Bitsoレポート2025、ラテンアメリカでステーブルコインがビットコインを初めて逆転|デジタル・ドル化の現在地

Cointelegraphは2026年5月1日、Bitsoの2025年ラテンアメリカ暗号資産採用レポートに基づくニュースを公開した。同レポートによると、2025年のラテンアメリカにおける暗号資産購入の40%が、TetherのUSDtやCircleのUSDCといった米ドル連動型ステーブルコインで占められ、ビットコイン(BTC)の18%を上回った。

同地域でステーブルコインの購入額がビットコインを超えたのは初めてである。調査はBitsoの取引プラットフォーム上の約1,000万人のリテールユーザーのデータに基づく。グローバルなステーブルコイン市場規模は約3,200億ドルに拡大している。Mercado Libreは4月初旬、ブラジル・メキシコ・チリのユーザー向けにMeli dollarステーブルコインを用いた送金プロダクトを開始した。一方、ビットコインは2025年もポートフォリオの52%に組み入れられており、前年の53%からほぼ横ばいである。BTC価格は10月に126,000ドルを超えた後に反落し、60,000ドル台前半で推移した。

From: 文献リンクStablecoins overtake Bitcoin in Latin America crypto purchases — Bitso

【編集部解説】

ラテンアメリカで「ステーブルコインの購入額がビットコインを初めて上回った」というニュースは、単なる市場シェアの逆転ではなく、暗号資産の役割が「投機対象」から「生活インフラ」へと進化したことを示す象徴的な出来事として捉えるべきでしょう。

少し時系列を整理してみます。Bitsoの過去レポートを遡ると、2023年下半期にはビットコインの購入比率が38%、ステーブルコインが30%でした。これが2024年通年では22%対39%となり、そして2025年にはついに18%対40%という数字に到達しました。わずか2年で構図が完全に反転した形です。

ここで鍵となるのが、Bitsoが「デジタル・ドル化(digital dollarization)」と呼ぶ現象です。アルゼンチンやベネズエラのような年率100%超のインフレに苦しむ国々では、自国通貨で給与を受け取った瞬間から購買力が目減りしていきます。住民にとってステーブルコインは、銀行口座を持たずとも、スマートフォン一つで「米ドル建ての価値」を保有できる現実的な手段となっているのです。

注目すべきは、この動きが個人レベルにとどまらない点です。BitsoのB2B部門が2025年8月に公表した別のレポートでは、企業による国際送金・財務管理(トレジャリー)・為替取引でのステーブルコイン活用が爆発的に増加しており、ペイメントサービスプロバイダー領域では前期比68%、ゲーム業界では5.3倍の成長を記録したとされています。

地域固有の事例として記事中に登場するMercado Libre(メルカドリブレ)は、アルゼンチン発祥でラテンアメリカ全域に事業展開するEC・フィンテック大手です。同社が独自発行の「Mercado Coin」を停止し、新たに「Meli dollar」を使った国境を越える送金プロダクトをブラジル・メキシコ・チリで展開した動きは、巨大プラットフォーマーが暗号資産を「自社経済圏の血液」として組み込み始めた証左と言えるでしょう。

一方で、ビットコインの存在感が消えたわけではありません。同じレポートで、ポートフォリオ保有率は52%と前年の53%からほぼ変わらず維持されています。つまり地域のユーザーは、「日々使う通貨はステーブルコイン、長期保存はビットコイン」という役割分担を巧みに使い分け始めているわけです。MarketVectorの調査が指摘する通り、希少性・非中央集権性・供給拡大耐性といった特性は、ビットコインの「デジタルゴールド」としての地位を依然として支えています。

ポジティブな側面を挙げれば、銀行口座を持たない数億人の人々が、ブロックチェーンを介して国際金融システムにアクセスできるようになったことの意義は計り知れません。送金コストの大幅削減、24時間365日の決済、伝統的な金融機関を介さない経済参加 — これらは「金融包摂(financial inclusion)」の理想を技術が実装した姿そのものです。

しかし潜在的リスクも見過ごせません。第一に、ドル建てステーブルコインへの依存は、各国の通貨主権を実質的に米ドルへ譲り渡す側面を持ちます。第二に、発行体(TetherやCircle)の準備資産の透明性や、米国の規制動向(2025年7月成立のGENIUS法など)が地域全体に波及する構造的脆弱性があります。第三に、各国の規制が追いついていない現状では、マネーロンダリング対策や消費者保護の空白地帯が生まれやすい状況です。

長期的視点では、この動きが「準備資産の再構築」を促す可能性に注目したいところです。ステーブルコイン発行体は裏付け資産として米国債を大量保有しており、ステーブルコイン市場の拡大は、新興国の資金が米国債需要を押し上げる新たなチャネルとなっています。グローバルな金融秩序の力学そのものが、技術によって書き換えられつつあるのです。

日本の私たちにとっても、この事例は対岸の火事ではありません。クロスボーダー送金の高コスト、高齢化に伴うキャッシュレス移行、円安局面での価値保全ニーズ — ラテンアメリカで生まれた「実用としての暗号資産」のユースケースは、近い将来、形を変えて日本にも到来する可能性があります。「未来を知り、触り、関わる」というinnovaTopiaの読者層こそ、この変化を最も早く読み解く立場にあると言えるでしょう。

【用語解説】

ステーブルコイン
価格を米ドルなどの法定通貨や安定資産に連動させた暗号資産の総称。ボラティリティの高いビットコインなどとは異なり、1コイン=1ドル前後を維持するよう設計されている。代表例にUSDT、USDCなど。

デジタル・ドル化(digital dollarization)
自国通貨の信頼性が低下した国々で、住民が銀行口座ではなくブロックチェーン上のドル建てステーブルコインを通じて資産を米ドルに退避させる現象。Bitsoが2025年レポートで提示した概念。

金融包摂(financial inclusion)
銀行口座を持たない、または十分な金融サービスを受けられない人々に対し、決済・貯蓄・送金などの基本的金融機能を届ける取り組み。世界銀行などが推進する国際的な政策テーマでもある。

デジタルゴールド
ビットコインを「金(ゴールド)に類するデジタル時代の価値貯蔵手段」と捉える概念。発行上限2,100万枚という希少性、非中央集権性、供給拡大への耐性が金との共通項とされる。

ペイメントサービスプロバイダー(PSP)
オンライン決済の処理機能を加盟店に提供する事業者。クレジットカード、銀行振込、暗号資産決済など複数の決済手段を一括で扱うインフラを担う。

GENIUS法
2025年7月18日に米国で成立したステーブルコイン規制法。発行体に対する1対1の準備資産要件、月次開示義務、認可要件などを定め、米国がステーブルコイン分野で主導権を握る制度的基盤となった。

米国債
米国政府が発行する債券。多くのドル連動型ステーブルコイン発行体が、価値の裏付けとして短期米国債を大量に保有している。

【参考リンク】

Bitso(公式)(外部)
2014年メキシコ創業のラテンアメリカ最大級の暗号資産取引所。メキシコ・ブラジル・アルゼンチン・コロンビアで事業を展開する。

Bitso Blog – Crypto Landscape 2025(外部)
本記事の元データであるBitso公式の2025年ラテンアメリカ暗号資産採用レポートを掲載するブログページ。

Tether(USDT発行体)(外部)
時価総額で世界最大のステーブルコインUSDTを発行する企業。法定通貨や金に連動する複数のトークンを提供する。

Circle(USDC発行体)(外部)
規制対応を重視したドル連動型ステーブルコインUSDCを発行する米国企業。2024年にニューヨーク証券取引所に上場。

Mercado Libre(外部)
1999年ブエノスアイレス創業のアルゼンチン発EC・フィンテック大手。Meli dollar送金サービスを展開する。

MarketVector Indexes(外部)
ドイツ取引所グループ傘下のインデックスプロバイダー。暗号資産関連指数の設計と価値貯蔵研究を行っている。

Cointelegraph(外部)
2013年創刊の暗号資産・ブロックチェーン業界専門の英語ニュースメディア。本記事の出典元となる媒体。

【参考記事】

Bitso Report Reveals That 39% of Crypto Users in Latin America Prefer Buying Stablecoins(外部)
2024年Bitsoレポートを解説。ステーブルコイン購入比率が30%から39%、BTCが38%から22%に変化したと報告。

Bitso Business Unveils the Stablecoins Landscape in Latin America Report for the First Half of 2025(外部)
2025年上半期の法人利用動向。PSP領域で68%成長、ゲーム業界で5.3倍成長など具体数値を提示。

2025 LATAM Crypto Adoption: Latin America Emerges as Crypto Powerhouse(外部)
Chainalysisによる地域分析。CEX経由が64%、ブラジル取引高成長率109.9%などのデータを提示する。

Fact Sheet: President Donald J. Trump Signs GENIUS Act into Law(外部)
2025年7月18日成立の米連邦初ステーブルコイン規制法に関するホワイトハウス公式ファクトシート。

【編集部後記】

「自国の通貨より、スマートフォンで持つドル建てトークンの方が信頼できる」——ラテンアメリカで起きているこの選択は、私たちにとっても遠い話ではないかもしれません。円安や物価上昇のなかで、「価値を守る手段」をどう持つか。その問いに、ブロックチェーンが新しい選択肢を差し出し始めています。

みなさんは、もしステーブルコインが日本でも日常的に使えるようになったら、どんな場面で使ってみたいと感じますか。送金、貯蓄、海外サービスの決済——未来の選択肢を一緒に想像していけたら嬉しいです。

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