楽天グループ株式会社は2026年4月30日、旅行予約サービス「楽天トラベル」のAIエージェント「Rakuten AI」に予約機能を追加したと発表した。「Rakuten AI」は2025年9月に提供を開始した「楽天トラベルAIホテル探索」の最新版で、スマートフォン向けウェブページとアプリで提供される。自然言語処理に加え、クチコミ、宿泊施設情報、予約データ、ウェブ検索結果を反映した提案、最大30軒の一覧・地図上での比較表示が可能である。
今回の機能追加で、希望条件の入力から予約完了までをAIが一貫して対応する。楽天IDでログインすれば氏名・連絡先・カード決済情報の入力が不要となる。予約履歴に基づくリピート予約や代替プランの提案にも対応する。AIエージェントの名称は「Rakuten AI」に改称し、チャット画面やアイコンのデザインも順次刷新する。
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「楽天トラベル」、ユーザーに宿泊施設を提案するAIエージェントに予約機能を追加
【編集部解説】
楽天トラベルが今回搭載した予約機能は、AIエージェントの「提案する」から「行動する」への進化を象徴する一歩です。2025年9月にスタートした「楽天トラベルAIホテル探索」は、対話形式で宿を探すところまでが守備範囲でした。今回のアップデートでは、AIが提示した候補のなかから選んだプランを、その流れのまま予約完了まで運べる設計になっています。提案と予約のあいだにあった「別画面に遷移して条件を入れ直す」という分断が消えた、と言い換えても良いかもしれません。
ここで一点、読者に正確にお伝えしておきたい部分があります。元のプレスリリースを丁寧に読むと、ユーザー自身が「予約ボタンから簡単に予約を完了する」設計であることが明記されています。つまり完全自律型の「エージェントが勝手に決済まで完了させる」タイプではなく、人間の最終確認を残したセミ・エージェント型として実装されています。これは安全設計として理にかなった選択でしょう。
注目すべきは、サービス名を「楽天トラベルAIホテル探索」から「Rakuten AI」へと改称した点です。楽天はAIエージェントを「楽天エコシステムのゲートウェイ」と位置づけており、トラベル単独のツールではなく、楽天市場・楽天証券・楽天モバイルなどグループ各サービスへとユーザーを横断的につなぐ入り口に育てようとしています。共通の楽天IDで貯まるポイントや決済情報を横串で活用できるのは、エコシステム型企業ならではの強みでしょう。
世界の潮流に目を向けると、ExpediaはOpenAIのChatGPT(「Apps in ChatGPT」)やMicrosoft Copilot Actionsと連携し、Booking.comも同じく「Apps in ChatGPT」のローンチパートナーとして名を連ねています。Expediaは2026年2月提出の年次報告書「10-K」のなかで、生成AIおよびエージェント型AIを新たな競争脅威として明記しました。「自社のプレゼンスが弱いAI駆動型プラットフォームへ旅行者がシフトする」というリスクへの警戒感が背景にあります。
楽天の選択はこれとは方向性が異なります。外部のAIプラットフォームに乗るのではなく、自社サービス内に独自のエージェントを抱え込む「インハウス型」を採っているのです。検索の入り口が外部AIに奪われる前に、自社内の体験品質で囲い込むという戦略と読み取れます。日本市場の事業者として理にかなった判断だと、編集部は見ています。
潜在的なリスクにも触れておきましょう。Expediaが10-Kで指摘した「強い同意管理を欠いたエージェント型予約機能は不正リスクを高めうる」という懸念は、業界共通の課題です。AIが利用者の代わりに決済情報を扱う設計が広がるほど、誤予約・なりすまし・幻覚(ハルシネーション)による誤った宿泊条件提示といった問題への備えが重要になります。今回楽天が「最終確認は人間が行う」設計を残したのは、こうした懸念への現実的な回答でもあるのでしょう。
長期的視点では、旅行予約のUXは「検索→比較→入力→決済」という従来の階段を解体し、対話のなかで全工程が溶け合う形へ向かいます。この変化は宿泊施設側にも波及するでしょう。AIに選ばれる宿になるためには、構造化されたメタデータ、豊富で誠実なクチコミ、明確な価格情報の整備がこれまで以上に問われます。SEOがAIO(AI最適化)へとシフトするように、ホスピタリティ業界もまた、AIエージェントに「読まれる」ことを前提とした情報設計へ舵を切る必要が出てきます。
旅は本来、計画を練る段階からワクワクするものでした。AIエージェントがその面倒な部分だけをスマートに引き受け、私たちが本当に楽しみたい「行き先での体験」に集中できる時代――楽天の今回の発表は、そんな未来への確かな足音だと感じます。
【用語解説】
AIエージェント
ユーザーの指示や目的に応じて、自律的に情報を収集・判断し、複数のステップを連続して実行できるAIシステム。単発の質問応答にとどまるチャットボットと異なり、目的達成のためのタスクを連鎖的にこなす点が特徴である。
エージェント型AI(Agentic AI)
生成AIをベースに、計画立案・ツール利用・実行までを一貫して行う発展形のAIを指す概念。旅行領域では「提案」だけでなく「予約・変更・キャンセル」まで自動化する方向で進化している。
楽天エコシステム(経済圏)
楽天が展開するEC、金融、通信、旅行など多岐にわたるサービスを、共通IDと楽天ポイントで連携させた事業群の総称。サービス間でデータと顧客接点を相互に活用し、利用頻度を高める戦略の中核に位置づけられている。
ハルシネーション
生成AIが事実と異なる情報を、あたかも正しいかのように出力してしまう現象。旅行予約においては、存在しないプランや誤った料金・施設情報を提示するリスクとして問題視されている。
10-K(年次報告書)
米国の上場企業が証券取引委員会(SEC)に提出する年次の事業報告書。事業概況、財務状況、リスク要因などが詳細に開示され、競合分析や業界動向を読み解く一次資料として重視される。
AIO(AI Optimization)
従来のSEO(検索エンジン最適化)に対し、AIエージェントや生成AIに「選ばれる・引用される」ことを目的とした情報設計の概念。構造化データ、明確な価格・属性情報、信頼性の高いクチコミの整備が鍵となる。
【参考リンク】
楽天トラベル(外部)
楽天グループが運営する日本最大級の宿泊・旅行予約サービス。国内外の宿泊や航空券、レンタカーまで幅広く扱う。
楽天グループ株式会社(外部)
EC・フィンテック・モバイルなど多数のサービスを展開する日本のインターネット企業。共通IDによるエコシステム戦略を推進している。
Rakuten AI(楽天のAI戦略ページ)(外部)
楽天グループのAIに関する取り組みを集約した公式ページ。エコシステム全体でのAI活用方針を紹介している。
Expedia Group(外部)
米国シアトルに本拠を置く世界最大級のオンライン旅行会社。Hotels.comやVrboなど複数のブランドを傘下に持つ。
Booking.com(外部)
オランダに本拠を置く世界最大の宿泊予約プラットフォーム。ChatGPT内のサードパーティアプリの初期パートナーでもある。
OpenAI(ChatGPT)(外部)
ChatGPTを開発する米国のAI企業。「Apps in ChatGPT」で外部サービスをチャット内から呼び出せる仕組みを提供する。
Microsoft Copilot(外部)
MicrosoftのAIアシスタント。「Copilot Actions」によりサードパーティのサービスと連携してタスクを実行する機能を持つ。
Perplexity AI(外部)
出典提示型の対話AI検索エンジンを提供する米国スタートアップ。Expediaと共同でAI搭載ブラウザ「Comet」を開発している。
【参考記事】
「楽天トラベル」、ユーザーに最適な宿泊施設を提案するAIエージェント「楽天トラベルAIホテル探索」の提供を開始(2025年9月22日)(外部)
本件の前身サービスのリリース時プレスリリース。最大30軒の宿泊施設提案、AIおすすめポイント、地図比較などの初期機能を確認した。
‘We’re experimenting aggressively’: How Expedia sees AI reshaping travel — and its own business(GeekWire、2026年2月16日)(外部)
Expediaが10-Kで生成AI・エージェント型AIを競合脅威として明記し、不正リスクや3%の人員減(16,000人規模)にも言及した記事。
How Expedia’s CTO is using AI to transform work for 17,000 employees—and travel for millions(Fortune、2026年1月14日)(外部)
ExpediaのAIエージェントが年間1億4300万件の会話を処理し50%以上を解決、社内では1,500以上のAIエージェントが構築された動向を伝える。
Expedia brings generative AI trip-planning tool to Instagram(Marketing Dive、2025年5月15日)(外部)
Expediaの「Trip Matching」発表とOpenAI Operator・Microsoft Copilot Actionsへの統合計画を報じた記事。外部AI連携戦略の参考にした。
Booking.com and Expedia redefine travel with AI(Otamiser、2025年12月)(外部)
Booking.comの「Apps in ChatGPT」参画とExpediaのPerplexity連携「Comet」発表を整理した記事。OTAの会話型AI動向の把握に活用した。
Gen AI Is Threatening the Platforms That Dominate Online Travel(Harvard Business Review、2026年1月13日)(外部)
既存OTAが生成AIによって機能効率から感情的エンゲージメントの競争へ移行を迫られていると論じる分析記事。
【編集部後記】
「来週末、いつもの宿で」――そんな何気ないつぶやきが、そのまま予約完了まで運ばれていく。今回の楽天の発表を読みながら、私たち編集部もどこか胸がざわつきました。便利になるほど、私たちが「決める」という行為に費やしてきた時間や迷いの意味は変わっていきます。
皆さんは、AIに任せたいことと、自分の手で握っていたいこと、その境界をどんなふうに線引きしていますか。次の旅行予約のとき、ぜひその感覚を確かめてみてください。innovaTopiaも、未来の旅のかたちを引き続き追いかけていきます。
