅広い分野での活躍が見込まれていましたが、導入コストの高さや技術者の少なさから社会への浸透は進まず、AIへの過度な期待を裏切る形となり、開発は進まず、資金提供も減り、企業の倒産や研究者の転向が余儀なくされる事態が相次ぎました。1950年代から1960年代に起こった同様の事例を第1として「第2のAIの冬」と呼ばれた時期でした。
そんなさなかに家庭用ゲームという娯楽にAIが用いられ、それが途切れることなく開発され続けて、形を変えながら現代におけるゲームの常識となっているのです。
1992年9月18日 『ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』(SFC)発売

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シリーズ初のSFC用ソフトとなり、容量もさらに向上し約1.5MBになりました。当初はFC向けに開発されていましたが、ゲーム内容が充実していくにつれ、開発が困難になり、SFC向けに作り直すことになったそうです。
戦闘AIもキャラクターごとに別々に指示することができるようになり、敵のHPや行動パターンだけでなく、呪文耐性も最初から把握済みに変更され、無駄の少ない行動をとれるようになりました。
グラフィックや音楽が大幅にボリュームアップし、コントローラにもXボタン、Yボタンが追加されたことで操作性も大きく向上しました。
漢字も使用できるようになり、カナカナもようやくほぼすべて使用できるようになりました。状態異常を表すアイコンも独自に作られ、瀕死や死亡を表す色の変化がキャラごとに分けられるようにもなりました。
サウンドもステレオに対応し、中ボス専用にも曲を用意できるようになり、ダンジョン内では音が響いているように聞こえるリバーブ効果も再現されました。
メニュー画面でも、項目の1番上と1番下がループするようになったり、Bボタンを押すことで、以前はすべてのメニューが閉じてしまっていたのを、1階層ずつ戻るようになるなど、UIにも大きな変化が起こっています。
結婚相手を「ビアンカ」にするか「フローラ」にするか、という論争はいまだにファンの間で巻き起こっています。
この件に関しては、堀井雄二氏が2011年発売の『ドラゴンクエスト25thアニバーサリー 冒険の歴史書』内に以下のようなコメントを残しています。
”ただ、みんなふつうはビアンカを選ぶだろうと思ってたんですが、フローラを選ぶ人も多かったのは、ちょっと意外でしたね。そこでDS版では、ホントにこれは選ばないだろう、というキャラクターを追加したんですが、やっぱり彼女を選んだ人も多かった(笑)”(堀井雄二)
ゲームという作品が、作者の思惑を超えて社会的な影響を与えている典型的な例です。それだけドラクエという作品が我々の生活に浸透し、受け入れられ、愛されている証拠です。特別なものではなく、誰しもが当たり前のように楽しんで、共通の話題として盛り上がり、コミュニティを形成していく様は、ゲームとして理想の姿と言えるでしょう。ちなみに私はフローラ派です。
☆1993年12月18日 リメイク版『ドラゴンクエストⅠ・Ⅱ』(SFC)発売

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時代が流れ、SFCが主流となり、FCを持っていないプレイヤーが増えたタイミングでのリメイク発売となりました。
これまでパソコンや他社ハードからの移植は多くありましたが、本作はゲーム業界におけるリメイク作品の先駆けともいえる存在です。
初代だけではボリューム不足でしたが、『Ⅲ』まで入れるほどの容量はなく、『Ⅱ』とのカップリングとなった背景があります。
1995年12月9日 『ドラゴンクエストⅥ 幻の大地』(SFC)発売

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本作は「プレイヤーの自由度」という点に焦点が当てられており、容量は約4MBにまでなりました。これはSFCソフトとしても最大級であり、シリーズ初の定価10000円(税別)を超える事態になりました。
その豊富な容量を生かした大幅なグラフィック向上、上と下に分かれた2つのワールドマップが織りなす、奥深く、考えさせられるストーリー。『Ⅴ』から引き続きモンスターを仲間にできたり、『Ⅲ』以来の復活となる職業システムには上級職という新システムが追加されました。
堀井雄二氏いわく、当時社会的流行となっていた「自分探し」というものをテーマにしたということで、とにかくプレイの自由度の高さや難易度を上げ、プレイヤー体験を上げるとともに、攻略情報を求めてコミュニティを活性化させてほしいという狙いがあったそうです。
特に、進化したエフェクトやアニメーションを見てほしいという思いも込められており、モンスターのステータスが他の作品よりも主人公たちに対して高めに設定されています。
サウンド面でも強化が入っており、距離によって音量が変わるSEであったり、室内に入ると外のBGMの音量が下がるといった、細かい仕様が採用されており、戦闘終了時も、開始前まで流れていたBGMの続きから流れるようになりました。
☆1998年9月25日 『ドラゴンクエスト モンスターズ テリーのワンダーランド』(GB)発売

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シリーズ初の携帯ゲーム機向けに発売された本作は、1996年に発売された『ポケットモンスター赤・緑』の後追いという立場ではなく、元スクウェア・エニックス取締役であり、馬主でもある当時のプロデューサー・千田幸信氏のアイデアでモンスター同士の配合というシステムを取り入れた経緯があり、どちらかというと『ダービースタリオン』シリーズから着想を得たものだそうです。
その他にも『Ⅵ』の外伝作品という位置付けや、携帯ゲームというハードを選択することで小さい子供にもドラクエに触れてほしいというコンセプトで開発されています。
過去作に登場したモンスターだけでなくオリジナルのモンスターもデザインされており、それがナンバリングタイトルに逆輸入されるケースも多く見受けられます。
累計出荷本数約230万本と、GB用ソフトの中でも10本の指に入る超大ヒット作となり、以降『モンスターズ』シリーズは『ドラクエ』外伝の中でも特に特別な扱いとなりました。『モンスターズ2 イルの冒険・ルカの旅立ち』『モンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅』、『キャラバンハート』、『ジョーカーズ』シリーズ、『スーパーライト』といった数多くの作品が生まれ、リメイクもされています。
2000年8月26日 『ドラゴンクエストⅦ エデンの戦士たち』(PS)発売

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シリーズ初のPS用ソフトとして発売され、国内累計出荷本数の約410万本という数字は、現在でも「最も売れたPS用ソフト」としての記録を保持しています。
約660MBのCD-ROMの2枚組という容量にはプリレンダリングムービーの収録や、圧倒的なボリュームのシナリオが詰まっています。
PSの2年後に販売されたNINTENDO64のカートリッジタイプのソフトでは64MBというSFCと比べ物にならない容量ではあったものの、CD-ROMには足元にも及ばず、PSのようなプレイ中の差し替えなどは技術的に困難だったため、プレステはゲーム業界に革新的な存在だったのです。
グラフィック面では2Dのドットと3Dポリゴンを組み合わせた手法で表現されており、従来のテイストを残しつつ、立体感と迫力のあるマップが作られ、カメラを最大360度回転させることもできるため、一見、死角になるようなところにアイテムが隠されていたりなど、プレイヤーの体験も大きく向上しました。
これは2001年11月22日発売のリメイク版『Ⅳ』や、DSリメイクの『Ⅳ』『Ⅴ』『Ⅵ』にも流用される基本的なグラフィックとなりました。
CD-ROMの弱点はROMカセットに比べるとロードが長いという点ですが、これも独自の技術によって解決させ、特許申請も行われました。1度に読み込むデータ量を少なくするための工夫が各所に施されていますが、フリーズが多発するというデメリットを抱えていました。
致命的なほどに再現性の高い進行不能バグが存在し、これが修正されたPS one Books盤は中古で1万円以上の価値がつくプレミアとなっています。
また、作中には「移民の町」というものが存在し、決められた場所にランダムに出現するNPCを集めることで、町を発展させていくというものがあります。特定の住民を集めることで異なる発展を遂げ、そこでしか手に入らないアイテムがあるため、本作の重要なやりこみ要素の一つです。PSに異なるセーブデータが保存されたメモリーカードを2枚差し込むことで、住民を交換することができるという機能もありました。
☆2003年9月19日 『剣神ドラゴンクエスト 甦りし伝説の剣』発売

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本作はテレビに接続する「紋章ユニット」と呼ばれる本体と、反射板がついた剣型のコントローラーからなる家庭用体感型ゲームです。
「紋章ユニット」から発せられた赤外線が、剣で反射することで動きを認識し、あたかも本当に魔物に対して剣を振って戦っているかのような体験ができるゲームとしてデザインされており、Wiiの発売の約3年前に存在していました。
新世界株式会社が開発した「XaviX(ザビックス)」という技術が利用されており、当時はすでにプレイヤーの動きを認識するゲーム技術はいくつか存在していましたが、「XaviX」は精度や反応速度、そしておもちゃなどで家庭向けに導入しやすいという点では革新的な技術でした。
また、そういった体感型ゲームの多くがスポーツゲームだった中、RPGゲームが採用したというのは稀な例となっています。
☆2004年3月25日 リメイク版『ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』(PS2)発売

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シリーズ初のフル3DCGで表現されましたが、キャラクターは既存のドット絵と同様な低等身で、立ち止まっているときに足踏みモーションを繰り返すなど、従来のドラクエの延長的な表現でした。システム面の多くも『Ⅶ』の流用となっています。
また、音源としてオーケストラ演奏を本格的に採用した初の作品でもあります。
2004年11月27日『ドラゴンクエストⅧ 空と海と大地と呪われし姫君』(PS2)発売

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シリーズで初めて等身大のフルポリゴンの3Dグラフィックで製作されました。キャラクターやモンスターはセルシェーディング技術が採用され、3Dグラフィックでありながら、鳥山明氏のイラストの雰囲気を感じさせるアニメ調での表現が可能になっています。
カメラも従来の作品のような俯瞰視点からプレイヤーの目線の高さで常に360度回転できる仕様に変更され、広大なフィールドを見渡すことで迫力のある体験ができます。
表現方法が変わったことにより、階段などもスケールに合わせた描写に変更する必要があるためにマップの多くが開発時の想定よりも縮小されることになったり、戦闘時には仲間のアニメーションなどを作りこんだりしたために戦闘の頻度を少し下げるようにしたりなどのバランス調整が多くあったそうです。
加えて、テキストのみの描写でプレイヤーの想像にゆだねていた表現も本作では取り入れられにくくなり、ランダムでいろいろなことが起こる呪文「パルプンテ」や、ドラゴンに変身する呪文「ドラゴラム」などの伝統的な要素が採用を見送られました。
パーティメンバーも4人に減り、自由に組み替えたり、転職のシステムが採用されなくなった代わりに、「スキル」システムを導入し、プレイヤーによる個性的な育成が可能になり、これは以降のシリーズにおいて採用される重要な要素となりました。
また、この作品から本格的に海外向けのローカライズに注力し、世界的な認知を高めた作品でもあります。海外版ではUIやシナリオに手が加えられ、日本に先んじてシリーズ初となるフルボイス化もされています。
☆2007年6月21日 『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』(アーケード)稼働開始
>『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』公式サイト(外部サイト)
アーケード向けに開発された本作は、独自にデザインされた歴代のキャラクターやモンスター、アイテムなどのカードを組み合わせて戦い、基本的には赤と青の2つのボタンで操作します。戦闘中にゲージがたまると「とどめの一撃」という大技を使用することができ、筐体に刺さっているかのように搭載されている剣を差し込むことで発動できるという、シンプルながら没入感の高いゲームデザインになっています。
歴代の様々なキャラクターやモンスターが登場した本作の3Dモデルは、以降の多くの作品に流用されています。
カードのコレクション性も高く、定期的に全国大会が開催されるなどして、多くのプレイヤーを集め、稼働から1年でカードの累計出荷枚数1億枚以上という大ヒットを記録しました。最終的には累計2億枚を突破し、現在でも当時のカードはコレクターの間で人気を持ち続けています。
2008年12月3日には『モンスターバトルロードⅡ』としてリニューアルされ、2010年7月15日には家庭向け移植版である『モンスターバトルロード ビクトリー』が発売され、アーケードのカードのQRコードを読み込んでゲーム内にデータで使用するための3DS、iモード向けアプリもリリースされました。
2009年7月11日 『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人』(DS)発売

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DS用として発売され、ナンバリング初の携帯ゲーム機用ソフトとなりました。通信によって近くのプレイヤーとのマルチプレイに対応したり、オンライン経由でアイテムを受け取ったりすることができるようになり、さらにDSに備わっている「すれちがい通信」による「宝の地図」の交換は大きな社会現象となりました。
さらにキャラクターメイクも初めて実装され、性別、身長、顔、髪型、目の色などを組み合わせて個性的なキャラクターを作ることができ、すべての装備品がグラフィックに反映されるのも特徴的です。
さらには『Ⅲ』を彷彿とさせるルイーダの酒場システムの復活や、歴代のキャラクター達を宿に招いたり、歴代のラスボスたちと戦えるなど、往年のファンにも嬉しい要素の多い作品となっています。
DSのスペックに合わせるため、基本は3Dポリゴンを使用ししつつ、一部のNPCはドットで表現するなどの工夫がなされていました。
本作はDS普及率の高さや、すれちがい通信によるプレイヤー体験の高さから新規プレイヤーの獲得につながり、国内での売上は約437万本と、(リメイクを合算せず)「国内で最も売れたドラクエ」となっています。
強力な武器や道具が確定で入手できる、通称「川崎ロッカーの地図」や、レベル上げに最適なモンスターが確定で出現する、通称「まさゆきの地図」などの存在が明らかになると、ますますすれちがい通信のブームは過熱していきました。都心ではすれちがい通信目的のプレイヤーが集まるスポットが生まれ、人々のリアルな交流の場を提供する大きなきっかけとなりました。
その結果として、2010年5月20日には「ワイヤレス通信を用いて1億1757万7073人(2010年3月4日現在)がすれちがったゲームソフト」としてギネス記録に認定されました。
2011年3月には全世界累計出荷本数が530万本を突破し、シリーズ初の500万超えを記録することになります。
実は開発が開始されたのは『Ⅹ』よりも後であり、オンライン要素を盛り込むのは時期尚早と考えられ、試行錯誤の果てに開発当初のアクション性の高い路線から変更し、MMORPGである『Ⅹ』のような大量のサブクエスト、マルチプレイ要素などを盛り込み、2006年12月28日発売の『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』のシステム面を流用しながら開発が進められました。
そのため、当初の予定であった2007年から2年以上も延期した末の発売となりました。
2012年8月2日 『ドラゴンクエストⅩ 目覚めし五つの種族 オンライン』(Wii)発売

シリーズ初のMMORPGとして発表され、当初は非常に物議を醸しました。オンラインゲームは特にディープなゲーマーがやるもので、長時間かけないと遊べないものというイメージや、他者との協力プレイを余儀なくされるというイメージが強く、内外からの反発が少なからずありました。
Wiiの発売から約5年半も経ってしまっており、すでに次世代機であるWiiUも発表された後のタイミングというのも向かい風でした。
しかし、『Ⅹ』はこれを払拭するべく、「一人でも遊べる、依存化しない、いつものドラクエ」というコンセプトで作られており、その後着実にプレイヤーを獲得していきました。Wiiに始まり、WiiU、Windows、3DS、PS4、Switchと、非常に多くのプラットフォームで展開していきました。(2025年現在、Wii、WiiU、3DSはサービス提供を終了しています。)
他のプレイヤーが育てたキャラクターを仲間NPCとしてレンタルできる機能や、ログアウトしている時間をアイテムに交換できるシステム、そして発売したバージョン1の時点で、アップデートを待たずにラスボスとエンディングが用意されているという点で、MMORPGに馴染みのない人でも1本のドラクエとして遊べるようにデザインされていました。
開発当初の「10年は続けたい」という目標を達し、更に数年がたった今でも新たなストーリーが追加されているというのは、MMORPGの中でも非常に稀なことです。昨今でも多くのMMORPGやスマホゲームが数年でサービスを終了していくように、どれだけドラクエというコンテンツが愛されているのか、そしてゲームとしての完成度が高いのかを物語っています。
☆2015年10月15日『星のドラゴンクエスト』(iOS、Android)配信開始
前年に配信された『スーパーライト』とは対照的に、装備を集めて人間が戦うことを主体にしたスマホ向けゲームとなっています。
『Ⅹ』とは別のアプローチで、長く遊べるゲームとして成功を収めています。歴代のキャラクターになりきれる装備品の数々や、ナンバリングタイトルとのコラボなどでボスと戦ったりなど、これまでの『ドラクエ』すべてを網羅した作品の1つです。
イラストレーターのカナヘイ氏が本作中で他プレイヤーとの交流に使用できるスタンプやSNS用のイラストを担当しており、独自のグッズ展開も行われています。『ドラクエ』のグッズの多くは鳥山明氏のデザインを踏襲したものが多い中、変わったデザインが目を引くこともあって人気を博しています。
2017年7月29日 『ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて』(PS4、3DS)発売

PS4と3DSと同時発売された本作は、PS4版では最新の高画質3DCGで製作され、3DS版では、『Ⅸ』を彷彿とさせる低等身ポリゴンとドットの組み合わせの3Dモードと、昔ながらのドット絵の2Dモードを切り替えられる仕様となっていました。
また、3DS版の独自要素として「すれちがい通信」を利用して、過去作の印象的なイベントに介入するというやりこみ要素も用意されていました。
そして、「ふっかつのじゅもん」によって異なるプラットフォーム同士でもある程度の進行度を共有できるようになっており、これは後に発売された『Ⅺ S』で使用することもできます。ただし、『Ⅺ S』には新たなストーリーを含む追加要素が含まれているため、『Ⅺ S』のじゅもんを『Ⅺ』で使うことはできません。
2024年12月には『Ⅺ』及び『Ⅺ S』の全世界累計出荷本数は合計で700万本を突破し、「世界で最も売れたドラクエ」となっています。これには複数のハードや、Windows向けにも発売されていることが大きく影響しているでしょう。
本作は30周年記念作品としての位置づけもあり、各所に歴代の作品を彷彿とさせるような要素が多くちりばめられており、新規プレイヤーや世界中に向けて大ヒットを打ち出しつつ、シリーズのファンであれば2倍楽しめるようになっています。私はこの作品をプレイしたとき「今までの人生でドラクエを好きになれて本当に良かった」と心の底から感動しました。
音源もシンセサイザー版と、「東京都交響楽団」による演奏音源の両方が収録されており、プレイヤーが自由に切り替えられるようになっています。
☆2019年9月12日 『ドラゴンクエスト ウォーク』(iOS、Android)配信開始
スマホ向けに開発された位置情報利用ゲームで、すでに『ポケモン GO』が世界的なブームを巻き起こした後にリリースされました。
本作は同じ位置情報利用ゲームではありながら、全く異なるアプローチがなされており、『ポケモン GO』が「収集」に特化しているのに対し、『ウォーク』は「冒険」に特化したゲーム性になっています。
ストーリーが用意されており、読み進めるためには自分で設定した地点まで歩いていき、選択したクエストに合わせてモンスターが出現する方式になっているため、地域格差を軽減する設計がなされています。各都道府県に4か所ずつ「ランドマーク」となる場所が設定されており、ここでしか手に入らない特別なゲーム内のコレクションアイテムが存在しています。他プレイヤーと交換しながらコンプリートを目指すという楽しみ方も用意されています。
また、自宅から出ずとも簡易的にこなせる要素も現在では増えており、天気の悪い日や、休日に無理に外に出る必要もなく、気軽に遊べるような機能も順次追加されています。
『ポケモン GO』で問題視された歩きスマホの増加に対しては、リリース直後から自動で戦闘を行う「ウォークモード」が実装されており、その後、自動でアイテムを拾う設定や、戦闘後に自動で回復呪文を使ったり、残りMPに応じて自動で戦闘に入るかどうかを判断できる機能などが追加されることで対策されていました。
☆2024年11月14日 リメイク版『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』(PS5、Swicth、Xbox Series X|S、Windowds)発売

>HD-2D『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』公式サイト
28年ぶりの『Ⅲ』のフルリメイクとなる本作は、最先端の美麗な3Dグラフィックにと2Dドット絵を調和させた「HD-2D」表現で開発されました。
当時の雰囲気を残したまま美しくリメイクされただけでなく、音楽も「東京都交響楽団」によるオーケストラ演奏音源が使用され、当時256KBしかなかったゲームとは思えないほどの進化を遂げています。
3Dの背景と2Dのキャラクターという組み合わせの技術自体はすでに『Ⅶ』で実現していましたが、本作はさらに強化され、臨場感あふれるクオリティの背景に仕上がり、水面や木漏れ日といったところに非常に細かい表現がなされていながら、ドットのキャラクターに違和感を感じさせない絶妙なバランスがこの技術の最大の特徴です。
そして、ストーリーにも大きく追加要素が加わっており、今までボスがいなかったダンジョンに強力なボスが出現したり、主人公の父「オルテガ」の足跡を感じさせるイベントも多く追加されています。
また、時系列的に前になる『Ⅺ』や後に続く『Ⅰ』『Ⅱ』を前提とした要素も追加されており、堀井雄二氏も「ぜひ『Ⅲ』から『Ⅰ&Ⅱ』という順番でプレイしてほしい」と語っていることから、次回作の『Ⅰ&Ⅱ』にも『Ⅲ』から繋がっていることを強く示すイベントが追加されることが予想されます。
すでに公開されているティザートレーラーには過去作の『Ⅱ』には存在しなかった謎の少女の存在が示されており、今後の続報から目が離せません。発売は2025年、つまり今年中を予定しています。
【追記】
発売日が2025年10月30日に決定しました。
謎の少女は「サマルトリア王子の妹姫」と判明しました。
>HD-2D『ドラゴンクエストⅠ&Ⅱ』公式サイト(外部サイト)
『ドラクエ』が私たちの社会に与えた影響
『ドラゴンクエスト』はもはやゲームという枠組みを超えて日本を象徴する文化の一部となっています。『Ⅲ』発売当初の社会現象や「ビアンカフローラ論争」などはその一端に過ぎないのです。
先にも解説した通り「コマンド選択式RPG」「バッテリーバックアップ」「AI戦闘システム」など、いまやどんなゲームにも当たり前のように採用されているシステムの基礎を作り上げた作品であり、ゲームの歴史を語るうえで『ドラクエ』は避けては通れない存在なのです。
コミュニティは世代を超えて形成されており、インターネットが普及することでますます活発になりました。現在でもいろいろな配信者が実況プレイを行っていたり、生きたコンテンツとして多くの人々の心に根付いています。
メディアミックスも盛んに行われており、小説、漫画、ドラマCD、アニメ、ライブスペクタクルツアー、映画など数多くの作品がつくられ、様々なリアルイベントも開催されました。
2010年、東京・六本木(現在は秋葉原に移転)にカラオケリゾート「パセラ」とのコラボとして「ルイーダの酒場」が開店。2025年で15周年を迎え、様々なイベントが予定されています。



2011年、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーにて本作の25周年記念として「ドラゴンクエスト展」が開催され、作品の歴史と社会的意義について振り返る展示がなされました。

2016年~2017年、本作の30周年を記念した「ドラゴンクエストミュージアム」が東京・渋谷ヒカリエ、大阪・ひらかたパーク、愛知・名古屋PARCO、兵庫県・淡路島州本市民広場横赤レンガ建物特設会場で開催されました。
東急東横線渋谷駅では、期間限定で発車メロディが「序曲」に変更されるなど、地域全体を盛り上げる取り組みもありました。
>「ドラゴンクエストミュージアム」公式Xアカウント(外部サイト)



2017年、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンで期間限定コラボアトラクションが製作され、多くの限定グッズなどが販売されました。
>USJ『ドラゴンクエスト・ザ・リアル』アトラクション詳細情報、大公開|スクウェア・エニックス公式(外部サイト)


2021年、堀井雄二氏の出身である淡路島にある「ニジゲンノモリ」にて屋外型フィールドアトラクション「ドラゴンクエスト アイランド」が開かれました。
「たまねぎスライム」という淡路島の名産品であるたまねぎをモチーフにしたモンスターがオリジナルにデザインされ、様々なグッズ展開がなされています。
リアルとデジタルの融合をテーマにしており、ドラクエの世界を再現した「オノコガルド」という町は細部までこだわりが感じられ、入場時に受け取った「冒険のしるし」を各所にかざすことで物語が進んでいきます。
最初に職業を選び、最大4人のパーティを組んで住民の話を聞いたり、モンスターと闘いながら奥へ進んでいきます。
道中ではゲームでもおなじみの音楽が流れ、最後のボス戦は臨場感あふれる演出で本当に強敵と対峙しているかのような緊張感を与えてくれます。
まだ行ったことがないので写真がないです、ごめんなさい!
その他にも過去には「ドラゴンクエスト カーニバル」として商業施設や周辺地域とのコラボレーションが2024年に神奈川・横浜、2025年には『HD-2D版Ⅲ』発売記念として東京・日本橋で開催されました。
町中のいたるところに立体オブジェや、巨大シールなどが飾られており、まるでドラクエの世界に入り込んだかのような体験ができるイベントです。様々なお店でノベルティを配布していたり、コラボメニューを販売する飲食店も数多くありました。
>ドラゴンクエスト カーニバル in 横浜みなとみらい|ドラクエパラダイス(外部サイト)
>ドラゴンクエスト カーニバル in 日本橋 公式サイト(外部サイト)









1987年8月20日、東京・サントリーホールで初めて『ドラクエ』のコンサートが開催されてから、すぎやまこういち氏が亡くなった現在でも、オーケストラコンサートが定期的に日本全国で開催されており、ゲーム音楽の規模としては最大級です。数多くのレコード盤やCDが販売され、すぎやまこういち氏が『ドラクエ』を通じて、クラシック音楽の世界に与えた影響は計り知れません。

さらに、2019年7月31日には『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』の有料追加コンテンツ第2弾として「勇者」が参戦しました。
カラーバリエーションとして『Ⅲ』『Ⅳ』『Ⅷ』『Ⅺ』の主人公が作成され、「最後の切りふだ」の演出には他のナンバリング主人公も映っており、これには『バトルロード』のグラフィックを利用したプリレンダリングムービーが提供されています。
その他にも『スマブラ』で様々な特徴を持っており、
・唯一「文字が読めること」を前提にした性能をしている。
・唯一(Miiファイターを除いて)漢字表記の名前である。
・全キャラクター中、最多の必殺ワザ数。
・初めて主人公同士が戦う描写が特別に許可された。
・初めて主人公がじゅもんを唱えるボイスがついた。
国内でのタイトルの大きさに対してかなり遅れた参戦のように感じるかもしれませんが、これには「国外での認知度」という壁がありあました。
というのも、『Ⅶ』以前のドラクエは『DRAGON WARRIOR』という名前で北米などで販売されていましたが、当時ではアクション性の低いRPGは人気には結びつかなかったのです。
先述ではありますが、『Ⅷ』では本格的な海外向けのローカライズがなされ、そして『Ⅺ』での大ヒットを受けて、ようやく「全世界で愛されるゲーム」として認められたのです。
仲間たちの別れと新時代
2021年9月30日にすぎやまこういち氏が、2024年3月1日に鳥山明氏が逝去されました。
”すぎやま先生の、あまりに突然な訃報を聞き本当に残念でなりません。
ドラゴンクエストを作って35年、その世界に、すぎやま先生は音楽という命をずっと吹き込んできてくださいました。
先生には本当に 素晴らしい楽曲を いっぱい書いていただきました。
これからもドラクエは、先生の音楽とともにあります。
ユーザーの皆さんの心の中に 先生は 生き続けるはずです。
すぎやま先生 長い間 本当に ありがとうございました。”(堀井雄二)
”つい数年前にお会いした時の印象からもいい意味で、永遠の命を持つ魔法使いのように思っていました。
ドラゴンクエストのイメージは、当時からゲームが大好きでいらした、すぎやま先生の素晴らしく印象的な数々の名曲によって決定付けられた。と言っても過言ではありません。
長くご一緒に仕事をさせていただいて本当に光栄でした!
心よりご冥福をお祈りいたします。”(鳥山明)
”本当に、あまりに突然な鳥山さんの訃報で、まだ信じられない気持ちでいっぱいです。
鳥山さんとは、ボクが少年ジャンプのライターをやっていた頃からの知り合いで、担当編集者の鳥嶋さんの勧めもあり、ドラゴンクエストを立ち上げる時に、彼にゲームの絵を頼むことにしました。
あれから37年余り、登場人物のキャラクターデザイン、モンスターデザイン、とても数えきれないほどの魅力的なキャラを描いていただきました。
ドラゴンクエストの歴史は、鳥山さんのキャラデザインとともにありました。
鳥山さん、故すぎやま先生は、ドラゴンクエストを長きに渡って作ってきた仲間でした。
亡くなってしまうなんて‥‥。
これ以上、なんて言えばいいのか言葉になりません。本当に、本当に、残念です。”(堀井雄二)
2021年5月27日に『ドラゴンクエストⅫ 選ばれし運命の炎』の製作が発表されました。すぎやまこういち氏と鳥山明氏の遺作となる本作の音楽とデザインは二人が亡くなる前にほぼ完了しているため、開発に大きな影響はないとのことです。
戦闘システムは従来のコマンド選択式から一新され、大人向けのダークな雰囲気の世界観で製作されていると公表されており、まだその詳細はベールに包まれたままです。
巨匠たちとの別れは、残酷なまでに時の流れを実感させます。そして、その長い歴史の中で、数えきれないほどの人たちが『ドラクエ』という作品に関わってきたことでしょう。
39年。
初めて『ドラクエ』が発売したころに中学生ぐらいだった人には孫がいてもおかしくないくらいの年月が経っています。
いつの時代も当たり前のように流行っていて、世代を超えて誰でも知っている。町を巻き込んだイベントが数多く開かれている。そのような作品がこれから先どれほど生まれるのでしょうか。
私たちはこの作品のことを忘れてはならないのです。日本のゲーム文化を支えてきた『ドラクエ』を、そしてそれらを作り上げた偉大なる人々のことを。
もし、まだ当時のソフトが家にあるなら少し手に取ってみて、ホコリをとったりしながら当時のことを思い出す、そんな日にしてみませんか。
輝かしい冒険の日々が、ゲームという枠組みを超えた体験として鮮明によみがえってくるはずです。
”人生はロールプレイング”(堀井雄二)
【関連記事】
法執行技術企業Axon社が開発したAIソフトウェア「Draft One(ドラフト・ワン)」が全米の警察署で導入されている。
このツールは警察官のボディカメラの音声認識を基に報告書を自動作成するもので、Axon社の最も急成長している製品の一つである。コロラド州フォートコリンズでは報告書作成時間が従来の1時間から約10分に短縮された。Axon社は作成時間を70%削減できると主張している。
一方で市民権団体や法律専門家は懸念を表明しており、ACLU(米国市民自由連合)は警察機関にこの技術から距離を置くよう求めている。ワシントン州のある検察庁はAI入力を受けた警察報告書の受け入れを拒否し、ユタ州はAI関与時の開示義務を法制化した。元のAI草稿が保存されないため透明性や正確性の検証が困難になるという指摘もある。
From:
Cops Are Using AI To Help Them Write Up Reports Faster
【編集部解説】
このニュースで紹介されているAxon社のDraft Oneは、単なる効率化ツールを超えた重要な議論を巻き起こしています。
まず技術的な側面を整理しておきましょう。Draft Oneは、警察官のボディカメラ映像から音声を抽出し、OpenAIのChatGPTをベースにした生成AIが報告書の下書きを作成するシステムです。Axon社によると、警察官は勤務時間の最大40%を報告書作成に費やしており、この技術により70%の時間を削減できると主張しています。
しかし、実際の効果については異なる報告が出ています。アンカレッジ警察署で2024年に実施された3ヶ月間の試験運用では、期待されたほどの大幅な時間短縮効果は確認されませんでした。同警察署のジーナ・ブリントン副署長は「警察官に大幅な時間短縮をもたらすことを期待していたが、そうした効果は見られなかった」と述べています。審査に要する時間が、報告書生成で節約される時間を相殺してしまうためです。
このケースは単独のものではありません。2024年にJournal of Experimental Criminologyに発表された学術研究でも、Draft Oneを含むAI支援報告書作成システムが実際の時間短縮効果を示さなかったという結果が報告されています。これらの事実は、Axon社の主張と実際の効果に重要な乖離があることを示しています。
最も重要な問題は透明性の欠如です。Draft Oneは、意図的に元のAI生成草案を保存しない設計になっています。この設計により、最終的な報告書のどの部分がAIによって生成され、どの部分が警察官によって編集されたかを判別することが不可能になっています。
この透明性の問題に対応するため、カリフォルニア州議会では現在、ジェシー・アレギン州上院議員(民主党、バークレー選出)が提出したSB 524法案を審議中です。この法案は、AI使用時の開示義務と元草案の保存を義務付けるもので、現在のDraft Oneの設計では対応できません。
法的影響も深刻です。ワシントン州キング郡の検察庁は既にAI支援で作成された報告書の受け入れを拒否する方針を表明しており、Electronic Frontier Foundation(EFF)の調査では、一部の警察署ではAI使用の開示すら行わず、Draft Oneで作成された報告書を特定することができないケースも確認されています。
技術的課題として、音声認識の精度問題があります。方言やアクセント、非言語的コミュニケーション(うなずきなど)が正確に反映されない可能性があり、これらの誤認識が重大な法的結果を招く可能性があります。ブリントン副署長も「警察官が見たが口に出さなかったことは、ボディカメラが認識できない」という問題を指摘しています。
一方で、人手不足に悩む警察組織にとっては魅力的なソリューションです。国際警察署長協会(IACP)の2024年調査では、全米の警察機関が認可定員の平均約91%で運営されており、約10%の人員不足状況にあることが報告されています。効率化への需要は確実に存在します。
しかし、ACLU(米国市民自由連合)が指摘するように、警察報告書の手書き作成プロセスには重要な意味があります。警察官が自らの行動を文字にする過程で、法的権限の限界を再認識し、上司による監督も可能になるという側面です。AI化により、この重要な内省プロセスが失われる懸念があります。
長期的な視点では、この技術は刑事司法制度の根幹に関わる変化をもたらす可能性があります。現在は軽微な事件での試験運用に留まっているケースが多いものの、技術の成熟と普及により、重大事件でも使用されるようになれば、司法制度全体への影響は計り知れません。
【用語解説】
Draft One(ドラフト・ワン):
Axon社が開発したAI技術を使った警察報告書作成支援ソフトウェア。警察官のボディカメラの音声を自動認識し、OpenAIのChatGPTベースの生成AIが報告書の下書きを数秒で作成する。警察官は下書きを確認・編集してから正式に提出する仕組みである。
ACLU(American Civil Liberties Union、米国市民自由連合):
1920年に設立されたアメリカの市民権擁護団体。憲法修正第1条で保障された言論の自由、報道の自由、集会の自由などの市民的自由を守る活動を行っている。現在のDraft Oneに関する問題について警告を発している。
Electronic Frontier Foundation(EFF):
デジタル時代における市民の権利を守るために1990年に設立された非営利団体。プライバシー、言論の自由、イノベーションを擁護する活動を行っている。Draft Oneの透明性問題について調査・批判を行っている。
IACP(International Association of Chiefs of Police、国際警察署長協会):
1893年に設立された世界最大の警察指導者組織。法執行機関の専門性向上と公共安全の改善を目的として活動している。全米の警察人員不足に関する調査を実施している。
【参考リンク】
Axon公式サイト(外部)
Draft Oneの開発・販売元でProtect Lifeをミッションに掲げる法執行技術企業
Draft One製品ページ(外部)
生成AIとボディカメラ音声で数秒で報告書草稿を作成するシステムの詳細
ACLU公式見解(外部)
AI生成警察報告書の透明性とバイアスの懸念について詳細に説明した白書
EFF調査記事(外部)
Draft Oneが透明性を阻害するよう設計されている問題を詳細に分析
国際警察署長協会(外部)
全米警察機関の人員不足状況と採用・定着に関する2024年調査結果を公開
【参考記事】
アンカレッジ警察のAI報告書検証 – EFF(外部)
3ヶ月試験運用で期待された時間短縮効果が確認されなかった結果を詳述
AI報告書作成の効果検証論文 – Springer(外部)
Journal of Experimental CriminologyでAI支援システムの時間短縮効果を否定
警察署でのAI活用状況 – CNN(外部)
コロラド州フォートコリンズでの事例とAxon社の70%時間短縮主張を報告
全米警察人員不足調査 – IACP(外部)
1,158機関が回答し平均91%の充足率で約10%の人員不足状況を報告
カリフォルニア州AI開示法案 – California Globe(外部)
SB 524法案でAI使用時の開示義務と元草稿保存を義務付ける内容を詳述
ACLU白書について – Engadget(外部)
フレズノ警察署での軽犯罪報告書限定の試験運用について報告
アンカレッジ警察の導入見送り – Alaska Public Media(外部)
副署長による音声のみ依存で視覚的情報が欠落する問題の具体的説明
【編集部後記】
このDraft Oneの事例は、私たちの身近にある「効率化」という言葉の裏に隠れた重要な問題を浮き彫りにしています。特に注目すべきは、Axon社が主張する効果と実際の現場での検証結果に乖離があることです。
日本でも警察のDX化が進む中、同様の技術導入は時間の問題かもしれません。皆さんは、自分が関わる可能性のある法的手続きで、AIが作成した書類をどこまで信頼できるでしょうか。また、効率性と透明性のバランスをどう取るべきだと思いますか。
アンカレッジ警察署の事例のように、実際に試してみなければ分からない課題もあります。ぜひSNSで、この技術に対する率直なご意見をお聞かせください。私たちも読者の皆さんと一緒に、テクノロジーが人間社会に与える影響について考え続けていきたいと思います。
1885年8月14日、日本で初めて「専売特許」が交付されました。この「アイデアを守り、育てる」という仕組みの誕生は、日本のイノベーション史における静かな、しかし決定的な一歩でした。
この仕組みは、過去の物語に留まりません。もしあなたの画期的なアイデアが保護されなかったら? AIが自ら発明を行う時代、その権利は誰のものになるのでしょうか? 知的財産をめぐる問いは、現代のビジネス、そして未来の社会の根幹を揺さぶります。
この記事では、明治日本の決断から、GAFAMやQRコードの知財戦略、さらにはAIと発明の未来までを駆け巡ります。イノベーションの源泉である「特許」の過去・現在・未来を巡る旅へ、ご案内します。
過去 -「模倣の国」から「発明の国」へ。明治日本の熱き決断
明治維新後の日本が直面した最大の課題は、欧米列強との圧倒的な国力差でした。「富国強兵」「殖産興業」のスローガンの下、近代化を推し進める中で、海外の優れた機械や技術を導入・模倣することから始まりました。
しかし、単なる模倣だけでは、真の意味で国を豊かにし、世界と対等に渡り合うことはできません。自らの手で新たな価値を創造し、それを国の力に変えていく必要がありました。さらに、不平等条約の改正交渉の場では、欧米諸国から「日本には知的財産を保護する近代的な法制度がない」という厳しい指摘を受けます。発明者の権利を守る仕組みは、国内のイノベーションを促進するためだけでなく、国際社会の一員として認められるためにも不可欠だったのです。
この国家的課題に真正面から取り組んだのが、後に総理大臣として日本の舵取りを担うことになる高橋是清でした。初代特許庁長官に就任した彼は、発明を奨励し、その権利を国が保護するための「専売特許令」を1885年に制定。これにより、発明者が安心して研究開発に没頭し、その成果が正当に評価される土壌が、日本に初めて生まれたのです。
そして同年8月14日、記念すべき7件の特許が認められます。有力な説として第一号とされるのは、発明家・堀田瑞松による「錆止め塗料とその製法」でした。軍艦や鉄道、橋梁など、まさに「鉄」で国づくりを進めていた当時の日本にとって、金属の腐食は避けて通れない深刻な問題。この発明は、まさに時代の要請にど真ん中で応えるものでした。
ほかにも、漆の精製法や新たな染料など、日本の伝統技術を近代化しようとする試みが特許として認められました。高橋是清自身も、複雑な日本語を高速で処理するための「和文タイプライター」を発明し出願するなど、その先見の明を示しています。
一つ一つの特許の裏には、技術の力で国を、そして人々の暮らしを豊かにしようと奮闘した、発明家たちの情熱が渦巻いていたのです。
現在 – GAFAMの”盾と矛”と、日本の”開く”戦略
明治時代に発明者を守る「盾」として生まれた特許は、現代のグローバルビジネスにおいて、他社を牽制し市場での優位を築くための「矛」という側面も持つようになりました。その最たる例が、GAFAMに代表される巨大テック企業です。
GAFAMの特許ポートフォリオ戦略
彼らは、自社のサービスや製品を守るため、何万、何十万という膨大な数の特許で網を張り巡らせています。この「特許ポートフォリオ」は、他社からの特許侵害訴訟を防ぐ防御壁(盾)であると同時に、クロスライセンス交渉を有利に進めたり、時には競争相手の事業展開を阻んだりする攻撃力(矛)にもなります。スマートフォン市場でかつて繰り広げられた壮絶な特許訴訟合戦は、その象徴と言えるでしょう。
日本発・QRコードの逆転戦略「独占しない」という強さ

一方で、このGAFAM流の「固める」戦略とは全く逆のアプローチで、世界を席巻した日本の技術があります。それが、今や私たちの生活に欠かせない「QRコード」です。
1994年、デンソー(現:デンソーウェーブ)の開発チームが生み出したこの二次元コード。彼らはその特許権を取得しながらも、「権利を独占的に行使しない」と宣言しました。つまり、誰もが自由にQRコードを生成し、利用できる道を選んだのです。
その結果、QRコードは瞬く間に世界中に普及。決済、チケット、情報共有など、ありとあらゆる場面で使われる「事実上の世界標準(デファクトスタンダード)」の地位を確立しました。デンソーウェーブは、ライセンス料で儲けるのではなく、関連技術である読み取りスキャナの販売などで大きな事業的成功を収めます。「開く(オープンにする)」ことで、より巨大なエコシステムとビジネスチャンスを創り出したこの戦略は、特許の活かし方が一つではないことを雄弁に物語っています。
日本企業における知財の現在地
QRコードのように「開く」戦略は、他の日本企業にも見られます。例えばトヨタ自動車は、未来のエネルギーとして期待される燃料電池自動車(FCV)関連の特許を無償で開放し、業界全体の技術発展とインフラ整備を促そうとしています。
しかし、日本企業全体の状況を見ると、課題も見えてきます。国際特許の出願件数では長年世界トップクラスを維持してきましたが、近年はその地位にも陰りが見え始めました。また、大学で生まれた優れた研究成果を事業化に繋げる仕組み(TLO)が十分に機能していないという指摘もあります。世界を獲るポテンシャルを秘めた「知恵」を、いかにしてビジネスの価値に変えていくか。それは、現代の日本が直面する大きな課題なのです。
未来 – AIは発明家になるか?特許制度の新たなフロンティア
錆止め塗料に始まった特許の物語は今、人間という「発明者」の定義そのものを揺るがす、新たなフロンティアに立っています。その主役は、人工知能(AI)です。
「発明者:AI」の時代
すでに、新薬の候補となる化合物を自律的に考案したり、人間では思いもよらない効率的なアンテナの設計をしたりと、AIが創造的な「発明」を行う事例が報告されています。ここで、根源的な問いが生まれます。その発明の権利は、一体誰に帰属するのでしょうか?
発明を行ったAI自身か、AIを開発したプログラマーか、それともAIを利用したユーザーか——。実際に「DABUS」というAIを発明者として特許出願する試みが世界各国で行われ、司法の判断が分かれるなど、私たちの法制度はまだ答えを出せずにいます。19世紀の法律は、21世紀の知性を想定してはいませんでした。
人類の進歩か、技術の独占か
さらに、ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」や、世界の計算能力を塗り替える「量子コンピュータ」といった、人類の未来そのものを左右しかねない基盤技術の特許はどうあるべきでしょうか。
これらの技術を特定の企業や個人が独占することは、イノベーションを加速させるどころか、人類全体の進歩を妨げる「パンドラの箱」を開けてしまうリスクもはらんでいます。かつて日本が「開く」戦略でQRコードを世界に広めたように、人類共通の資産となりうる技術については、独占とは異なる新しい知財のあり方が模索されています。
オープンソースと特許の共存
情報を独占して利益を得る「特許」と、情報を公開・共有して発展する「オープンソース」。この二つは、一見すると水と油の関係に思えるかもしれません。しかし未来のイノベーションは、この両者が共存し、時に融合することで加速していくでしょう。
特許情報を分析して新たな開発のヒントを得たり、基本的な部分はオープンソースで協力し、コア技術だけを特許で守ったりと、両者の長所を活かしたハイブリッドな戦略が、これからのスタンダードになっていくはずです。
まとめ
1885年8月14日、文明開化の熱気の中で産声を上げた日本の特許制度。それは、発明家の情熱を守る「盾」として始まりました。時代は移り、特許はGAFAMの「矛」となり、QRコードのように「開く」ための戦略となり、そして今、AIという未知の知性を前に、その存在意義自体を問われています。
一つだけ確かなのは、特許制度が常に時代のイノベーションと寄り添い、その形を変えながら進化し続けてきたという事実です。
テクノロジーが私たちの想像を超える速度で進化していく未来において、私たちは「知恵」という最も人間らしい資産を、どう守り、育て、分かち合っていくべきなのでしょうか。その答えは、まだ誰も知りません。しかし、その答えを考えること自体が、次のイノベーションへの第一歩となるはずです。
【Information】
特許庁(JPO – Japan Patent Office)
日本の知的財産行政を所管する経済産業省の機関です。特許や商標などの出願手続きに関する情報や、制度の最新動向などを公開しています。
独立行政法人 工業所有権情報・研修館(INPIT)
特許庁所管の独立行政法人で、特許情報を検索できるデータベース「J-PlatPat」の運営や、知的財産に関する相談窓口の設置、人材育成などを行っています。
株式会社デンソーウェーブ
本記事でも紹介したQRコードの開発元企業です。公式サイトでは、QRコードの開発秘話や、その後の進化、様々な活用事例などを詳しく見ることができます。
一般社団法人 日本知的財産協会(JIPA)
知的財産制度を利用する企業側の視点から、制度の改善や適正な活用に関する提言などを行っている、日本最大級の知的財産関連団体です。
日本弁理士会(JPAA)
弁理士(特許、実用新案、意匠、商標などの知的財産に関する専門家)の全国組織です。知的財産権の取得や活用に関する専門的な相談先となります。
テクノロジーと社会ニュース
イーロン・マスクがAppleを提訴予告、App StoreでのOpenAI優遇は独占禁止法違反と主張
Published
3か月 agoon
2025年8月13日By
乗杉 海
イーロン・マスクは8月12日、自身のAIスタートアップxAIがAppleに対して法的措置を取ると発表した。
マスクはAppleがApp StoreでOpenAI以外のAI企業が1位を獲得することを不可能にしており、これは明白な独占禁止法違反だと主張した。現在OpenAIのChatGPTはApp Storeの「Top Free Apps」で首位を占める一方、xAIのGrokは5位にランクインしている。AppleはOpenAIと提携してChatGPTをiPhone、iPad、Macに統合している。
この発言に対してOpenAIのCEOサム・アルトマンは、マスクが自分と自分の会社に利益をもたらすためにXを操作していると聞いている疑惑があるとして反論した。マスクはアルトマンを「嘘つき」と呼び、アルトマンの投稿が自分より多くのビューを獲得していると指摘した。アルトマンはマスクに対してXアルゴリズムの変更を指示したことがないかを宣誓供述書にサインするかと質問した。
X上のユーザーはコミュニティノート機能を通じて、今年OpenAI以外の複数のアプリがApp Storeで1位を獲得していることを指摘している。中国のAIアプリDeepSeekが1月に1位、Perplexityが7月にインドのApp Storeで1位を獲得している。
From:
Elon Musk threatens Apple with lawsuit over OpenAI, sparking Sam Altman feud
【編集部解説】
今回のマスクとアルトマンの公開対立は、単なる個人的な確執を超えて、AI業界の構造的な問題を露呈しています。
まず注目すべきは、このタイミングでマスクが独占禁止法違反を主張したことです。実際にAppleは2025年4月にEUから5億ユーロ(約800億円)の制裁金を科されており、米国司法省も2024年3月に独占禁止法違反でAppleを提訴しています。つまり、マスクの主張は規制当局の動きと軌を一にしており、偶然ではない可能性が高いと考えられます。
特に重要なのは、AppleとOpenAIのパートナーシップの影響力です。ChatGPTがiPhoneやMacに統合されることで、他のAI企業にとって事実上の参入障壁が生まれています。これは単なるアプリランキングの問題ではなく、AIアシスタント市場そのものの支配権を巡る争いと言えるでしょう。
一方で、アルトマンの反論は興味深い事実を指摘しています。マスクがXのアルゴリズムを自身に有利になるよう操作しているという疑惑は、複数のメディアで報道されており、「プラットフォームの公平性」を求めるマスクの主張に矛盾を生じさせているのです。
また、OpenAIの最新モデルGPT-5が2025年8月7日に公開されたことも、今回の対立激化の背景にある可能性があります。GPT-5は従来モデルを大幅に上回る性能を持つとされ、AI市場における競争がさらに激化している中でのApple独占問題の提起は、戦略的な意味合いが強いと見られます。
この対立が示すのは、Big Techプラットフォームの支配力が、新興テクノロジー企業の成長機会を左右するという現実です。特にAI分野では、スマートフォンという日常的なデバイスへの統合が市場シェアを決定的に左右するため、App Storeの運営方針は業界全体の未来を決める要素となっているのです。
【用語解説】
App Store
Appleが運営するiOS・iPadOS・macOS向けアプリケーション配信プラットフォーム。アプリのダウンロードランキングやカテゴリ別ランキングを提供している。
独占禁止法(antitrust violation)
企業が市場を独占したり競争を制限したりすることを防ぐための法律。米国では反トラスト法と呼ばれ、App Storeの運営方法も規制対象となっている。
algorithmic recommendations(アルゴリズム推奨)
SNSや検索エンジンが、ユーザーの行動履歴や嗜好に基づいて自動的にコンテンツを表示する仕組み。マスクがXで自身のツイートを優遇するために調整していると複数報道されている。
コミュニティノート
X(旧Twitter)がユーザーに提供している機能。投稿に対して追加情報や訂正情報をコミュニティが協力して提供することができる。
【参考リンク】
OpenAI(外部)ChatGPTの開発元。人工知能の研究開発を行うアメリカの企業で、2025年8月に最新モデルGPT-5を公開した。
xAI(外部)イーロン・マスクが2023年7月に設立したAI企業。対話型AIのGrokを開発・運営している。
DeepSeek(外部)中国のAI企業が開発した大規模言語モデル。2025年1月にApp Storeで第1位を獲得した。
Perplexity AI(外部)リアルタイム検索機能を持つAI搭載の対話型検索エンジン。2025年7月にインドのApp Storeで1位を獲得した。
【編集部後記】
今回のマスクとアルトマンの対立は、単なる個人的な確執を超えて、AI業界の未来を左右する重要な問題を浮き彫りにしています。App Storeという巨大プラットフォームでの公平性、そして各社のAIアシスタントがどのように私たちの日常に浸透していくか—これらは私たちユーザーの選択肢に直結する話です。
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