Ferrariは、同社初の100%電気自動車「Luce」を2026年5月25日にローマで正式発表する。
初回納車は2026年10月を予定する。車名「Luce」はイタリア語で「光」を意味する。4基の永久磁石同期式モーターはブーストモードで1,000馬力超を発揮し、0-100km/h加速は約2.5秒、最高速度は310km/hである。122kWhのNMCバッテリーは880Vアーキテクチャを採用し、WLTP航続距離は530km超、DC充電は最大350kWに対応する。セルは韓国のSKが供給し、組み立てはマラネロのe-Buildingで行う。インテリアは元Apple出身のジョニー・アイブ氏とマーク・ニューソン氏のLoveFromが、Ferrariのフラビオ・マンゾーニ氏と協働で設計した。CEOのベネデット・ヴィーニャ氏は、2030年の販売構成比を電気自動車20%、ハイブリッド40%、内燃機関40%とする方針である。推定価格は50万ユーロ超とされる。
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Electric Ferrari Luce: price, power, and everything we know
【編集部解説】
Ferrariがついに100%電気自動車の市販モデルを世に送り出す——この事実そのものが、自動車史における大きな転換点を示しています。跳ね馬のエンブレムは長らく「内燃機関の官能性」と切り離せないものでしたが、その最後の砦がついに電動化の波を受け入れる象徴的な瞬間と言えるでしょう。
注目すべきは、Ferrariが「全電動化への移行ではない」と明言している点です。2030年の販売構成比として電気自動車20%、ハイブリッド40%、内燃機関40%という目標は、Mercedes-Benzが掲げた全面EV化の撤回や、欧州各社の戦略見直しと軌を一にしています。急進的EVシフトの反動が業界全体に及ぶなかで、Ferrariの「多エネルギー戦略」は、現実解としての厚みを増しつつあります。
技術面で特筆すべきは、バッテリーの構造統合です。122kWhのパックをシャーシの構造部材として機能させる手法は、Teslaの構造バッテリーやBYDのCell-to-Body思想とも共通しますが、Ferrariはこれを超高性能GTに適用した最初の事例となります。なお、Ferrari公式発表ではパックレベルのエネルギー密度は約195Wh/kg、セルレベルでは約305Wh/kgとされており(参照元記事のセル値「280Wh/kg」とは若干の差異があります)、量産EVとして世界最高水準を主張しています。
興味深いのは、バッテリーを「交換・修理可能」に設計したという点です。8年後と16年後のバッテリー交換を織り込んだ延長保証プログラムは、電気自動車の中古市場における「残価の崩壊リスク」という構造的問題への、ラグジュアリーブランドからの回答と解釈できます。ハイパーカーの資産価値を守るという切実なニーズが、業界全体の持続可能性議論を一歩前に進める可能性を秘めています。
サウンドの設計思想も哲学的に興味深い論点です。BMWがハンス・ジマー氏と組んで合成音を作り、Hyundai Ioniq 5 Nが疑似的な変速感を演出するなか、Ferrariは「モーターの実振動を加速度センサーで拾い、増幅する」という第三の道を選びました。これは「電気自動車における本物とは何か」という問いへの回答であり、自動車メーカーそれぞれのアイデンティティが露わになる領域です。
ジョニー・アイブ氏率いるLoveFromとのインテリア協業は、Apple流のミニマリズムがFerrariの官能性にどう溶け込むのか、という視点で眺めると興味が尽きません。タッチスクリーンを最小化し、物理素材とボタンを重視する方針は、近年の「全面液晶化トレンド」へのカウンターでもあります。100%リサイクルアルミ製のナルディ風ステアリングは、1950〜60年代の職人技と、持続可能性という現代的要請を接続する、実に巧みな意匠と言えます。
一方で、潜在的なリスクも見逃せません。車両重量は約2,300kgに達するとされ、Purosangueを約77kg上回る水準です。これはPorsche Taycanや歴代のFerrari純粋GTと比べても相当に重く、「軽さで曲がる」というFerrariの身体性を、電動化後にどこまで再現できるのかは未知数です。48Vアクティブサスペンションや四輪操舵といった電子制御でこれを補う設計思想は合理的ですが、運転する人間が感じる「跳ね馬らしさ」を生み出せるかは、試乗車が走り始めるまで判断できません。
価格面では、50万ユーロ超という非公式な予測は、SF90 Stradaleを上回る水準です。これは、Ferrariが電動化を「廉価版」ではなく「最高峰の新ジャンル」として位置付けている意思表示に他なりません。2026年の販売台数に占める比率が約5%と見込まれている点は、生産能力を意図的に絞り込むことで希少性を担保する、同社伝統の手法を踏襲しています。
より広い視座で見れば、Luceの登場は、日本のラグジュアリーEV市場にも波紋を広げる可能性があります。Lexus LF-ZCや国内ブランドの高級EV構想が具体化するなか、「電動化と情緒価値をいかに両立させるか」という課題に対して、Luceは一つの解答例を示す存在となるでしょう。2026年5月25日のローマでの全貌公開は、クルマ好きだけでなく、ブランド戦略やデザイン思想に関心を持つすべての人にとって、見逃せないマイルストーンとなりそうです。
【用語解説】
Luce(ルーチェ)
イタリア語で「光」または「光明」を意味する単語。Ferrariが初の量産電気自動車に与えた車名で、電動化時代への希望を象徴的に表している。開発時のコードネームは「Elettrica」であった。
NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)バッテリー
正極材にニッケル、マンガン、コバルトを使用したリチウムイオン電池の一形式。エネルギー密度と出力特性のバランスに優れ、高性能EVで広く採用される。
WLTP(Worldwide Harmonized Light Vehicles Test Procedure)
国際的に調和された乗用車の燃費・排出ガス・航続距離測定法。欧州で標準採用されており、実走行に近い条件で計測されるのが特徴である。
880Vアーキテクチャ
車両の電気系統の動作電圧を示す。従来の400V級や現行の800V級(Porsche Taycanなど)を上回る電圧であり、同じ電流量でより大きな電力を扱えるため、急速充電や高出力化に有利とされる。
永久磁石同期モーター
永久磁石をローター(回転子)に用いた同期モーター。高効率かつ高出力密度を実現でき、現代の高性能EVで主流の方式である。
ハルバッハ配列
磁石を特定のパターンで並べることで磁界を片側に集中させる配列手法。F1由来の技術で、同じ磁石量でトルク密度を高められる利点がある。
マネッティーノ/eマネッティーノ
ステアリングホイール上にある小型ダイヤル。走行モードを切り替える操作系で、Ferrari伝統のUIである。「eマネッティーノ」はLuce向けに新設されたもので、Range、Tour、Performanceという電動車に即した3モードを備える。
シューティングブレーク
伝統的に2ドアクーペをベースにしたステーションワゴン型車体を指す。Luceのプロフィールは、この古典的なボディ形式を想起させるとの指摘がある。
構造バッテリー(ストラクチャル・バッテリー)
バッテリーパックをシャーシの構造部材として機能させる設計思想。車両の剛性向上と軽量化・低重心化を同時に実現できる。TeslaのModel YやBYDのCell-to-Body技術が先行事例である。
48Vアクティブサスペンション
48V電源で駆動される電子制御式サスペンション。各ホイールを独立して高速制御でき、ロール抑制と乗り心地の両立が可能となる。
【参考リンク】
Ferrari Luce 公式ページ(Ferrari.com)(外部)
Luceの製品概要、インテリア、エンジニアリング情報を掲載する公式ページ。最も信頼性の高い一次情報源である。
Ferrari Luce エンジニアリング詳細(Ferrari.com)(外部)
パワートレイン、バッテリー、シャーシの技術詳細を解説する公式ページ。93%効率などの技術的主張を確認できる。
LoveFrom 公式サイト(外部)
ジョニー・アイブ氏とマーク・ニューソン氏が創設したクリエイティブスタジオの公式サイト。Luceのインテリアを担当した。
Ferrari Capital Markets Day 2025 発表資料(外部)
2025年10月9日にFerrariが初の電気自動車について技術仕様を公開した、最も重要な一次情報源である。
Ferrari Luce 車名発表記事(Ferrari Corporate)(外部)
2026年2月にサンフランシスコで行われた車名・インテリア発表を伝える公式記事である。
【参考記事】
Ferrari Elettrica – Battery Design(外部)
122kWhパックの技術詳細を整理。パック195Wh/kg、セル305Wh/kgという公式値の典拠となった。
Ferrari Elettrica’s battery in detail – CarExpert(外部)
バッテリーの重量配分47:53と床下85%・後席下15%という構造統合の詳細を掘り下げた記事である。
1,000-HP Ferrari Luce EV Spied With Rear-Hinged Doors – Autoblog(外部)
スウェーデンでのプロトタイプ撮影記事。車重約2,300kg、Purosangue比+170lbsという数値の出典である。
Official: Ferrari’s first EV is called ‘Luce’ – Top Gear(外部)
LoveFromとFerrariの5年にわたる協業とApple的ミニマリズム哲学の反映を取材した記事である。
Ferrari Elettrica: Highest Energy Density EV Battery in the World – ArabWheels(外部)
車重2,300kg、75%リサイクルアルミによるCO2削減6.7トンといった詳細数値を提供する記事である。
【編集部後記】
Luceの登場は、「電気自動車に魂は宿るのか」という問いを私たちに投げかけています。モーターの実振動を増幅するサウンド、物理ボタンへの回帰、構造バッテリーという選択——そのどれもが、効率一辺倒ではない電動化の姿を模索する試みに見えます。皆さんにとって、クルマの「本物らしさ」とは何でしょうか。加速の数値でしょうか、操作感でしょうか、それとも歴史と物語でしょうか。Ferrariが示した答えに、ご自身の価値観を重ねてみていただけたら嬉しいです。

