JPYCがシリーズBで累計46億円を調達|日本円ステーブルコインがAI時代の決済インフラへ

JPYCがシリーズBで累計46億円を調達|日本円ステーブルコインがAI時代の決済インフラへ

JPYC株式会社は2026年4月20日、日本円ステーブルコイン「JPYC」のシリーズBラウンド・セカンドクローズにおいて28億円の追加資金調達を完了する予定であると発表した。

ファーストクローズと合わせた累計調達額は約46億円となる見込みである。同社は2025年8月に資金移動業の登録を受け、同年10月に「JPYC」の発行を開始した。累計発行額は2026年4月15日時点で21億円を突破し、直近3カ月で約2.6倍のペースで成長している。アカウント開設数は17,000件、保有ウォレットアドレス数は137,000を超えた。対応チェーンはAvalanche、Ethereum、Polygonの3つである。ソニー銀行とのMOU締結、LINE NEXT「Unifi」での正式採用、株式会社日本免税との連携も決定した。引受先にはテクミラホールディングス株式会社、株式会社メタプラネット、SUMISEI INNOVATION FUND、北洋銀行などが含まれる。代表取締役は岡部典孝氏である。

From: 文献リンク日本円ステーブルコイン「JPYC」、シリーズB 2ndクローズ 28億円を追加調達

【編集部解説】

今回のJPYC株式会社によるシリーズBセカンドクローズの発表は、単なる資金調達ニュースとしてではなく、日本のデジタル通貨史における「潮目の変化」を示す出来事として捉える必要があります。

まず、今回の28億円調達という数字の意味を整理しましょう。2026年2月に公表されたファーストクローズはアステリア株式会社がリード投資家となり約17.8億円(約1190万ドル)を調達したもので、今回のセカンドクローズ28億円と合算してシリーズB累計は約46億円(約3000万ドル)に達した計算です。ファーストクローズからわずか2カ月足らずで追加調達が成立した点に、投資家側の熱量の高さがうかがえます。

注目すべきは、調達の中核に銀行や生命保険会社、地方銀行が並んでいることです。北洋銀行、住友生命(SUMISEI INNOVATION FUND)、横浜キャピタル、さらに暗号資産業界の外からビットコイン財務戦略で知られる株式会社メタプラネットが加わりました。これは「クリプトの内輪の話」から「伝統金融が本気で乗り始めた領域」へと、ステーブルコインの文脈が大きく転換したことを意味します。

ここで押さえておきたいのが「資金移動業型ステーブルコイン」という制度設計です。日本は2023年6月に改正資金決済法を施行し、ステーブルコイン発行の法的枠組みを世界に先駆けて整備しました。JPYCは2025年8月に資金移動業者として登録を受け、同年10月に日本初の規制下ステーブルコインとして発行を開始。つまり、米国や欧州が規制議論に時間を費やす間に、日本は一歩先に「走れる制度」を手に入れていたのです。

データを見ると社会実装が加速していることが分かります。累計発行額21億円、3カ月で約2.6倍のペース、日次の資産回転率は流通額の100%超。これは「溜めるお金」ではなく「動くお金」として機能し始めている証左です。さらに、直接アカウント開設数17,000件に対し、保有ウォレットアドレスは137,000件と約8倍に達しており、銀行口座を介さない価値移転がパブリックチェーン上で自然発生している状況を示しています。

それでもJPYCの戦略的ポジションには独自性があります。特に筆者が注目したいのが「M2M決済」への布石です。プログラマブルマネーとしてのステーブルコインは、AIエージェントが自律的に取引主体となる時代のインフラとして機能し得ます。人間が銀行口座を開いて決済するのとは根本的に異なり、AIが24時間365日、マイクロペイメントを繰り返すような経済活動は、法定通貨の既存インフラでは実現困難です。2026年4月の「AI・人工知能 EXPO」でAI決済の実演デモを公開した意義は、ここにあります。

マルチチェーン戦略についても補足します。Ethereum、Polygon、Avalancheに加え、追加検討中とされているKaia(LINEのFinschiaとKakaoのKlaytnが統合して誕生したアジア発のブロックチェーン)とArc(Circle社が発表した決済特化型L1)を並べた点は示唆的です。それぞれ異なる「経済圏」をつなぐ共通通貨としての設計思想が読み取れます。

潜在的なリスクとしては、スマートコントラクトの脆弱性、マネーロンダリング対策の実効性、そしてパブリックチェーン上での流通がもたらすコンプライアンス上の難題が挙げられます。今回の調達資金の使途にAML/CFT体制強化や法務・コンプライアンス人材の採用が明記されているのは、これらの課題に正面から取り組む意思表示といえるでしょう。

innovaTopiaの視点から言えば、これは「テクノロジーが通貨という最も保守的な領域に浸透し始めた瞬間」です。技術の進化とは、派手なプロダクト発表ではなく、こうした「制度と実需と資本が噛み合った」ときに初めて社会を動かす力を持ちます。その意味で、今回のシリーズBセカンドクローズは、日本のFinTech史における静かな転換点として記憶されるかもしれません。

【参考情報】

ステーブルコイン
価格が法定通貨などの安定資産と連動するよう設計された暗号資産のこと。価格変動が激しいビットコイン等と異なり、決済や送金に適した「価値の安定性」を持つ。米ドル連動型が世界の流通量の大半を占めている。

資金移動業型ステーブルコイン
日本の改正資金決済法(2023年6月施行)に基づき、資金移動業者として登録した事業者が発行するステーブルコインを指す。信託型と並ぶ発行形態のひとつで、JPYCは国内初の資金移動業型として登録された。

プログラマブルマネー
あらかじめ条件や動作を設定できる「プログラム可能なお金」のこと。特定の条件が満たされたときに自動で送金が実行されるなど、従来の法定通貨では困難な柔軟な挙動をスマートコントラクトで実現する。

M2M決済(Machine to Machine決済)
人間を介さず、機械やソフトウェア、AIエージェント同士が自律的に価値の受け渡しを行う決済形態。AIエージェント経済の基盤として期待されている概念である。

マルチチェーン
ひとつのトークンやサービスを複数の異なるブロックチェーン上で発行・運用する戦略のこと。チェーンごとに特性やユーザー層が異なるため、流通範囲と用途を広げる効果がある。

AML/CFT
Anti-Money Laundering(マネーロンダリング対策)とCombating the Financing of Terrorism(テロ資金供与対策)の略。金融事業者が遵守すべき国際的な規制フレームワークを指す。

パーミッションレス
誰の許可も必要とせず、誰でも自由に参加・利用できる状態のこと。パブリックブロックチェーンの本質的な特徴であり、銀行口座を持たない人々にも金融アクセスを提供する基盤となる。

DeFi(分散型金融)
Decentralized Financeの略。銀行や証券会社などの中央管理者を介さず、スマートコントラクトによって融資・取引・運用などの金融機能を提供する仕組み。

クロスボーダー決済
国境を越えた資金のやり取りのこと。従来は銀行間ネットワーク(SWIFT等)を経由するため時間とコストを要したが、ステーブルコインを用いれば数秒から数分で完結しうる。

MOU(Memorandum of Understanding)
了解覚書のこと。法的拘束力のある正式契約の前段として、当事者間で合意した事項を記した文書を指す。提携の意思表明として用いられる。

【参考リンク】

JPYC株式会社 コーポレートサイト(外部)
日本円ステーブルコイン「JPYC」を発行・運営するJPYC株式会社の公式サイト。サービス情報や採用情報を掲載。

ソニー銀行 株式会社(外部)
ソニーグループのインターネット銀行。JPYCとMOUを締結し、ステーブルコイン領域での連携を進めている。

LINE NEXT Inc.(外部)
LINEグループのWeb3事業統括企業。次世代Web3ウォレット「Unifi」でJPYCの採用が決定している。

株式会社メタプラネット(外部)
東証上場のビットコイン財務戦略企業。今回のシリーズBセカンドクローズに戦略的投資家として参画した。

Avalanche 公式サイト(外部)
高速処理とサブネット機能を特徴とするレイヤー1ブロックチェーン。JPYCが発行される3チェーンの一つ。

Ethereum 公式サイト(外部)
世界最大のスマートコントラクト対応ブロックチェーン。DeFiやNFTの基盤として広く利用されている。

Polygon 公式サイト(外部)
Ethereumのスケーリングソリューションとして誕生したブロックチェーン。低コストと高速性が特徴である。

Kaia 公式サイト(外部)
LINEのFinschiaとKakaoのKlaytnが統合して誕生したアジア発のブロックチェーン。JPYCで追加検討中。

Arc(Circle社公式)(外部)
米Circle社が発表したステーブルコインネイティブな決済特化型ブロックチェーン。JPYCで追加検討中。

Hashport(外部)
ブロックチェーン決済ソリューション企業。Hashport WalletがJPYCの実店舗決済導入を支援している。

アステリア株式会社(外部)
シリーズBファーストクローズのリード投資家。データ連携ソフトウェア「ASTERIA Warp」の提供企業。

【参考記事】

Metaplanet-backed Yen Stablecoin JPYC Raises $30M in Series B(外部)
セカンドクローズで累計3000万ドルに到達した点、発表後JPYC価格が3%上昇した点を伝える記事。

JPYC completes additional 2.8 billion yen in Series B funding(PANews)(外部)
累計発行額21億円、3カ月で2.6倍の成長、日次取引量が流通量の100%超である点を整理した記事。

Japan’s Yen Stablecoin Flow: A $26M On-Chain Market vs. the $300B Dollar Monopoly(Ainvest)(外部)
世界のステーブルコイン市場3000億ドルのうち99%が米ドル建てという構造的課題を指摘した記事。

JPYC raises $12m Series B as mainstream investors back yen stablecoin(Ledger Insights)(外部)
シリーズBファーストクローズ17.8億円調達と、アステリア主導・伝統企業参加の構図を報じた記事。

Why Japan’s Stablecoin Push May Be the Most Practical Crypto Story in the World Right Now(CryptoNews)(外部)
日本の規制先行と、JPYSC・Project Paxなど競合動向を含む日本のステーブルコイン地図を解説した記事。

Japan Accelerates Stablecoin and Corporate Bitcoin Push(CoinReporter)(外部)
ソニー銀行とJPYCの提携、裏付け資産や2026年Q2パイロット計画について詳細を報じた記事。

JPYC Secures ¥1.78 Billion in Series B First Close(Fintech Observer)(外部)
ファーストクローズの資金使途4本柱、M2M決済実装やdirectX Ventures等投資家の全体像を分析した記事。

【編集部後記】

今回のJPYCの動きを追いかけていると、通貨という一見保守的な領域が、実は最もテクノロジーの波を受けやすい場所なのかもしれないと感じました。皆さまは、もし「自分のAIエージェント」が1円単位で海外のサービスと決済できる世界が来たら、どんな使い方を試してみたいでしょうか。あるいは、銀行口座を開かずにウォレットひとつで給与や報酬を受け取る日常は、働き方そのものをどう変えていくのでしょうか。ステーブルコインというキーワードから広がる未来像について、ぜひ皆さまの視点を聞かせていただけると嬉しいです。

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